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8月20日星企画(おまけ) 高い飲み代(ディルナン視点)

星企画その3。

表、裏を読んでからお読み下さい。

北の魔王城の一番近い集落に、オッジのジジイとユーリ以外の調理部隊の面々で久々に酒を飲みにきた。

ユーリは良く眠っていたので起こさない様にこっそり出て来た。




氷の入ったグラスに注がれた琥珀色の強い酒を口に含み、その芳醇な香りと喉を焼く感覚を味わう。


自室にはユーリが間違って飲むのが怖くて、頑丈な瓶でなおかつ然程度数の強くない酒しか置いていない。ユーリが来る前のオレには考えられない事だ。

だが、その瓶を懸命に抱えて笑顔で酌をしてくれるユーリと言う特典は何物にも代えがたい。

オレ達が座るソファーの周囲に侍る肉感的な女達よりもずっと魅力的と言える。


まぁそうは言っても、今日はこの夜の雰囲気を楽しみに来たんだ。

精々楽しむさ。







朝食の準備がある為、まだ女が寝ている早朝にベッドからさっさと出た。

店から出ると、全員が似た様な時間に出て来る。




北の魔王城に戻り、着替えに自室に入ると寝ている筈の小さなベッドにユーリの姿が無かった。

抜け殻となったベッドはひんやりと冷え切っていて、トイレに行っただけとは考えにくい。

これはどういう事だ?

想像もしていなかった事態に肝が冷える。

まさか、誘拐されたりしてないだろうな!


これには慌てて着替え、外に出る。


「…どうしたんです? 隊長」


外に飛び出すと、着替え終わって丁度部屋から出て来たオルディマに不思議そうに声を掛けられる。


「ユーリがいない」

「ユーリちゃんがいない?!」


流石のオルディマも声を張り上げれば、他のヤツ等が部屋から飛び出してくる。


「ちっこいのがいないだと!?」

「ちょ、大変じゃないっスか!」

「まさか誘拐!?」

「そ、そんな…」

「ユーリちゅわーん!」


俄かに廊下が騒がしくなる。

声こそ出していないが、ラダストールとディオガもその表情が険しい。


そんな中、遠くから駆けて来る足音が聞こえてきた。

何事かと全員が揃って身構えると、こちらへ恐ろしい程必死な形相で走ってくる灰色の作業着姿…騎獣部隊の隊員の姿が薄暗い中見えた。


「ディルナン隊長ーっ!」

「何事だ」

「お宅のユーリちゃんが調理部隊の獣舎で寝てます! どうにかして下さい!!」


走った所為か物凄い形相で、ガラガラの声で食らい付いて来るソイツを思わず投げ飛ばしたオレは悪くない。

それよりもコイツ、今、何つった?


「隊長、速攻ちっこいの迎えに行って来い」

「…何でそんな所に?」


シュナスとオルディマの声を半分以上聞かずに、気付けば走り出していた。







久々に全力で走り、騎獣部隊の獣舎に入ると、隊長のヤハルが待ち構えていた。


「来たか」


そんな声を聞きつつ調理部隊の獣舎に入ると、レツの縄張りでレツ、ワイス、ローゼと何故か機動部隊のドラゴンの子供も加わった騎獣団子の中心でユーリが気持ち良さそうに寝ていた。

…何だコレは。

だが、肝を冷やした最悪の想像では無かった事に安堵の呟きが意識せず零れた。


「すげぇ光景だろ? 近付けねぇんだよ」


溜息交じりのヤハルの言葉に二日酔いでは無い頭痛がした。

この中からオレはユーリを回収するのか?


だが、時間は刻一刻と過ぎていく。


腹をくくって近付いて行くと、ユーリを取り囲むヤツ等に思いっ切り威嚇される。

それを無視して右手を伸ばすと、どいつよりも早くレツが上腕部に噛み付いて来た。

唸り声は上げていないが、目線が恐ろしく怒ってやがる。ユーリがここに来た原因が間違いなくオレだからだろう。

唸り声を上げないのは、恐らく腹で寝ているユーリを起こさない為。


「……スマン」


噛み付かれている右腕の上腕部が痛みよりも熱さを訴える。

謝るとレツがようやくオレの腕を解放した。

最小限にしか牙を立てていないのもオレに少しでも声を上げさせない為か。

それでも猛獣の牙だ。当然ながら右腕に血が見る見る滲んでいく。


ユーリをどうにか回収すると、ヤハルに一言礼を言ってから部屋へと歩き始める。




ユーリを抱っこしたまま歩いていると、少ししてユーリが目を覚ました。

だが、完全に目を覚ます所まではいっていない。


「…んにゅ」


オレの心配など全く知りもしない様子のユーリに、思わず苦笑が零れる。


「まだ眠いんだろ? 今日は休みだし、もう少し寝てろ。飯は取っといてやる」

「あい」


眠そうなユーリにちょっとした罪滅ぼしも兼ねて声を掛けると、安心しきって再び眠り始める。

部屋の小さなベッドにユーリを寝かせてから厨房に向かうと、微妙に不機嫌なオッジのジジイに医務室に行けと追い出された。




だが、オレはこの時ユーリの無事に安心しきって迂闊にも考えなかったのだ。


---ジジイが不機嫌ではあっても怒らなかった理由を。


------医務室に行けばそこの主である、最恐隊長の一人であるヴィンセントにこの怪我の理由を話さなければならない事。そして、それを聞いたヴィンセントが取るであろうの対応を。

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