表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいいコックさん企画部屋  作者: 霜水無


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/66

2015年6月18日の活動報告より 今年の父の日は靴がすり減りました

さてさて、水の二月(六月)第三日曜日。

いよいよ近付いて参りました、第二回「父の日」。


去年は万年筆だったんだよなー。

アレも何かその後にお菓子屋さん買い放題手形を貰ったりと私の知らない所で色々起こってたみたい。怖いから詳細知ってそうなジョットさんには敢えてその話題に触れない様にしてるけど。


それは横に置いておいて。


今年のヴィンセントさんとディルナンさんへのプレゼントをどうしたもんか。

特別なネタは無いから、忙しいと分かっている他の部隊(主に鍛治部隊)に頼るのもなんだしなー。


余り高い物は難しいから、私の用意出来る予算内で何か無いかなーと彼方此方の集落の様々なお店を覗いて回り。

店主さんや店員さんとアレコレお話して情報を集め。


因みに、集落のご家族にはやっぱり装飾品とか飲食系とかが人気との事。

お子さん達はお父さんの似顔絵とか、肩叩き券とか。

この辺は世界が違えど一緒ですな。


でも他人と一緒じゃインパクト少ないし。何となく私が面白く無いし。

でもでも準備に使える時間は無限じゃ無いから、そろそろ決めないと。


うーむ。どうしたもんか。







それでも休みの度に地道に歩き回っていると、新作のお酒が出来た酒蔵があるとの情報を最近馴染みになった酒屋さんから入手した。


面白そう! と言う事で、早速教えて貰った小さな山の側にある酒蔵へやって参りました。

小さな、個人が営んでいる酒蔵との事。

日本の酒蔵とはやっぱり印象が違う。


「こんちはー!」


元気良く飛び込みしてみると、販売もしているらしい入口スペースにいたおじさんが目を丸くした。


「こんにちは、小さなお客さん。何か御用かな?」

「酒屋のアランしゃんに新しくて珍しいお酒があるって聞いてきまちた!」


それでも胡乱な目を向ける事なく応対してくれるおじさんに用件を伝えると、おじさんがあぁ…と頷く。


「これはこれは、まさかのお客さんですね。ウチの蒸留酒は酒屋でも知る人ぞ知る物だと言うのに」

「ほへー」


楽しそうに笑って言うおじさんに、思わずそうなのかと感心する。

やっぱり、アランさんの酒屋の品揃えは他と一線を画しているのは私の気の所為じゃなかったですか。


外観は薄暗くって開いてるのか閉まってるのか分からないから物凄く入りにくい。

でも、中に入ればお酒を大事に保管してるのがよく分かる。

だって、店内が魔術で常に一定気温と湿度に保たれてるんだもの。照明も殆ど無くて、必要な時に最小限に灯すのみ。言うなればお店全てがセラー。

そんな酒屋さん、私が知る限りはそこだけだ。


そんな酒屋さんにはオルディマさんに連れてって貰いました。


「アランの紹介ならば身元は確かです。ご案内しましょう」

「お願いしましゅ」


アランさんの名前を出したのが良かったのか、おじさんがアッサリと奥へ通してくれた。




薄暗い洞窟の様な場所は天然のセラーだ。

その中に、幾つもの樽が並ぶ。


「ウチの蒸留酒は、果物では無く穀物で作っていてね。それをこうして樽に入れて熟成させています」


説明して貰い、頭に過ったのはウイスキー。


「まだまだ出来たばかりの製法だから、本当に少ししか出荷出来なくてね。アランの所を含めて三ヶ所の酒屋だけに卸しているんだけど」


言いつつ、どこからか取り出した小柄な瓶を示しつつ小さなグラスにほんの少しだけ見本として注いでくれる。

余り大きくなくて良かった。そして、ちょっと瓶がオシャレ。


グラス内の澄んだ琥珀色と樽での熟成が齎した独特の香りはやはりウイスキーに近くて。

指先に少しだけ付けて舐めると、口一杯に強いアルコールの感覚が広がる。

おう、顔がポカポカしてくるわー。


「お酒好きな人には喜ばれるねー」

「そうだね」

「炭酸水で割って、レモン(リモネ)切ったの入れてもおいちーと思うのー」


ストレートも香りを味わうには最高だけど、飲める人を選ぶ。

その点、ハイボールは比較的どんな人でも飲めるし。

唐揚げなんかのジャンクなおつまみとの相性、最高だよね!


「折角だから、おつまみも付けてー」

「ほうほう、例えば?」

「ナッツでしょ、チーズでしょ、ジャーキーもおいちいかなー。甘い物ならショコルでしゅ」

「ジャーキー?」


ウイスキー単体での定番のおつまみを思い浮かべていると、おじさんがいつの間にかメモを片手に質問してきた。

あれ。魔大陸にジャーキーが無いのかしらん?

干し肉はあるけど、アレは完全に保存特化型だから非常にしょっぱい。程良い塩味の干し肉はまだ見た事無いなぁ、そう言えば。


「適度に味付けしたお肉を乾燥させたものでしゅよ」

「干し肉とは違うのかな?」

「……おじちゃま、ボク、このお酒二本ほちいでしゅ。ジャーキーの作り方を紹介するので売ってください」

「新しい酒の肴の候補ですね。良いですよ」


よし、商談成立した所で早速実行に移そう。

私の休みは有限だ。







用意しますはお値段お手頃な赤身の牛肉。こちらは少し大判に、焼肉用位の厚みに切り出し。


調味料は自家製の煎り酒と砂糖少々、そして味の要の黒胡椒。


煎り酒とは醤油が生まれる前に使われていた調味料で、日本酒と梅干しと昆布と鰹節で作るんだけど。

梅干しは自分で漬けて、鰹節は不在なので乾燥小魚で代用、他は必死こいて集めたそれっぽい材料で作りましたよ。

完全なる再現には遠いけど、調味料としてはそこそこ重宝してます。


残念ながら、まだ味噌と醤油は上手くいってない。

麹菌が違うのかなー。それとも私のうろ覚えな作り方が悪いのかな。うーん。

あ、いかん。話が逸れた。


お肉に煎り酒と砂糖を混ぜた物を馴染ませ、両面にしっかり黒胡椒。


本当はそのまま乾燥させるんだけど、時短で網に乗せて低温に設定したオーブンへ投入。

表面に焦げ目が付いてきたら取り出し、冷ませばビーフジャーキーもどきの完成です!


片付けを終えた所でまずは完成品を味見。


自分的には中々の出来。

それを確認してからおじさんへ差し出す。


「あい、どーぞ」

「いただきます」


出来上がりを匂いを嗅いでから齧り付くおじさん。

モッキュモッキュと二人でジャーキーを噛み締める。


「…これはこれは。確かに酒に良く合いますね」

「早くオトナになりたいでしゅ」


あぁ、私も美味しいお酒片手におつまみを食べたい。


「改めて、私はゼノと申します。坊や、お名前は?」

「ボク、ユーリでしゅ」

「……アランが紹介する訳です。ユーリちゃん、この調味料をウチに卸しませんか?」

「んと、たいちょに聞いてみないとお返事できませんー」

「………たいちょ?」

「ボク、北の魔王城の調理部隊の所属でしゅー」

「…………」


おじさん改めゼノさんが申し出てくれるけど、ちょっと直ぐに良いよーとはお返事出来ない。

その旨をしっかり伝えると、ゼノさんが驚いて絶句する。

まぁ、こんな子供が北の魔王城の隊員なんて前代未聞らしいもの。


「今度の『父の日』にディルナンたいちょとヴィンしぇントたいちょにゼノしゃんのお酒とおつまみを詰め合わせて送りましゅ。それで好評で、買える様にしたいってたいちょが言ったらお話できましゅよ」

「北の魔王城の隊長にウチのこの酒をですか!?」

「このお酒なら間違いないでしゅ!」


酒飲みならば基本、ウイスキー、お好きでしょ?

ましてや出来たばかりのお品。その希少性と相まってイケる気がする!


驚くゼノさんに胸を張って太鼓判を押すと、少ししてゼノさんが笑い出した。


「分かりました。ユーリちゃんの自信を信用しましょう。ウチとしても随分と大きな賭けに出ますよ。本当なら何年か時間を掛けて売り出す予定だったんですが、ユーリちゃんの作戦が成功したら調整していた出荷数を少し改めなければ」

「……所でゼノしゃん、このお酒おいくらでしゅか?」

「ユーリちゃんには特別に卸価格でこれで…」


そこまで言っておきながら今更だけど、恐る恐る肝心な事を聞いてみるとゼノさんがメモにコソッと数字を書き記す。


「買った!」

「まいど」


十分に予算の範中でございました。

それにホッとしつつ、残る予算で買えるプレゼント用のおつまみに思いを馳せる。


「隊長さん達の反応次第で調味料の件、お願いしますね」

「あい。必ず『父の日』の後のお休みにまた来ましゅ」


お酒を用意しつつ言うゼノさんに頷き、しっかり約束をしてから酒蔵を後にした。


さ、そうと決まればおつまみ探しだー!




ビーフジャーキーは敢えてヴィンセントさん宅の私の部屋で作成し、匂いの封じ込めと一緒に虫やらが付かない様に保護の結界を張っておいた。

リィンママとお茶をしつつ、美味しいお茶菓子を出してヴィンセントさんには内緒の根回しもしっかりと。


それからチーズ屋さんと乾物屋さんでそれぞれおつまみを吟味して購入。


気付けば夕日が沈みそうな、すっかりいい時間になっていた。

私の夕飯ー! と慌てて帰る事になったが、我ながら良い買い物をしたと思います!


帰ったらディルナンさんに大目玉食らったけど。調理部隊の他の面々にも心配したと怒られ。

挙句、破ったら夕飯抜きな門限が出来てしまいました。とほり。







そんなこんなでやって来ました、「父の日」当日!


前の休みに完成していたジャーキーも回収し、きちんと一式揃えてラッピング済み。

更に今回は黄色いバラの代わりにヴィンセントさんとディルナンさんの似顔絵付き。


ラッピングをした休みの日がサムさんの休みと一緒で、スケッチ中のサムさんに出会ったのでお絵描きを教わってみました。

練習に調理部隊の面々を書いたら、サムさんが気持ち悪い位に感激してた。

ハッキリ言って、ちょっと上手く特徴を掴んでいる幼稚園児の絵レベルなんですけど。いいのか。

あんまりにも喜ぶから、それはサムさんにあげたけど。




お仕事終わったら渡すんだーって思って仕事してたんだけど、何と言うか…渡される本人よりも周囲の方が期待に満ちた目で見て来るのは何でなんだろう。

調理部隊ではアルフ少年がそうだし、昼食と夕飯の時間には医療部隊の若手の兄さん達の目が何か……。


そして、コーサさん、メモを片手にストーカー止めて下さい。

お仕事はどうしたんですか。


…え? 今日は休み??


遂にはディルナンさんが外警部隊を呼び出して、しょっ引かれて行ったけど。


その後第二第三のコーサさんが出現し、その度にしょっ引かれ。

更には結局コーサさん本人が舞い戻って来たり。

ダメだこりゃ。




「…………で、終いにはさっさと「父の日」のプレゼントを渡せと言わんばかりに私とディルナンとユーリがこうして外警部隊に呼び出される事になった、と」


お仕事の最中に食堂に呼び出されたヴィンセントさんは原因となったコーサさんを筆頭に親衛隊の屍累々を築き上げ、周りを外警部隊の隊員達に警備された現状を見回して状況を把握する。


「ごめんしゃい、ヴィンセントたいちょ」

「いや、ユーリはしっかりと仕事をしていたそうじゃないか。勝手に浮かれた周囲が問題だろう」

「ボク、余計な行事作っちゃったの…」

「何を言う。「父の日」は子持ちの隊員にとって楽しみな日になっているんだ。子がいなくとも親に感謝する良い日だろう。節度を持って楽しむならば大変結構な事だと思うぞ」


まさかこんな騒ぎになるとは思いもせず。

小さくなって謝罪すると、ヴィンセントさんが苦笑して頭を撫でてくれる。


「それに、一生懸命私達に用意してくれたのだろう?」

「あい」


それはもう。少しでも喜んで欲しくて彼方此方歩き回って頑張りましたとも。

歩き回り過ぎて靴がすり減ってて、気付いたカラフさんが靴を新調してくれたし。

だから、ドキドキしつつ亜空間にしまっておいたプレゼントを取り出す。


「パパ、いつもありがとー」

「こちらこそありがとう」

「たいちょも、いつもありがとー」

「あぁ、ありがとう」


ヴィンセントさんとディルナンさんにプレゼントを渡すと、二人が笑顔で受け取ってくれる。

そのまま二人揃って包装を解いて行くんだけど…調理部隊に外警部隊の皆様までガン見してるのは何故!?

お願い、そんな子供の落書きに拍手喝采は止めてー!!


「これは私か。…随分上手に描いて貰ったな。ありがたく机に飾らせて貰おう」

「……コイツは、幻の新酒じゃねぇか」


私の似顔絵に微笑むヴィンセントさんに対し、ディルナンさんは中のお酒に反応していた。流石は調理部隊隊長。

それにしても、「幻の新酒」なんて言われてたのか。通りでアランさんの酒屋に現物が置いてない訳だ。

まぁ、ゼノさんも調整出荷してるって言ってたしなー。


「オルディマ、探してた酒はコレだよな?」

「! そうです。流石はユーリちゃん。何処から…」

「アランしゃんに酒蔵の場所聞いて、突撃してきまちた」

『はぁ!?』


オルディマさんが驚くからそのままの行動を告げると、揃いも揃って声を上げる。


「新しいおつまみの紹介と引き換えに売って貰ったんでしゅ」

「…コイツか」


状況説明すると、ディルナンさんが迷わずジャーキーを手に取る。

まぁ、他は厳選してるとはいえ市販してる物ばかりだし。


「…これはそんなに希少な酒なのか?」

「口コミで広がってるだけだが、どこの酒屋でも手に入らない。少なくとも、オレ達調理部隊が総当たりで第五の集落まで酒屋を虱潰しに当たっても一本も手に入らなかった」


そんなディルナンさんに、ヴィンセントさんがお酒の方に興味を持つ。

その返答に、流石の私も驚いた。それは確かに「幻の新酒」と言われても納得する。

…………随分と安く譲って貰っちゃったけど。


ゼノさん、コレ、時間掛けて売り出さなくてももう口コミ出来てるよ。教えてあげなきゃ。


「それを探し出して来たのか。しかも交渉まで成功させてるとは」

「逆に、入手可能にさせたコイツの方が気になるっちゃなるが」

「どちらにしても、今年も十二分に素晴らしい贈り物だな」

「「ありがとう、ユーリ」」


まぁ、オトン二人が喜んでくれたならそれで良いか!







【後日】

「ユーリ、あのツマミだが」

「たいちょ、丁度よかった」


プレゼントのお酒は、調理部隊の飲み会で消えたらしい。

それと同時にディルナンさんが切り出したジャーキーに、ここぞとばかりにエリエスさんの様にニッコリ笑う。


「あのジャーキー作るのに必要な調味料があるでしゅ。酒蔵のご主人に卸してもいいでしゅか?」

「…お前」

「その代わり、お酒を融通して貰えるようにお願いしてくるでしゅよ。お酒と一緒にジャーキーも買えちゃいましゅよ?」

「……」


頭痛を堪える様に頭を押さえるディルナンさん。

決して私の所為では無く、チャンポンのしすぎで二日酔いじゃないかしら。うん。


「エリエスに似てきやがった…………」


耳をパカパカ軽く叩いて、ディルナンさんの呟きは聞こえなかった事にしよう。





後日、ディルナンさんから報告が行ったらしいエリエスさんに笑顔で細かい決まり事をしっかりと定められてから卸しの許可が出た。

ゼノさん宛のお手紙と契約内容の確認書まで抜かりなく揃えられ、キッチリ契約書まで作られていたり。

そのついでに何故か契約に関する臨時講義まで受講する事になり。


私の交渉なんて子供の戯言でございました事をここにご報告致します…(ガクブル)







そんでもって、子供の落書きな調理部隊の面々を描いた私の絵、気付けば親衛隊の会報にでかでかと載せられておりました。

しかも落書きしている最中な私の絵と共に。


サムさんェ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ