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かわいいコックさん企画部屋  作者: 霜水無


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2015年2月14日の活動報告より バレンタイン行進曲

【その一 調理部隊(ディルナン視点)】




「ハッピーバレンタインでしゅ!」


食事の最終処分が始まった所で、ユーリがそんな声を上げた。


「おー、今年のバレンタインは何だ?」

「じゃーん!」


アルフがユーリのそんな声に反応を示せば、ユーリが待ってましたと言わんばかりに紙袋を一つ亜空間から取り出す。


「………魚?」

「鯛焼きでしゅ」


早速紙袋を広げたアルフが中身を取り出し、目をまん丸にする。

そんなアルフの反応に、してやったりと言わんばかりの表情をするユーリ。


魚の形をした、きつね色の焼き菓子らしき物。

タイヤキってのは、もしや魚がタイ科のつもりでそれを焼いた菓子だからなのか?


焼き立てでしまっておいたのか、湯気が立っている。



「…魚なのに甘ぇ」

「あ、餡子でしゅね」

「……また餡子。いや、美味いけど。周りのパイ生地のバターと餡子、超合うけど」

「他の二つは違う味ですよぅ」


迷い無く齧りついたアルフが最近お馴染みになって来た餡子の出現にマジマジとユーリを見る。


「ユーリはどこまで餡子を広げるんだろうな。兄ちゃん、最近楽しみになってきた」

「今回はパイ生地だけど、白パンの中に入れてもおいちーよ?」

「パン……」


アルフの言葉にさっさと返すユーリに、パン焼きに携わる事の多いラダストールとディオガが少し考える。


「焼いてよし、揚げてよしのあんぱんでしゅ。あんぱんと牛乳は最強の相棒でしゅっ」

「あ、これは中身まんま魚だ」

「にーに、聞いてない⁉︎」


胸を張って言うユーリの言葉を完全に流して、さっさと2匹目に食い付いていたアルフ。

それにショックを受けるユーリに、自然と厨房に笑いが広がる。


「おー、最後はちゃんとショコル使ってるじゃん」

「にーに…もうちょっと味わって食べて欲しかったでしゅ」

「ん? だって、頼めばまた焼いてくれるんだろ?」

「…………にーにが最近タラシになってきたの」


オレ達に言わせれば、どっちもどっちだ。

似た者兄妹とはよく言ったものだ。


和やかに笑うオレ達にもタイヤキを配り、ユーリがニコニコ笑う。

すぐ食べなければ亜空間に入れておけって事は、コイツは焼き立てが美味いんだろうな。


「ユーリ、他の隊にも配りに行くんだろう?」

「あい!」

「行ってこい。オレ達が片付けとショコルの仕分けを終えるまでに帰って来いよ」

「行ってきましゅ‼︎」


送り出せば、ユーリが元気良く飛び出していく。

最近ではしっかり体力が付いて来たからか、三階まで一気に駆け上れる様になった。

あの調子じゃ、行列やら隊長本人に捕まらない限りはさっさと帰ってくるだろう。


「戻って来ない時は、医療部隊に迎えに行けば良いな」


恐らく一番捕まるであろうポイントを思い浮かべていると、一斉に噴出す。


「流石はオカン」

「ぁあ?」

「片付けるか」

「オレ、今日は洗い物します」

「今年もショコルが大量ですねー」


シュナスの聞き捨てならない呟きに睨みつけると、シュナスだけで無く全員が一斉に動き始める。


「……………」


このやり場のない苛立ちはどうしてくれようか。




【その二 書類部隊(エリエス視点)】


「次の方ー」


あぁ、この言葉を今日は一日中聞き続けていますね。

全く行列が切れる様子がありません。まぁ、渡す方は空いている時間に来ればいいだけですから。

人員整理に人を取られるのをどうにか出来ませんかね。


仕事をしつつそんな事を考えていると、入口から可愛らしい声が聞こえました。

その声を聞き、私だけでは無く隣のマルスも顔を上げています。


「こんちは、エリエスたいちょ、マルスふくたいちょ」

「こんにちは、ユーリ。今年も用意して下さったんですね」

「今年はアツアツのお菓子でしゅよ。亜空間で保管してください」


ニコニコ笑顔で渡してくれた紙袋は、確かに温かく。

そっと中を覗いて見ると、デフォルメされた魚型の焼菓子が見えました。


「ありがとうございます。美味しく頂きますね」


お礼を言いつつ頭を撫でると、嬉しそうに笑ってくれるユーリ。

本当に可愛らしい。

この子が部屋にいるだけで、とても雰囲気が良くなります。


マルスにも渡し、頭を撫でて貰っている姿に悶える者多数。


「今年も行列いっぱいねー、コーサしゃん」

「我らがエリエス隊長とマルス副隊長ですから」

「いつもありがとー。お仕事だいじょぶ?」

「この日を見越してある程度は前倒しにしてますよ」

「コーサしゃん、すごいねぇ」


後の者を思って直ぐに引き上げたユーリですが、整列をしていた親衛隊隊長であるコーサにも声を掛けて労わっていました。

デレデレしつつ、ユーリから同じくバレンタインを受け取って更にやる気を漲らせコーサ。

そんな二人の会話の内容に、思わずマルスと微かに目を見合わせます。


親衛隊、実は単なるロリコン集団ではなく能力が異様に高い者が多かったりします。

その才能をユーリの行事の為に最大限に使っていた様です。


………これは大いに使えますね。


「…!?」

「? コーサしゃん、どしたの??」

「いや、ちょっと悪寒が…」


人員を割かれる事で仕事の影響を心配していましたが、その対応も出来ていると言うのならばこちらが何かを考える必要は無い訳で。

逆にどうやってその能力を別の仕事にも生かして頂くかを考えていい訳ですね。

その調子でしっかり働いて頂きましょう。

コーサだけでなく親衛隊全員、ね。




【その三 近習&近衛部隊】


あの後、情報部隊と清掃部隊にも寄って、覚えのある方々に渡し。


何か、ヴァスさんの後ろで小さな花が飛んでた。

分かりにくそうで実は分かりやすいです、ヴァスさん。

またお菓子作って持って行こう。


そんなこんなで三階を配り終えて降りて来た二階です。




…………何でロイス隊長直々に待ってるんだろう。

思わず二度見して目を擦っちゃったけど、やっぱりロイス隊長がいる。


そんな私に、ロイス隊長の後ろに控えていた近習・近衛部隊の親衛隊の兄さん達が小さく笑っている。


「こんにちは、ユーリ」

「こんにちは、ロイスたいちょ」

「折角ですので、直接頂きに来ましたよ。丁度そろそろ休憩の時間ですし、魔王カイユ様も楽しみにされている様で」


魔王カイユ様が楽しみにしてる!?


「今年はどんなお菓子ですか?」

「えとえと、これでしゅー」


取り敢えず、亜空間から無造作に二袋取り出してみる。


「おや、魚型の。温かいんですね」

「アツアツがおいしいんでしゅ。パイ生地の中にあんこと、ショコルクレームと、お魚のマヨチーズが入ってましゅよ」

「成程。では、直ぐにお届けしなければ」

「…毒見とか、大丈夫でしゅか?」


ニッコリ目を細めるロイスさんだけど…えええぇぇぇー。


魔王カイユ様が、「アレにそんな打算が出来るのであれば、当の昔に北の魔王城は他に攻め入られる隙が出来ている」と。まぁ実際は逆に隙など無くなっていますし」

「美味しいご飯食べられなくなるのは嫌でしゅ」


だけど、返された言葉に妙に納得。

自分でも素直に返しちゃう。


「そんな貴方だから、大丈夫なんですよ。そういう訳で頂いて行きます。あぁ、グランディオの分も一緒に頂いて行っても?」

「勿論でしゅ!」


思い掛けない信用があったもんだわ。

まぁ、私が何かを企んだ所で周りは実際には気付いてるもんな。

ただ単に無害(?)なイベントとして立ち上げるから黙って見てるだけだし。

そこを潜り抜けているからこその言葉、だろうけど。


ロイスさんにグランディオさんの分も渡すと、笑顔で去って行く。

…やっぱり、ロイスさん素敵執事だ。後ろ姿もカッコいいです。


「良かったね」

「あい!」


残っていた親衛隊関係の二人が頭を撫でてくれました。ふひ。

そんな二人に二階の食堂に居る二人分も託して、二階は撤収です。




【その四 別棟にて】


「ユーリ(ちゃん)!」


私が姿を現すなり親衛隊関係の兄さんは勿論、顔見知りの面々まで出揃っておりました。


「情報部隊が知らせに来た」


おぉう、驚きに気付いて解説ありがとうございます、シェリファス隊長。

そして手を出して下さって更にありがとうございます(笑)


そのまま隊長達に渡して、親衛隊関係の兄さん達に渡して、最後ににょっきり出て来た手が一つ。


「勿論、オレにもあるよな?」

「にーたん…」


初の応急処置の際、重傷隠していた少年ことイオ君なんだが…。

何故かあれから兄的立場に立候補していた。お陰で気付けば「にーたん」に就任しました。

そんでもって、妙にアルフ少年と二人揃って張り合う。

この二人の私の兄の立場を掛けた口喧嘩は最早食堂の名物だ。周りも面白がって発破掛けてるし。


まぁ、そんなイオ少年にも準備しておいたからあるんだけどね。


「へへっ、これでアルフに馬鹿にさせねぇ」

「にーたん、にーにとケンカしちゃメよー?」

「アルフが何も言わなきゃ兄ちゃんはしねぇよ」


…ダメだこりゃ。明日の食堂で絶対にぶつかるわ。

だって、周りが完全に面白がってる顔してるもん。

全く関係ないよね? 農作部隊と騎獣部隊。


「分かってねーな、ユーリ。若いモンを応援してるんだ」


そういうジーンさん、貴方が一番楽しんでますよね?

ダメだ、こりゃ。




【その五 鍛冶部隊】


「おう、来たか」

「ジョットたいちょ、焼けたよー」

「どれどれ」


来て早々、机仕事をしていたジョットさんに突撃する。

そのまま普通バージョンとオマケの塩味三兄弟を取り出して渡すと、ジョットさんが塩味三兄弟から一つ取り出す。


「成程、こうなんのか。どれどれ」


出来上がりを確認し、早速一口。


「お。ハンバーグか。洒落てんな」

「そっちはねー、ハンバーグとハムチーズと鶏肉のトゥート煮が入ってるの。こっちはあんことショコルクレームと、お魚のマヨチーズなの」

「いいな、コレ。うん、美味いぞ」

「ホント?」


ワシャワシャと大きな手で髪を撫でられ、にぱっと笑う。


「その内他のヤツ等がこの焼型欲しがって来るだろうな」

「そしたら、作って貰えるでしゅ」

「…お前さんも中々のワルだな」

「いえいえ、問答無用で献上させる気満々のジョットたいちょ程じゃあー」


単純に笑ってただけなのに、気付けばお代官ごっこになっていた。


「あらヤダ、二人揃って悪い顔しちゃってー。アタシも仲間に入れて頂戴」

「一番のワルじゃねぇか、カラフ」

「いいじゃないのよぉ、隊長。美味しい物はアタシだって大好きよん」

「カラフおねーちゃまも、あいどーそ」

「ありがとう、ユーリちゃん」


そこに笑いながら参加して来たのは、カラフさん。

カラフさんにもたい焼きを渡し、二人が美味しそうに食べるのを見つつもそろそろ時間なので退散。


手を振って見送ってくれる二人に手を振り返し、こちらでもお世話になっている親衛隊の面々にたい焼きを渡してっと。


この後の設備部隊は特に問題無いんだけど、最後に残ってる医療部隊がなぁ。

…ディルナンさんが迎えに来てくれるのが先か、私が抜け出すのが先か。




【その六 医療部隊】


そんな訳で、設備部隊にも渡してやって来ました。医療部隊。


中に入るなり、見事な連携で奥へと通されていく。

そして入った先には、渡そうと思っていた面々勢揃いなんだけど。


ヴィンセントさん以外、全員微苦笑って何でさ。


「えっと…まず、フォルしゃんです」


取り敢えず渡すべく、亜空間オープン。

先に袋の色が違うフォルさんの分を渡してっと。


後の面々は全く同じだから問題無し。

一人ずつ渡していくと、最後に手をそっと差し出していたのは勿論ヴィンセントさん。


「ヴィンセントたいちょ、あいどーじょ」

「…どうしてウチの子はこうも可愛いのか」


きちんと亜空間に紙袋をしまうなり、やっぱり抱っこされてしましました。


「ディルナンが迎えに来るまでは、パパといておくれ」

「あーい」

「いい子だ」


そしてやっぱり確信犯。いたずらっぽく笑うヴィンセントさん、イケメソです。

そして、すっかり居座るの前提で私の分込みでお茶の準備を始める医療部隊の皆様、お疲れ様です。




結局、ディルナンさんが乗り込んでくるまでヴィンセントさんの膝の上に居る事になりました。まる。

暖かくて、微妙にオネムでございます。

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