8月20日星企画(裏) 思いがけない逢瀬(レツ視点)
星企画その2。
主人公視点を読んでからお読み下さい。
オレの名はレツ。種族は『魔族』という人型曰く、『タイガス』。
オレの暮らす此処『北の魔王城』の『コック』とやらのボス、『ディルナン』の『騎獣』だ。
森で自由気儘に生きてきたオレだが、ある日縄張りに入り込んで来たディルナンと三日の死闘の末に捕らえられた。
最初は自由の無い状況に絶対に従うもんかと反抗しまくったが、最近はディルナンといるのも悪くないと思わなくも無い。
北の魔王城にいりゃ飯も出るし、縄張りもある。
難点は『騎獣部隊』とかいう世話好きで馴れ馴れしい馬鹿共がいる事だが、最近はある程度落ち着いてまだマシだ。
それに、最近はディルナンが面白い人型の子供を拾ったから退屈もしない。
食欲をそそるのとは違う、良い匂いがする子供。それは子供が『特殊』な証。
オレを見ても怖がる事無く笑顔を見せてくれる『特別』な存在。
ただ、その子供に滅多に会えない事が不満だ。
オレの縄張りは『獣舎』の一角にある。
ココにはオレの他に、ディルナンの『部下』の騎獣がいる。
『ウルグ』という種族の『ワイス』に『シエレ』という種族の『ローゼ』、『チェリン』という種族の『カフル』を筆頭に、他にもちらほら。
正直最初の三匹以外はどうでもいい。三匹だけが癖者だからな。
すっかり日も暮れ、カフルのジジイが睡眠態勢に入った頃、潜めた様な小さな足音が耳に届いてきた。
オレ以外のヤツ等も徐々に近付く足音に気付いて耳を立てている。
足音がオレのいる獣舎に辿り着いた時、全匹で侵入者を牽制する。
「レちゅ…」
入口で足を止めた侵入者の小さな声がオレの名をたどたどしく呼ぶ。
聞き覚えのある声にまさかという思いでその姿をしっかり見ると、そこには涙目になった件の子供…『ユーリ』の姿が確かにあった。
何故、こんな時間に一人でココにいる? ディルナンは何をしている??
疑問に思いつつも立ち上がり、縄張りを出る。
ユーリを認め、すっかり牽制を解いたヤツ等の中を抜けて近付くと、小さなユーリが後ろに転げない様にそっと人型の子供特有のふっくら丸い頬に顔を擦り付ける。
それだけでにこっと笑い、ぎゅっと首の辺りに抱き着いてくるユーリ。
いつもならどうでもいいヤツが近付くだけで虫唾が走る。
更に、気安く触られる事はオレにとっては最悪な出来事の三本指に入る。
だというのにユーリにはもっと触って貰いたいと思うし、オレも触りたいと思う。
それにユーリのこの笑顔に弱い。笑顔で撫でられたらそれだけで何でも良い様な気になる。
本当に不思議な存在だ。
暫くはこのままでいたが、この態勢はユーリの負担になる。縄張りに連れて行って休ませてやった方が良いだろう。
一鳴きして注意を引くと、ユーリが不思議そうに首を傾げる。
そんなユーリに自分の縄張りに視線を向けて行き先を教えれば、首から離れた。
縄張りへと体を向けて振り向けばきちんと後に付いて来る。
ユーリに合わせてゆっくり歩けば、可愛い笑みを惜し気もなく見せてくれた。
縄張りの定位置に横になってもう一度一鳴きすれば、嬉々としてユーリが腹の辺りに飛び付いてくる。
そっとユーリを包み込む様に丸くなると、小さな体が擦り寄って来た。
…可愛いな。自然と喉が鳴るじゃないか。
だが、少ししたらオレの縄張りだというのに他のヤツ等が侵入し、ユーリに近付いて擦り寄った。
「ワイしゅ、ローゼ」
ユーリはいきなり擦り寄られてびっくりしたが、二匹の姿を認めるとその名を呼んで鼻先を撫でる。
…嬉しそうなユーリに免じて、今回だけは縄張り荒らしに近い行為も見逃してやる。
二匹と違い、自分の縄張りから動かないカフルのジジイをチラリと見ると、今回は参戦しないで寝る気らしい。
その一方で撫でられて調子に乗る二匹にムカつき、負けじとオレもユーリに擦り寄れば、二匹も更にユーリに擦り寄る。すると、ユーリがクスクスと笑みを溢した。
「ふふふー。くしゅぐったい」
そのまま暫く笑うユーリにオレだけじゃなく二匹も和む。
普通なら、オレ達がこんな風に集まる事は無い。高等種が集まったら、まず縄張り争いが起こる。
単純にユーリがいるからこその状況だ。
そこに、他の獣舎からユーリの匂いを嗅ぎ付けたらしい『ドラゴン』の子供がキュウキュウ鳴きながら突撃してきた。
コイツ、ユーリに抱き付く気か。
他の二匹と目で合図し、ドラゴンを近付けない様にここは協力する。
「星、きれいだねぇ」
そんなオレ達の気も知らず、ユーリは夜空を見上げて呟いた。
思わず揃って一緒に星空を見上げると、ユーリがにこぉっと笑みを深める。
「星はねー、いろんな形が作れるんだよ。星座っていうのー。
…エルトならりゅう座だし、ワイしゅならおおかみ座、ローゼならおひつじ座かなぁ」
他のヤツ等の形らしい『星座』の名前を口にするユーリに、オレの星座も教えて貰うべく鼻先で頬を突いてきた。
だが、少し考えて、少し困った表情になったユーリから返ってきたのは驚くべき言葉。
「レツはね…んと、星座じゃないよ」
これには本気でショックを受けた。
しかも他のヤツ等、自分達は星座があるからと完全に馬鹿にした目をオレに向けて来てやがる。
クソッタレ!
「えとえと。
…星座じゃないけど、星宿っていうのに白虎があるんだよ」
ヤサグレかけたオレに、ユーリが必死に考えて声を掛けて来た。
『星宿』? 何だそれは。星座と何か違うのか??
ユーリを見ると、笑顔で鼻先を撫でられた。
「レツみたいな白い虎は、西をちゅかさどるっていわれてる風のれいじゅうなの。レツにピッタリでしょ」
ふむ。つまり、オレと同じ『白虎』という星宿とやらは少し特殊という事か?
しかも、風属性。確かにオレの得意とする分野だ。
オレがユーリに細かい説明を受けると、他のヤツ等が我も我もと期待の眼差しをユーリに向ける。
「…エルトのりゅう座は一年中見れるけど、夏が一番だったから火をつかうエルトにあってるし。
……ワイスのおおかみ座は春だったはずだから、土をあやつれるワイしゅにあうでしょ?
………ローじぇのおひつじ座は秋から冬にかけてだった? から、氷がとくいなローゼにあうんだよ」
その視線に応える様に、ユーリが他のヤツ等に星座の説明をする。
それぞれの説明を聞き、喜ぶ三匹はどうか知らんが、オレの耳にはユーリがホッと息を吐くのが聞こえた。ここは聞いていない振りをしてやるのが一番良さそうだ。
「あ。あそこにあるのはタシ芋の形ー。あっちがベルモンで、そっちがオル葱ー」
そんな中、話を変えようとしたのか星を見上げて言葉を発するユーリに他のヤツ等ともう一度空を見上げる。
星々の中でも特によく輝いてる星を繋げて様々な形を作り上げるユーリ。
それにしても星座、か。星は単なる夜の明かりというだけでは無いのか。
人型は色々と面白い事を考える。
あれこれ星を示していたユーリだったが、少ししずつ瞼が重くなってきたらしい。
欠伸一つしてオレの腹の辺りで丸まる様にして寝る体勢に入るユーリが『風邪』をひかない様に、他のヤツ等がそっと近付く。
本当に小さな、オレ達の耳で漸く拾える位の声で『おやしゅみ』を言って、ユーリが直ぐに寝息をたて始めた。
すやすやと安らかなユーリの寝息を子守唄に、オレ達も寝る態勢に入った。
「隊長っ。た、大変です!」
「調理部隊の獣舎にユーリちゃんがっ。何でか機動部隊のチビも一緒にレツ達と寝てます!!」
いつもの足音が聞こえたと思ったら、馬鹿共が情けない声を上げて走り去った。
他のヤツ等もすっかり目を覚まし、走り去った後を睨み付けている。
ユーリを見ると、幸い馬鹿共の声で目覚める事無く気持ち良さそうに眠っている。
もしも今ので起こしてたら只じゃ置かないが。
ユーリの眠りを、ディルナンが迎えに来るまでは守っとくか。
楽しい時間が過ぎるのはあっと言う間で、珍しく息を切らしたディルナンがやって来た。
すやすや眠るユーリを見て安堵の呟きを溢すのが聞こえた。
ユーリが態々オレの所に来る様な行動をした一応主人にユーリの代わりに久々に噛み付いてからユーリを渡す。
ディルナンに連れて行かれるユーリを見て少しの寂しさを感じたが、あの小さな体に無理をさせたら体調を崩しかねない。
時間はいくらでもある。
また遊びに来るのを楽しみに待てば良いだけの事だ。
……無理なんかしてないぞ。
ユーリが去るとドラゴンの子供は連れ戻され、他の二匹も自身の縄張りに戻る。
それを見てから、取り敢えずはすっかり忘れられた朝食を馬鹿共に出させる為に思いっきり吠えた。
[補足説明]
チェリン:ベッシュ(熊)の高等種族。ホッキョクグマサイズで外見はパンダ。
のんびり気質の雑食。ただし、戦闘モードになると猛獣相手でも一歩も退かずに戦う。勿論空を駆ける事が出来る。属性は雷。
そんなカフルはオッジの騎獣(笑)