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2014年6月15日の活動報告より 父の日にも愛を込めて

水の二月(六月)、第三日曜日。

悲しいかな、よく忘れられがちだけど「父の日」です。




こちらも始まりはアメリカ。


男手一つで六人の兄弟を育て上げて亡くなった父親を讃えて、その父の誕生月に娘さんが教会の牧師様に礼拝してもらったのがキッカケらしい。

当時、既に「母の日」が始まっていた事もあり、「母の日」の様に父親にも感謝する日を…と変化したそうな。


因みに、「父の日」の花は黄色いバラだそうな。

これは父の日のキッカケを作った娘さんが父親の墓前に白いバラを供えたかららしい。

こういった花に纏わる話は外国らしい理由だよなー。定番的。




さてさて、そんな「父の日」ですが。


コーサさんが「父の日」の会報を出してくれたし。

集落でチマチマと宣伝もしておいたので、子供達とお母さん達もイベント仲間に名乗り上げてくれました。バレンタインに次ぐ、北の魔王城飛び出し企画ですよ。


…「父の日」、魔大陸では認知度の高いイベントになるといいね。




因みに、現在の私のパパと言えばヴィンセントさんです。


…ん? ディルナンさんはどこ行ったって??

それはですね、主にオカンなんです。但し、ごくごく稀にお父さん(笑)


黄色いバラは時期的にも咲き誇っているとの事だったので、農作部隊のジーン隊長に少し分けて貰う交渉は早々に済んでたり。

女性じゃないから、花束である必要性はないもの。

後は肝心要のプレゼントなんだけど……ちょっと企んでいるモノがあるんだよなー。







「で、再び鍛治部隊ウチのご指名ってか。しかも今度はカラフじゃなくてオレ」


「母の日」が終わって早々にやって来ました、鍛治部隊の応接室。

前以てジョット隊長にお話するお時間下さいなーってお願いしておいたんだよね。


「ボクのペンを作ってくれたジョットたいちょにしかおねがいできないの」

「今度は何を企んでるんだ?」


私の提示した条件に、ジョットさんがキラリと目を光らせる。

そんなジョットさんの前に、とある企画書を提出してみた。


ジョットさんがそれを読み終わるのをジッと待つ。


企画書といっても、私の記憶にある半端な知識が主体になっている。これが本当に形になるかも分からないけれど、出来ればきっと鍛治部隊にもプラスになると思うから。


「……こいつはまた、ぶっ飛んだモン持って来たな」

「………ダメでしゅか?」


一通り目を通したジョットさんが、深々と溜息を吐く。

恐る恐るジョットさんを伺うと、ジョットさんがニヤリと不敵に笑った。


「ちょっと待ってろ。コイツに最適な人材がもう一人いるから呼んで来る」


そう言ってジョットさんが企画書片手に少し席を外す。


足をプラプラさせつつ待つ事暫し。


「ユーリちゃん、コレ、もっと詳しく教えてくれ!」


慌ただしい足音に少し遅れて、マッチョなおっちゃn…兄さんが企画書を握り締めて飛び込んで来た。

その勢いで扉の蝶番が外れて扉が傾いた先には、ジョット隊長の呆れ顔と何事かと驚く鍛治部隊の隊員さん達の姿があった。




ジョットさんに呼ばれてやって来た兄さんはケインさんと言うらしい。

若手のホープで、年は何とディルナンさんよりも50歳程若いんだとか。…強面マッチョな外見だけで言ったら、明らかにディルナンさんよりも年上に見えるよ?


そんなケインさん、とっても手先が器用で、鍛治部隊の特殊小物作成のエキスパートとの事。

私の使っている便利ペンはジョットさんが作成したが、実は通常サイズをメインで作っているのはケインさんなんだって。


「で、ユーリちゃん、この企画書にある『万年筆』の詳細をもっと詰めたいんだが」


応接室の扉をあっという間に修繕し、改めてジョットさんとケインさんが椅子に座って企画書を広げる。

更には、新しい紙とペンまで出現していた。


そのペンが私も作って貰った便利ペンだ。ほぼ『万年筆』の形を取っている。

これを見て、インク入れが本体に内蔵出来れば良いのにと前々から思ってはいたのだ。


ここまでくればもうお分かりだと思うけど、私がジョットさんに提出したのは、『万年筆』の企画書。


現代日本では一口に『万年筆』と言っても幾つかの種類があったが、その中でも『吸入式』と呼ばれる一番最初に作られた『万年筆』の形式を提案してみた。

カートリッジ交換ではなく内蔵インク入れにインクを吸入させる形態で、何度でも使える形式だ。これだとしっかりお手入れすれば色の違うインクに交換も出来る。


テレビの特集で取り上げられた『万年筆』に憧れて、一時期アレコレと色々調べてみたんだよなー。

正直、自分の手には余ると思って購入には至らなかったけど。


医師という職業柄、カルテの記入などでペンは良く使っているヴィンセントさん。

胸ポケットに常備出来る『万年筆』が用意出来れば、助手さんがいない時でも一々机に戻って書き物しなくて良い。それはヴィンセントさんの仕事の助けになる気がする。


『万年筆』とは読んで字の如く、使えば使う程に手に馴染み、メンテナンス次第では実に長く使える構造をしている。

そんな『万年筆』をプレゼントしたらきっと喜んで貰えると思ったのだ。




私の用意して来た企画書を元に、三人で話を進めて行く。


先ずは理想とする形での重要項目は二つ。

キャップにクリップを付けてポケットに固定しておける事、インク入れを細い筒状にして本体に内蔵する事。


次に内蔵するインク入れの特徴と、その扱い方の出来るだけ具体的なイメージの共有。


専門職の意見交換が功を奏し、企画書の拙い図からより精密な図へと変化して新しい紙に書き起こされ、更に意図する機能が書き加えられていく。

流石は鍛治部隊。


「それと、この専用インクだな」

「書いている時は青、時間の経過と共に黒に変化して定着する耐久性インク…」

「ユーリが幾つか材料案出してるし、これは最悪追い追いでもいい。だが、出来れば面白いとは思うぞ」


ある程度形が纏まった所で、ジョットさんとケインさんが最終ページに目を止める。


分かりやすく言うと、タンニンと鉄を利用した『古典ブルーブラック』の事なんだけど。

…実験遊びの本に緑茶とウールたわしと塩でインクを作るみたいな実験があったんだよね。


これを酸性にpH調整をしてインクを安定させて、防腐剤にはグレープフルーツの種が使えた筈だから類似果物の種で代用、酸性に強い染料で色の安定、グリセリンで粘度調整と乾燥抑制すれば出来ないかなーなんて素人考えなんだけど。

専門的な材料で書かれた分量なんか覚えてないもの。


まぁ、これは本当についでの企画だから、出来なければ二人が仰る様に今あるインクを使えばいいだけの話だし。




なんだかんだと意見交換を終える頃には、二刻(四時間)近くも経っていた。わぉ。







ケインさんが何度も試作を重ね、少しずつ『万年筆』としての形が出来上がって行く。その度にお邪魔しては意見交換が行われた。

そして気付けば本体の耐久性もかなりのモノと思われる、カッコイイ『万年筆』が出来上がっていた。


一方のインクはと言うと。

農作部隊がタンニン含有植物を上げてみたら、服飾担当部門で皮をなめすのに使われているモノが良さそうだったり。

そうなれば服飾担当部門でついでに酸性に強く、変色もしない染料までもが選抜され。

挙句の果てに防腐剤代用予定のグレープフルーツの種だが、化粧品の天然防腐剤としてそれを加工したモノが存在している事をカラフさんが知っていて、それが採用され。

なんだかんだと「父の日」に間に合いましたよ?

…服飾担当部門、実は大活躍です。


そんな紆余曲折を経て、「父の日」までに『万年筆』も『古典ブルーブラック』も完成しました!







そして迎えた「父の日」当日。

ナイスタイミングな事に、健康診断の日。午後から調理部隊に戻ります。


「ヴィンセントたいちょ、今日もよろちくおねがいしましゅ」

「あぁ、よろしく」


恙無く健康診断終え、看護師服に着替えた所で、亜空間オープン!


「あのね、いつもありがとうなのーーー…ヴィンちぇントパパ」


黄色いバラを一輪添えた、『万年筆』の小箱を感謝の言葉と一緒にヴィンセントさんに差し出す。

本当は仕事の日は絶対にパパ呼びしないけど、今日だけは特別です。


「……私に、用意してくれたのかい?」

「あい」


かなりビックリした風なヴィンセントさんに、医務室の他の面々がニヤニヤ笑う。


「隊長、期待しないで待ってた甲斐がありましたね」


バクスさんがヴィンセントさんにそんな声を掛けると、ヴィンセントさんが苦笑した。


「折角ですから、開けてみたらどうです?」

「ふむ。…開けてもいいかい?」

「どーぞ!」


是非是非見ちゃって下さいな、鍛治部隊の傑作を。

ニコニコしつつ、包装を解いて行くヴィンセントさんを見つめる。


「これは…っ」

「かじ部隊で作ってもらった新しい便利ペンでしゅ」


中に入っていたのは、本体とインク、取扱説明書。

本体にはヴィンセントさんの名前も刻印してもらいました。


早速キャップを開けて、メモ紙に試し書きをするヴィンセントさん。


「これはいい。実に便利だ」

「鍛治部隊でメンテナンスもしてもらえましゅ」

「………ありがとう、ユーリ。最高のプレゼントだ」


納得した所でキャップを閉め、早速胸ポケットに差すヴィンセントさん。

そのままギュッと抱っこして貰いました。

パパに喜んで頂けて何より。

調子に乗って、私もギュッと抱き着き返してみた。


さて、後はディルナンさんにも渡さなきゃ。

その前に今日も頑張ってお仕事するぞー!







医療部隊と調理部隊での仕事を終え、お風呂に移動する前がディルナンさんへのプレゼントタイムです。


ディルナンさんも調理主体とは言え、書類仕事は少なからずある。しかも厨房にある狭い一角での仕事だから、『万年筆』は嫌なプレゼントでは無い筈。


ヴィンセントさんと同じ様にちゃんと準備しましたとも。


「たいちょ、あい」

「…「父の日」、か?」


プレゼントを差し出すと、ディルナンさんが妙に感激していた。


「隊長、良かったな。オカン認識で終わってなくて」

「やっぱりアレは冗談だったんですよ」


シュナスさんとオルディマさんがそんなディルナンさんに声を掛ける。


どうやら、思った以上に「母の日」のカーネーションはディルナンさんにダメージを与えていたらしい。

微妙に本気で渡してゴメンナサイ。







心の中で深く反省している間にディルナンさんが箱を開けていて、感激の余り抱き潰されかけるなんて予測もしていなかった未来に見舞われるまで、後五秒。

【後日】


「おう、ユーリはいるか?」

「ジョットたいちょ」


朝食提供もそろそろ終わろうかという時間。

ジョットさんが厨房にひょっこり顔を覗かせつつご指名して来た。


ディルナンさんを見ると一つ頷かれたので、包丁をしまってからジョットさんの待つホールへと出て行く。


「おまたせしましたー」

「悪ぃな、仕事中に」

「ジョットたいちょも仕事中でしょう?」

「そりゃそうだ」


軽口を交わして笑った所で、ジョットさんが珍しく表情を真剣なモノに変えた。

え。何ですか?


「ユーリ、例の父の日に作った『万年筆』なんだが」

「あい」

「あれから一本、特別に作り込んで魔王カイユ様に献上した」

「…ぴょ?」


ジョットさんから告げられた思い掛けない言葉に、思わず間抜けな声で問い返す。

まおうさまに、けんじょうした?


「…お前さんには全く自覚がないみたいだがな、ありゃ北の魔王領の特殊名産品になり得るモンなんだよ。だから鍛冶部隊が持てる素材と技術全部注ぎこんで、魔王様の為に一本作り上げた。

 魔王様の反応は上々。これから外での仕事の際は必ず持ち歩いて下さるそうだ。つまり、北の特殊名産品として魔王様ご自身が認定を出した。それと同時に北の魔王城全十四部隊長及び副隊長に各一本下賜命令も出たんだ」


ジョットさんが淡々と告げて行くが、その内容が上手く飲み込めません。

何だか内容が非常におっかない。


「そうなると出来た経緯についても説明しない訳にはいかなくてな。で、説明したらお前さん宛に魔王様から褒美が出たから、それを届けに来た」

「ごほーび?」

「無期限で周りの集落のどこの菓子屋で買い放題の手形だそうだ。これを提示して商品好きに受け取って来いって事だな」

「………ちょっといいお菓子屋さんでもいい?」

「どこでも、だ」


ジョットさんが差し出した、金ぴかの小さな手形。

何処でもお菓子貰い放題って事はつまり、ロイスさんが時々くれる高級菓子も対象って事で。


「おーおー、すんげぇ目がキラキラしてんなー」

「おかち…」

「流石は魔王様だ。何が一番喜ぶかよく分かってらっしゃる」


受け取った手形を見つめ様々なお菓子に思いを馳せていると、ジョットさんが笑う。


「用件はそれだけだ。くれぐれも無くすなよ。食い過ぎてオカン達にどやされん様にな」

「あい、ありがとうございましゅ」

「まぁ、お前さんなら無駄な浪費もしないだろうしなー」


笑いつつ私の頭を撫で、ジョットさんが去って行く。




何か凄い手形を手に入れちゃいました。てへっ。 

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