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かわいいコックさん企画部屋  作者: 霜水無


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2014年5月11日の活動報告より 母の日は手作りで勝負! 

水の一月(五月)。


この月の二大イベントの二つ目は、第二日曜日の「母の日」だろう。




大元は様々な起源があるみたいだけど、今の形になったのは百年程前の事。

アメリカのとある少女が母親と死に別れた事をきっかけに、生前に母親を敬う機会を設けようとしたのが始まりらしい。

その活動が毎年少しずつ全米に広がり、十年程掛けて大統領にまで認められる様になって祝日に変化したのが「母の日」。


この時、彼女の母親が好きだった白いカーネーションを祭壇に飾ったのが母の日のカーネーションの由来なんだそうな。

それが母親が生きていれば赤いカーネーションを、亡くなっていれば白いカーネーションを胸に飾る様になり、更に変化してカーネーションを送る風習へと変化したんだそうな。


そんなカーネーションは色によって花言葉が違ったりする。赤いカーネーションは「母への愛」、白いカーネーションは「私の愛は生きています」なんて花言葉があるんだって。


そんな「母の日」が大々的に日本に伝わったのは、とある製菓会社の告知だって知ってました?





まぁ、そんな「母の日」だけれども。

母親を敬い、日頃の感謝を伝えようっていうのはとても素敵な考え方だと思う。


親衛隊の皆様も「母の日」を理解してくれたみたいで、大至急で会報の号外まで出してくれた。

これがまた凄くよく出来ていた。

一部、百貨店の広告かと思った位だ。オススメプレゼントとか、その取扱店まで掲載してるんだもん。これ、絶対に購買意欲を誘うと思う。

しかもちゃんと取扱店と連携して、品揃えもかなりの物だったし。


ちゃっかり号外片手にお店を覗きに行ってみたけど、とても素敵な品物や綺麗な花々が出揃って盛況だった。


ただね、私がプレゼントしたい魔大陸でお世話になってるお素敵ママ達は、私が高い物をプレゼントするのを嫌がる傾向にある。

ヴィンセント隊長の奥様であるリィンママと「リタの酒場」を経営するリタママなんだけど。


まぁ、多少は稼いでいるとは言え、外見が幼い子供に送られても困惑する気持ちは分らないでもない。

でも、有里わたしの母に渡せない分もこちらのママ達に渡したいと思う訳で。


これは創意工夫するしかないと言う結論に達するのは、然程時間が掛からなかった。







「こんにちはー」

「おう、何か用か?」


そんなこんなで早めにやって来ました、鍛治部隊。

先に顔を出したのは、隊長のジョットさんの所。


「ジョットたいちょ。針金ってありましゅか?」

「針金ぇ? あるにはあるが、種類が欲しいなら設備部隊のがあんぞ」

「んとね、緑色の針金もありましゅか?」

「…そいつはまた、何に使うつもりだ?」


物は試しで、ジョットさんにご相談。

それをどんな用途で使うかをご説明ですよ。


「成程な。そういう事なら設備部隊よりも鍛治部隊ウチの出番だ。ついでにテープも使えそうなヤツがある。用意してやろう」

「ジョットたいちょ、しゅてきー!」

「半刻もありゃ用意出来る。それまではカラフん所で布でも物色して来い」

「あい!」


話を聞いたジョットさんの頼もしいお言葉に甘え、そのままカラフさんのいる服飾担当部門のお部屋へとお伺いを立てる。


「ユーリちゃん、今日はどんなご用かしらぁ?」

「カラフおねえちゃま、赤い布のきれはしが欲しいんでしゅ」

「赤い布本体じゃなくて、切れ端でいいの?」

「あい」


少しして出て来てくれたカラフさんにお願いすると、カラフさんが目を丸くする。


「お安い御用だわ。沢山あるから、好きな切れ端を選んでらっしゃい」

「ありがとうございましゅ!」


こちらも特に問題なく許可が出た。


カラフさんに続いて仕事部屋にお邪魔し、ダンボールにまとめられていた大小様々な切れ端を物色する。

余り分厚くなく、綺麗な赤い布を三種類発見した。


「おねえちゃま、コレ貰っていいでしゅか?」

「いいわよー。今度は何をするのかしら?」

「ありがとうございます。んとね、これでお花をつくるの」


興味津々なカラフさんに、材料提供の礼を言いつつ目的を告げる。


「お花? あぁ、もしかして噂の「母の日」かしら?」

「あい。お花を買うとママ達が気にするから、作るの」

「あらあら、素敵ね。どうやって作るか見せて貰える?」

「あい」


まだジョットさんの所に行くまで時間もあるし、うろ覚えで微妙な部分にプロから何かアドバイス貰えるかもしれない。

一度ここで作らせて貰おう。








用意しますのは、赤い布に赤い糸、針。


まずは布をギザギザに切れるハサミで縦五センチ、横三十センチ程にカットします。


次に布の下一センチちょっとの所を並縫いして行き、縫い始めの所まで縫って円にします。


ギューっと糸を引っ張って、固結びします。


「あら、お花らしくなったわ」

「ふむ。…んで、コイツの出番か」


何せ然程器用ではない幼児ですから。


モタモタしつつも何とかカーネーションの花の形を作るまでに散々針で指を刺し、どうにか形になった頃には出来上がったアイテムを手に、ジョットさんが態々やって来てくれていた。


少し太めで片側の先を少し曲げて貰った緑色の針金を一本受け取り、上から花の中心に先の曲げた所が引っ掛かるまで通す。

その針金を固定する様に糸をグルグル巻いて。

最後に巻いた糸の上から針を通してもう一度縛ったら、今度こそ糸をカット。


糸が見えない様に、用意して貰った緑のクラフトテープ擬きでコーティングして額を作り。


最後に針金にクラフトテープ擬きで葉っぱを作って、遂に完成!


この頃には周囲に鍛治部隊の隊員さん達が沢山集まっており、拍手喝采が起こった。


「これは、作るの大変そうねぇ…」

「がんばる」

「……ちゃんと怪我したらヴィンセント隊長に治療してもらうのよ?」

「あい」


カラフさんが心配そうな顔で言ったけど、ここで諦めたら私の「母の日」が終了してしまう。


いつもお世話になっているママ達の嬉しそうな笑顔が少しでも見たいのですよ。


「まぁ、頑張ってみろ。但し、出来たら鍛治部隊に持って来い。針金の長さとかはオレが調整してやる」

「そうね。折角のユーリちゃんのお花だもの。ラッピングなら協力するわ」

「ジョットたいちょ、カラフおねえちゃま、ありがとー」


何だかんだ心配しつつも見守ってくれるお二人には本当に感謝です。







毎日時間を見つけてはチマチマとカーネーションを作り続け。


一本、また一本と出来上がる度に傷だらけになる指に涙目になりつつも、ヴィンセントさんのお世話になりつつ頑張りました。

理由が理由だけに、ヴィンセントさんが苦笑いしつつバックアップについてくれた。

仕事に支障の無い様にバッチリ治療して貰い。


調理部隊の面々は勿論、書類部隊の面々も黙って見守っていてくれたし。


母の日当日の午前中にどうにか出来上がったカーネーション達を、約束通り鍛治部隊で素敵な花束に仕上げて貰い。


時間を考えてお昼ご飯もしっかり食べた所で、沢山の人達に助けられて綺麗に咲き誇ったカーネーションを渡しにいざ集落へ行って来ます!







まず最初にやって来たのはヴィンセントさん宅にいるであろうリィンママの所。

ドアの横にある呼び鈴を背伸びしつつ拾った棒で鳴らし、リィンママが出て来るのを待つ。


「はーい、どちら様?」

「リィンママ、ユーリでしゅ」

「あらあら、ユーリちゃん? 今、開けるからちょっと待ってね」


誰何する声に答えると、リィンママがすぐに玄関を開けてくれた。


「いらっしゃい、ユーリちゃん。今日はゆっくりお茶しに来てくれたの?」

「んとね、あにょね…」


笑顔で出迎えてくれたリィンママ。

いざ渡すとなったら、何を言っていいのか分からなくなってしまった。

口籠り、モジモジしてしまう。

って言うか明らかに挙動不審な私に何も言わず、急かす事も無く笑顔で待ってくれるリィンママってばマジで女神様みたいです。


いや、ここはグズグズしちゃいかん。女は度胸!


思い切って亜空間を開いて用意して来た花束を勢い良くリィンママの前に差し出すと、リィンママが目を瞬かせる。


「リィンママ、いつも色々ありがとー。だいしゅきよー」


月並みな言葉しか言えないけれど、精一杯の笑顔を浮かべて心を込めて。

くっ、ここで詩人みたいにカッコイイ事言えたらいいのに…っ。


「…私に、わざわざ用意してくれたの?」

「あい」

「……これ、手作りのお花でしょう??」

「がんばったのー」


ちょっと不格好な花が幾つかあるけど、そこはご愛嬌って事で。

笑って誤魔化しながら受け取ってくれるのを待っていると、リィンママの瞳に見る見る涙が滲んでいく。


ちょっ、えええぇぇぇっっ!!?

私、泣かせる様な事何かしたっけ??!


「………こんなに手を痛くして、一生懸命作ってくれたのね。こちらこそ本当にありがとう。私もユーリちゃんが大好きよ」


おぅふ、絆創膏まみれの手が見付かってましたか。


それでも笑って受け取ってくれるリィンママが素敵です。

更にギュッと抱きしめて、頬にキスまでして貰っちゃった。うへへ。







リィンママの美味しいお茶をご馳走になった所でお暇を告げ、次にやって来ましたのは「リタの酒場」。


こんなお昼には営業してないから閉まっているドアを横切り、お店の横にお邪魔する。

向かいますは厨房。そろそろ厨房の仕込みに料理人ベンさんが入っている筈。


目的地の窓を背伸びして覗き込むと、思った通りベンさんを筆頭に三人の料理人が包丁を握っていた。


「べんしゃーん、こんちはー」


私に気付いて貰うべく窓をノックしつつ声を掛けると、ベンさんがすぐに気付いてくれた。

包丁を置いて勝手口から姿を見せてくれる。


「おう、ユーリちゃん。どうした」

「リタママはいましゅかー?」

「ママならさっき奥で帳簿付けてたからいるぞ。今、呼んでくるな」

「お願いしましゅ」


用件を告げると、嫌な顔一つせずにベンさんが中に戻って行く。


少しして、ベンさんと共に普段着のリタママが現れた。


「ユーリちゃん。こんな時間に珍しいね」

「こんにちはー、リタママ」


いつもとは違い、緩くウェーブの掛かった髪を背に流したリタママもやはり美人。

なんて見とれてる場合ではないので、早速亜空間オープンでもう一つのカーネーションの花束を取り出す。


「リタママ、いつも色々ありがとー。大しゅきでしゅ」

「おや、まぁ。もしかして噂の「母の日」のプレゼントを持って来てくれたのかい?」

「あい!」


軽く目を瞠って驚くリタママに大きく頷き、花束を差し出す。

それを受け取り、目を細めてじっくりと花束を見つめるリタママに何だか少し恥ずかしくなって頬が熱くなる。


「…へたくそだから、あんま見ちゃメです」

「! ……まさか、この花束全部ユーリちゃんが!?」

「えへへー」


モジモジしつつお願いすると、リタママが驚きの声を上げた。

それにどうにか笑って答えると、リタママが大輪のバラも真っ青な笑みを浮かべた。

あぅ、眩しいですっ。


「何て事だい。こんな素晴らしい花束を貰ったのは初めてだ。どんな高価な花束だってこの花束には敵わないよ。

 よし、お店で一番の場所に飾らせて貰おう」

「ぴょっ!?」

「皆に自慢しなきゃね。…ありがとう、私の可愛い子」


とんでもない言葉に思わず飛び上がるが、リタママの笑顔は輝きを増すばかりで何も言えない。

トドメにおでこにちゅーまで頂きました。

あぁ、顔の筋肉崩壊…。






そんなこんなでどうにかやる事を終えて、北の魔王城への帰路に就いております。

喜んで貰えて本当に良かった。頑張った甲斐があった。

何とも言えない達成感と満足感、プライスレスです。



…実は、亜空間にもう一本だけリボンを結んだカーネーションがあったりする。

後はそれを渡せば、ミッションコンプリートです。







「あい、たいちょ」


無事にママ達にカーネーションを渡して戻って来たその足でやって来たのは、食堂にいたディルナンさんの元。


件のカーネーションを亜空間から取り出し、そっと差し出す。


「…オレに?」

「いつもありがとう、おかーしゃん」

「…………」


物凄く複雑そうな表情を浮かべつつ、それでも差し出したカーネーションを受け取ってくれるディルナンさん。

やっぱり素敵オカンだよね。


そんなディルナンさんに、調理部隊の面々が爆笑し始める。


「テメェ等、覚悟は良いだろうな…?」


これにはディルナンさんが静かにキレた。


周囲に向かっていくディルナンさんは、こうして見るとやっぱりカッコイイお兄さんで。


…「父の日」にちゃんとした物を用意しようかな、と思ってみたり。

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