6月6日コックさんの日裏事情 魅惑のクリル(バース視点)
騒動の元凶である調理部隊の三馬鹿トリオの一人、バース視点です。
オレの名前はバース。
北の魔王城の調理部隊の隊員だ。
毎日三食、北の魔王城の隊員の食事を提供するコックをしてる。
気の良いサムとカインとオレの三人で「三馬鹿」なんて呼ばれてるけど、調理部隊の面々は気の良いヤツ等ばっかだ。照れ隠しが過激なだけだな、うん。
今日のオレの手の中には、特別製のクリルがある。
何でも、これを売ってくれた商人が言うには「魅惑のクリル」なんだとか。
……それを聞いて、ユーリちゃんにと思ったのはオレだけじゃない。だから、サムとカインと割り勘してそのクリルを買ってユーリちゃんに渡したんだ。
本当に、軽い気持ちだったんだ。
オレ達のあげたクリルを食べたユーリちゃんは猫化したんらしいんだけど、慌てて隊長が医療部隊に駆け込んでしまった為にしっかり見れなかった。残念。
でも、話はそれで終わりじゃなかったんだ。
なんと、残された他の隊員達で夕食の用意をしていたら、じーさまも猫化しちまった!
ユーリちゃんと一緒に例のクリル食っちゃったの!?
余りの事に、身に覚えがあり過ぎるオレ達が叫んでしまったのが悲劇の始まりだった。
しかも、あの「調理部隊の鬼」とまでいわれた強面のじーさまが「にゃー」って。似合わなさすぎて顔の筋肉が痙攣した。可愛い子じゃないとこれはキツイ。
三人そろってじーさまにボコられて、縄で吊るし上げられて暫く。
食堂と厨房がじーさまの怒りの冷気に包まれる中、他の調理部隊の面々はこっちを一切見ようともせずにせっせと夕食の用意をしていた。薄情者ー。
とにかくそんな中、ディルナン隊長が凄く可愛いエプロンドレスに着替えたユーリちゃんを抱っこして、医療部隊のヴィンセント隊長とバクス副隊長、鍛冶部隊のカラフ副隊長を伴って食堂に戻って来た。
じーさまを見たユーリちゃんがじーさまに謝り、ディルナン隊長の腕から降りるとじーさまに抱っこをせがんだ。
ユーリちゃんを抱き上げ、「お揃いにゃー」と言われてじーさまが機嫌を直したのは良かったけど、今度はディルナン隊長の横にいるヴィンセント隊長の背後に黒い物が現れる。怖いよなー。
そんな事を考えていたら、ユーリちゃんにぷにぷにの肉球の手でぽふん!と頬を叩かれた。…やばい。ユーリちゃんマジ可愛い。肉球が気持ちいい。揉みたい。
「にーちゃまたち、キライにゃ」
だけど、ユーリちゃんに次の瞬間に言われた言葉に、絶望が襲ってきた。
可愛いユーリちゃんに「嫌い」って言われた!?
そ、そんな…ただ「魅惑のクリル」でユーリちゃんの喜ぶ姿が見たかっただけなのに!
「もうしないなら、しゅきにゃ」
「「「もう絶対に二度としませーん(号泣)!!!!!」」」
目の前が真っ暗になった直後に届いた希望の光とも言うべきユーリちゃんの言葉に、サムとカインと速攻でユーリちゃんに誓った。
ユーリちゃんに嫌われたら、オレ、絶対に当分立ち直れない。
マジで嫌われなくて良かったっ!
ユーリちゃんに嫌われなかった事に安堵していたオレ達は全く気付いていなかった。
オレ達をやり込めたユーリちゃんにじーさまが機嫌よく笑い、そんなじーさまにユーリちゃんが頬擦りしていたなんて。
そのせいで、オレ達が今度はヴィンセント隊長の怒りを買っていたなんて。
「---さて、ユーリのお仕置きが終わった所で、君達には医者として聞きたい事が山とあるんだ」
しっかりとじーさまに吊るし上げられていたオレ達の縄を握り、ヴィンセント隊長が言うまで、本当に気付かなかったんだ。
連れて行かれた医務室で、オレ達は内容を思い出せないのに思い出そうとするだけで口から魂が飛び出しそうになる程の尋問を受ける羽目になる。
唯一覚えているのは、妙に官能的(?)かつ凄惨な地獄だったという感覚のみ。
…終了後どうやって厨房に戻ったのか、仕事をしていたらしいがその二~三日後になるまでの記憶がはっきりしない事をここにこっそり追記しておく。