6月6日 コックさんの日企画2 雨降り
主人公とディルナンのダブル視点です
「あ、雨」
折角の休みなので外で駆け回っていたら、雨が降り始めた。
今日は朝から曇りだったから、天気持つかなーと思ったんだけどなぁ。
取り敢えず、近くにあった木の下で雨宿りなう。
暫く雨宿りしてみたけど、雨足は強くなるばかり。
困った。どうやって戻ろうかな。
雨特有の空気と、雨故に元気いっぱいの生物達を観察して楽しむのもそろそろ限界です。だって、お腹の主が盛大に騒ぎ始めてるんだもの。
それにしても、カタツムリでかい。
紫陽花じゃなくて、これまた大きな蕗みたいな植物の上を悠々と滑り歩いております。
あ。そうじゃん。目の前に良い物あった。
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「ユーリが戻って来てない?」
「まだお昼が残ってるんですよ」
残食数の確認をしていたオルディマが持ってきた報告に、食堂の面々が思わず顔を見合わせる。
昼食の提供が始まってからかなり時間が経っている。
そう言えば半刻程前から雨が降り始めていた。
「ユーリちゃんが食事を抜くとは思えないし」
『そりゃそーだ』
オルディマの言葉に全員揃って頷く位、ユーリは食べる事に貪欲だ。他の贅沢は殆ど望まないし、我が儘も殆ど言わないが。
「お腹が空きすぎて行き倒れたりしてないよな」
「まさか、変なヤツに食べ物で釣られて付いてっちゃったり」
「もしかして、誘拐とか…っ」
そんな中、三馬鹿が変な想像をしてぎゃーぎゃー騒ぎ始める。
「ユーリちゃんにお菓子ポーチと水筒は持たせてるよ」
「あれだけエリエス隊長とヴィンセント隊長に脅されて約束破るユーリじゃないっス」
「誘拐だけが否定できねぇか」
騒ぎを余所に、オルディマとアルフ、シュナスの三人が冷静に話し始める。
三人が言う様に、確かに一番危惧しているのは誘拐だ。
「…ユーリに手ぇ出すヤツはぶっ殺すがな」
「ジジイ、目が本気だぞ」
そんな中、オッジのジジイが物騒な事この上ない宣言をしてくる。
まぁ、もし本当に誘拐だとしたら、ジジイだけじゃなくあちこちから参加して来そうだがな。
「…隊長、戻って来たみたいだぞ」
「……ストーカー付きだ」
浮かびかけるイヤな想像を打ち消す様にヤレヤレと溜息を吐いていると、ラダストールとディオガが窓の外を示しつつ声を掛けてくる。
その内容に全員で窓の外を見れば、確かにユーリが徐々に近付いて来ていた。
ユーリには大き過ぎるフェキの葉を傘代わりに、楽しそうにスキップしているユーリ。
その光景はまるで童話に出てくる絵空事の様だった。実によく似合う。
厨房の空気が一瞬で和んだぞ。三馬鹿はいつものアホ面を晒している。
だが問題は、ユーリの後ろには雨具を装備した怪しい集団。
ユーリの安全確保の為と言うより、明らかにストーカーだ。
ユーリの精神教育上、近くに置くには害にしかならない。
「ユーリを回収してくる」
『行って来い(らっしゃい)』
誰も文句の一つも言わず、アッサリ送り出してくれた。
勿論、声には出さない暗黙の了解があったが。
「…昼飯の前に風呂だな」
「えー(ぐぎゅー)」
「あ?」
「入ってきましゅ」
害虫駆除をしつつユーリを回収したものの、すっかり濡れて泥だらけのユーリに風呂を言いつけると、ユーリと腹の虫から抗議の声が上がったが無視。
その後に聞こえた小さな「たいちょのおかん」との呟きに小さく拳骨を落としておいた。躾は大事だからな。というか、誰がおかんだ。
そんな出来事も忘れかけていた後日、『ユーリちゃんを見守り隊!』の会報で雨の日とユーリの行動の詳細がイラスト付きで出現する。
………………………ユーリが可愛いから、今回は特別に大目にみてやろう。
[補足説明]
フェキ…巨大サイズの蕗。十二分に下拵えした新芽じゃないとえぐ過ぎて食べられません。主人公はその内これを使って佃煮作成を狙っています。




