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かわいいコックさん企画部屋  作者: 霜水無


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4月15日花見企画 北の魔王城的花見にしてみた

土の三月(四月)中旬。

様々な植物が新たに育ち始める春である土の季節ラストにもなると緑が広がり、様々な花が咲き乱れてその鮮やかな姿で目を楽しませてくれる。


先月の桃の節句+ホワイトデーの時に予告したお花見なお茶会に絶好の状況です。


お花と言ったら、北の魔王城では西の庭園です。来客用に花畑が整えてある場所なのですよ。




って事で、常日頃からお花の手入れをしている農作部隊の隊長であるジーンさんに北の魔王城の西の庭園の見頃を確認し、カラフさんと相談しつつ企画書を一緒に仕上げてエリエスさんに提出し、コーサさんに紹介してもらった近習部隊の親衛隊隊員を中心に素敵お茶会にすべく詳細を決定、関連各所へ協力依頼を出しましたよ。


企画としての全体依頼を終えた所で細かな調整は仕事バッチリな私の親衛隊長(何度聞いても笑える)のコーサさんにバトンタッチする事になり、私は自分の役割をこなすべく動き始めた。




クリスマスに書類部隊隊員なサンタさんに貰った便箋と封筒を元に様々なペンを駆使して招待状を作成して各部隊に日程配布をし。


必要経費としてお菓子・お茶・備品代をエリエスさんに申請して、出張お菓子屋さんに特注のお菓子詰め合わせの準備とお茶会の日に搬入をお願いし。


カラフさんを筆頭に服飾担当部門の皆様にお花見用衣装を作って頂き。


その一方で近習部隊の協力者の皆様とお茶の打ち合わせ。比較的準備がし易く、これからの時期に美味しい魔大陸初のアイスレモンティーを導入する事にしたので、その入れ方講習と味見会を開催したり。

そこへこっそり顔を覗かせたロイスさんにも意見を求めてみたり。

皆様の呑み込みが早くて時間が大いに余ったので、逆に私が美味しい紅茶の入れ方を皆様にあれこれとご教授頂きました(あれ?)




今回の企画のコンセプトは”小さな労働の対価”。




単なる限られた人だけご招待のお茶会だと批判が出かねないし。

かといって、私個人の企画だけに北の魔王城から大事な予算が出る訳が無い。

私の収入は数人で何かをする分にはどうにかなるが企画の前では雀の涙だし、他人様に頼ってばかりでもいけない。


アルフ少年個人の都合もあり、贅沢にお菓子を作ってもらってのお茶会は今回は諦めた。まだまだ行事は沢山あるしね! 次の機会のお楽しみにします!!


そういう訳で、北の魔王城美化プロジェクトを取り込んでみたのだ。




少しずつ日が長くなっているこの時期、早番若しくは休みの参加希望者は定時後に開催地である西の庭園に集合。

それから四半刻程農作部隊の指示のもと行われる畑の草むしりか清掃部隊の指示のもと行われる北の魔王城の周囲の清掃活動に参加してもらう。


植物が育つこの時期、当然花々や作物だけでなく雑草もニョキニョキ育つから人手はいくらあっても助かる。ついでに普段手の回らない所が綺麗になれば気持ち良いもの。


四半刻頑張った人にはご褒美のアイスレモンティーと小さなお菓子詰め合わせが配られ、自分達で綺麗にした満開の花々が彩る庭園で日暮れまで思い思いにお茶を楽しんで頂くのが今回のお茶会なのです。清掃の大変さを知った後なら下手に汚す様な事もしないだろうしね。


そんなお花見、いよいよスタートします!







思ったよりも集まった参加者達がそれぞれの作業の為に動き出したのを見送った所で、所定の位置に設置したテントで近習部隊のお兄様方と終了後のご褒美の配布の手筈を確認した。


紙コップをお盆に並べて積み上げておき、氷の準備をしつつ、アイスティーをピッチャーに一斉に入れ始めたのを横目にお菓子も配りやすい様にセットしておく。


それにしても流石はロイスさん率いる近習部隊。

流れる様な動作に無駄は一切無く、誰もが落ち着いている。

私がどうにか手伝おうと奮闘していると必ずスマートに助けてくれたり。

あれれ、全く手伝いになって無くないか?


今日の衣装は近習部隊と同じデザインだけど色違いの臙脂色の燕尾服。ちなみに近習部隊のお兄様達は漆黒の燕尾服を一分の隙も無くビシッと着こなしている。

何だかコレ着てるの失礼な気がしてきた(冷汗)




あっという間に四半刻が過ぎ、作業を終えた参加者達が続々と姿を現すのを見て近習部隊の面々と頷き合い、戦闘準備に入る。

私は配膳係。お兄様方が準備してくれるお茶とお菓子のセットを渡していきます。

なので事前に用意していたお立ち台をセットしてその上で待機。


「おちゅかれさまでしたー。楽しんでいってくだしゃい」


そんな声を掛けつつ、並んでくれてる参加者にお茶とお菓子を渡していく。


「飲食が終わったら、テントのそばのゴミ箱にゴミをすててくださいー」


勿論、お願いも忘れませんよ。




次々やってくる参加者にアイスレモンティーとお菓子を配り初めて四半刻。

用意した物は殆ど配り終え、テントに受け取りにやって来る人の姿も見えなくなった。

配膳完了の前に、念の為に近習部隊のお兄様達に声を掛けてから北の魔王城の周りをグルリと一周して貰っていない人がいないかを確認に出る。




花々が咲き乱れる西の庭園を中心に思い思いの場所でお茶を飲みつつ談笑する参加者達にほのぼのしつつ、北へと歩き出す。


農作部隊の面々は野菜に囲まれてお茶をしていた。野菜の花も見頃なんだそうな。成程。

ぽつりぽつりと外れにいる参加者達に声を掛けつつ、ついでに花見散歩を楽しむ。北から東に掛けては殆ど人の姿が無かった。

そう言えば、こっちの方はどこにでもある花ばかりだと言われていたなー。


今の時期は本当に色々な植物の花々が咲き誇っている。どこにでもあるありふれた花でも、私にとっては珍しい花ばかりで全く飽きない。


だが花にばかり気を取られていたせいか、気付けば誰かにぶつかって後ろにコロンと転げていた。

唯一の救いはノロノロ歩いていた為に本当に綺麗に転げた事だ。


「ご、ごめんしゃい」


起き上がって慌てて謝り、目の前の人物を見る。

普段の良く見上げるディルナンさんを代表とした調理部隊の面々に合わせた視界には、相手の首元しか見えなかった。

そのまま視線を上にずらしていくと、ヤエトさんぐらいの位置まで視線が移動していく。この人、随分長身だな!


それにしても、目が潰れそうな美形でいらっしゃる。何だろう、男性的美しさを集めちゃった感じ? 柔らかさは欠片も無い。寧ろ威圧感しか無い。

そして髪も目の色もだけど、全身漆黒なんですけど。デザインもどこの隊服にも当てはまっていない気がするんですが?


「…問題無い」


少し遅れてとっても重低音な良いお声が返ってきた。…これはヴィンセントさんレベルの素敵声っ。


ぽけっと目が潰れそうな素敵お兄様を見上げていると、少しだけ頭を撫でてくれた。

現金かもしれないが、それだけでご機嫌になるお気楽気質です。

冷たく見えて頭ポンポンとか美味しいです、お兄様。


にまにま笑ってたら、何故かそっと唇に右の人差し指が当てられた。

お兄様の外見と行動的には恋愛ゲームに出てきそうなシチュエーションなのに、ちっともときめかない。ビックリし過ぎてドキドキはしてるけど。


暫くしてお兄様の指が外される。

何だったのかと首を傾げる私を余所に、「気を付けろ」と言い置いてお兄様が歩き始めた。

その後ろ姿を見送ってから私も花見散歩を再開した。




あのお兄様以降、特に人に会う事も無くグルリと北の魔王城を一周し終えるとテントが見えて来た。


そこでは近習部隊のお兄様方がすっかり最低限のアイスレモンティーの準備と残りのお菓子以外の片付けを終えてくれていた。有能過ぎるよ、近習部隊。


………あれ。そう言えば今更なんだけどあのお兄様、お茶とお菓子持ってなかったかもしれない。

…………でも、今から戻ってあの長い足に追いつける?


あぁ、私ってなんてダメ人間(号泣)







さっきの黒ずくめのお兄様の事が引っ掛かりつつも残っていたアイスレモンティーとお菓子を近習部隊のお兄様達と全員で山分けし、自分達もお花見タイムに入る。


本当は、黒ずくめのお兄様の事を近習部隊のお兄様達に伝えた方が良いとは思う。

社会人としてほうれんそう(報告・連絡・相談)は基本だ。

でも何故だか言っちゃいけない気が凄く強くしたんだ。言おうとしたのに、言葉というか、声自体が出ないというか。


何度か試したが、やはりあのお兄様の事だけは話せなかった。

仕方無いから、こっそり心に留めて置こうと思う。




少しオレンジがかってきた花園もまた乙です。

西の庭園に突撃すると、様々な花が見られる絶好のポイントにシートを敷いてディルナンさんやエリエスさんを筆頭とした隊長・副隊長連がくつろいでいた。

私を見て、ヴィンセントさんが手招きしてくれるのでご厚意に甘えてシートに靴を脱いで上がった。


「ジーンたいちょ、アスチたいちょ、今日はありがとーございました」

「こっちこそ人手が確保出来て助かった。ありがとよ」

清掃部隊ウチも綺麗に出来て大助かりだ」

お茶とお菓子を置き、協力してくれたジーンさんとアスチさんに改めてお礼を言うと二人が笑って頭を撫でてくれた。うへへ。


用を済ませた所で置いておいたお茶とお菓子の所へ行くと、何故かそのままヴィンセントさんのお膝の上に乗せられた。あるぇ?


「ヴィンセント、テメェっ!」

「ヴィンセント!」

「抜け駆けすんな!」

「隊長、狡いです!」

「アタシだってユーリちゃん抱っこしたいわっ!」


これには場が一気に騒然となったがヴィンセントさんは総無視。

ヴィンセントさんの余りの落ち着きっぷりに私までそのまま落ち着いてしまった。


取り敢えず喉が乾いていたので、アイスレモンティーを一口。サッパリとした美味しいお茶に思わず顔が緩む。

と、側で溜息混じりに様子を見ていたヤハルさんがお菓子の袋を開けて渡してくれた。


「ヤハルたいちょ、ありがとーなの」

「それを食ったらそろそろ風呂に入って寝る時間だからの」

「あーい」

「いい返事じゃな」


ヤハルさんの言葉に返事をすると、また頭を撫でてもらえた。やりました。

笑顔で開けて貰ったお菓子にかぶりつくと、程好い甘さが癒しをもたらす。

出張お菓子屋のおじさんのオススメ新作のお菓子だが、確かに美味しい。値段的にもこれはまた買いのお菓子だわ。


そんな事を考えている間に終いにはヴィンセントさんが応戦し、何やら私の頭上で激しく言い争い続ける声がすっかりBGMと化していた。


口を挟むと怖いのでそのまま聞き流しながらお菓子とお茶を口に運びつつ、色とりどりの花々と風が優しく運んでくれるその香りをのんびり楽しむ。


そんな花の中には芝桜みたいな花があって。


だからこそ更なる贅沢を思ってしまうのかもしれないが、花見と言ったら何と言っても桜だ。特に満開のソメイヨシノは圧巻だと思う。


月に照らされた美しい夜桜の下で楽しんだお酒の味も、デパ地下で買い込んだ美味しいお総菜やお菓子も、馬鹿話で盛り上がった懐かしい友人達も忘れていない。

幼い頃はそれが休日の昼間であり、一緒にいたのも家族で、準備されていたのは母の手作り弁当と焙じ茶だった事も。




魔大陸ではまだソメイヨシノを見た事が無い。気候的にあるのかも分からない。

あの一斉に花開き、潔く散り行く姿をまた見られるだろうか。


もしも桜での花見が叶うのならば、ここに一緒にいてくれる優しい人達ともう一度あの美しい花が見せてくれる光景を見たいと思った。




…所で、いつになったらこの状況から解放されるんだろうか。くすん。

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