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6月6日コックさんの日特別企画(裏) 様々な企みの裏の一部(ディルナン視点)

6/6 特別企画のディルナン視点です。主人公視点プラスαでお届けします。


「ふにゃーーーっ!?」


昼寝をしていた筈のユーリの悲鳴に、厨房内に緊張が走った。


ジジイとオルディマに後を頼み、シュナスと共に発注用スペースへと向かう。

そこで見たのは、何故か猫耳と尻尾が生え、手も猫化したユーリだった。


「たいちょ、ふくたいちょ、ボクどしたらいいにゃー?」


唯でさえ可愛らしい幼子だというのに、三割増しの可愛さだった。語尾が「にゃー」ってのがまた可愛いな。

余りの可愛らしさに、シュナスが絶句するのも納得だった。


だが、それは置いておいてこの変化は何事だ? まさか、ユーリに変な魔術が掛けられてるのか!?


「医務室行ってくる!」


浮かんだ考えに居ても立っても居られず、ユーリを抱えて医務室に走り出していた。







医務室の扉を蹴り開け、ヴィンセントがいるのを瞬時に確認してヴィンセントの元へとユーリを連れて行く。


「…何事だ、ディルナン」

「ユーリを診てやってくれ」


微かに眉を顰めるヴィンセントにユーリを差し出すと、ヴィンセントが瞠目した。

音を聞きつけて奥から出て来たバクスはユーリを見るなり「何て事だ!」と叫んで医務室を飛び出して行った。…何をしに行く気だ、アイツは。


ヴィンセントは直ぐに医者の顔に戻ってユーリを受け取ると、診察を始める。

ユーリの猫化した部分を確認し、特殊魔術を駆使して様々な確認をしていた。そんなヴィンセントの周囲には医療部隊の面々が集まり、診察を真剣に見ている。貴重な症例なのだろう。……バクスはいいのか?


診察が終わった所で、ヴィンセントが周囲の隊員達を散らせる。


「…ふむ。確かに珍しい症例だが、健康には特に問題が無い。理由が気になる所だが、肝心のユーリがこうではな」


ヴィンセントに問題無しのお墨付きを貰い、ホッとした。

だが、そうなって初めてユーリの状態に気付く。完全に怯え切っていた。

プルプル小刻みに震え、耳と尻尾がヘタレている。


「ユーリの症状よりも寧ろ、お前の運び方が大問題だぞ。心配になるのは分からんでもないが、ユーリが怯えてこんなにも震えているじゃないか。可哀想に」


ヴィンセントがユーリの背中を撫でてあやしつつ言う。正論なだけに、どんな暴言よりも効いた。

…ヤバいな。下手すれば怯えられたり、嫌われてもおかしくない。

嫌な想像が不安と共に浮かび上がる中ユーリは少し落ち着いたらしく、ヴィンセントに撫でられて喉を鳴らしている。

恐ろしく可愛らしいが、そんな風にしているのがヴィンセントのお蔭かと思うとイラつく。


「にゃんこなユーリちゃんはどこー!?」


イライラしている所へ、更にイラつく存在カラフが飛び込んで来た。その後ろにはバクス。コイツは、オレに本気でケンカを売ってんのか。


しかも、折角落ち着き始めていたユーリの耳と尻尾の毛がブワッと逆立った。悲鳴こそ上げなかったが、ヴィンセントにしがみついている。

これにはイライラが最高潮に達し、飛び込んで来た二人に近付いて拳骨を振り下ろした。


「だっ!」

「いったーい! 酷いわ、ディルナン隊長っ」

「ユーリを怯えさせた罰だ。ありがたく受け取れ」


八つ当たりして少しだけスカッとした。

だがカラフとバクスが痛みに呻いたのはほんの僅かな間だけで、さっさと立ち直りやがった。

いそいそとユーリに近付く二人に、もっと強く殴れば良かった! と心底後悔した。


「…可愛過ぎるっ。やっぱり”可愛いは正義”に間違いは無いわっっ」

「ユーリちゃんを見てると納得しますね」


ユーリを見てだらしなく顔を緩める二人に再びイラつきが募っていく。


「でも、確かにバクスが言ってた通り、尻尾が窮屈そうねぇ。…って事でお着替えしましょうか、ユーリちゃん」


しばらくユーリを眺めてからカラフがいきなり言いつつ服を取り出した。


フリフリでミニの…エプロンドレスってヤツか? 一歩間違えばメイドじゃねぇか。しかも、あえて尻を見せんばかりの膨らんだ短パンみたいなモンまで準備してやがる。こんな服が看護師服のスカート版だと!? だから可愛過ぎて危ないっつってんだろ!!

ヴィンセントとカラフが楽しそうに話し、ユーリの医療部隊での作業着がほぼ確定する。そんな二人にバクスが小さくガッツポーズをするのを見逃さなかった。コイツ、これを狙ってやがったな。


「さ、ユーリちゃん。着ちゃって頂戴」


カラフがユーリに言えば、純粋なユーリは大人しく頷いてしまった。こうなったら止められない。取り敢えず、狂喜乱舞するバクスを締め上げるとするか。




カラフに助けられながらユーリが着替え終わると、カラフが尻尾の辺りの調整を始める。


締め上げてグッタリしたバクスを床に落とし、ヴィンセントの横に移動して大人しくしてるユーリと手際良く作業を進めるカラフを眺める。


格好と言動は理解出来ない部分が多いが、仕事に関しては申し分の無い男だ。服を替えた事でユーリの可愛らしさが更に増したのは、コイツの実力による功績である事は疑い様が無い。


「さ、出来たわっ。これなら尻尾も邪魔にならないでしょ。…ユーリちゃん、可愛いわぁ。お人形さんみたいよ。」


少しユーリから離れて正面に立ち、仕上がりを確認して言うカラフ。遂には堪りかねたかの様にユーリを抱きしめると、ユーリに頬擦りを始めやがった。


「惜しむらくは、靴下と頭巾と靴が間に合っていない事ね。でも、ユーリちゃんが可愛いから十分にカバー出来てるわ。でもでも、やっぱり完全形で着て欲しかったーっ」

「いつまで抱き着いてるつもりだ。さっさと離れろ」


コイツ的にはもっと拘りがあったらしい。つまりは、増々ユーリが可愛らしくなるという事だ。


…床に転がりつつもまだ親指をおっ立てやがったバクスを一蹴りしてからカラフに近付くと、ユーリから引き剥がす。


ユーリをいつもの様に左腕に抱き上げ、怖がらせない様に背中を軽く叩いていると、ユーリがゴロゴロと喉を鳴らし始めた。…あんなに怖がらせたってのに、怯えられも嫌われもしていなかったのか。本当にどうしてユーリはこんなに可愛らしいのか。


「医療部隊の看護師服のスカートタイプはこれでいいな」

「大賛成です」

「まかせて! バッチリ仕上げてくるわ」


オレがユーリを可愛がっている間を狙ってヴィンセントがサッサと話を纏め上げやがった。やっぱこのオッサンは油断ならねぇ。

そして、バクス。何でお前はもう立ち直ってやがる。


「…ユーリの尻ばっか見る変態は速攻で駆除しろ」

「「「そんなの当り前」」」


ムカつきはしたが、この服がユーリに似合うのもまた事実。ならば、オレが言う事は一つだ。

三人が揃いも揃って同意する辺り、懸念事項は同じって事か。


「それで、ユーリ、こうなったのに何か心当たりはあるかな?」

「んとね、皆とちがうのは…おひるねの前にいつも三人いっしょにいるおにいちゃま達にもらったおかし食べたにゃー」


ユーリの医療部隊での作業着の話が一段落すると、ユーリがすっかり落ち着いたのを見て取ったヴィンセントがユーリに問い掛けると、思いも掛けない答えが返って来た。


「……三馬鹿か」


ユーリの言う三人組で思い当たるのは、調理部隊の中堅隊員であるサム、バース、カイン。

サムは単純馬鹿。良くも悪くも単純なだけだ。

バースは天然馬鹿。普通から斜めにずれている。本人にその自覚が無いから治り様が無い。

そして、一番の問題がカイン。…こいつは故意に馬鹿をしでかす。理由は単純、二人と一緒に馬鹿をやらかして怒られる事が好きというとんでもないマゾなのだ。確か、『エリエス隊長に罵られ隊』とか言う変態の集まりにも所属している筈だ。

コイツ等は三人で固まっている事が多く、いつも三人で変な騒動を起こす事からいつの間にか「三馬鹿」と呼ばれる様になっていた。


アイツ等なら何かやらかしてもおかしくはない。そう思ったら自然と声のトーンが落ちていた。

それにユーリがビクッとし、プルプル震えるのが左腕に伝わってくる。しまった、怖がらせたか。


「…でも、じーちゃもいっしょに食べたにゃー」

「ジジイも、食った?」


だが、続いたユーリの言葉に思わず眉が動いていた。…まさか、ジジイも猫化してるって事か?


「確認した方が良さそうだな」


嫌な想像をしたら、ヴィンセントが言って来た。何故だか厨房に戻るのが酷く憂鬱なんだが。







食堂にユーリを抱っこしたまま戻ると、恐ろしい程の冷気に満ち溢れていた。まさかと思いたかったが、決定的な光景に言葉も出ない。


…猫耳と尻尾が生えたジジイと、ボッコボコにされた挙句に纏めて吊るし上げられた三馬鹿。

厨房の他の連中は目を逸らしながら青い顔して仕事してる辺りは流石と言うべきなのか?


「じーちゃ…ごめんにゃさいにゃー」

「……にゃあ」


そんな中、ユーリがショボンと小さくなりながらジジイに謝ると、とんでもない返答が返ってきやがった。その破壊力に、厨房の他の連中の手が一瞬止まる。そりゃそうだ。


今でこそ年取って多少落ち着きはしてきたものの、200年位前までは『調理部隊の鬼』とまで呼ばれて北の魔王城全体に恐れられたジジイが「にゃあ」だと? 悪夢以外の何物でも無い。

寧ろ、何でヴィンセントは楽しそうに笑ってられるんだよ?!


そんなジジイの事など知りもしない筈のユーリが必死に謝るのは、周囲の反応の所為か。

ジジイがそんなユーリに僅かに相好を崩しつつ、三馬鹿を増々締め上げていく。


「たいちょ、おりるにゃー」


ユーリの言葉にそっと降ろすと、ユーリがジジイの所に走って行く。


「じーちゃ、だっこしてほしいにゃー」


ジジイの所に行って何をするのかと思ったら、もじもじしつつユーリがジジイにおねだりした。

そのあまりの可愛らしさに、冷気が覆っていた厨房と食堂がいつも通りに戻る。ジジイの怒りが解けたか。見事だな。

ジジイがユーリの可愛らしいおねだりを拒否する筈も無く、ユーリを抱き上げた。


「じーちゃとお揃いにゃー」


はにかんで言うユーリに、バクスとカラフが口元と鼻を押さえる。いつもなら呆れ果てる所だが、隣のヴィンセントの所為でそれも出来ねぇ。

笑顔で黒い物背負って「私はユーリにあんな風に”だっこ”なんておねだりされた事無いんだが」って呟いたよな、今。


聞かなかった振りでユーリを見ていると、ユーリが三馬鹿の頬を猫化した手で叩いていく。ぽふ! っと肉球が当たるだけで全く痛くなさそうだ。事実、可愛らしい攻撃に三馬鹿の顔も緩みまくっている。


「にーちゃまたち、キライにゃ」


だが、続いたユーリの言葉に、三馬鹿の顔が絶望に彩られる。これはキツイ。ユーリに面と向かってこんな事言われたら直ぐに立ち直れるか怪しい。

他の連中もうーわと言わんばかりに微かに頬を引き攣らせている。


「もうしないなら、しゅきにゃ」

「「「もう絶対に二度としませーん(号泣)!!!!!」」」


絶対的な反省を促したユーリに、ジジイが珍しく笑っていた。そんなジジイにユーリがすりすり頬擦りする。本当なら心温まるジジイと孫の図の筈なんだが。

……今度は隣のヴィンセントから恐ろしい程の冷気が溢れて来てる。カラフと、ヴィンセントの直属であるバクスでさえも軽く逃げ腰だ。


ヴィンセントは笑顔で三馬鹿に激怒しまくっていた。ジジイとユーリの仲の良さへの嫉妬もあるんだろうが…三馬鹿、終わったな。オレは介入する気は一切無いから自力で生き延びろ。


「---さて、ユーリのお仕置きが終わった所で、君達には医者として聞きたい事が山とあるんだ」


そのまま吊るされていた綱を握ったヴィンセントに三馬鹿が医務室へと連れて行かれる。

その流れで仕事に戻る事になったカラフとバクスだが、戻る時にバクスの顔色が酷く悪くなっていたのは気のせいでは無い筈だ。


三馬鹿はその後、四半刻程度で厨房に戻って来たものの、揃いも揃って幽鬼と化していた。

どうにか体に叩き込まれた動きをこなしているといった感じが不気味で、ユーリは怯えて三馬鹿には決して近付こうとはしなかった。




翌日、ユーリとジジイは無事に元に戻ったものの、三馬鹿は生気が抜けたままだった。


食堂に来たバクスにダメ元で三馬鹿に何があったのか聞いてもやはり口を割る筈も無く。

顔色を失って笑顔で硬直する辺り、逆に聞かない方が良いのかもしれん。


三馬鹿とバクスの姿に、やっぱりヴィンセントは絶対に敵に回すなと自然と調理部隊に周知徹底される事となった。 




三馬鹿がようやく通常の状態に戻って直ぐ、ヴィンセントから猫化したユーリの話を聞いたエリエスによって半分天誅、半分八つ当たりの呼び出しを食らう事になったのはやはり別の話。

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