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かわいいコックさん企画部屋  作者: 霜水無


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18/66

2013年3月3日の活動報告より とある外警部隊隊員のホワイトデーの数日前

土の一月末日。今月も先月に引き続き、厄日が再びやって来た。

だが、何だこりゃ?







少し前に今度は”ホワイトデー”の情報が流れていた。

出所は、やはり『ユーリちゃんを見守り隊!』の会報。


前回の”バレンタイン”で欲しかった訳でも無いショコルを押し付けられる為に酷い目にあったのに、そのお返しと来た。

…そもそも、誰に貰った(おしつけられた)かも分からないショコルにどうやって返せと?


これは、オレだけの問題では無い。

”バレンタイン”で同じ窮地に追いやられ一緒に北の魔王城にどうにか生還し、更に一時は一緒にやさぐれた事で今ではすっかり親友となった四人と会報を前に本気で頭を抱えた。







話し合いの結果、取り敢えず金を出し合って飴の詰め合わせを購入し、集落の適当な女性集会の時にでも渡してもらえる様にホワイトデーの前にそれぞれの母親に渡す事にした。今回は運良く全員が仕事と言う口実も存在している。


『今後、絶対に”バレンタイン”と”ホワイトデー”の時には集落に近付くべきでは無い』


それがオレ達五人の共通見解だ。




そして出張菓子屋がやって来る日。五人の中で、一番最初に休憩に入る予定のオレが飴の買い出しにやって来た。


それにしても、出張菓子屋が恐ろしい程の品揃いを用意していた。個別にもまとめ返しにも対応している。金額も良心的な物から少し上のランクまで揃えている辺り、どこでこの情報を入手しているんだ?

元々十日ごとの出張で盛況ではあったが、”ホワイトデー”の影響で恐ろしい人混みと化していた。仕方が無い事だが、肉体労働の男がこれだけ集まると野郎臭い。ひたすらに野郎臭い。近付きたくねぇ。


そんな中、騒動の元凶である小さな姿も必死に人混みに潰されない様に頑張って突撃していた。

その姿を認めるなり出張菓子屋の店長が子供の元へと動く。

子供と店長が何かを話し、店長が商品をいくつか子供の前に持って行く。見比べて納得したのか、子供がその内の一つを指差して指で数を示した。


…あの子供、貰うだけじゃ無かったのか。意外だ。本人が一番楽しんでいる。


頼んだ商品の他にいくつかのお菓子も包んでもらうとニッコリ笑って金を払い、子供がさっさと人混みを離脱した。


その後が何だか凄かった。

子供の買ったお菓子が、飛ぶ様な勢いで売れ始めたのだ。

それに慣れた様子で店長が絶妙なタイミングで商品を補充していくから、増々客の購買意欲を刺激して商品が宙を飛ぶ。


……あの店長、出来る。


そんな事を考えつつ、少し落ち着くまで待ってからどうにか目的の商品を購入した。







菓子を買った当日にさっさと五人揃って仕事上がりに実家に飴を預けに行った訳だが…。


何故、また集落の女共に追いかけられる羽目になっている!?




家に飴の袋を届けるまでは良かった。

だが、偶然一人の女とすれ違ったのが”バレンタイン”の悪夢再びの切っ掛けとなった。

女の叫び声が響き渡ると、それぞれの家から若い女達が飛び出て来て追いかけて来たのだ。


逃げ回る中、先月と同じく目の前にはオレと同じ様な境遇の親友の姿。

互いの目があった瞬間、やはり何の言葉は無くとも共同戦線を張る事は決定事項である。

二人で合流すると、どうにか強行突破して一路北の魔王城へと全力疾走が始まった。


そうやって集落から必死の脱出をしたものの、逃げている間に気付けばやはり五人勢揃いし、どんどん人数の増える追手おんなたちから必死に夜道を走って逃げる。

だからどうして全員が全員、目を血走らせて追い掛けて来るんだよっ。


「お待ちになってー」

「ホワイトデーの予約を…!」

「ぜぇ…ぜぇ…」

「はぁはぁはぁ」


一部、ゾンビや不審者の様になりつつ、それでも日頃鍛えているオレ達のこのスピードについて来ている。怖ぇよっ!




どうにか北の魔王城の城門をくぐり、命辛々逃げ延びたものの疲労感が半端無かった。

下手な連続全力疾走の走行訓練よりも、恐ろしい形相の女達に追い掛けられる方が体力的にも精神的にもずっとハードだ。


呼吸が落ち着き、どうにか生きて五人揃って無事に戻れた事に安堵すると、何故か乾いた笑いが零れた。というか、笑うしかねぇ。女、マジで怖い。

てか、「これ、”ホワイトデー”当日だったらどうなってたんだろうな」なんて誰かの小さな呟きに思わずゾッとした。







全員が嫌な想像を振り払い、気を取り直して部屋で酒でも飲もうと話して別館へと歩いていると。




設備部隊のヤエト隊長と鍛冶部隊のジョット隊長、農作部隊のジーン隊長を中心に見覚えのある八人。

赤いふんどし着用のマッチョ集団が気合いを入れてポージングしていた。


………だから、何故に祭りも無いこの時期に赤ふん?




だが、前回のダメージに比べればまだマシだった。

前回は灰になった後、五人でヤケ酒して悪酔いに二日酔いのダブルコンボ食らったし。




何より、八人の前に例の子供が調理部隊の面々に付き添われているし。

その子供がふんどし集団に目を輝かせ、コック服で一緒にポージングしている。…何か、見ててちょっと和んだ。


ポージングのお披露目が終わったのか、八人が何やら子供に小さな箱を渡す。


その箱の出所…。いや。オレは何も見てはいない。


思わず遠い目をしていると、子供が箱を開けて少し考えている。


「ボクもふんどしになっていっしょにやるのねー!」


だが、聞こえた子供のやる気十分な声に、思わず五人揃って噴出す。

いや、オレ達だけじゃ無く調理部隊の面々もだ。


『待て待て待てーぃ!』


調理部隊の必死の制止に、子供はキョトンとしている。

終いにはディルナン隊長が子供から箱を取り上げ、迷う事無く魔術で燃やした。チラリと覗いた、炎を纏った赤い布。

…どうやら、箱の中身はお揃いの赤ふんだったらしい。


そこからはふんどし集団と調理部隊のグダグダなどっちもどっちなボケとツッコミの応酬だった。

子供は「ボクのふんどし…」と呟きながら両者を見ていた。


「…戻るか」

「…酒飲むぞー」


いつもなら尊敬出来る面々に思わず生温い目線を向けてから、酒盛りをすべく部屋へと五人で歩き出した。

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