2013年2月14日の活動報告より ZOKUZOKU★バレンタイン(とある外警部隊隊員の一日)
土の一月十四日。今日は厄日だ。
何故、オレはこんな目に合っている?
少し前にこの日は”バレンタイン”との情報が流れていた。
出所は、いつもの『ユーリちゃんを見守り隊!』の会報。
あの小さな隊員は気付けば様々なイベントを立ち上げている。それが沢山の隊員を笑顔にしているのは既に実証されている。オレも何だかんだで楽しませてもらっている。
だが、今回の”バレンタインについては本気でご遠慮申し上げたい。
これは、オレだけの意見では無い。
何故なら、オレだけでなく、同じ状況下に置かれているヤツ等が左右に四人ほどいるからな!
悪夢の始まりは朝一番に訪れた。
出勤したら、赤面したゴツイ同僚達にショコル菓子のプレゼント攻めにされたのだ。
甘い物は嫌いではないが、限度がある。そもそもこれから警備に当たるってのにそんな邪魔な荷物持ってどうする。てか、お前等どこにそれを隠し持ってやがった? そして何より、何故にゴツイ野郎共から貰わなきゃならないんだ!
オレは可愛い女から貰いたい。
全部お断りしてさっさと仕事に入った。
次に昼休み。
食事交代で休憩に入り、食堂に足を踏み入れると入口近くの片隅には恐ろしい数のショコルの甘ったるい匂いを放つ箱が詰められたケースが山積みにされていた。続々とやって来た隊員達が当然の様にそこに入れていく。
更には、偶然居合わせた隊長達にも普通にショコルが手渡されていく。そして、隊長達も普通に受け取っている。…いいのか?
そして、昼食に出て来たデザートもショコルプリン。かなり美味かったのがまた微妙な気持ちになった。
段々と城のあちこちにショコルの匂いが広がっていく。何の拷問だろうかと辟易としつつも、どうにか勤務を終えた。
明日は非番で、母親が久々に帰って来いと言っていたので北の魔王城を早々に後にする。
これ以上野郎からのショコル攻撃に合うのはゴメンだった。
その筈だったのに。
集落に一歩足を踏み入れた途端に妙な気配がした。殺気では無い。だが、明らかにオレを標的にした闘気にも似た異様な気配だった。
周囲を警戒して見回すと、もう日もくれたと言うのに、妙に女ばかりだった。そして、妙な気配は女達から放たれている。
「いらっしゃったわー!」
「集合! お戻りよー!!」
すると、いきなりそんな声が上がった。
それと同時に、いきなり女達が倍増する。
しかも全員が全員、異様に目がギラギラしている。飢えた肉食獣も真っ青の目だった。
悪寒を感じて、思わず一路家へと駆け出す。
「逃げたわー!」
「囲い込むわよっ!」
「お待ちになってー!」
何故、今度は集落の女達に追いかけられる羽目になっている!?
家までの道はほぼ包囲されているに等しい程に女達が出ている。
何でコイツ等走るのこんなに速いんだよ!!?
しかも、気付けばショコル菓子の箱をいくつかを無理矢理持たされてるしっ!!!!
そんな逃亡中、目の前には名前も知らないオレと同じ様な境遇の同僚の姿。
互いの目があった瞬間、何の言葉は無くとも共同戦線を張る事は決定事項だった。
最早、家に帰る気など無い。とにかくこの場から逃げなければ色々な危険がっ!
二人で合流すると、多少の押し付けに会いつつもどうにか強行突破する。
そうやって集落から必死の脱出をしたものの、城へと逃げている間に気付けば似た様な境遇のヤツが一人、また一人と合流して逃亡者はオレを入れて五人になり、更にどんどん人数の膨れ上がる追手から夜道を必死に逃げる羽目になった。
女達は全員が全員、手にショコル菓子の入った箱を持って目を血走らせて追い掛けて来ている。怖ぇよっ!
どうにか北の魔王城の城門をくぐり、命辛々逃げ延びたものの疲労感が半端無かった。
気付けば、十幾つもショコル菓子を持たされている。
それでも、また野郎共のショコル攻めに合う事を考えればこんな所で休む訳にもいかない。
重い体を引きずる様にして自室のある別館を目指して歩いていると、トドメとも言うべき光景がオレ達の目に飛び込んで来た。
赤いふんどし着用のマッチョ集団が気合いを入れてポージング。
設備部隊のヤエト隊長と鍛冶部隊のジョット隊長、農作部隊のジーン隊長を中心に八人、何故祭りも無いこの時期の、しかもこんな時間に赤ふん!?
しかも、何やらポーズにあれこれ批評を出し合っている。
…見たくねぇよ、野郎のそんな姿。
まさしく究極のダメ押しだった。望んで見た訳では無い他のヤツ等も燃え尽きて灰になっている。
こんな訳の分かんねぇ行事、大っ嫌いだ!!