6月6日コックさんの日特別企画 大変身!?
いつも通りに調理部隊で仕事をして、お昼寝から目覚めた時に、その異変は起こっていた。
「んにゃ…?」
頬に触れるフニフニとした感触と、ムズムズするお尻に目を覚ますと、第一の異変が目に飛び込んできた。
手が、まるで仮装したかの様に肉球付きのモフモフだったのだ。毛色は髪の毛と同じ亜麻色。
お尻を見れば、ズボンのウエストから窮屈そうに覗く同じ毛色の尻尾。
まさかと思って耳に手をやれば、フワフワの耳に触れて擽ったかった。
認めたくは無いが、紛れもなく現実だった。
「ふにゃーーーっ!?」
思わず絶叫すると、厨房からディルナンさんとシュナスさんが駆けつけてくる。
「ユーリ!?」
「ちび助、どうし、た」
何事かと血相を変えてやって来た二人だが、私の姿を見るなり硬直する。
「たいちょ、ふくたいちょ、ボクどしたらいいにゃー?」
あぁっ、勝手に語尾に「にゃー」がっ(泣)
私、そんな萌えキャラには向かないっ。いくら外見的に可愛くても、中身的に無理がありすぎるぅっっ。コレ、何の羞恥プレイ?!
「医務室行ってくる!」
「みにゃあああぁぁぁーーー!」
そんな事を考えていたら、ディルナンさんに俵の様に抱えられて厨房を飛び出していた。
ひいいいぃぃぃー! 高いっ、速いっっ、怖いぃーっっっ!!
「…ふむ。確かに珍しい症例だが、健康には特に問題が無い。理由が気になる所だが、肝心のユーリがこうではな」
ドカン! と医務室の扉を蹴破らんばかりの勢いで開き、医務室にやって来たディルナンさんを迎えたヴィンセントさんは至って冷静だった。
冷静じゃなかったのはバクスさんで、「何て事だ!」って叫んでどこかに行っちゃった。
「ユーリの症状よりも寧ろ、お前の運び方が大問題だぞ。心配になるのは分からんでもないが、ユーリが怯えてこんなにも震えているじゃないか。可哀想に」
私は現在、ヴィンセントさんに抱っこされて撫で撫でしてもらってます。情けない事にプルプル震えが止まらないんだよ。耳がヘタレてるのが分かる。
未だ嘗てここまで恐ろしい絶叫マシンに乗った事があっただろうか? いや、無いよ。
恐るべし、ディルナンさん。
「よしよし、怖かったな」
ヴィンセントさんの抱っこはホッとします。撫でる加減が絶妙と言いますか…ゴロゴロ喉が鳴っちゃいます。
「ユーリは本当に可愛いな」
あー、極楽。もっと撫でてー。
幸せ気分を満喫していたら、扉がドカン!と再び派手な音と共に開かれる。
「にゃんこなユーリちゃんはどこー!?」
それと共に響き渡ったカラフさんの大声量に、毛がぶわっと逆立った。
思わずヴィンセントさんにしがみつくと、ディルナンさんが無言でカラフさんと一緒に現れたバクスさんに近づくなり拳骨を降り下ろす。ごん! といい音が響いた。
「だっ!」
「いったーい! 酷いわ、ディルナン隊長っ」
「ユーリを怯えさせた罰だ。ありがたく受け取れ」
そんなディルナンさんに、ヴィンセントさんは私も撫でてあやしつつ苦笑していた。
「…可愛過ぎるっ。やっぱり”可愛いは正義”に間違いは無いわっっ」
「ユーリちゃんを見てると納得しますね」
凄い音がした割に拳骨のダメージから素早く立ち直ると、カラフさんとバクスさんが近くにやって来た。
「でも、確かにバクスが言ってた通り、尻尾が窮屈そうねぇ。…って事でお着替えしましょうか、ユーリちゃん」
カラフさんが言いつつ取り出したのはフリフリミニスカートな、でも作りはシンプルなメイド服と白いエプロン。そして、真っ白なカボチャパンツなズロース。…コスプレ?
「医療部隊のスカート版の試作品なのよー。動きやすい様にスカートをミニにしてみたんだけど、思わぬ所で役立ちそうねぇ。ズロースは尻尾に合わせて穴を空ければ大丈夫でしょう?」
「ほう…いい仕事をするな、カラフ」
「ありがとう、ヴィンセント隊長」
呆気に取られているいる間に、カラフさんとヴィンセントさんで会話が交わされていた。
これ、ナース服だったんだ。そういえば、メンソ〇ータムのパッケージの女の子の服に確かに似ている。でもこのサイズって事は、どう考えても着るのは、私ですよねー。(遠い目)
「さ、ユーリちゃん。着ちゃって頂戴」
…カラフさんの目が真剣だ。着ないという選択肢は無いらしい。
……カラフさんとヴィンセントさんの後ろで無言のディルナンさんに八つ当たりの如く締め上げられているバクスさんは見てない振りをしておこう。
猫な手に悪戦苦闘し、カラフさんに助けて貰いながら着替えました。
現在、カラフさんにパンツとズロースに穴を空けて貰ってその穴の周りを補強して貰ってます。
カラフさんの左手の袖の下に実は籠手が装備されていた。只の籠手じゃない。かなり本格的な裁縫道具をあちこちに内蔵してるとんでも装備です。これも鍛冶部隊の作品らしい。
服を着たままだというのに、物凄い速さでサクサク作業を進めるカラフさん。流石は職人さん。
チクリとしたら嫌だなーなんて考えてごめんなさい。
「さ、出来たわっ。これなら尻尾も邪魔にならないでしょ」
カラフさんの言う通り、確かに尻尾が窮屈じゃない。
「…ユーリちゃん、可愛いわぁ。お人形さんみたいよ」
仕上がりを正面で見たカラフさんにギュッと抱きしめられました。…美人さんだけど体はやっぱり男の人でした。固いです。
「惜しむらくは、靴下と頭巾と靴が間に合っていない事ね。でも、ユーリちゃんが可愛いから十分にカバー出来てるわ。でもでも、やっぱり完全形で着て欲しかったーっ」
「いつまで抱き着いてるつもりだ。さっさと離れろ」
すりすり頬擦りされていると、ディルナンさんにカラフさんが引き離された。そのまま、ディルナンさんの左腕に抱き上げられる。
すっかりお馴染みの位置に、ディルナンさんの背中ポンポンに、安心したらまた喉が鳴っちゃった。
「医療部隊の看護師服のスカートタイプはこれでいいな」
「大賛成です」
「まかせて! バッチリ仕上げてくるわ」
「…ユーリの尻ばっか見る変態は速攻で駆除しろ」
「「「そんなの当り前」」」
何か勝手に話が纏まってるし、物騒な言葉が聞こえるけどいつもの事か。
いや、この作業服を着なきゃいいだけだと思うんですけどねー。…やっぱり言えないんだけどさ。
「それで、ユーリ、こうなったのに何か心当たりはあるかな?」
「んとね、皆とちがうのは…おひるねの前にいつも三人いっしょにいるおにいちゃま達にもらったおかし食べたにゃー」
「……三馬鹿か」
ふと思い出した様にヴィンセントさんに質問されて答えると、ディルナンさんが地を這う様な低ーい声で呟いた。怖いっ。
「…でも、じーちゃもいっしょに食べたにゃー」
「ジジイも、食った?」
再びプルプルしつつも大事な事を伝えると、ディルナンさんが器用に片眉を跳ね上げた。その後ろで、他の三人が顔を見合わせている。
「確認した方が良さそうだな」
ヴィンセントさんの一言に、厨房に戻る事が決定した。
食堂に戻ると、何故だか恐ろしい程の冷気が広がっていた。まさか…という思いが広がっていくのが分かる。
そして厨房に入ると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。
お菓子をくれた三馬鹿トリオの兄さん達を纏めてつるした、オッジさん。
その耳は私と同じく猫化し、尻尾もあった。唯一、オッジさんの手は普通の手のままだったが。
他の厨房のメンバー達は恐ろし過ぎて目を逸らしている。
「じーちゃ…ごめんにゃさいにゃー」
「……にゃあ」
---手は無事でも、一番破壊力の大きな変化が起こっていたかもしれない。
思わず自分が悪いわけでもないのに謝り倒し、その所為で三馬鹿トリオの兄さん達が増々締め上げられたのは余談。
誰もが堪らず目を逸らした中、唯一楽しそうに笑っていたヴィンセントさんはやはり超大物だと思った。
後日、私の猫化を見れなかったという理由で更にエリエスさんにも三馬鹿トリオの兄さん達が締め上げられたのはまた別の話。
診断メーカーの「〇〇RTされたら特殊な単語を語尾に付けちゃおっかー」を元ネタに、イラストと感想に触発された妄想を詰め込んでみました。