隆一の午後
隆一の部活後の話しです。
「今日はここまで!」
「…ありがとうございました!!」
広い体育館内に、綺麗なお辞儀と揃った声が響く。
ガヤガヤと騒がしく解散する中で、一年生達新入部員は後片付けに精を出す。それを見計らった様に、女子マネージャー達は目当ての部員に話し掛け初めていた。
バスケット部部長有川 隆一は、その空気に内心ため息を吐く。
背の高く容姿の良い隆一だが、口数の少ないクールな性格の為か、表立って近付く女子は少ない。
最後の片付けが終わったのを見計らい、隆一は残っている一年生に声を掛けた。
「…片付けありがとな?鍵閉めるから、気を付けて帰れよ。」
話し掛けられた一年生は、皆の憧れる存在に慌てて振り向き深々と頭を下げる。
「あ!はい!ありがとうございます、部長!」
素直な相手の反応に、隆一は苦笑をこぼし頷く。
「…隆~!今日俺、ちょっと用事あるから先帰るな?」
「ああ分かった。じゃあな、佑介。」
いつも最後まで共に残る友人に珍しく思いつつ、了解…と手を振り最後に部室の中を確認し体育館の鍵を閉めた。
「よし、誰も居ねぇな。」
そう呟き更衣室で着替え終え、また簡単に周囲を見廻り外へと出た時携帯が鳴る。
『もしもし、隆?私~。』
「姉貴。…どうかしたのか?」
聞き慣れた姉の声に本人を知る物が驚くだろう柔らかな声を出し、気が緩みながら返事を返していく。
『うん。今日ハンバーグ作ったんだけどー、付け合わせ買うの忘れちゃって…適当にミックスベジとか買える?』
ハンバーグ…。
兄弟全員の好物に気分が上がり、隆は笑顔で頷いた。
「ああ、分かった。それだけか?」
『うん。よろしくね!』
そう締めくくり電源を切られ、そのまま隆はすぐ下の弟にメールを送る。
『件名:ラッキー 本文:残念だったな?今日ハンバーグだ。』
弟慎二の反応を想像し、隆は小さく笑う。
気分良く校門まで足を進めた時、見知った人物が目に入り関わらない様に早足になる。
…俺じゃねえよな。
「有川君。」
「……………。」
「…ちょっと!無視しないでよ!」
「俺用事あんだけど。」
自分に近づき勝手に隣を歩く人物に、至極面倒くさげに視線を送るも相手は気にせずに声を上げた。
「うう、良いじゃない!相談くらい乗ってくれても。」
「…もう飽きた。」
「ひどい!まだ何も言ってないんですけど!」
…こいつ、何処まで来る気だ。
駅のホームまで着いてくる相手に、深いため息を吐く。
…そういえば電車同じか。
朝の時間に姉と一緒に乗った時の穏やかな気持ちと真反対の気分で乗り込む事となり、げんなりと溜め息を吐いていた。
「…どうせ佑介の事だろ。」
友人の名前を出すと、相手は面白いくらい顔色を変える。
「…うん。だってさ、佑介ってば他の男を見るのも怒るんだよ?男ってそんなもんなの?!」
…マジかあいつ。
正直引くぞ、それは…。
あんな爽やかな顔してよ。
「いや…俺彼女居ないしな。」
隆の無難な返答に相手…佑介の彼女である美樹は不満そうな表情になるが、すぐ何か思い付き口を開く。
「じゃあさ、由香利さんが彼氏出来たら?」
「…別に…構わねえが…」
「…が?」
(やっぱりね!有川君はお姉さんの話は食い付き良いよね?シスコンって、佑介言ってるし。)
「姉貴に触ったら…殺す。」
美樹は、隆の低くぞっとする程憎悪の籠る声音に鳥肌が立っていた。
「…いや、有川君?普通に付き合ったらキスとか、手を繋いだりするよ?」
「あ゛?」
「…何でもないです。」
(死ぬかと思った。ていうか、超人気のバスケ部部長の欠点がこれとは…)
すっかり彼氏への不満が薄れた美樹は、自分の降りる駅に止まり、急いで電車から降りた。
「…じゃね!今日はありがとう。」
「ああ。じゃあな。」
電車を見送った美樹は、彼氏への電話に急いだのだった。
「もしもし?佑介、有川君大丈夫かな?」
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