Aグループです
とりあえず、グループはA~Gの7つとなったが、学級委員がいるという理由で、由香利 のグループはAグループとなった。他のグループのメンバーを確認し、千尋が冊子に書き入れていく。話し合いも終わり、午前の授業も何事も無く受け終わる。
よーし、やっとお昼だ!
由香利にとっては、高校生活初めての昼食となるので、ついつい気分も上がってしまう。
「夏希…」
「あ、ごめんね!由香利。」
しかし声を掛けた友人は、申し訳無さそうに手を合わせて頭を下げてくる。初めは他に食べる相手が居ると思ったのだが、どうも違うらしい。
「…あのね、桐島先生に授業で分からない所を聞こうと思って。」
「へえ~。偉いね。」
妙に口をまごつかせる夏希だが、由香利は特に深く気にせず頷く。明日は食べようね?という相手に快諾する。いそいそと職員室に早足で行く夏希を見送ると、携帯を睨み付けながら弄る昴に気付いた。
んー?何か機嫌悪そう。
「何?迷惑メール?」
昴を怖がる周囲など知らず、軽い調子で話しかけると重い溜め息を返される。
「…ああ?…弟から、めんどくせえメールが来ててな。電話してくるわ。」
至極嫌そうに片手を振って出ていく昴に「頑張ってね」と言い投げて、悩んでしまう。
えーっと…一人でお昼食べる?
既に幾つかのグループで食べていたり、他のクラスに行ったりする者も多く、クラスに人は少ない。
千尋君も、見えないな。何処かに行ったのかな?ええと、一人でトイレなんて嫌だし。
教室を見渡し、ホームルームと同じ光景に気付いた。立花君、また窓の外見てる?知らず足が進み、彼の席に向かっていた。同じグループになるんだし、良い機会だよね。
「あの、立花君?」
由香利が話しかけた時、何故か数人の女子グループの囁き声が聞こえた気がしたが、敢えて気づかない振りをする。
「……何ですか?」
変わらず涼しげな目元に、変わらない表情を向けて来た。それでも、由香利の態度は変わらなかった。
「お昼まだなら、一緒に食べたいなって…屋上とかでどう?」
景色をよく見ているから、教室より良いと思ったのだ。立花は少し何か考えている様だったが、本当に小さく頷く。
「…はい。」
春の暖かな陽射しに、大きく息を吸い込んだ。屋上には思っていたより人が少なく、由香利も気兼ね無く手すりの脇に座り込む。
「良い天気で良かったね?」
由香利がお弁当を取り出すと、立花も持参の弁当をランチマットを広げて置いた。
え?じゅ、重箱!それも五段重ね?!
相手のお弁当を思わず凝視する。漆塗りの重箱は、どう見ても一般家庭用からかけ離れている。
立花君ってお坊っちゃま?お弁当を食べ始めた由香利は、話題を考え然り気無く話してみることにした。
「立花君って、何か部活とか入るの?」
「……いえ。特には。」
少し間が開いてから答える癖なのか?それには気にせず続ける。
「じゃあ、中学では何かしてた?」
「………特には。」
「ふうん、そっか~。じゃあ…。」
素っ気ないとも言える態度の立花には、普通の者なら会話は諦めるだろう。だが、由香利には口数の少ない三弥という弟が居るのだ。もしかしたら、三弥と似たタイプなのかもしれないと思えば楽である。
「…じゃあ、何か習い事をしてたとか?」
「…………茶道を、していました。」
お、おお~。
「そうなんだ!凄いね?私は、中学の特別授業でちょっとやっただけだな。」
感心しつつ卵焼きをかじる。うん、まあまあ良く出来たかも。
「……………」
ん?卵焼きに思いを馳せていると、立花の不思議な視線に気付く。
「どうかしたの?」
いや、と相手の視線が移るが、また由香利に戻っていた。
「…よく、話してくれるな、と。」
本当に不思議に思ったのだろう。嫌みや含みは感じない。
「ん?だって同じグループだから、仲良くなりたいし。あ、うるさかった?」
一人が好きな人も居ると聞いた事があると思い出し、少し不安に思ってしまうが、それは杞憂に変わる。
「…いや、そないな事は…。」
と、そこまで言った立花はハッとして口を押さえた。
あれ?今のって…
「…立花君って、もしかして。」
キョトンと見つめれば、初めて感情を見せる相手が目に映る。苦笑を溢し、頬を指で掻く。
「…隠しとくつもりやっんやけど、そうや。僕、中学までは関西に住んでたんやねん。」
「は?何で隠すの?」
むしろ、人気出そうですが。綺麗な声もしてるし。由香利の言葉に、僅かに残った躊躇いも捨てたのか意外とあっさり話し出した。
「…実は、父親からの試練やねん。大人んなって色んな地域に行くにあたって、標準語に慣れた方がええからって…この高校で関西弁使わず生活するって…。」
「…へえ~。大変だね。」
だから、言葉遣いが拙かったのかな。というか…
「…ばれちゃったじゃん。良いの?」
ん…と少し苦笑を見せるが、直ぐに「もう、ええわ」とはにかむ。
「有川さんは、ちゃんと話そうとしてくれたんやし、逆に失礼やなあって…。」
だから良いと綺麗に笑う表情は、千尋にも劣らない物だった。暫く軽い談笑を続けたり、お弁当のおかずを交換していたりしたが、一息吐いて立花が何か思い付いたのか「そうや」と声を上げる。
「何?どうしたの?」
「…おん。もし良かったらやけど、暇な時に言葉の練習相手になってくれんか?」
言葉の練習相手?あ、標準語の練習って事かな。
「私で良いの?だって、それならもっと成績の良い人の方が…。」
そう言う由香利だが、立花は静かに頭を横に振った。
「いや、棘の無い有川さんやから、ええと思う。それに、これも何かの縁やと思うし。」
せやからお願いします、と両手を合わせられれば否とは言えない。 ううん…乗り掛かった船か。
「分かったよ。じゃあ、あまり期待はしないでね?」
曖昧な言い方で笑いかけ、立花の「よろしゅう頼んます」と返される。ここで立花君と、妙な友人関係が成立したのだった。この時、相手の関西弁へ違和感が無かったのは、常日頃馴染みが無い為であったらしい。




