不良君と談笑
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笑顔の担任桐島と分かれ教室に戻った由香利だが、既に精神状態は限界であった。
何やってんだろう私。担任の先生に、毎日お弁当を作ってくる?
意味がわからないけど、良いのかな?大丈夫か?
机に突っ伏しうーんと唸り、それ以上考えたくなくなり結局は自己完結をしておく。
つまり、ボランティアという事にしよう。うん。
よく分からない思考に至り、心配そうな夏希に背中を叩かれたのにも気付いていなかった。
「…ごめんね!考え事をしてて。」
慌てて夏希に両手を合わせて頭を下げると、相手はむしろ眉を下げて首を傾げる。
「ううん。それより、大丈夫だった?何か言われたの?」
うーん…言わない方が良いかな?
「いやいや、私ほら、学級委員長だから、その事とかだったみたい。」
かなり挙動不審気味だったが、夏希は元来素直なのか「そっか。」と笑顔を浮かべる。
「良かったね、何も無くて!それに、桐島先生って本当は優しい人だと思うし…。」
安堵する夏希だったが、桐島の名前を口にした時ふいに頬が朱に染まった。
あれ?
「…あー、うん…あの…」
由香利にある考えが浮かんだ時、教室の扉が開く。教室内には少しずつ登校する生徒が増えて来ており、扉を開けた人物を目にすると途端に目を逸らしていく。夏希も口を閉ざし、会話を止めて体の向きを前に戻してしまう。
え?一体何…
「……由香利。」
低く、男らしい声が耳に響く。その声に室内は緊張感に包まれるが、当の本人は違った。
「…あ、おはよう昴。」
相変わらずの真っ赤な髪に、ピアスやらアクセサリーやらでちょっと怖いけれど。
「ああ。…はよ。」
由香利のごく自然な挨拶に、昴の口元も弛む。緊張感に包まれていた教室には、今度は妙なざわめきに包まれた。
「え?あいつら付き合ってんの?」
「…うわ、金城が笑った?!槍が降るんじゃね!?」
勿論小声だった為由香利の耳には届かないが、聞こえていた金城がそちらへ視線を向けるだけで、生徒達は「ひい」と悲鳴を上げて隅へと縮こまる。
「おい、由香利。携帯貸せ。」
「はい?何で?」
「…良いから、さっさと出せよ。」
席に着いた途端にそう言う相手に戸惑うが、苛立ちを浮かべる昴の目付きが怖いのでしぶしぶ差し出す。
「……もう、分かったよ。」
嫌だなあ。携帯割られて「平凡女がこんなん持ってんじゃねえ!」とか言うの?
かなり酷い想像だが、その間に由香利の携帯を弄り直ぐに手渡し返してくれた。
「…俺のアド入れといたから、変な奴に絡まれたら言え。」
「……え?」
確か、昴ってこの学校の一年でも、ここら辺の地域の不良系では顔が利くらしいんだっけ?つまり、私の平凡さに同情して?友達、というよりは知り合ったクラスメートを心配してだよね。
や、優しい!私昴の事、誤解してたんだ。
「…あの。」
由香利はぎゅっと携帯を握り締め、相手をそっと見上げる。
「ありがとう、嬉しい。」
必然的に上目遣いとなった気になる異性に見つめられ、昴は照れ隠しに思いきり眉間に皺を寄せていた。
「別に。お前じゃなかっから、んな事しねえしな。」
ああ。私、ただの一般ピーポーだもんね。
「そっか。昴って優しいんだね?」
「はあ?何処かだ、おい。」
和やかに会話を続けるからなのか、他の生徒達も次第に普段の生活に戻っていく。本人が気付かぬ内に、他生徒達は由香利を『猛獣使い』に認定し始めたりしていた。
キーンコーンカーンコーン
そんな中、予鈴が鳴り全員が席に着き準備を行う。ギリギリの時間に、千尋が教室に入り席に着くのが目に入った。
あ、千尋君だ。休みの日は家の手伝いをして、直ぐに学校なんて大変そうだなあ。
間も無く普段以上に元気な桐島が入室し、ホームルームを始めた。
「おはよう!皆、じゃあホームルームを始めるぞ!」
何だろう。目があった気がする。うん。きっと気のせいだと信じたい。
桐島は、白いチョークで黒板に力強い文字で大きく何かを書いていく。
『新入生レクリエーション』
「じゃあ済まないが、学級委員長は前に出てくれないか?」
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