日曜日の朝
ふう~良い朝だな~。
布団からずるりと起き上がり顔を軽く洗っておく。
たぶん、両親はしばらく起きて来ない気がする。ていうか、今はまだ5時半なんだよね…私どうした?隆一の事は心配だけど、しばらくは様子を見とこうか…。今の時期って一番揺れる年齢だし。
うんうんと一人で頷く様は、まるで思春期の息子を持つ母のようである。
とりあえず、暇だ。
浴衣をきちんと着直し、手に持ったのは携帯電話。
朝食まで暇だから、皆の寝顔でも撮るか。
因みに由香利は、ほとんど…いや全く弟達の怒りを買った事は無いらしい。例えば不味いクッキーを焼いた時も、部屋に入った時も、勝手に物を借りた時もである。
…一つ疑問だけど、弟達の部屋で‘そういった本’を見た事が無いんだけど、何故?部屋も綺麗なのも何故?中学生男子ってそういうもの?
普段から不思議に思う由香利だが、小学校一年当時の自分がゴミ屋敷特集を見て、スゴく嫌がっていたからだからだとは本人は知らない。
携帯を手に取り、熟睡する双子に近付く。三弥は、体ごと布団に入り顔すら見えない。四毅はうつ伏せで腕を枕にしている。三弥の布団をそーっとずらし顔を撮る。由香利としては思い出になるのもあるし、弟達の顔が好きだからなのもあるのだ。双子の写真を撮り終わった時、肩をちょんとつつかれた。
「…慎。おはよう。」
「姉さん、おはよー。」
少し帯のずれて着崩れた浴衣はだらしなくは見えず むしろそこらの女子が喜びそうではある。
「え?寝起きドッキリですか?」
携帯を片手に持つ由香利の様子に何を思ったか、楽しげな笑みを浮かべ小声で話す。
寝起きドッキリとか…いやいや………うん。
「…それ、いただき。」
さてさて。
一度部屋の前に出て、浴衣を着直す二人。だて眼鏡をして、前髪をあげてピンで留める次男。髪をポニーテールに縛り、前髪をキッチリ七三分けにした長女。残念ながら、突っ込みは不在である。
「…それでは、慎二レポーター。此処が、皆さんが寝てる部屋ですね?」
「はい、由香利ディレクター。な、ななんと~!あの人の寝顔が見れるわけですね!…時刻は現在6時です。」
小声で言い合う二人は、ゆっくりと慎重にドアを開ける。勿論、観客などは居る訳は無いのだが。
「…はい、着きました~。此処は隆一様の寝室です。」
「いやあ。わくわくしてきました!」
そして、洋室の扉を開けると。
「…あ?何をやってんだ?姉貴、慎二。」
って、おーい!
普通に起きている隆一は、既に着替え終えている。
「………はい。撤収ーー!」
「了解です!」
手でバッテンを作る由香利と、敬礼をする慎二に呆気に取られる隆一。
「おい、待て。説明だけしてけ。」
良い突っ込みだ、弟よ。
何か言う隆一を遮り、静かに去る二人は今度双子に近付く。
「はい、よく寝てまーす。」
手始めに、慎二は四毅の頬を突っつく。
モゾモゾ。
眉を寄せて動く四毅に、二人は目を合わせ笑みを浮かべる。次に三弥に向いた時、隣の洋室の扉が勢い良く開く。
…やな予感。
「「おっはよーう!みーんなああー!」」
起きやがった。
由香利と慎二は、素晴らしいコンビネーションで素早く窓辺に避ける。
「…あらー?しーくんとみっくんは、まあだ寝てるのね?」
「はは、仕方ないな~。二人は!」
爽やかな言い合いをする両親を尻目に、長女と次男は気配を消すに努めた。そういえば、ずっと聞こえていた隆一の声も聞こえなくなったなあ。
「ほら、朝よ!おっはよーう!」
双子の布団をはぎ取った母。繊細な三弥と、低血圧の四毅。朝起こすという事を何年ぶりかにする両親は、結果を知らないようだ。子どもの頃とは反応は勿論変わるに決まっている事を。
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