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私は平凡周りは非凡   作者: 雪香
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内なる闘いと逢瀬


由香里は、布団の上で寝たふりを続けていた。


遡る事4時間前。散歩より戻ってきた元気すぎる両親に写真を撮られまくりながら、夕食に舌鼓を打った。旬の食材に感動し、デザートも隆一に貰い楽しい時間となった。それから四毅を早く寝かせる為、カラオケに付き合い満足させた。


そして、現在9時45分。…やっと寝たかな?


両隣に寝る双子を見ると、寝息を立てている。寝顔も無駄にイケメンだなあ…いやいや、それよりも。由香里の手をしっかり握る二人の手。そう。無意識に二人は由香里の手を握ったまま、寝てしまったのだ。


三弥は敏感だし、四毅も結構繊細だし…。一ノ瀬と約束した時間が近付き、由香里は内心慌てていた。しかし、此処で焦って起こす訳にはいかない。なるべくあせらず出来るだけ時間をかけてゆっくりと…三弥の手を外していく。途中ピクリと動くと、一旦動きを止めまた始める。たっぷり10分かけて三弥を離す。


よし、次は四毅だ!

ヤバイ。あと5分だよ。


僅かに焦りが出てしまい、四毅の手を振り払ってしまった。その衝撃で身じろぎし薄目を開けた四毅は、寝たふりをした由香里を目に入れて引き寄せた。


…………えええ?


自分に抱き付く形となり満足したのか、寝に入る末っ子。四毅のクラスメイトの女子なら、一度は夢見るシチュエーションである。しかし、そんな事など関係ない由香里は更に汗が流れ落ちた。


いいからはなせえええええ?!

あと5分だってばーーーーーー!!


どうするかと悩んでいると、カタリと扉を開ける音が耳に入る。

誰か起きた?

目を開けてそこを向けば、欠伸を噛み殺し携帯を弄る隆一の姿。


「…りゅう…へるぷ~。」


小声で声を掛けると、直ぐに気付いて由香里の方に近付く。四毅が姉に抱き付く光景に不機嫌そうに眉を寄せ、軽々と引き剥がす。衝撃で起きそうになる四毅の頭を慌てて撫で「おやすみ」と囁くと、やっと眠りに落ちた。


「…ありがとう。……えーっと、飲み物を買おうと思って。」


小声で隆一に礼を言うと、言い訳を重ねておく。


「そうか。叩いて起こせば良いのに。」


弟達には結構荒い対応の隆一はさらりとそう言うが、由香里は曖昧に笑うしか出来ない。

…今は起こせませんから。そういえば、何でこの子は起きてんの?


「隆はどうしたの?」

「…ん?佑介から着信があって。此処は電波が悪いから、外に出てくるわ。」


そっかあ、と何気無く返すが舌打ちが出そうになる。

佑介君、空気読んで!


部屋から隆一と出て、一番近くの自動販売機に向かう振りをして別れると、階段を使い慌ててロビーに向かう。見つかりませんようにと内心で祈りを込め、ロビーに近付き浴衣の乱れを整えつつ周りを見渡す。


「…有川さん?」

「一ノ瀬くん。」


目が合うと、嬉しそうに微笑む相手。


「良かった来てくれて。…見せたいものがあるんだ。」


そう言って、自然に由香里の手を取りロビーから出て裏庭に歩いて行く。


ど、どうしよう?こんな格好いい男の子と手を繋いでるよ私!え?何かの罰ゲームなの一ノ瀬君?


ほんのり頬を染める由香里を一ノ瀬はこっそり盗み見ると、手を握る力を僅かに強める。


(有川さんって…可愛いな。俺の知っている女の子とは、やっぱり違う。)


一ノ瀬は足を止め、不思議そうな由香里に空を指差す。


空?

促されて見上げると、思わず感嘆の声を上げる。


「……うっわあ~!すっご~。」


くっきりと描かれた満月に、散りばめた宝石の様な星達。心底感動した時には細かい描写など口に出来ず、ただ目を輝かせ天然の星々を見つめる。


「…幼い頃、月には兎が住んでるって本当に思ってた。…だけど、伯父が本当に月に行っちゃって…それが夢物語って知ったら寂しかったなあ。」


そう言って空を見上げる一ノ瀬は、哀しい瞳に月を映す。


「…夢物語なのかな?」

「え……?」


由香里は芝生に座り、届く筈の無い北極星に手を伸ばし目を細める。


「こんなに星があるんだよ?人間が見に来たから、恥ずかしがり屋の兎はきっと引っ越したんだよ。」


慰めでも、気休めでも無い。由香里はただそれがさも当然だと言う口調だった。


「…一ノ瀬君?」


何故か口を閉ざして黙り込む相手に、変な事でも言ってしまったかと首を傾げる。


「違うよ?」

「…ん?」

「…千尋って呼んで?」


由香里の隣に腰かけた一ノ瀬は、見惚れる笑みを浮かべた。それは容姿の良い者を見慣れている由香里でさえ、鼓動が速まっていく物だった。


「千尋…君。」

「…うん。由香里。」





えええええええっ?!


にっこりと笑む千尋に、由香里は色々と限界であった。


「…あ、わ、私そろそろ寝るね?」


顔を真っ赤にして立ち上がる由香里に、千尋は何故か嬉しげである。


「じゃあ、送るよ。」

「…っ大丈夫!今日はありがとう。おやすみ!」


慌てて去ろうとすると、引き寄せられる腰。それから、頬に当たる柔らかなもの。


「…おやすみ。由香里。」


離れ呆然としたまま、部屋に戻り由香里は後悔した。一番面倒な相手に見られてしまったようだ。目の前には、涙ぐむ父が立っていた。


「うううう…由香里ちゃんの純潔が奪われた~!!」



回し蹴りして良いのだろうか?










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