三弥の黙考
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みんな嫌いだし、みんな何を考えているかわからない。周りもそうだ。男は、僕のノート目当てだし、困った事は押し付けてくる。それでも、四毅の事を知る奴は距離を取る。女は、僕の顔と兄達目当てだ。気持ち悪い。
それでも、昔より良くなったと思う。
小さい頃は、少しでも他人に近付かれると気分が悪くて仕方なかったから。家族も苦手だった。両親はたまに会えば勝手にべたべたしてきて、物さえ渡せば良いと思ってるから苦手。
隆一兄さんは、何でも自分で出来て自信があって苦手。
慎二兄さんは、誰とも仲良くなれていつも笑顔で輝いていて苦手。
四毅は、自分の気持ちに正直で裏が無くて苦手。
それ以上に、家族の中心で誰にも優しい姉さんが苦手だった。
でもあの日でそれは変わる…。6才の時、四毅に無理矢理友人の家に連れられ、やっぱり気持ち悪くて家に帰った僕は、玄関で吐いてしまった。恥ずかしくて、泣きながら掃除していた僕の所に、姉さんが来た。
もしかした、嫌われるかも、呆れられるかもと思った。でも…姉さんは笑顔だった。ハンカチで口を拭いてくれて、あっという間に掃除してくれて、気付けば着替えさせられて。
『みーくんは、みんなよりちょっと頑張っちゃうんだよね。』
そう言って頭を撫でてくれたんだ。そのまま号泣してしまった僕を抱き締めてくれた。その時から、僕の一番の拠り所。
だから、今回も姉さんが行くならと温泉に来た。気分が乗らなくても、兄達と温泉に入る。まあ、四毅が兄達に弄られている内に素早く入ってきたけど。少し待っていると、浴衣姿の兄弟がやってきて、隆兄と四毅は卓球を始めた。
慎兄は長風呂だから遅いかな?
そう思い、慎兄を待つついでに自動販売機に飲み物を買いに向かう。
あれ?姉さん?
目に入る姉に急いで近づこうとすると、ふと足が止まる。姉の側で微笑む見知らぬ男。その男の唇が動く。
「…良かったらこの後…。」
…うん?何をするつもり?
思わず体の毛が総毛立ち、静かに苛立ちを生む。
「…姉さん。」
勝手に口を出た声は、思ったよりも普段通りだったと願う。その声に気付き振り返る姉由香利は、温泉に入った後だからか、髪は艶々していて頬も赤みが差している。
僕としては、姉として心から親愛を抱く存在だが、隆兄はたぶん違う。隆兄は昨年から急に姉離れした態度を出しているが、絶対違う。…シスコンを越えたのだろうと。
四毅は1000%純シスコンだし、慎兄は危ないシスコンだ。
僕は違う。普通に姉を慕っている。だから、これも姉を守る為。
「…皆、待ってるよ?」
テトテトと側に寄り、小首を傾げる。姉から可愛がられている事は自覚しているので、控えめに言えば直ぐに頷かれる。
「うん。分かったよ!」
にこっと笑う姉に、知らず三弥も笑みを浮かべた。
「…ご家族と一緒に来たの?」
…空気読めば良いのに。
由香利と一緒に居た男は何を思ったのか、此方に会釈する。
「由香利さんと同じ委員会の一ノ瀬です。よろしく。」
いかにも女子に人気のありそうな笑顔に、嫌悪感を抱くが僅かに頭を下げて置く。
姉さんの外聞が悪いと困るから…。それだけだ。
「弟の、三弥です…。」
そう言って、姉の手を取りさりげなく歩き出す。流石に一ノ瀬も諦めたのか、由香利に何か囁き去って行った。
…ふう。悪魔退散。
「………10時。」
その時、由香里が何か呟いていたのを、安心していた三弥は気付かなかったのである。
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