有川家訪問
慎二の後輩、上谷次郎視点です。
公立の小学校から私立の有名中等部に上がった俺は、
入学早々生徒会に抜擢されてしまった。初めは、金持ちに混じって役職持ちになるなんて死亡フラグかよ、と思った。
でも、ある人物と会ってその考えは変わる事となる。
有川 慎二生徒会長。柔らかそうな茶色がかった髪に、甘い顔立ち。根っからのお坊っちゃんかと思ったら、中等部からだと聞いてとても驚いたものだ。
初めての会議は本当に緊張した。なんというか、オーラが違うのだ。すっごく良い匂いがするし、品のある仕草?というのか。更にそれを鼻にかけない気さくさや、茶目っ気もある。
そんな会長に関しては多々噂がある。
何処かの国の王子様やら、大財閥の令息やら。あの残虐非道の俺様副会長をなつかせたのも、尊敬した理由の一つだが。
というか、何故俺が会長の自宅に赴く事になったのかといえば、金曜日の午後5時に遡る。有川生徒会長といえば、毎週土日に帰省することで有名である。恋人がいるからだとか騒ぐファンもいるが、俺としては社長の息子だから仕事の手伝いでもしてんのかな?と思ってる。
それで、そのきっかり5時に会長が帰った直後、本庄先輩に呼び止められた。本庄先輩は、会計二年目で有川会長と同じクラスである。会長がイケメンだとすると、会計は男前だ。精悍で気さくな先輩は、花道の家元嫡男だがそんな素振り無く誰でも気軽に接する。
「どうしたんですか?本庄先輩。」
普段なら仕事を率先する白鷺は、打って変わって自分の仕事を黙々とこなすのが鼻につく。
おい…有川会長がいる時とぜんっぜん態度違うなお前。
まあ、クラスでも確かにクールだが。
同クラスの白鷺は、青に近い黒髪に銀縁の眼鏡の美男子である。
有川会長がいれば「有川会長様、何時もの紅茶をお淹れ致します!」と、まるで執事か側仕えの様につき従っている。有川会長がいなければ、ほら…この通りだ。
上谷が問うと、本庄は少し言いづらそうに会長ラブの副会長と書記を振り返り、隣室に促す。
何だろう?あの二人に聞かれたく無い事?
と言えば勿論、有川会長がらみか。
白鷺もだが、天王寺副会長何か更に凄いもんなあ。モデルかと思われる様な高身長と、目元の黒子に金髪はクウォーターだかららしい。更に大財閥の御曹子。有川会長と並ぶとまるで絵画の様だと言われているし、副会長の会長への溺愛ぶりは校内では周知の事だ。
有川会長が抑えて居なかったら、副会長はどうなっていたのだろうと今でも恐ろしい。おっと、部屋に着いたみたいだ。部屋に着いた早々、本庄は一枚の紙を上谷に手渡す。
「…これって、今朝有川会長が仕上げた書類ですよね?」
それが?と本庄へ首を傾げると、溜め息が返された。
「…それがな、会長のサインの漏れがあったみたいでな…。」
本庄先輩が言うには、この書類の期限は本来金曜日までだが、顧問に頼んだ所、特別に土曜日までに期限を伸ばして貰った。だが、有川会長に態々来て貰うと会長大好きコンビが仕事をさせたと怒るだろう。しかし、本庄先輩が届けるのは、今から月曜日の朝まで家の仕事を手伝い出来ないと。
「…副会長や書記には、顧問が有川の住所を報せるなと固く止められている。」
疲れた表情の本庄に、上谷は苦笑する。
確かに…。家まで入り浸られたら、有川会長が可哀想過ぎる。
どうするか、と呟く本庄に上谷は一度頷くと口を開いた。
「…あの、良ければ俺が行きます。」
「え?良いのか?」
戸惑う本庄に、上谷は穏やかに微笑む。
「はい、有川会長にも、本庄先輩にもいつもお世話になっていますし。これぐらいさせて下さい。」
そうか、と本庄は少し安堵し軽く頭を下げた。
「…悪いな。慎二には連絡して置くから。俺と慎二に貸し一つって事にしてくれ?」
おどけて言う相手に上谷は少し笑うと、土曜日の午後に書類を渡しに行くことにしたのである。
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土曜日の午後、上谷はTシャツとジーンズというシンプルな服で教えられた住所に向かった。
…はあ。緊張してきた。どんな豪邸なんだろう?
というか、手土産とかいらなかったかな?あー、もっとお洒落してくるべきだったか。
朝からそわそわしていた上谷に、妹などはウザイと冷たく言い放っていたが。住所を見ながら辿り着いた家は、想像よりもずっと庶民的で一般住宅よりも大きめの二階建てである。
もしかして別宅とか?
緊張に震える指でインターホンを鳴らすと、高校生ぐらいの女子が姿を現す。
「…はい、何の用ですか?」
「…突然すみません。あの、上谷 次郎と いいますが有川 慎二さんはいらっしゃい ますか?」
緊張に早鐘を打つ鼓動を無視し言い終えれば、相手はニコッと笑いかけてくる。
「…ちょっと待っててね、呼んで来るから。」
あまりに有川会長に似た笑顔に直感的に血縁者だと理解したが、その時には上谷の緊張はピークに達していた。
「……は、い…………」
そのまま意識を無くす上谷には、相手の驚く声が耳に残るだけだった。
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