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私は平凡周りは非凡   作者: 雪香
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金と紫



四毅の部屋に入ると、カーテンの空いてない薄暗い室内を見渡す。

…うん。まだ寝てるね。

ベッドに近付けば、きちんと布団にくるまる弟を見つめる。


…寝顔はまだまだ可愛いなあ。

弟達を区別した事は無いが、やはり末っ子は特に可愛いものである。 何で染めてるのに、こんなに髪サラサラなんですかねえ?

これが美形の力?


ベッドに肘をついて眺めていると、気配に気づいたのか四毅が身動ぎする。


「…んー…」


おっと?!

慌てて四毅の体を一定の間隔で叩いてみる。

寝なさいよー。この、お姉ちゃんのゴッドハンドで。

小学生の時、四人を15分以内に寝かし付け、両親の自信を奪った私の手で。しかし、残念ながら相手は中学生であった。


「………んー。うーん……?……はよ…?」


ぼうっと目を開けた四毅は、由香里を見つけ挨拶を口にする。

リビングの方に神経を研ぎ澄ませた由香里は、内心焦りつつ笑みを浮かべた。


「…おはよう。」


うん。玄関の音がしないし、まだ駄目みたいね?

あと少し稼がないと。

四毅の方は横になったまま、由香里の手を無意識に握る。


「…起こしに来たのか?もう飯?」


まだ眠そうなままの四毅に、片方の手で頬を撫でる。


「眠かったらもう少し寝てて。慎二がまだ作ってるから。」

「………んー。」


ぼーっと自分を見上げる四毅の頭をゆっくり撫でていく。


ねーむれーねーむれー。


頭で盛大に念じるのは、子守唄ばかりである。


ガチャリ


ふと、由香里の耳に玄関の扉が開く音が入る。


あ、よっしゃあああ!


「…うん。起きても大丈夫かも。」

「ん………わかった………。」


由香里の言葉に、四毅の瞳がパチリと開きむくりと起き上がった。由香里がベッドに腰かけると、四毅は部屋の姿見で軽く髪を手櫛で整える。因みに四毅の格好は上は黄色いロングTシャツに、下は黒いジャージ。


隆一いわく「コンビニなら余裕だろう」らしい。

弟達を見ると思う。同じ学年に居たら、キャーキャー言ってんだろーな。まあ、私とは種類は違うから結局一ノ瀬君とか昴みたいに、ただのクラスメイト止まりでしょうけどね。


少々寒がりな所のある四毅は、机に置かれたパーカーを羽織り伸びをする。


「…んー。まだ眠い…。」


ふう、と目を擦りながら息を吐いた弟を見てクスッと笑う。


「ご飯食べたらまた寝れば?」


うんと頷いた四毅は、由香里の隣に座り肩に寄り掛かる。


「……姉貴さ高校、楽しいのか?」

「うん。まあまあね?まだ最初だけど。」


ふーんと返した四毅は、ゆっくり立ち上がりそのまま由香里の手を取ると繋いだまま歩き出した。


「…彼氏作るなよ。」


ボソリと口にした相手の言葉に思わず苦笑してしまう。


「はいはい。ほんっと四毅くんは、お姉ちゃん大好きねえ~。」


茶化す様に返せば、リビングの前で立ち止まった四毅は不思議そうに首を傾げていた。


「そうだけど?」


しき…………あんたって子は。…はあ。隆一みたいにシスコン卒業してよね。

と思う由香里だが、隆一は表に出さない姉好きだとは気付いていない。

ふとリビングに入った瞬間、由香里は思考が止まった。部活帰りだろうジャージ姿の隆一と睨み合う金城。


あれ?

もしやさっきのドアの音って、隆の帰宅の?………まずい。

すると、金城の視線が此方に移る。


「…有川四毅!」

「てめーは…」


一瞬四毅の眉間に皺がより、直ぐに戻った。


「………誰だ、おい?」


その反応に顔色を変えた金城は、四毅に噛みつかんばかりに近付く。


「てめえ!忘れたとは言わせねえぞ!!」


怒鳴られた四毅は苛立ち、それに応戦しようとすると、二人の頭上に鉄拳が降る。


「…騒ぐなら外でやれ。ガキが。」


同感。

上背のある隆一に見下ろされ、途端に黙る不良二人。いっそ清々しい程無関心を貫く三弥と、隆一を怖れ距離を取る慎二。

まあ私は全然平気ですがね。


「てゆうか、君は四毅と何処で出会ったわけ?」


隆を押し退け金城に問えば、元気を取り戻し四毅を横目に睨む。


「昨日の夕方、ゲーセンでこいつとやり合った。仲間も一緒だったな?覚えているはずだ!」


思案する四毅は、次第に目を細めた。


「…ああ、そーいや居たか。紫メッシュの奴が?」

「…てっめえ…」


どうでも良さそうな四毅に、金城は鬼の様な形相となっている。

めんどくさいなあ…。


「それで?四毅にどうして欲しいの?」


正直、お腹空いてきたよ私は。


「……有川四毅。」

「あ?んだよ。」


金城の瞳に強い光が生まれていた。


「月曜日の昨日と同じ時間、サシで勝負しろ!!」


声音は真剣そのものだが、その台詞に有川姉弟の思いは重なる。


((昔の不良漫画か!))


「無理、だるいわ。」


バッサリ切り捨てた四毅に、金城は思いきり顔を歪める。由香里の方は、とにかく早く終わりにしたかった。


「しー。やってあげれば?夕飯までに間に合えば良いから。」

「分かった。んじゃ、行くわ。」


由香里の言葉にあっさり頷く四毅に、金城も戸惑い気味となる。


「あ、ああ?ぜってえ来いよな!」


ビシリと言い終えた金城は、舌打ちし玄関に向かって行く。バタンっとドアを閉める乱暴な音が耳に入り、誰かのため息が耳に入った。


「…さて、ご飯にしよっか。」


各々返事を返す弟達に頷くが、気まずそうな四毅の前に立ち腕を組む。


「…髪を染めても良い。」

「はい…。」

「ピアスをしても、少し門限が遅くても良い。」

「…ん。」

「でも、恨みを買う買われる、人を傷付ける傷付けられるはやめなさい。…分かった?」

「分かりました。…ごめん、気を付ける。」


叱られた仔犬の様な四毅に、由香里も最後は仕方なく笑みが浮かぶ。


「顔、洗って来なさい。」

「うん。」


由香里の笑みに、ホッとした四毅はリビングから出たのだった。








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