団らんです 後編
なんとか纏まりました。
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受話器越しから聞こえるのは、今日1日で最も印象に残った声だった。
『ああ?お前こそ誰だ。良いから、早く由香利を出せ…金城って言や分かる。』
…………昴だ。
うっわ、隆の顔が酷い事に。 声が聞こえてしまったのか、後ろに居る慎も凄い無表情だし!
由香利が困惑していると、隆一の声音が低まる。
「金城なんて知らねーな。… 訳分かんねー奴に由香利を出すつもりはねぇよ。」
低く男らしい声は、知らぬ者が聞けば中学生だと思うまい。
…隆一ぃ?!!
何で誤解を呼びそうな言い方してるの!
溜め息を堪え、由香利は素早く受話器を奪い取る。勿論不満そうな隆一は、無視をしておく。何とか手を振って追い払おうとするが、その場で腕を組み動かない体制を取ってしまった。
「もしもし、ごめんね?私だけど…。」
『由香利か?…つーか、何だ今の男は。』
嫌な予感は的中したらしく、与えた誤解に思わず米神を押さえる。
「…弟だよ。」
『…はぁ?んな訳ねーだろ。従兄弟か何かか、つーか男近付かせんなよ。』
弟だっつーの。
というか、どういう意味?!
金城の発言に意図が分からず少し固まるが、とりあえず流す事にした。
「…それより、何の用なの?」
「…………」
ん?
急に黙ってしまった相手に不思議に思い、首を傾げる。
「…どうしたの?」
続きを促す為に不思議そうに問い掛けると、思っているよりも静かな声音で返された。
「…怪我は、痛くねーのか?」
ああ…その事か。
もしかして…。
「心配してくれたの?」
「…あ?まあ…なんつーか、気になってな。」
歯切れの悪い金城の、不器用な優しさに思わず口許が緩む。
「…そっか。もう大丈夫だよ?ありがとう。」
安心させる様に礼を口にすると、受話器越しに安堵の息が聞こえる。
…意外と良い所あるんだな。ああ、でも結構良い人なんだよね。
「そーかよ。…ああ、そーいや学校でアド教えろ。うぜー奴が居るみたいだしな。」
アド…?
…って事は、初の男子とのアド交換を?!
思わず高まる鼓動と、触らなくても分かる程に熱くなってくる頬に自分自身も気付く。
…ど、どうしよう。
「由香利…?嫌か?」
相手の少し不安気な声音に、慌てて受話器を握り直す。
昴にとったら、大した事じゃ無いのかもしれないし…。
「…あの、友達だから交換するんでしょ?」
内心緊張しながらの言葉に、そこで何故か昴の声が途切れる。
…え?友達とかおこがましいって?
そっか、私みたいな平凡調子に乗るなって事ね。
ウンウンと一人納得し、頷く。
「分かった。じゃあ、また学校でね?」
何故か受話器越しに何か騒ぐ昴を無視し、受話器を置いた。知らず知らず眉を寄せ小さくため息を吐くと、内容が知りたいのだろう慎が口を開く。
「…で、どうしたの?」
自分を見つめるイケメンに、八つ当たり気味に吐き捨てる。
「イケメン滅びろ。」
舌打ちも追加すれば、慎は涙目でおろおろし始め、隆もどうすれば良いのかと戸惑っている。下がり続ける機嫌のままどんよりと息を吐くと、同時に玄関の扉が開いた。
「…ただいま。」
自分と目が合い小さく微笑む三男に、ささくれていた気分も綻ぶ。
「…っおかえり!みー君~。もう、みー君だけだけだよ私には!」
思わずぎゅうっと抱き締めれば、後ろから悲鳴が聞こえるが完璧にスルー。
「…どうしたの?姉さん。」
抱き締め返しながらジーっと不思議そうに見つめて来る三弥に、頭を撫で回し癒される。
「んー?私はブスじゃ無いよねぇ?」
悲しい気持ちを押さえ、可愛い弟に妙な質問をしてみる。三弥はキョトリと目を瞬き、双子の片割れにすら見せない笑みを見せた。
「…良く分からないけど…姉さんは可愛いよ?」
ぎゃーーーーーーーす!
何このこおおおおおおお?!
可愛い過ぎてツライよ、もー!!
「もー~~みっくん大好き!!」
「?!え?!姉さん、俺はー!?」
由香利の叫びに慎の悲痛な叫びが重なる。
「え?さあ?…あ、隆も好きだからね。」
慎には冷たく返し、隆には優しく微笑んでおく。これが由香利の弟の扱い方である。案の定隆一は思い切り機嫌を良くしリビングに戻り、慎二はどんよりと自室に引きこもった。
よし、静かになった!
着替えて来ると言い三弥が部屋に入ったのを見送ると、また玄関の扉が開いた。
「…ただいま。」
「あ、おかえり。」
一般人なら裸足で逃げ出す目付きに、のんびり微笑みを向ける。
釣られて返される笑みだが、何故かそれは直ぐ止んだ。
「その額、どうしたんだ?」
げ、めざとい。
不穏な弟の目付きに、由香利は何とか案を考えてみる。
末っ子の四毅は、マジで私ラブだしな…うん。
たぶん、私のお願いなら1000%聞く。
「…ねえ、四毅?」
「何…?」
「私、細かい事気にする男って嫌いだな~。」
「………………っ!!」
顔色を変えて思い切り固まる末っ子に、由香利はにこやかに微笑む。
「今、何か言った?」
「…何でも無い…。」
府に落ちて居ない四毅に、由香利は最後の一押しをする。
「そう、私四毅のそういう所が好きだな?」
そう言えば、耳まで赤くして俯く四毅に内心笑ってしまう。
…この反応って、四毅がシスコンだからだよね?
あ~…面白い。
悪い姉だと言われそうだが、すっかり由香利の気分も回復したのであった。
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