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私は平凡周りは非凡   作者: 雪香
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入学式でインフルエンザ

「…行きたいんだよ!やだよ、入学式だよ?…3日後なんて、アウェーじゃん!私は行く!」

「…落ち着いてくれ、姉貴。」


何だよ何だよ何だよ~!と言うか、入学式の日にインフルエンザって有り得なくない?

叫び声を上げた15、6才頃の少女の隣では、学ランを身に付けた彼女の弟であるイケメンが息を吐いた。


「…まさか、入学式初日にインフルになるなんてぇ!その上一時間もせず熱が下がるなんてぇ!!」

「「ある意味ミラクル。」」


少女はガクリとその場で膝を着き、イケメンは淡々とした口調で息ピッタリにハモる。


「…あ、勝った。」

「ぎやああ!2連敗っ!」


持っていたコントローラーを床に置き、少女は「うう…」と呻く。笑えば良いわ。私ほんっとにツイてない。

とか思うが、特にゲームに強い訳では無い。


…そういえば。


「隆…あんた学校は?」


イケメン…少女の一つ年下の弟である隆こと隆一(りゅういち)は、その言葉に少々眉を寄せた。


「…はあ?今更かよ。もう行ってきただろ?」


…そうだっけ?


「いや、いつの間に!」


「今日始業式だから、早く終わったんだよ。」

「…ふぅん。隆も、もう中3だもんねぇ。早いなぁ。」


まるで久しぶりに会う親戚の様な姉の言葉に、隆一は思わず笑ってしまう。その笑みさえ、普通の女だったら赤面物だろう。


「ククッ…姉貴は高校生だろ?」

「まぁね。…始業式行けなかったですがね。」


少女…由香利はため息を吐いて、ごろりと床に転がった。

あーあ、する事が無くなっちゃった。もう眠くないしな。


「…あー暇だ。てか、学ラン脱げば?」


ああ…と隆一は頷くと、学ランを脱いでジャージを羽織る。

…はぁ。我が弟ながらかっけーな、おい。

まぁ、昔っから弟でがきんちょってイメージだから、男は感じないけど。


「…ねぇ身長伸びた?」


弟の背中をぼうっと眺めながら、聞いてみる。隆一は、未だゲームを続けながら返事を返してきた。


「…まだ身体測定してないけど…保健室遊びに行った時測ったら、178だったな。」


でっかいな!

中学生って皆そんなもんだっけ?


「…父さん超したんじゃない?てか、中3ででかくない?」

「ん?いや、結構周りの奴らそんなもんだけど?」


まあ、貴方の周りは背の高いイケメン揃いでしょうね。そう内心自嘲気味に付け足す。

由香利は起き上がり、テーブルのペットボトルを手に取った。


「…やっぱバスケやってるから伸びたのかな?」


由香利が飲む?と差し出し聞くと、隆一は頷き受け取る。


「そうかもな。運動部はでかい奴多いし…。」

「…へえ、誰が大きいの?」


問い掛けると軽く首を傾げたと同時に、隆一の短めの焦げ茶色の髪が揺れた。


「…俺と、佑介かな?」


…佑介君。ああ、隆が中学に上がってからよく遊びに来る子か。


類は友を呼ぶのか…。

隆の友人は顔の整った子が多かった。ふと、良く遊びに来るスクールカースト上位種の正念を思い出す。

そのまま二人でだらだらと話していると、玄関の扉の開く音が聞こえた。


「…ただいま~!姉さん、お腹空いたぁ!」

「…うっさい!」

「っええ!ひど!」


まるでガーンとでも聞こえそうな表情の、ショックを受けている少年に目を向ける。


「…慎。何でいるわけ?」


茶髪の一見チャラそうなイケメン…次男の慎二(しんじ)は、ブレザー制服のネクタイを緩めていた。

姉の冷たい態度にも慣れているからか、既に気にする様子は無い。というより、いつもの事だったりする。


「入学式で早かったから、帰って来たんだよ~!明日も帰るよ!」

「あっそ。」

「お前、手洗えよ。」


どうでも良さそうな二人に、慎二は口を尖らせる。

コイツ…なんというあざとさ。何だっけアヒル口って言うんだっけ。


「せっかく帰って来たのに~。冷たい~!」


慎二は普段、寮のある名門私立中学に通っているが、土日の週末と平日でも時間があればよく帰宅している。


「…姉さん、何か食べたい~。」

「…めんどい。つか、今家に食料無いよ。」

「マジで?」


由香利の言葉にキョトンとして、慎二は冷蔵庫に向かった。 自然な動作で冷蔵庫に入っていたソーセージを取りだし、気軽に口にする。

ソーセージの袋に『隆』の一文字が書かれていた事も気付かずに。


「…おい、それ俺の。」

「え?!ごめーん兄さん!」


言われて直ぐに謝る慎二だが、咀嚼する口は今さら止められず隆一は更に目付きを鋭くした。


「…俺が買ったのによ。」

「…ううっごめんってば、そんなに怒んないでよ。」


狼狽えた慎二と苛立ちを浮かべて立ち上がる隆一を見て、由香利は仕方なく間に入る事にする。


…面倒臭いな。しょうがない中坊どもめ。


「…隆一、やめなさい。慎二はちゃんと謝る!」


由香利の言葉に、慎二は慌てて何度も頭を下げる。姉には頭の上がらない弟達は、必ずと言っても良い程由香利に仲裁されているのだ。


「…しょうがねぇな。」


隆一もまた座り直した。

険悪な雰囲気は霧散し、由香利は「はあ」っと小さく息を洩らし立ち上がる。


「…何か食べ物買ってこよっかな。…夕飯もついでに。」

「え!俺も行く~。」

「え、良いよ。ウザイ。」


キッパリと来なくて良いと伝えるが、慎二は瞳を潤ませて由香利の背中に抱き付く。


「やだ!絶対行きたい。」


…暑苦しい。

顔が悪かったらぶん殴ってやるのに…。

多少冷たい態度を取りつつも可愛いがってはいるので、結局は仕方なく頷く。ほだされいるのは否めないけど。


「…分かった分かった!離れなさい。…隆、留守番よろしく。」

「やったあ!」

「…了解。」


こら隆、そんな呆れた目をするんじゃない!


何だかんだと言いながらも、一緒に買い物へ行くことに決めたのだった。




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