96.Go For It!!
栗野のミーティングから数分後。
実質上の予定時間よりも少し早めに、未佳達は各部屋へと戻っていた。
やはりあのミーティングで聞いた30分程度の時間では、皆『用意が間に合わない』と判断したらしい。
部屋へと戻った未佳は、いつも持ち歩いている肩掛けカバンに、財布や手帳、ティッシュ、ハンカチなどの常備品を放り込む。
さらに、凍らせて持ってきたペットボトルのろ過水を、薄い水色の小さな手提げ袋の中に数本仕舞い、カバンの横に並べた。
ちなみにイヤモニや歌詞付き楽譜等の必需品に関しては、今回は地方イベントなので、栗野が代わりに持っていくことになっている。
「・・・よしっ。あとは~・・・」
〔はい〕
「ん?」
〔携帯・・・〕
「!! いっけなーい! またやるところだった・・・」
そう苦笑いを浮かべながら、未佳はリオから手渡された携帯電話を受け取る。
〔影薄くない? 携帯の・・・〕
受け取った早々、リオの口から厳しい言葉が飛んだ。
「だってメンバーと連絡取る時くらいしか使わないんだもん。そして肝心のメンバーは、いっつも一緒にいるし・・・」
〔栗野さんは?〕
「・・・あの時はいっつも部屋にいるから」
〔なるほど・・・〕
「え~・・・っと・・・。携帯持った。ハンカチ、ティッシュ持った。水筒持った。財布、手帳、化粧道具に女性用品・・・。楽譜類は栗野さんだから、よしっ! 準備完了!!」
一つひとつ忘れ物がないかどうかを指折りで確認し、やがて何も忘れていないのを確認した後、未佳は行きの時に着込んでいた薄手のコートを羽織る。
正直先ほど確認した最低・最高気温に耐えられるのかどうかは微妙なところだったが、何せ他に上着は持ってきていないし、移動の大半は車なのだからどうにかなるだろうと、そこら辺は目を瞑った。
カバンと手提げの持ち手を同時に握り、行きの時のブーツを履いて、口元に大事な喉を守るためのマスクを当てがる。
そして最後にもう一度室内を振り返り、忘れ物が何もないことを確認。
『ない』と判断したと同時に、部屋の鍵を握り締めた。
「リオー! 行くよー?!」
〔んー〕
未佳の呼び声と同時に、リオは未佳の足元へと小走りで駆け寄り、先に開けられたドアの外へと出ていく。
そして最後に未佳が部屋をあとにし、エレベーターホールへ。
一応現段階では、他の女性3人の姿はない。
〔・・・いないね。栗野さん達・・・〕
「ね? それにスタッフさん達もいないし・・・」
チーン・・・
「あっ、エレベーター来た。リオ、乗るよー?」
〔あ、うん〕
そのままガラス張りのエレベーターで下されること、約1分半。
スピーカーから流れる水の音が途絶えたと同時に『1階です』というアナウンスが流れた。
エレベーターから下り、待ち合わせ場所でもある出入り口付近のホールへ。
到着してみると、一応人はいたものの、メンバーと思われる人影は何処にも見当たらない。
〔・・・また誰もいないね〕
「もしかして私・・・。メンバーの中で一番乗り~?」
なんてことを言いながらふっと自分の右横を振り向いた時、未佳は『あっ・・・』と、そこに映った光景に声を漏らす。
未佳の位置から右方向でもある、出入り口扉。
その出入り口扉の左横に設置されていたベンチに、まさかの先客がいたのだ。
(早っ・・・!)
その相手の姿を捕らえるや否や、未佳は思わず胸中で呟く。
未佳よりも先にやってきていたのは、普段であれば予定時間のギリッギリにやってくるはずの、あの長谷川であった。
さらに長谷川は、何やら自分のスマホの何かに夢中になっているらしく、こちらの存在にまたもや気が付いていない。
とりあえず何をしているのかと近付いてみると、これまた携帯版のゲームのようだ。
(・・・って・・・『仕事そっちのけになるから携帯ゲームはやんない』んじゃなかったの? さとっち・・・)
ふっとスマホゲームに夢中になっている長谷川をジト目で睨んだ後、未佳は遠巻きに再びスマホ画面を見つめてみる。
長谷川が遊んでいたゲームは、どうやらこの間のモンスターゲームのモバイル版のようで、ライフゲージの表示や画面の絵など、PSPの時の表示画とよく似ていた。
唯一違うところと言ったら、操作ボタンがタッチパネルになっていたことだろうか。
そしてこんな『操作しやすいゲームボタン』になったにも関わらず、長谷川のゲームの腕はまったく上達していないようで。
「ちょっ・・・! この・・・! ・・・・・・あ゛ぁ゛っ・・・!!」
最後に『あ』に濁点が付いたかのような叫び声を上げて、長谷川は背凭れ代わりになっていた壁に寄り掛かり、両目を固く閉じて宙を仰ぐ。
その隙に傍に寄って画面を覗き込んでみれば、長谷川が操作していたであろうキャラクターが。
今度は洞窟らしき暗闇の中で、巨大な青いドラゴンにうつ伏せに踏み付けられていた。
そして最後に、ドラゴンが大きな雄叫びを頭上に上げたと同時に、画面いっぱいに現れる『GAME OVER』という文字。
心なしか、この光景が妙にデジャヴゥのように感じる。
「な~んでやぁ~・・・」
仰け反りながらの絶望も気が済んだのか、長谷川は再びスマホ側に前屈みになりながら、ゲームのリプレイボタンをクリックしようとする。
「も~う・・・。あともう少しやったのに・・・」
「なんか私、この絵を見るの2回目のような気がする・・・」
「!!」
ふっと頭上から降ってくるかのような未佳の声に、その声と姿を同時に確認した長谷川は、今度は驚きから壁側に仰け反る。
ちなみに長谷川の正面に立っていた未佳は、先ほどまで付けていたマスクを顎下に移動させ、半分睨むかのようなジト目で、長谷川のことを見下ろしていた。
「びっ・・・! ビックリしたぁ~! おったんか?!」
「さっきから居たわよ! それより・・・。スマホでゲームはやらないんじゃなかったっけ?」
「のはずやったんやけど・・・。『やっぱり持ってこなかったのは惜しかったかなぁ~』って、今頃・・・」
そう未佳の鋭い指摘に答えながら、長谷川は苦笑いを浮かべつつ、ポリポリとこめかみを掻く。
「それで? 惜しさのあまり選んだゲームが、まったくこの間のと同じゲームってわけ?」
「いや『選んだ』ってか・・・。これ、PSP版のデータをモバイル版に連動させてできるんっすよ」
「・・・えっ? どうゆうこと??」
ふっと、叱り付けるはずがウッカリ興味の沸く方向に話が進んでしまい、未佳は『どれどれ~?』と、スマホの画面を覗き込む。
そんな未佳に、長谷川は手のジェスチャーだけで作り上げたPSPと、実際に今持っているスマホを上手く使いながら、分かりやすく内容を説明した。
「ええか? 『PSP』っていうのは、今ネット上の動画とかをダウンロードしたり、入れることができるんっすよ。だから、ネットワーク的なものも多少・・・、連絡回線でできるわけ」
「うんうん」
「それでこのゲームは、PSP版の方にモバイル版用のパスワード・IDが入ってて、そいつをスマホのモバイル版の方に打ち込むと~」
「いままでPSPでやってたデータが、スマホの方でも続けてできるんだ!」
「その通り! ついでにモバイルの方で進んだデータも、スマホでセーブした後に、PSPの方の『モバイルデータ』っていうところを押してしまえば、ゲームの方もそこまで進んだことになんねん」
「へぇー! すごーい♪♪」
「だから人によっては、スマホの方がやりやすいからスマホのしかやらん人もいるんっすよ。いっちょ前にPSPデータだけめっちゃいい数字なくせに・・・」
「にも関わらず・・・! さとっちまた踏み付けられたんだ」
その留めの一言がかなり『グサッ』と来たのか、長谷川はゆっくりと、悲しげに両目が閉じられた顔を未佳に向ける。
一方の未佳は、そんな長谷川の顔が何とも言えぬほどに面白く、思わずその場で右手を口元に当てながら爆笑した。
「ハッハハハ!! さとっちその顔面白~い! ハハハ!」
「お・・・『面白い』って・・・。これ一応めっちゃ悲しんでる顔・・・」
「目が一本線だし・・・っ、なんかもう『土偶』よ! 『土偶』!! キャッハハハハ!」
「『土偶』ってなんやねん!! ちょっ・・・!」
「ハハハハッ・・・、ハァ~・・・。爆笑ー・・・」
「へいへい、さいでっか・・・」
「ところでそのゲームどうやんの?」
「ん?」
一頻り笑い終わった後のその一言に、一瞬拗ねてそっぽを向いていた長谷川は、再び未佳の方に視線を向ける。
「・・・えっ?」
「だからどうやんの?」
「やりたいんっすか? ・・・結構ムズイよ?」
「やりたい♪ やりたーい♪♪ まだ栗野さん達来ないし」
「まあええけど・・・。じゃあキャラ変えるか」
そう言うと長谷川は、先ほどまで自分が設定していた男性キャラクターを女性キャラクターに変更し、適当にその他の設定を決める。
ちなみに当然のことながら、長谷川が女性キャラクターの設定をするのはこれが初めてだ。
おそらく最初で最後のような気もする。
「・・・ほいっ。じゃあ、こん中から武器決めてや」
「武器? って・・・、モノあり過ぎ・・・。オススメは?」
「ん? う~ん・・・。さっきの相手やったらボーガンかぁ~・・・」
「・・・なんか弓だけってカッコ悪っ」
「・・・・・・あとは太刀っすかね?」
「『太刀』って・・・、もしかして『刀』?」
「そそっ。大体この辺りにあるやつ・・・」
「う~ん、あっ・・・。コレ、カッコイイ♪♪」
「ん?」
ふっと未佳の目に留まったのは、まるで深紅のように真っ赤に染まった長い刃と、二つの黒く広げられた翼が鞘の部分に飾り付けられている、何とも深い色取り合わせの太刀であった。
その太刀を横から一目見て、思わず長谷川が『派手・・・!』と胸中で叫んだのは、もはや言うまでもなく。
さらにこちらの太刀は見た目の派手さもさることながら、その名前もかなり凝ったものであった。
「この刀の名前『ガーネット・クロウ』だって! 直訳で『深紅のカラス』ってことでしょ?! カッコイイ~♪♪」
「八咫烏の翼を鞘に括り、赤鴉の生血を刀に塗り込んだ・・・ああ~! 最初の方で八咫烏潰した時に作ったヤツか・・・! ・・・ああー、でもこいつぅー・・・。この鞘んトコの飾りがうっとおしくて、結局一回も使ったことないんっすよねぇ~」
「え゛ぇ~っ!? こんなにカッコイイのに・・・?!」
(女子はこういうのがカッコエエのか・・・)
「さとっちはかっこよく見えないの?!」
「いや、坂井さん・・・。このゲーム武器の見た目だけでモノ選んだら、確実に負けますよ?」
「いい! 私、コレでやりたい!」
「・・・マジで?」
「うん! コレがいい!」
基本的に未佳が『〇〇がいい!』『〇〇じゃなきゃヤダ!』と言い出したあとは、その先何を言ってみても一切聞こうとしない。
正直あのドラゴン相手に戦う武器としては、この太刀は相性的にかなり低い。
もちろんその他の太刀の中には、あのドラゴンに効果覿面のようなモノもあった。
現に長谷川が先ほどまで使っていた武器は、あのドラゴンとの相性が高かったものである。
しかしそれを詳しく説明したところで、未佳が『じゃあそっちに』と、ハンドルを切るとは思えない。
それはかれこれ10年も行動を共にしていて、よく理解している。
(まあ・・・。一応忠告はしたんやし・・・、これで負けても文句は出ぇへんやろ)
そう勝手に結論付けて、長谷川はその未佳が一目惚れした太刀と、その太刀に一番相性のよい鎧を纏わせる。
すると意外にも鎧との組み合わせの関係からか、先ほどまでの太刀の派手さは薄くなり、これはこれで悪くない武装姿へと様変わりした。
「あっ・・・。なんか組み合わせてみたら悪ないかも」
「ん? おぉ~っ! カッコイイ♪」
「名前どないする?」
「へっ? 名前??」
実はこちらのゲームでは、自分で設定し装備させたキャラクターに、好きな名前を半角英字で付けられるのだ。
ちなみに何も設定しなかった場合は、元から付いているキャラクターの名前でのスタートとなる。
「でも私・・・。普通に『Mika』って打ち込むのは~・・・」
「じゃあ・・・、設定そのまんまにしますか」
「・・・『そのまんま』って、なんて名前なの?」
「このキャラクター、はぁー・・・・・・L・i・l・l・e・y。リリィー? 『Lilley』やな」
「『Lilley』って・・・『ユリ』のことよね? なんか孤高で強そう♪♪」
「何故に『孤高』?」
「イメージよ、イメージ。・・・早くやろ♪ やろやろやろ~♪♪」
「はいはいはいはい。んじゃ・・・GAME START!!」
そうかっこよくスタートはしたもの、まだ一番肝心なことを聞いていない。
「ところで何がどの操作なの?」
「あっ・・・。スンマセン、説明してなかった・・・。え~っと・・・。この真ん中のデッカイボタンを押すと、歩く」
「うんうん」
「だからコイツの左右にある『上』『下』『右』『左』の方を指で押せば、そっち方向に歩く」
「走るのは?」
「強く押す」
「ははぁ~ん。なるほど・・・」
その他別の操作に関しても、長谷川は未佳に対し、とにかく事細かに分かりやすく説明。
そしてその説明を横で聞きながら、未佳は慣れない手つきでキャラクターを操る。
「なんかごった返しそう・・・」
「まあ最初はな。でもやってくと慣れるよ? 『何処が何』って、覚えられるし・・・」
「うん・・・。ちなみにさとっちが一番使うのは?」
「・・・・・・走る」
「『逃げる』の間違いじゃないの?」
「違ぁーうぅーわぁー!!」
などと言っている間に、何やらスマホのスピーカーから流れる音楽が迫力のあるものへと変わり、未佳は『ん?』と画面に視線を落とす。
するとこともあろうにそこには、大きな口を開けた先ほどのドラゴンが。
しかも心なしかさっきよりも2回りほど巨大なものが、未佳の操る通称『ユリ』の前に立ちはだかっていた。
「ちょっ・・・、ちょっと! なんかさっきのより大っきくない?!」
「ん? ・・・!! あぁーっ! コイツきっと最大サイズや!!」
「『最大』とか『最小』とかあるの!?」
「そっ。出てくる度にサイズ違うんすよ!」
ちなみにこのドラゴンの最大サイズは、頭から尾までで12メートル。
両手の翼を広げると、翼長33メートルにも達する大型のもの。
ただしこのゲームに登場するモンスターの中では、これは平均的な大きさのものである。
「軽く『Tレックス』並ねっ」
「・・・体はな? 翼はないけど・・・。あと、一緒に飛んでる青白い蟲気ぃ付けや。刺されるとちょっと動けなくなるで?」
「うわっ! 飛んだ!!」
「ん? ・・・あぁ~、こういう時は閃光弾投げればいいっすよ? 明るいの苦手やから落ちる・・・」
「そ、そういえばドラゴンっ、洞窟の中っ・・・だもんね! うりゃっ!!」
(しっかし・・・。ただでさえやったことない人間に、相性の良くない武器で5番目の最強相手はぁー・・・・・・ちょっと酷やったかなぁ~・・・。おまけにこういう時に限って、相手は最大サイズやし・・・。余計な妨害蟲までいるし・・・。なんか『ツイてない』ってか)
しかし今更、未佳に『ゲームを降りよう』などと言えるはずもなく。
半分『運が悪い』と思いながらも、長谷川は未佳のプレイを見届けることにした。
一方の戦っている未佳の方は、まだ熟練者的には無駄な動きが多いプレイではあるものの、一応押さえておくべき動き等はできている。
しかもそのほとんどは、どうやら既に指先で動かしていた記憶を頼りに操っているらしい。
意外にもこのゲームに対しての素質はあるようだ。
「うりゃ! うりゃ!! オリャァッ!!」
「あっ・・・。そうだ、ソイツ。『Xファイヤー』には注意しろや?」
「な、何? 『Xファイヤー』って・・・」
「いわゆる『火炎放射』みたいな」
「あっ、もしかしてこのドラゴンの必殺技~? 別にそんなの飛んでかわせば」
「X型に火柱が上がった後、正面10メートルが吹っ飛ぶで?」
「ゲッ・・・!!」
その忠告をされたまさにその直後。
散々太刀で切り付けられたことに腹を立てたのか。
その例のドラゴンが必殺技でもある『Xファイヤー』を、未佳の操る『ユリ』に向かって力強く打ち放った。
幸いにもすぐに予兆を察して離れたので、ダメージ自体は免れたものの、近くの外壁は爆発。
おまけにその火炎放射を打ち放ったドラゴンの顔自体も、一気に自身の炎によって一時的に燃え包まれる。
一応長谷川いわく『自分の技だからダメージは受けない』とのことであったが『容赦がない』とはまさにこのことであると、未佳は強く思った。
「すごっ・・・! 洞窟の壁燃えてるじゃない!!」
「でもエリアは広くならんからなぁ~? 一応言うとくけど」
「しかも邪魔だった蟲・・・! なんか今ので木っ端微塵に吹き飛んだけど?!」
「あっ! それはある意味『ラッキー現象』っすよ?! 坂井さん!」
「えっ? そうなの?? じゃあこの運を味方に・・・うりゃ!!」
「・・・・・・・・・あっ」
ふっとエレベーター乗り場の方に視線を移した長谷川は、そこに立っていた4人組の姿に声を漏らす。
まさに『今が勝負時!』となったこのタイミングで、待ち合わせていた栗野達がやってきてしまったのだ。
一応栗野達は、未だ未佳達が先にやってきていることに気が付いていないようだが、これはもう強制終了する他ない。
「さ、坂井さ~ん・・・? 栗野さん達、来てしもたんやけど?」
「うりゃ! うりゃ! おりゃっ!!」
「坂井さ~ん・・・」
「よし! お腹の下に入れた!!」
「聞いてないし・・・」
「あら? ・・・長谷川さーん、未佳さーん。お待たせ~」
「ごめーん。ちょっと待たせた?」
「そして見つかっちゃったよー! 坂井さーん!!」
遅れて未佳達の存在に気が付いた栗野達が駆け寄る一方で、長谷川は本日3回目の壁仰け反り。
しかも今度は負けた悔しさや驚きからではなく、困り果てた故の仰け反りであった。
ちなみに隣ですっかりゲームに夢中になっていた未佳は、当然のことながら何一つ気付いていない。
そしてそうこうしているうちに、長谷川がもっとも恐れていた事態が発生した。
「って・・・。ちょっと誰? 事務所の未佳さんにネットゲーム吹き込ませたの・・・」
「えっ・・・えぇっ!? さとっちに続いてみかっぺも?!」
「しかもそのスマホは・・・、長谷川くんのじゃないか?」
「・・・・・・・・・」
「長谷川さん!?」
「! あぁっ! はいっ!! ・・・いや、でもね栗野さん・・・。これ『やりたい』って言い出したのは坂井さんのほぅ」
「ソレを許可したのはァ~!?」
「・・・・・・僕です・・・」
「「長谷川さん!!」」
「長谷川くん!!」
「さとっち!!」
「ひぃっ・・・!」
もう既に毎度毎度の話ではあるが、何故こうも自分だけ、全員から一気に攻められるパターンが多いのだろうと、長谷川は強く思った。
しかもその多くは、今回のようにタイミングが悪い時に決まって起こる。
最初のうちこそ『ツイてない』で通してきたが、さすがにそれだけでは言い表せなくなってきた。
(まさか僕・・・。何か得体の知れんものでも付いてるんやろか・・・)
「まったく・・・。それで? 一体何のゲームを吹き込ませたんです~?」
「え~っと、あの・・・。よく僕がやってるドラゴン退治の・・・」
「あっ! あのリアルなやつか!!」
その長谷川の『ドラゴン』という単語を聞いて、手神は即座に、何のゲームなのかを察した。
実は手神も以前。
未佳同様に長谷川からゲーム機を借りて、一度遊んだことがあったのだ。
しかしいざ興味本意で遊んでみれば、思いの外操作の仕組みが入り組みすぎていて難しく、結局一度もクリアせぬまま、途中で挫折してしまったのである。
「えっ、でも・・・。アレって結構難しいんじゃないの・・・?」
「そりゃもちろん。しかも坂井さんが今やってるの、5番目に強いドラゴンっすからね? おまけに体も最大だし、武器合ってないし」
「うわっ・・・。かなり無謀だなぁ~・・・。むしろイジメに等しい」
「でもこっちの反対聞かずに『コレがいい』言うたんっすから・・・、これで負けても何も言えないっすよ」
「・・・! あ゛ぁっ!!」
「・・・なんて言ってる間に」
「結果出たみたいだな」
ふっと聞こえてきた未佳の声に、長谷川は一度手神と顔を見合わせた後、未佳の元へと向かう。
一方の未佳は、一応ベンチから立ち上がってはいたものの、画面に指を置いた体勢のまま、固まってしまっていた。
ある意味『予想通り』と言うべきか。
このゲームの初心者でもあった未佳にとって、これは少々衝撃的な結果となってしまったらしい。
とりあえずそんな未佳の心中を察して、長谷川が横から声を掛ける。
「まあ・・・ね?」
「さ、さとっちー・・・」
「しゃあないっすよ。無理な組み合わせで戦ったりしたんっすから」
「・・・へっ?」
「こっちの忠告聞かずに行くんやもん。今度はちゃんと相性の合った」
「何言ってんの? さとっち」
「・・・・・・へっ? ・・・な、何が??」
「ちゃんと見てよ! この画面!!」
そう言うや否や、いきなり『バッ!』と長谷川の顔に向かってスマホを突き付ける未佳に、長谷川は一瞬『おっ・・・!』と顔を引きながらも、改めてその画面をまじまじと見つめてみる。
するとその画面の中央には、珍しくモンスターではなく、プレイヤー操作のあの女性キャラクターの方。
さらにその女性キャラクターは、中央で右手に持っていた太刀を空高く突き上げ、何処か晴れ渡っているかのような表情を浮かべている。
ちなみに肝心のモンスターはと言うと、何故かその女性キャラクターの真後ろに、両目を見開いたまま横たわっていた。
そしてある意味『決め手』とも言えるのが、そのスマホスピーカーから聞こえてきた、ゲームの音声。
【GAME CLEAR YOU ARE WIN!!】
「ん? ・・・あぁ~『win』な?」
「・・・・・・・・・」
そこから次のリアクションまで、約2秒。
「・・・って、winッ?!」
「「えっ!?」」
その未佳の叩き出したゲーム結果に、長谷川は思わず画面を二度見。
一方の手神と厘は、その長谷川の口から飛び出してきた『win』という単語に、ただただ驚きの声を上げる。
ちなみにここでわざわざ言うほどのことではないが、この『win』という単語の日本語訳には、単純に『勝』という意味合いがある。
だが、この場合のもっとも適切な訳は、きっとただの『勝』ではなく『ドラゴンを見事に斬り倒した』という『勝利』だろう。
「やった! やった~!! ドラゴン倒せた~♪♪」
「スゴーイ、みかっぺ」
「で、でも・・・。あんなに悪い条件だったのに?」
「普通だったら絶対ムリっすよ?! こんな悪い条件でなんて・・・!」
「・・・でもみかっぺ勝ってるやん」
「「・・・・・・・・・」」
正直それを真顔で返されると、そのあとに続く言葉が一切浮かんでこない。
「せやけど・・・。みかっぺ相変わらずゲーム強いなぁ~」
「うん。なんか斬ってたら勝手に倒れてきた・・・」
(『勝手に』って、斬り殺したんやろ~?!)
「だから今日はイイコトありそう♪」
「ほな決めポーズでもやってみたら? よくライヴステージでやってるみたいなの」
その厘の振りに、未佳はしばし『何をしようか』と考え、やがてあるポージングを決めた。
「じゃあ・・・。本日より! 『坂井未佳』改め! 『ガーネット・クロウ戦女★ユリ』!! 見事、ドラゴン退治の任務完了いたしました~っ! Yeah♪♪」
「ハ、ハハハ・・・。そんなバナナ・・・」
最後の最後に力無く親父ギャグを挟んだ長谷川は、その上機嫌すぎる未佳とは対照的に、本日も絶不調になるような気がしてならなかった。
『我慢』
(2004年 6月)
※通勤列車内。
さとっち
(ヨッシャ~♪ とりあえず今日の仕事も無事終わったし・・・。このあとは真っ直ぐ家帰って、録画しといたサッカーの視聴や!(^^)♪)
小学生1
「なぁ? そういえば昨夜のサッカー見たか~?」
小学生2
「見た見た! アレはめっちゃよかったで?!(大興奮)」
小学生1
「感動したよなァ~・・・!(しみじみ)」
小学生2
「うん! うん!!」
さとっち
(え゛っ? アレ放送夜中の3時やろ?(爆)・・・まあ、サッカー少年には時間なんて関係ないか・・・。せやけどお願いやから、展開までは言わんといてな(゛ーー))
小学生1
「アレ途中まで、相手チームと同点・同点やったんやもんな?」
小学生2
「そそっ。それで延長戦になって~・・・。終わったの5時半過ぎやったか?」
さとっち
(・・・・・・(:-_-))
小学生2
「ってか・・・! 日本オウンゴールし過ぎやったとちゃうか?! 序盤・・・!」
小学生1
「せやせや! なんか蹴ったボール、毎回違うところ行きすぎやん!!(爆) あんなミス、俺ら小学生ですらやらへんでぇ?(笑)」
さとっち
(・・・・・・・・・(:--))
小学生2
「特にあのキーパーwww」
小学生1
「あのキーパーはアカンやろ~www」
小学生2
「めっちゃ歯にボール当ててやんのwww 『痛てて! 痛てて!!』言うて・・・(笑)」
小学生1
「(爆笑)」
さとっち
(・・・・・・まあアイツ、初選抜者やったからなぁ・・・(爆))
小学生1
「せやけど最後に日本キメた時は、ホンマ感動したわ~・・・(熱)」
さとっち
(・・・・・・"(/ ̄~ ̄\;))←(聞かざる・・・(爆))
小学生2
「なぁ~?! あの走りながらの超ロングキック! ようあんな強硬バリケードおる中でできたなぁ~って(感動)」
さとっち
(!! ・・・Σ(ーー゛)(苛))
小学生1
「最後のホイッスルと中継者の発言『ビビッ!!』ってきたで?! 『10対12! 日本勝利~!!(叫)』」←(禁)
ブチッ!!(切)
さとっち
「オ゛イ゛! コラ!! そこのチビッ子っ!!(怒)」
小学生1・2
「「Σ("°~°)! !Σ(°△°゛)(ビクッ!!)」」
さとっち
「公共の乗りモン中でネタバレすなっ!! オ゛ラ゛ァ゛~ッ!!(激怒)」
※関西ラジオにて。
みかっぺ
「じゃあ、次。ラジオネーム『朱色さん』から。『ちょっと聞いて! 私の信じらんない出来事便り』より・・・。『つい先日、小学生の息子が友人と電車でサッカーの話をしていたら、突然近くにいた男性に「ネタバレすな!! コラッ!!」と怒鳴られ、友人と大泣きしながら帰ってきました。以来、息子は電車に乗る度に怯えてしまっています。好きなスポーツの話って、外で話してはいけないものなのでしょうか?』とのこと・・・。この投書内容どう思う?」
厘
「別にええんとちゃう? 好きなことの話で盛り上がるの・・・。ましてや子供の他愛もないおしゃべりやん」
みかっぺ
「ねぇ?(同感) 別に話しててもいいよねぇ~? ・・・二人とも泣いちゃったんだ。可哀想に・・・(同情)」
手神
「ちょっと“心が狭い人”だったんだよ。その怒鳴った男性っていうのは・・・。酷いけどね?(爆)」
みかっぺ
「サッカー通のさとっちはどう思う?」
さとっち
「・・・・・・・・・坂井さん・・・。あとでその方の住所教えてください・・・」
みかっぺ
「えっ? な、何ソレ・・・。どゆこと??(苦笑)」
後日、その方のお宅に謝罪のお手紙が届いたのは、もはや言うまでもなく・・・。
(作者コメント)
とあるアーティストの方達へ。
本当に心の底から、皆さんのことが大好きでした・・・。
私がファンとして過ごせた時間はたったの4年半ほどでしたけれど、解散した後もずっと。。。
私はファンのままであり、、、そしてこの世に送り出してきた皆さんの楽曲を、これからも身近な人達に伝えていきたいです。
きっとそれが、“ファンである私達に残された、本当の役目”であると思っていますので・・・。
まだ寂しさや悲しさは拭い去ることはできないけれど。。。
明日・明後日に控えた最後の2dayは、私も全力で盛り上がっていくつもりです。
後悔なんて・・・死んでもしたくありませんから・・・!!
短いながらも、ファンとして過ごせたこの時間を、心から感謝しています。
13年間、素敵な楽曲を・・・歌声を・・・詩を・・・音色を・・・アレンジを・・・・・・。
そして、、、まさにメンバーとファンの垣根を越えた、熱いライヴ&イベントを!
本当に、どうもありがとうございました!!
いつまでも、愛しています。。。
『180回目の朝明けに・・・』作者
歌音黒より。