90.初めての・・・勝利
露天風呂での入浴を終え、二人は女湯の暖簾の外へと出る。
その際、二人は会話任せに、通路を歩いていた。
「ウチ・・・、そんな声掛けにくい感じやった?」
ふっと先ほどの未佳の言動を思い出した厘が尋ねる。
「だって・・・。なんかオーラが『誰も来るな』みたいな感じになってたから・・・」
「う~ん・・・。ウチ全然そんなこと思ってなかったんやけどなぁ~・・・。まあ朝やから、いつもみたいな感じのテンションやなかったかもしれへんけど・・・」
むしろ朝からやたらとハイテンションであったら、それはそれで疲れる話である。
「そういえば小歩路さん・・・、一人で入りに行ってたの? お風呂・・・」
「・・・というかぁ~・・・、もう絶対に誰か入ってるぅ思ってたんよ。みんな『朝風呂♪ 朝風呂♪♪』言うてたから・・・」
厘の話によれば、厘は未佳が起きる20分ほど前に起床。
その後大浴場に出向く際、一度未佳や栗野を誘おうと考えたらしいのだが、時間帯的に『先に行ってしまったのでは』とも思い、そのまま一人で大浴場へ。
しかしいざ女湯に行ってみれば、更衣室で着替えていた女性客はこの時既に3人。
そして大浴場の中に至っては、年配の入浴者たった3人だけだったのだという。
「せやからウチ『これなら誘っておけばよかった~』って、後々めっちゃ後悔して・・・」
「で、でも小歩路さん・・・。いくらなんでも5時20分は早過ぎじゃない? せいぜい起き始めても5時半とかでしょ?」
「えっ・・・? ウチみかっぺは5時に起きてる思うてたけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
この発言を聞いた時、未佳は『「伊達に10年間も付き合っていない」という言葉は封印だな』と、強くそう思った。
「と、ところでこの後ー・・・。どうする?」
「せやねぇ~・・・。何ならあそこのマッサージ機座る?」
「あっ、そうね。昨日なんだかんだで乗れなかったし・・・。今日はこれから忙しくなるから、今のうちに解しとくのもいいかも♪」
「ほなら決まりっ♪ 行こ」
「うん♪」
こうして二人は昨日、長谷川と手神の占領により使用できなかったマッサージ機の方へ、足を向かわせた。
先ほどの大浴場での人数を考えれば、少々男湯の人数が気になりはするものの、そんなに混んではいないだろう。
上手くいけば、誰も使用していなくてスッカラカン、という状況も考えられる。
当然あれに座れる人間は二人しかいないので、未佳達は誰も使用していない結果を期待していた。
期待していたのだ。
マッサージ機が置かれているコーナーに到着するまで。
「あっ、あった。あったよ、みかっぺ~」
「よし! じゃあ早速~って・・・・・・ぁ・・・」
ようやく目的のマッサージ機が見えたというのに、二人はその椅子の方を見て肩を落とす。
二つだけあるマッサージ機の一つに、これまた大浴場の時同様、先客がいたのだ。
ちょうど通路の壁に隠れてしまっている関係で顔までは確認できないが、服装や体勢、体格などから想像するに、どうやら男性のようだ。
それもこの男性、昨日の夜にチェックインをしたばかりなのか。
はたまた今日にはホテルをチェックアウトする予定なのだろうか。
未佳達と同じく上下私服姿であった。
「ふ~ん・・・。ウチらみたいに私服になってる人もおるんよねぇ~・・・」
「だねぇ・・・。寝てるのかなぁ。動かないよね?」
「うん。・・・なんかずっと座ってそう・・・」
「ああいう人ほど長居するのよねぇ~」
確かに座っている男性はまったく退く気配がなく。
ついでに機械がマッサージを行っているのにも関わらず動かないことを考えると、やはり眠っているのではないかと二人は予想した。
そしてもしそうなのであれば、ここで両方のマッサージ機を二人で使うことはできない。
出来るとすれば、もう片方のマッサージ機に交互で座ることのみ。
「みかっぺ隣の空いているやつ座ったら? ウチ後でもええから」
「えっ? ・・・ややややっ、小歩路さん先に座りなよ~。朝早かったんだし」
「ええよ、みかっぺ~。このあと歌で忙しいんやから。先に・・・」
「いやいや、小歩路さんもキーボードがあるんだから。ずっと立ちっ放しで、おまけにちょっと前屈み姿勢でしょ~? 先でいいよ~。私疲れたら自分で肩揉むから~・・・」
このままではいくら言っても埒が明かない。
そんな時、ふっと厘の脳裏にある想像が過った。
「ね、ねぇ~、みかっぺ・・・。そういえば今日って、ウチらのスタッフさんとかも一時的に、ホテル出るんやろ?」
「う、うん・・・。一応ね?」
「・・・あの人・・・・・・ウチらの身内のスタッフってことあらへん?」
「あ゛っ・・・」
確かに今現在、このホテルには自分達を除き、事務所スタッフが24名ほど宿泊している。
今現在、このホテルにどれだけの人間が宿泊しているのかは分からないが、少なくともその全体の1/3ほどは自分達の関係者だ。
とすれば、今ここで眠っているこの男性も、確率的に事務所関係者である可能性は十分にある。
そしてもし関係者である場合には、首に関係者証明として名前、年齢、所属事務所、係などが書かれたネームタグ。
もしくは事務所関係者スタッフにのみ渡される『SAND』のロゴマークが描かれたバッチが付いているはずである。
ちなみにその『SAND』のロゴマークは、上から砂時計のように落ちた砂が、下の方では三角形のピラミッドになる、というかなり特徴的なもの。
そしてこのバッチに関しては、アーティスト側以外の人間には必ず、常時確認できる場所に身に付けておかなくてはならない。
これは、万が一アーティスト側にトラブルや緊急事態などが発生してしまった場合、すぐにアーティスト側がスタッフを発見できるよう、目印の一つとして義務付けられているためだ。
一般的にこうした事務所の場合、地方や会場などによって、スタッフの人数や人間は大きく異なる。
そうでなくとも、いつも行動を共にしているスタッフでさえ、今回のように24人などという大人数であることの方が多い。
そんなスタッフ一人ひとりの顔を、アーティスト側が記憶するのは非常に困難。
そこで『SAND』の事務所では、すぐにアーティスト側の人間に事務所スタッフが誰であるのか分かるよう、わざわざアーティスト側のためだけに、このような目印バッチを義務化させたのだ。
つまり、今がいくら朝っぱらの時刻であろうが、イベントなどの最中で無かろうが。
事務所関係者の人間であれば、必ず何処か見えやすい場所に付けているはずなのである。
未佳達の見えやすい位置の、何処かに。
「付いてるんやったら~・・・、胸ポケットか襟ぐり辺りやよね?」
「たぶんね。・・・付いてたらどうする?」
「『退いて』って言う」
「だよねぇ~。むしろ退いてくれるわよね? たぶん・・・。私達を見たら・・・」
「今回一番重要な人物二人やし」
「そそっ。優先者、優先者」
なんだか少し強引すぎるような感じもしなくはなかったが、二人は『事務所関係者であれば』という考えを前提に、マッサージ機で眠っているであろう男性の前へと向かう。
そしてその男性の正体を見たと同時に、二人は『どうしてこうも予想が外れるのだろう』と、強く思った。
マッサージ機に座っていた人間は、やはり男性客。
しかしその胸や襟ぐりなどに、例の義務化されているバッチは何処にも見当たらない。
ならば『ただの一般の宿泊客なのか』と言えば、決してそういうわけではない。
この男は紛れもなく、自分達の事務所関係者である。
では何故バッチを身に付けていないのか。
答えは簡単だ。
ただ単に、“バッチを身に付ける必要のない人間”だったからである。
「・・・う、うそ・・・」
「また・・・?」
((・・・・・・・・・・・・))
「・・・どうする?」
「・・・やるしかないやないの」
「「・・・・・・・・・・・・」」
しばしお互いの顔を見合わせること数秒後。
二人は口の動きだけで『せー・・・のっ』と合わせると、同時にその相手に向かって叫んだ。
「「さとっちッ!!」」
「ッ?! わぁッ・・・!!」
ドテッ・・・!
二人があだ名を叫んだと同時に、マッサージ機の上で眠っていた男性改め。
長谷川はあらぬ大声を上げながら、まるで飛び上がるかのように椅子からズレ落ちる。
この時長谷川は、スマートフォンから流れる音楽をイヤホンで聴きながら眠っていたのだが、音楽自体が極小音であったこと。
そして、ちょうど曲のタイミング的に終わった直後であったため、かなり直下型に二人の叫び声が聞こえてしまったのだ。
二人の大声に驚かされた挙句、やや椅子からズレ落ちたような大勢にされた長谷川は、状況を把握するためにワンテンポ置いた後、素早く片耳のイヤホンを耳から外す。
「ビックリしたぁ~・・・。脅かさんといてくださいよ!」
「だって寝てるんだもん・・・」
「寿命縮むやないですかっ!!」
「そんな縮んだか縮んでないかなんて、人間死んだ後も分かんないでしょ?」
「せやせや。それにウチら全員、もう寿命は後半戦なんやから・・・。今更そないこと言うてもしゃあないやん」
「『今更そないこと言うても』って・・・。僕と小歩路さんの間には3年ものタイムラグがあるんっすよ?」
「あ~ら・・・。私なんて4年もあるけど?」
「・・・・・・・・・・・・ところでどうしたんっすか? こんな朝早くに・・・」
これ以上言い返すと埒が明かないと判断したのか、長谷川はそれ以上反論せず、何故未佳達がここにいるのかを尋ねる。
当然未佳側からの返答は『朝風呂』でしかないが。
「『どうした』って・・・。お風呂入り終わったついでに、昨日乗れなかったマッサージ機に乗ろうとしたんよ」
「せやけどさとっち占領しとったから、ほなら無理矢理退かそう思て」
「・・・・・・まあ『退かそう』はともかく・・・。な~んだ。お二方も朝風呂入ってたんっすね」
「えっ? ・・・ということはさとっちも??」
「うん。大体ー・・・、5時くらいに・・・かな?」
「「え゛ぇっ!?」」
その早過ぎる時間帯に、今度は二人の口から驚きの声が上がる。
そもそも長谷川は、そんなに早起きをするような人間ではない。
普段の事務所出勤時刻でさえ、いつも特別なことがある時以外は時間ギリ。
ましてや5時台での起床など、PV撮影の場でもないかぎりありえなかった話である。
「一体何を間違えてそんな時間に起きたん?! さとっち??」
「やっと外が春らしくなってきたのに、それじゃあイベントで赤い雪が降っちゃうじゃなーい」
「あ、あの・・・。そのさり気なく癇に障る感じの発言止めてもらえます? なんかソコソコ突き刺さるんっすけど・・・」
「でもよく起きれたわね。事務所でも『一度寝たら絶対に起きない!!』で有名なあなたが・・・」
「あっ、いや・・・。別に僕も起きたくて起きたわけじゃないんっすよ。ましてやあんな時間なんかに・・・」
「はぁっ? じゃあなんで起きたのよ?」
そう聞き返してみれば、長谷川はやや悲しげなジト目を未佳に向けると、たった一度だけ溜息を吐いて口を開く。
「目覚まし時計のアラームっすよ・・・。『リリリリリィ・・・ッ!!』って、5時ジャストにベッド近くのテーブルから鳴り響いて・・・」
「アラーム・・・あっ。あの部屋のデジタル時計のアラームね?」
「そっ。さすがに普段は目覚まし時計鳴ったら目ぇ覚ますようにしてたんで、アレのおかげでスッカリ目が目覚める感じに・・・」
「な、なるほど・・・」
「それですることも特になかったから、朝風呂に入ってたんやね?」
「でもなんでアラームをそんな時間にセットしてたのよぉ~?」
「んあっ?! 僕が?? ・・・んなことするわけないっしょ~っ!? あんなアホなほど早過ぎる時間に・・・! ・・・・・・ハァー・・・。ったく・・・、どっかの誰かさんのせいで、あんな時間に・・・」
「悪かったなァ。そんなアホな時間にセットしてて」
「も~う。謝るんやったらちゃんと面と向かって謝・・・・・・ぇっ?」
「さ・・・、さとっち・・・」
「後ろ・・・」
「・・・・・・・・・ハッ!!」
もはやこれは『地獄を見た』と言うべきか。
ふっと未佳と厘に指差された背後をゆっくりと振り向いてみれば、そこには3人と同じく私服姿になっていた手神が、メラメラと怒りの炎を燃やしていた。
もちろん、目元にはいつものトレードマークでもあるサングラスが掛けられていたが、そのド怒りオーラはサングラス越しにでもハッキリと伝わってくる。
そんな予期せぬタイミングでの手神の登場に、長谷川は思わずマッサージ機から立ち上がった。
「うわァッ・・・!! てっ・・・! 手神さんっ・・・」
「大体の会話は聞いたよ。長谷川くん・・・。その『どっかの誰かさん』って、僕のことだよね?」
「ぁっ! いやっ、そのぉ~・・・。それはー・・・」
「そうだよねぇ?! 長谷川くんっ!?」
「う゛・・・っ!!」
「手神さん、おはよう♪」
「おはようございます。手神さん」
「ん? ・・・あぁ、おはよう。お二人さん」
これが『人によって態度を変える瞬間』と呼ばれる場面であろうか。
つい今さっきまで長谷川にド怒りオーラ丸出しであったはずの手神が、未佳と厘の声掛けに対しては態度を一変。
いつもの皆が知っている優しい手神に戻っていた。
もちろん、あくまでもこの態度は『長谷川以外の相手に対してのみ』であるが。
「二人とも早起きだね~」
「えっ? いやいや」
「手神さん達には負けてまうよ。ウチら起きたの5時半前後やったもん」
「ハハハ、そうか。・・・じゃあ二人とも、もうお風呂は済んだのかな?」
「うん♪」
「まあ入ったのは、お互いバラバラだったんだけどね」
身かはそう手神に対して話すと、あの厘と偶然湯舟で一緒になった時の出来事について説明。
当然のことながら、手神はその『気難しそうな女性』の件辺りで、堪らず大爆笑していた。
「なるほど! 坂井さんが苦手な感じの女性にねぇ~」
「ウチは全っ然そないこと思ってなかったんやけど・・・」
「ところで手神さんも、やっぱり朝風呂目当てで起きてきたの?」
「もちろん。昨日栗野さんから聞いた露天風呂の絶景話が、あの後も頭の中から離れなくて・・・。どうせならお風呂が始まる時間に入ろうかなって」
「その手神さんの希望にもれなく巻き込まれたのが・・・、僕なんっすよ・・・」
ふっと手神に対して背を向けるように座りながら、長谷川は右頬に頬杖を付いて口を開く。
その格好や態度から予想するに、完全にヘソを曲げている。
するとそんな長谷川の姿を見て呆れ返ったのか、手神がこんなことを口にする。
「そんなに寝たかったんなら、あのまま寝てればよかったじゃないか~」
「んなっ・・・! 風呂入る用意でガサゴソ派手な音してる中で寝れますかいなッ!」
ここで長谷川が言うには、その例のアラームで叩き起こされた後、手神は大浴場へ出向くための準備をしていたそうなのだが、その時の音があまりにも五月蝿すぎ、結局二度寝するタイミングを逃してしまったのだという。
ちなみに手神は基本、重要なこと以外の用意はすべて、ぶっつけ当日に行う性格である。
「やれ『タオルの換え何処だ?』とか『靴下下の方に詰めたかな?』とか・・・。んな一々独り言みたいに呟いてたら、そりゃ寝られないっすよ!」
「・・・・・・まあ君のギターを部屋に置いてやってあげてるんだから、あんまり僕に対しての文句は言えないよな? 長谷川くん」
「うわっ・・・・・・ここにきてめっちゃ痛いトコ突いてきたわ。手神さん・・・」
「ねぇ~? ところでこのマッサージ機空いたんなら、私達座ってもいい~?」
ふっと、本来のここへやってきた目的を未佳が伝えてみると、長谷川は一瞬だけ嫌そうな表情を向けたが、すぐに『どうぞ』と、右手だけをかざして場を譲る。
どうやら、昨夜この二人が乗れずにいたということを思い出したらしい。
長谷川が離れたことで両方のマッサージ機が空いたので、未佳は先ほど長谷川が乗っていた左側の。
厘はその右隣にある方のマッサージ機に、身を落ち着かせた。
「「ふぅ~・・・」」
「機械やけど、肩揉んでもらうの久しぶり」
「ついでに足とかもやってくれるしね~。はぁ~・・・。快適~。極楽♪」
「ホンマに二人とも、昨日はズルいよ? ウチら1回も乗れんかったのにー・・・」
「ははは・・・。ごめん、ごめん」
「さとっちに関しては2回も乗ってるし・・・」
「・・・そらどうもスミマセンでしたっねっ!!」
「全然謝ってなーい!」
その後二人はマッサージ機に乗りながら、未佳は手神達とそれぞれの露天風呂絶景について、その会話に花を咲かせる。
そしてある程度まで話しをしていたところで、ふっと厘がこんなことを言い出した。
「なんか喋ってたら喉渇いた・・・」
「あっ・・・、そうね。考えてみたら私達、お風呂上がりに何にも飲んでなかったかも・・・」
「そういえば僕達も・・・。あの後何か買って飲んだ?」
「僕? いいえ、何にも・・・」
「じゃあ・・・、みんなであっちの自販機に行こっか」
「ん? ウチはここから動かへんよ?」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
その瞬間3人の中に、何とも言えない微妙な空気が漂い始めた。
「・・・・・・じゃあ・・・、誰かが全員の分を買ってくる感じか?」
「あっ。私も今はマッサージ中だからパス」
「!! 坂井さん、このタイミングでっ・・・!?」
「いや、待て長谷川くん・・・。普通こういうのは、男の僕達が気を利かしてやるものだろう? ん?」
「それじゃあ完全に女王アリに付いてる働きアリやないっすかっ!!」
「ちょっと?! なんでよりにもよって例えが『アリ』なのよ!!」
一応そのようないざこざはありはしたが、その後手神と長谷川は話し合い、どちらか一方が、自販機でドリンクを購入しに行くこととなった。
そしてその際、買い出しに出向く人間を決める手段として上がったのは、やはりCARNELIANメンバー定番の、あのジャンケンである。
「じゃあ、一回勝負で」
「はいはい」
「あっ・・・・・・。ねぇねぇ、さとっち」
「ん・・・?」
「ちょっと、ちょっと・・・」
ふっとこちらに向かって手招きをする未佳に、長谷川は額に『?』マークを浮かべながら近付いてみる。
すると未佳は、手神には聞こえぬようにしながら、長谷川の耳元でこう囁いた。
「一発目・・・。ぜぇ~ったいに『グー』は封印して!」
「えっ・・・?」
「手神さんは十中八九、一発目が『パー』の人だから・・・。またグー出すと負けるよ?」
「・・・マジすか? その情報・・・」
「ホント、ホント。小歩路さんはいつも気分次第だから読めないけど・・・。手神さんはチョキ出せば“楽勝”だから」
「『楽勝』って・・・・・・よっしゃ! んじゃちょっとやってみる!!」
その未佳からの裏攻略も聞き、長谷川は手神の前へ。
途中、手神に『何を話してたの?』と尋ねられたが、長谷川は『いいえ、なんでも』と、適当に誤魔化した。
そして、運命のお決まりジャンケン。
「んじゃ・・・。せーのっ」
「「カァーネリアンッ!!」」
「・・・えっ?」
「ん? ・・・・・・あっ!」
ジャンケンの結果、手神は未佳が予想していた通り、パーの手を。
そして長谷川は、未佳からの裏攻略を信じ、チョキの手を。
『パーVSチョキ』となったこのジャンケンは一投目にして、未佳のアドバイスを信じた長谷川に、勝利の軍配が上がった。
それも実は今回、長谷川がメンバーの誰かにジャンケンで勝利するのは初めてのこと。
当然、その結果を目の当たりにした手神の驚愕っぷりと、長谷川の興奮度は尋常ではなかった。
「な・・・、何っ?!」
「やっ・・・、やった・・・! ぼっ、僕が勝った・・・。手神さんに僕が勝ったっ!!」
「え゛ぇっ!? さとっちがジャンケンに勝ったの?! 今日グー出さへんかったんっ?!」
「あ、あぁ・・・。いつもは絶対にグーのはずなんだけど・・・。どういうわけか今日はチョキを・・・」
「そんなことって・・・」
この長谷川のチョキ出しに、手神と厘はただただ喜ぶ長谷川を見つめるばかり。
そしてそんな二人の死角になるような位置で、未佳は『よしっ!』と、ガッツポーズを決めていた。
もちろん死角の位置なので、手神と厘には一切見えはしないが。
「やった~・・・。僕、メンバーの誰かにジャンケンで勝つの、初めてっすよ!? やったぁ~! やったぁ~!! めっちゃ嬉しい~♪♪」
「悔しいなぁ~・・・。でも仕方ないか。じゃあ、僕が買ってくるよ。みんなご注文は?」
「じゃあ私ストレートティー♪」
「ウチ、緑茶」
「僕はCOKE! 0カロとかレモン無いやつで♪」
「はいはい・・・。じゃあ僕は“レイコ”にでもするか」
「「「・・・・・・・・・」」」
ズルッ・・・
「て・・・、手神さん・・・。『レイコ』やなくて『冷コー』です・・・」
「えっ? ・・・あっ、そっか」
「言えないんやったら普通に正式名称でええやないっすか~」
「いや、だって・・・。1回くらい言ってみたかったんだもん。ハハハ・・・」
「も~う・・・」
ちなみに今手神が言い間違えた『冷コー』とは、関西方面の呼び名で『アイスコーヒー』のことである。
『付き合い』
(2008年 4月)
※東京のとあるカウンター寿司。
みかっぺ
「みんなお茶いるー?(尋)」
栗野
「あっ、お願いしまーす」
厘
「みかっぺ、ウチもー♪」
手神
「僕のも一つ」
みかっぺ
「さとっちはー?」←(抹茶粉末投入中)
さとっち
「あっ、僕はいいや(サラッ) 僕はそれよりも・・・」
手神
「何? 何かお酒呑むの??」
さとっち
「うん・・・。なんかしばらく仕事ないっぽいから、久々に呑もうかなって・・・」←(ドリンクメニューガン見(爆))
手神
「何を?」
さとっち
「う~ん・・・(悩) お供が寿司やからなぁ~・・・。日本酒・・・とかかなぁ~?」
手神
「熱燗とかは? だったら僕付き合うけど?(ニヤッ)」
さとっち
「(ニヤッ)・・・いきます?(笑)」
手神
「いっちゃう??(笑)」
さとっち
「熱燗男二人酒(笑)」
さとっち・手神
「「イエ~イ・・・( -о-)人(-о- )」」
みかっぺ
「コラァ~( ` ´) 成人式迎えたばっかりの大学生みたいなことやんなーい!(叱)」←(4人分のお茶入れ中)
さとっち
「おっ・・・と(汗)」
手神
「怒られちゃった・・・(苦笑)」
さとっち
「ハ、ハハハ・・・(苦笑)」
みかっぺ
「ついでに店員に『お猪口3つ』言うといてー!!(注文)」
さとっち・手神
「「ゴンッ!!(打) Σ0(__)0 Σ0(__)0」」
厘
「みかっぺ! 酷い!!」
みかっぺ
「・・・エッ?!Σ(゛◎□)」
厘
「ウチも熱燗呑みたいんにっ!!(涙目)」
みかっぺ・さとっち・手神
「「「ズルッ・・・!(滑)」」」
みかっぺ
「熱っ・・・!!Σm゛(@□@゛)」
手:すみませーん! 熱燗2つにお猪口4つー!(汗)
長:それと氷入りのお冷くださーい!!(慌)
おい、アンタら・・・(orz)