88.長い一日の終わり
午後8時過ぎ。
ディナーバイキングを始めてから早1時間半ほど経った頃。
全体の1/3が食事を終えて会場を退出する中、未佳達4人とスタッフ十数名は、未だにバイキング会場のテーブルに残っていた。
と言っても、既に大半の人間はあらかたの食事が済んでおり、今は昼休み程度に雑談をしているだけのことである。
なのであと数分もすれば、とりあえずここにいるスタッフの人達の半数は宿泊部屋か、あるいはミーティングを行う予定の場所へと移動していくだろう。
しかしそんな中、一番奥のテーブルに座っていた未佳は、未だにトレーいっぱいに運んできたデザートを堪能していた。
「う~ん♪ 美味しい~♪♪ もう一回行ってこよ~っと」
「えっ?! 未佳さん、まだ食べるんですかっ!? さっきあんなにデザート持ってきてたのに・・・!」
「だって足りないんだもん・・・。甘いものは別腹よ。べ・つ・ば・ら♪ なんかいくらでも入っちゃうような気がす~る♪♪」
そう言ってオレンジゼリーの最後の一口を頬張る未佳に、栗野はやや呆れたように額に右手を当てながら『ハァ~・・・』と、溜息を吐く。
別に栗野自身も、普段は出掛け先などでスウィーツを食べたりしている人間なので、特に未佳の『スウィーツ好き』が分からないわけではない。
しかし、さすがに先ほどあれだけの量の料理を食べた後だというのに、この大量のデザートが一つ胃の中に納まるというのが、栗野にはまるで信じられないのだ。
しかも当の未佳はそれではまだ足りず『甘いものは別腹だから♪』と言って、もう一度デザートを取りに出向こうとしている始末。
以前何かのテレビだか雑誌だかで『「別腹」とは、脳が「食べたい!」という指令を胃の方に発することにって、速急に胃の中に空きスペースを作る体内効果のことである』と言っていた。
つまり今現在、未佳の胃の中ではこのデザートのためだけに、これまで食べたものの消化スピードをフル稼働させている、ということになる。
「でもメインの料理もそんなに食べてなかったわけじゃないし・・・」
「ん? ちゃんとディナー食べたよ? 私・・・。栗野さんも見てたでしょ?」
「う~ん・・・・・・。本当に相変わらずよく入るわねぇ~。私とは肺活量も胃袋も違うわ・・・」
「えっ? ・・・ハハハ」
その栗野の発言に思わず笑い出す未佳だったが、それは未佳自身もまったく同じ感想である。
というのも今から7年ほど前。
つまりデビューしてから3年ほどの頃までは、未佳はライヴ前日などでの食事が一切としてできなかった。
食事ができなかった理由は、極度の緊張感により、食べ物が喉を通らなくなっていたため。
さらにその他にも、メディアに出る前日などでは極度の不眠が続いたりと、何かと栗野の手を焼かしたりしていた。
それが今では、逆にリラックスし過ぎて栗野を呆れかえさせてしまっている。
そのことが、今の未佳の中では一番の自身の変化だ。
(ホント・・・。前はほとんど食べられなかったし・・・。おまけに顔も頑なってて眠れやしなかったのになぁ~・・・)
「まあ坂井さんもだけど・・・」
ふっとそう横目で口にしながら、手神は自分の斜め左前の席に座っていた長谷川に目をやる。
この時長谷川は、未佳と同じくデザートコーナーで取ってきたケーキや、和菓子。
さらには手作り感満載のチョコバナナパフェなどを、これまたさぞ幸せそうに口いっぱいに頬張っていた。
ちなみにここのデザートコーナーには、誰でも簡単にパフェやソフトクリームが作れるよう、本格的なソフトクリーム機などがコーナーの一角に設けられている。
特にパフェなどに関しては、定番のアイスや生クリームの他に、土台として使われるコーンフレークはもちろん。
パフェでは欠かせないフルーツや洋菓子などのトッピング、さらにはチョコやキャラメルなどのソース各種など。
ありとあらゆる材料が豊富に取り揃えられているのである。
当然今長谷川が食べているこのチョコバナナパフェも、先ほど長谷川自身がそのコーナーで作ってきたオリジナルデザートだ。
「しかし・・・。長谷川くんも、よくそんな甘いものが食べられるよなぁ~・・・」
「・・・ん?」
「そのパフェだよ。パ・フェ」
「ん・・・、あぁ~。コレっすね?」
ちなみに長谷川の作ったチョコバナナパフェは、土台部分をコーンフレークで敷き詰めた上に、輪切りバナナやアイススプーンですくい取ったチョコレートアイスを1個。
続いてその上から、たっぷりの生クリームやチョコレートソースなどの他に、これまた輪切りバナナを容器の縁に立て掛けるように数切れ。
さらにその上から、今度は『チョコスプレー』という、長細く小さなトッピングチョコレートをまぶし、チョコフレークや砕いたナッツなどを適量。
そして最後に、パフェではほぼシンボル的存在ともなっているチョコポッキーを、やや斜めに1本だけ突き立てて完成という、何とも本格的なもの。
その何とも『素人』にしては完成度の高い長谷川のパフェに、最初は未佳達もただただ目を疑い。
栗野に至っては『絶対に本業間違えてる!!』と、思わず呆れ返りながらそんなコメントを口にしてしまったのだが、そんなパフェも、今ではあと1/4を残すのみ。
しかもその残っている部分というのが、溶けたアイスが少量だけ掛かっているコーンフレークという、もはや朝に食べているシリアルの一種、のような感じである。
そんな大量にあったパフェをほぼペースを落とさずに頬張り続ける長谷川に、手神はやや不思議そうに尋ねた。
「そんな生クリームたっぷりの食べてるけど・・・、胃凭れとか特にしないの?」
「ん? 『胃凭れ』?? ないっ。ないっ。ないっすよ~、そんなの・・・。むしろいくらでもイケちゃいます」
「そ、そうなんだ・・・」
「はい。~♪ ~♪♪」
「・・・幸せそうだね」
ふっと嬉しさのあまりついつい鼻歌を歌い出す長谷川に、手神は何処か優しげな目で見つめた。
しかし、そんな長谷川がかなりのスウィーツ好きであるということを知ったのは、実は極最近になってからのことである。
むしろそれまでは、長谷川は甘いものが苦手な人間だと勘違いされていたのだ。
何故なら。
「でも私、初めてさとっちがスウィーツ好きって知った時、正直すっごいビックリした・・・。だって何にも言わないし、興味示してもいなかったんだもん!」
「未佳さんへのプレゼントでお菓子が出てきた時も、特に自分で欲しがったりしなかったですもんね」
「そう! だから私てっきり『この手のものは嫌いなんだ』って思ってたの・・・。そしたらこの人『ホンマはめっちゃ好き!!』って・・・!」
ちなみに長谷川がスウィーツ好きであることを知ったのは、今からざっと8年ほど前。
たまたま未佳が栗野からスウィーツバイキングへのお誘いを受け、その話題を何気なく長谷川に談話。
するとその話を聞いて妙に羨ましく感じたのか、今まで伏せていた事実を自らその場でカミングアウトし、この事実が発覚したというわけである。
「でもなんでずっと隠してたりなんかしてたのさぁ? 長谷川くん・・・。そんなのわざわざ隠すようなことなんかじゃないだろう?」
「いや、だって・・・・・・。『男でスウィーツガッつく』って・・・、めっちゃ周りから変な目で見られるから・・・。とにかく気になるんっすよ! 周りの視線が・・・」
事実長谷川には、その手の体験を実際に何度も受けたことがあった。
学生時代に男子数人でファミレスへ立ち寄った際、デザートを注文したのは長谷川だけ。
その後家族でファミレスに出向いてみれば、何故か注文したのは自分なのに、そのデザートは母の前に置かれ、自分の前には母の頼んだほうじ茶が置かれる。
『ならば!』と一人で出向いてみれば、ややデザートを運んできた若い店員に妙な視線を送られ、オチオチ味わうこともできやしない。
そこで最終的に長谷川が辿り着いたのは、近所のコンビニに設けられているデザートコーナーのスウィーツ。
さらに最近では『スウィーツ系男子』なる言葉も流行りになっていた関係で、各コンビニでは『男』や『俺』などと言った、男性を指し示す単語が頭に付くスウィーツが多く出回り始め、まさに長谷川には『ついに甘いもの好きが恥ずかしくない時代がやってきた!』と思っていた。
しかしいざコンビニに足を運んでみれば、大体のスウィーツ系男子向けのスウィーツが、まさかのフルーツ・シロップ無し。
『スウィーツ系男子は生クリームが好き!』という定義こそ合っていたものの、その結果並んでいたのはほぼ生クリームオンリーのスウィーツ。
さらに同じシリーズのプリンにいたっては、一部『キャラメルソース無し! Allプリン♪』などという、もはや生クリームに近付けるためだけの偽プリンまで登場し、長谷川は自分が予想していたものと大きく違っていたこの結果に、思わずその場で落胆。
その後『こんなに違うのなら・・・!』と、普通のコンビニデザートに手を伸ばしてみれば、やはり周りから妙な視線の刃で背中を突かれる。
そんなこんなで好きにスウィーツを食べられなかった長谷川は、何の気無しにその手のものが頬張れる女子の姿が羨ましく。
またその一方で、少々妬ましくも思っていたりしていた。
何故『男』ということで、周りからこんな目を向けられなければならないのか。
『男』が女子の好き好みそうなスウィーツやデザートを食べてはいけないのか。
そんな差別意識ありまくりの世間に苛立ちを覚え始めていた頃。
未佳が例のスウィーツバイキングの話題を振ってきたのは、まさにそんな時だった。
「そしたら坂井さんが『栗野さんからスウィーツバイキングのクーポン券もらった♪』って、言ってて・・・」
「それで全部を話したわけだ?」
「・・・うん。『いいなぁ~』って思って・・・」
そのさぞ羨ましすぎる話に、長谷川は改めて、女子の特権を目の当たりにしたように感じた。
そしてその虚しさと悔しさから、今まで自分で隠していた事実を未佳にのみ告白。
もちろん最初は、たった今本人が自分で言っていたように驚いてはいたし、さらには信じられな過ぎたせいか『冗談なんでしょ?』と、こちらに疑いの眼差しまで向けていた。
しかし詳しくその頃まで隠していた理由について話してみれば、未佳は最初の反応とはまるで違う表情で、それこそ親身に長谷川の話に耳を傾けてくれたのだ。
そして全ての事情説明した後、未佳の口から開口一番に飛び出してきた一言は。
「そしたら坂井さん・・・! いきなり僕に対して『だから何?』って・・・!」
「えっ?!」
「なんかめっちゃキツい感じの睨み目で聞き返してきて・・・! こっちはかなり暗い気持ちで必死に話してたのに、ですよ!?」
「だってぇー! 私その話聞いた時『すっごいくっだらなーい!!』って思ったんだもん!!」
「くだっ・・・」
その瞬間、思わず話を聞いていた栗野と日向の口から、一斉に大きな笑い声が起こった。
そんな二人の笑い声にギョッとする長谷川を尻目に、未佳はあえて二人に指差しながら聞き返す。
「二人ともそう思うでしょ?! 別にそんなの『相手に勝手に思わせておけばいい』とかさぁ・・・!」
「ですよねぇ~?」
「ねぇ~? 別にそんなの、そこまで恥ずかしがることじゃないじゃない?? だから私『だったら一緒にスウィーツバイキング行こうよ!』って、当日さとっち強制的に引っ張ってって・・・」
「「「アッハッハッハッ!!」」」
ちなみにそのスウィーツバイキングの参加者は、未佳や長谷川の他に、クーポン券の持ち主でもある栗野。
さらに事務所スタッフでもある日向も参加していたので、当日は女3男1という、何とも珍しい成人男女での組み合わせで入店することになったのである。
「・・・で。それからですよね?」
「あっ? 何が??」
「私のところにクーポン情報がやってくる度、長谷川さんと4人組ケースになったの・・・」
「あぁ~・・・。そうね」
「いつも御馳走になってます♪♪」
「えっ? でもさ・・・。『スウィーツバイキング』って、結構するんじゃないの? よく僕の兄家族が行ったりするみたいだけど、なんかかなり高そうだったよ?」
確かに手神がそう口にした通り、一般的なスウィーツバイキングの料金は、一人あたり1200円~2000円ほど。
しかもそれが成人の場合ともなると、決して安い額とは言えない。
それは未佳達が普段行っているところも同じで、4人が出向く店は一人あたり1800円。
仮に栗野がクーポンを持っていたとしても、割り引きの値段としてはたかが痴れている。
しかし未佳達には、毎回クーポンがやってくる度に出向ける、ある秘策があったのだ。
「確かに栗野さんだけのクーポンで行くと~・・・。大体大きくても10%くらいしか安くならないんで、一人あたり1620円ってところですかね?」
「と・こ・ろ・が! そこにさとっちが加わると、すっごい料金安くなるのよ!! 『メンズ特典』適応で。ねっ♪」
「そそっ。・・・まああの特典は『男はスウィーツを食べない』っていう定義の元のやつからなんでしょうけど」
実はそのスウィーツバイキング店では、バイキング参加者に成人男性が一人参加している場合『メンズ特典』というその店独自の特典が適応され、料金が30%割り引きになるのだ。
さらにその他にも、長谷川が加わったことによって適応された特定はまだまだある。
「あと・・・! 成人者が4人以上だと、追加で200円引き+時間制限無し! おまけに全部併用可能っていう」
「えっ!? ちょっと待って・・・。それじゃあ最初が1800円だからー・・・。全部合わせると、一人あたり1150円っ?!」
「って思うでしょ?? でもね。ソレには効率のいい順番があるのよ~」
そう言うと栗野は、やや手神に対し『公には秘密ね?』と口止めしながら、その秘策の内容について説明し始めた。
「あそこのお店って、最初に全部の料金を払っておくんだけどー・・・。一回クーポンとかで料金下げてもらうと、その上からドンドン下げてくれるシステムになってるのよ」
「・・・えっ??」
「だからね? 最初にお店に入った時に数人聞かれるから、もうそこで4人特典適応じゃない? それで1600円」
「うん・・・」
「その後私がクーポンを出すと、1600円から10%引きしてくれるのよ」
「あっ・・・。全部足すんじゃなくて、その上からなんだ」
「そうなの。だからそれで1440円」
「・・・・・・ってことは、まさかー・・・」
ふっとあらかたの予想が付いたのとほぼ同時に、長谷川と未佳が右手を上げながら手神に叫ぶ。
「そう! その忘れた頃に、僕にゅーて~ん♪♪」
「『すみませーん! メンズがここに一人いまーす!!』・・・みたいな?」
「そうそう! 『早よ、30%引けやぁー!!』みたいなね」
「「ハハハハ!!」」
こうして再び意気投合しながら笑い出す未佳と長谷川に、手神はやや苦笑しながら米神を人差し指で掻く。
ちなみに先ほどの代金に長谷川の割り引きが加わると、一人あたりの金額は1440円から960円。
なんとたった3桁の数字になってしまうのだ。
「えっ!? そのお店、そんなんで儲かってるの?!」
「さぁ? でもあそこ、スウィーツ以外のもののバイキングもやってますし・・・。結構ディナーバイキングでは値が張るみたいですよ?」
「それに、ほら。普通成人の人間が4人も揃うことなんて滅多にないじゃない?? 子供連れの場合だと『ファミリー割り引き』にされちゃうし・・・」
ちなみに『ファミリー割り引き』の料金は、全体の金額から15%引いた額。
つまり『メンズ割り』とは、特典の金額が半減してしまうのである。
「だからあまりいないのよ。特典適応者が・・・」
「でも・・・。よく知りましたね。そんな裏技割り引き用法・・・」
「あっ・・・! でも、コレ。単なる突然で知ったやつだから・・・」
「ぐ・・・『偶然』?」
「そう。偶然・・・」
実は最初の頃、未佳達はその『メンズ特典』というものの存在や、徐々に上から割り引きを重ねていく形式であるということをまったく知らずに、その店に入店したのだ。
そしてその際、先に店内に入っていた栗野と日向が、人数報告とクーポンを提示し、そのお店の割り引き制度を初確認。
それだけでもかなりの収録だったのだが、その後女子に混ざって入店するのを拒み続けていた長谷川が、未佳によって無理矢理店内に入店。
するとまたしても適応制度が見つかり、結果、このような信じられない裏割り引き方を知ったというわけである。
「へぇー・・・。長谷川くん、何気に役立ってるんだ」
「そうなんっすよ。いやね、最初は女性陣と混ざって行くの、抵抗感めっちゃありまくりだったんっすけど・・・。この制度を知ってから、妙にそこのスウィーツと料金が美味しく見えてきて・・・」
「「「「ハハハハ」」」」
「んじゃ。僕も坂井さんと同じくもう一回・・・」
コテッ・・・
「ん?」
ふっと、再びデザートコーナーに向かうと席を離れようとした長谷川の左肩に、突然何かが寄り掛かってきた。
一応声を上げるほどの重さではなかったのだが、長谷川はすぐさま自分の左半身に視線を向けてみる。
そしてそこに映り込んだ光景に、思わず目が点になった。
「さ・・・、小歩路・・・さん?」
その左肩に寄り掛かっていたものは、長谷川の隣で食事をしていた、あの厘だった。
しかも厘は、長谷川の左肩と左首元に頭を乗せるようにして、その大きな両の目を閉じてしまっている。
その姿に『もしや・・・』と思い、長谷川は再度厘に対して声を掛けてみたのだが、案の定、返事は返ってこなかった。
「うわっ、嘘やろ~・・・。小歩路さん寝てしもてるやぁ~ん・・・!」
「えっ・・・・・・」
「えぇっ? 嘘っ!? ホント?!」
「ほら・・・」
そう口にしながら、長谷川は顎先で厘の顔の方を『んっ』と指し示す。
その動作にやや釣られるようにして、手神はゆっくりと厘の顔の辺りを覗き込んでみた。
確かに瞼を閉じている厘の顔は、もう既に完全な眠りについてしまっているらしい。
さらによくよく耳を澄ましてみれば、そんな厘の顔の辺りからは微かに『スー・・・スー・・・』という、小さな寝息まで聞こえてくる。
「本当だ・・・。本当に寝てる・・・」
「嘘っ・・・!」
「ほ~らね?」
「もーうっ! 厘さぁ~ん・・・!! だから途中の新幹線とかで寝ておいてって言ったのに・・・!」
「あっ・・・。そういえば小歩路さん。移動中ずっと起きてましたもんね・・・」
だが厘がここで眠ってしまったのは、その新幹線などの移動中に仮眠を取っていなかったことだけが原因ではない。
実は厘にはもう一つ、ここで眠ってしまった要因があるのだ。
「そういえば小歩路さんって・・・。いつも8時には寝てるんじゃなかったっけ?」
「えっ?」
「ほら。早寝早起き人間だから・・・。確か夜の8時くらいには寝て、深夜の3時くらいに起きてるんじゃなかったっけ?」
「・・・あ゛っ! そうや! 消灯時間っ!!」
「「「「わっ・・・!!」」」」
ふっとその内容を思い出したと同時に大声を上げる長谷川に、4人は慌てて身を乗り出しながら口元に人差し指を立てる。
シー・・・ッ!!
それと同時に発したその声で、長谷川もハッと気が付いたのか、自分の口元を両手で覆いながら横を向く。
幸いにも、まだ厘は長谷川に寄り掛かったまま眠っていた。
「「「「「・・・・・・ハアー・・・」」」」」
「よ・・・、よかった~・・・。起きなくて・・・」
「もうっ! なんであんな大きな声出すのよ!」
「すみません・・・。思い出したと同時に声が・・・・・・。ところで僕はこの後どないすれば??」
何度も言うが、厘は長谷川の肩に寄り掛かりながら眠っている。
つまり当分の間は、再びデザートコーナーへ出向くことも、自分が今回宿泊している部屋に戻ることもできないのだ。
「そうねぇ~・・・。部屋にはー・・・あと20分くらいで帰らせようと思ってたんですけど・・・」
「じゃあ小歩路さんをあの体勢のままにしておくのも、あと20分くらいですね?」
「ちょっ・・・、ちょっと待ってや! ってことは僕・・・! それまでここ動けへんってこと?!」
「そりゃそうですよぉ~。厘さん寝ちゃってるんですから・・・」
そうさぞ当たり前であるかのように口にする栗野に、長谷川は思わずその場でガックリと項垂れた。
本当はもう一周ほどデザートコーナーを見たかったというのに、どうやらそれは叶わぬ願いのようだ。
「そんなぁ~・・・。ぐすん・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・もうっ、しょうがないなぁ~・・・。じゃあ私が何かついでに取ってくるよ」
その瞬間。
下を向いて項垂れていた長谷川が、ハッと顔を未佳の方に向ける。
「ホンマに? ・・・マジで??」
「・・・どうせティラミスとマンゴープリンとガトーショコラでしょ?」
「♪ ありがとうございますっ! めっちゃ嬉しい♪♪」
「やれやれ・・・。あっ・・・。でも残り最後の1個みたいなのは、全部私がもらうからね?! そこのところはちゃんと弁えてよ!?」
「ゲッ・・・!」
まるで『取ってくるからには』と言った感じの条件に、長谷川は渋々厘を支えながら了承する。
しかしいざ未佳がデザートコーナーへ出向いてみれば、置かれていたスイーツの量はそこまで少なかったわけではなく。
結局長谷川に出した条件は決行されぬまま、未佳達はデザートのお代わりを終えたと同時に、ディナー会場を後にした。
「ふぁ~・・・。疲れたー・・・」
寝る前の下準備も一通り済ませ、未佳は浴衣姿のまま、ベッドの上へバサリッと倒れ込んだ。
思い起こしてみれば、今日は朝からエレベーターが動かなかったり、長谷川や手神達が改札でトラブルを起こすなど、かなり色々なことがあった一日であった。
「・・・・・・本当に忙しくなるのは明日なのに・・・」
〔大丈夫? 明日のイベント・・・〕
さすがのリオにまで心配され、未佳はゆっくりとした動作でリオの方を振り返る。
「大丈夫。私、こういう時の回復は早いから・・・」
〔・・・そう?〕
「うん・・・。じゃあ明日も早いから、もう寝るね? お休み~・・・」
未佳は最後にそう言うと、枕元に置かれていたライトスタンドのスイッチを、軽く右手で『パチッ』と、押した・・・。
予約死亡期限切れまで あと 164日
『写メール』
(2004年 10月)
※東京 イタリアン料理店。
みかっぺ・さとっち
「「いっただきまーす♪♪」」
栗野
「はいはい、どうぞ~」
みかっぺ
「わぁ~♪♪ このペスカトーレ、すっごく美味しそう! 海老も大っきい!!(笑顔)」
栗野
「そりゃあー・・・。ここはそこそこのお値段のイタリアンですからね」
さとっち
「でも・・・。なんか僕らだけ夕食でいいんっすかね? こんな美味いもん食べてて・・・(苦笑)」
栗野
「な~に言ってるんですか~。長谷川さ~ん・・・。今日は朝からラジオ3本、未佳さんと一緒に頑張ってたんでしょう? コレは今日の頑張りのお祝いなんですから・・・。そんなに気にすることないですよ」
さとっち
「でも手神さんと小歩路さんもいないし・・・。ちょっとズルいような気も・・・(^^;)」
みかっぺ
「! あっ、そうだ! 皆に写メで料理送ろっと♪」
栗野
「あっ・・・。じゃあちょっと私、撮影の許可を・・・(動)」
さとっち
(いや、なんか・・・。それもどうかとは思うんすけど・・・(汗))
※2時間後。
みかっぺ
「美味しかったね♪ デザートのケーキ(^^)」
栗野
「もうお腹いっぱい(笑) あっ。私車持ってきますね」
みかっぺ
「あっ、はーい」
さとっち
「・・・ん?」
※ふっと、携帯が点滅していることに気付くさとっち。
さとっち
(メール? そういえばずっとマナーモードにしとったもん・・・なんや? 二通もきてる・・・)
ピッ!
※一通目。
From 坂井未佳
To 小歩路厘
手神広人
Sudject 東京にて♪
長かったラジオ収録。
何とか3つとも終わったよ
~v(^^)v
(疲れたー・・・(ヘトヘ
ト))
というわけで、本日のご褒
美夕食はこんな感じ♪♪
めっちゃ美味しそう!!
(@°▽°@)♪
いっただきまーす(^0^)
(ペスカトーレ写真添付)
※二通目。
From 坂井未佳
To 小歩路厘
手神広人
Sudject 完食~♪
ペスカトーレ完食~♪
v(*^^*)v
でもまだお腹に空きがある
から、デザート頼んじゃお
っかな(笑)
(とか言って太ったらどう
しようもないけど・・・(
汗))
明日夕方辺りにそっちに戻
りまーす♪
(ペスカトーレ完食写真添付)
さとっち
(あの・・・・・・僕ずっと隣で同じの食べてたんですケド?!(爆) 一斉送信する前に確認しろや! ソコ!!(orz))
とついでにだけど・・・。
このメール、誰か送信してくれたんだろか・・・(乙)