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85.1.1センチの壁

大浴場での入浴後。

6人はディナーバイキングを行っている会場へと向かいながら、それぞれの大浴場でのエピソードに、花を咲かせていた。


「えっ? 『電気湯』?」

「そう! なんか電気が通ってるお風呂みたいで、中に入った瞬間に、お湯の中から『ビシッ!』って・・・。アレ地味に痛かった~・・・」

「でも『お湯』で『電気』って、感電しないんっすか?」

「よく『水は電気を通す』って言うしね」

「う~ん・・・。その辺のところはよく分かんないけど・・・。とにかく痛かった」

「・・・って、なんやさっきから妙に二人感心して聞いとるけど・・・。さとっち達のお風呂には『電気湯』なかったん?」


ふっと未佳のお風呂話を興味あり気に聞いている二人が気になったのか、厘が未佳の左肩から顔を覗かせて尋ねる。

すると意外なことに、二人はその厘の問い掛けにコクリと頷き返してきた。


「僕達のお風呂にはありませんでしたよ? 『電気湯』なんて・・・。ねぇ?」

「うん。一応珍しいのはあったけど・・・」

「エッ!? なかったの?!」

「「・・・はい」」

「じゃあ・・・、ウチらとお風呂の種類が違うんやない?」


そう口にする厘に、未佳はふっと指を折りながら、自分達の方にあったお湯の種類を思い出す。


女湯に設けられていたお風呂は、美容効果のあるヒノキ湯と乳湯。

血の巡りや老廃物など、健康面に効果のある電気湯と泡風呂と立ち湯。

そして一番人気でもある、絶景の眺めが印象強い露天風呂の6つ。


しかし一方の男湯の方は、お湯の数が6つであったことは同じであったものの、その種類は多少異なっていた。


「そっちはどんなお風呂があったん?」

「え~っと、こっちはー・・・。ヒノキ湯と立ち湯と露天風呂と・・・。あと泡とー・・・」

「ここまではウチらと一緒やね」

「うん」

「あと“赤土湯”と“岩塩湯”・・・。だったっけ?」

「・・・うん。確かそうだったと思う」

「まあ、僕らはこんな感じっすね」


そうサラッと言い切る長谷川に、未佳と厘は一瞬だけ、お互いの顔を見合わせた。

何やら自分達の方で出てこなかったお風呂と、聞き覚えのない名前のお風呂が2つある。


「『こんな感じ』って・・・、えっ!? 『電気湯』と『乳湯』がなーい!」

「ちゅうか『赤土湯』と『岩塩湯』って何?!」

「えっ? ・・・そっち逆にソレがなかったんすか??」

「う、うん」

「ウチらのところにはあらへんかったよ? そんなお風呂・・・」


二人がそう口を揃えて返事を返すと、長谷川はその返事にやや残念そうな表情を浮かべて口を開く。


「えぇ~・・・。あの二つ、結構お湯的にはよかったんやけどなぁ~・・・。なんか赤土は体力回復効果で・・・。岩塩はドロドロの血液をキレイにする効果とかって・・・」

「へぇー・・・。そうやったんや~・・・」

(まあ・・・。そのお風呂なら私も、ああはならずに済んだのかも・・・)


ふっと未佳の脳裏に、先ほど電気湯でひたすらのた打ち回っていた自分の姿が過る。

今の長谷川が言っていたお湯の種類であれば、確かに身体を反り返してまで、パニックになるということはなかっただろう。


もっとも名前から連想できるお湯の原料や特徴などを考えると、はたして自分が入ろうと思ったかどうかは疑問であるが。


「ところでそっちの『乳湯』って・・・。それって俗に言う『牛乳風呂』のこと?」

「あっ、うん。そう。美肌・美白効果のある乳液風呂のことなんやけど・・・」

「もしかしてここ・・・。男性と女性の好みとか用途に合わせて、中のお湯の種類変えてるのかな?」


ふっと未佳の口から出てきたその予想に、他の3人もやや納得げな表情を顔に浮かべる。


確かに、美肌・美白効果のある乳湯が男湯に。

血液をキレイにするというお決まりの効果のお風呂が、わざわざ岩塩湯に限定されて女湯にあったらどうだろう。

もちろん一部の人間の中には『どちらも浸かる』と答える人もいる。

少なくともここにいる人間の中では、厘辺りがそう答えそうだ。


しかし男女比的にそれを考えると、とても『大半の人達が』とはいかないだろう。

そんな同じお湯を両方に設置しておいて、結局利益が一部のお湯にしか出てこない結果となってしまうのなら、今のように男女の用途にそれぞれ合わせたお湯に変えた方がよっぽど効果的である。


「確かに男湯で『乳湯』って・・・。『入ろう』って気になる?」

「・・・『美肌・美白効果』だっけ?」


そう聞き返してくる手神に未佳がハッキリと頷き返すと、手神はやや苦笑しながら右手を顔の真ん前辺りで左右に振り返す。


「いや、ないなぁ~・・・。長谷川くんは?」

「僕もないっすねぇ~・・・。というか僕の場合、まず『これ以上白くなってどうするんだ?!』っていう・・・」

「「「ハハハ!」」」

「コレ以上いったら僕・・・。内臓スケスケみたいになりますよ? ホンマに・・・」

「「「ハハハハ!」」」

「えっ? 『レントゲンいらない』みたいな??」

「そうそう。服持ち上げただけで『あっ。なんかこの部分おかしいなぁ~』みあいな」

「『長谷川さーん。なんか胃に穴が空いてますけど?』とかって??」

「『あっ、そうなんっすよ~。最近ストレス続きで体調が・・・』みたいな」

「「「ハハハハ」」」

「ついでに『ちょっと血液逆流してるで?』とか?」



ズルッ・・・



「!! いやっ・・・! 小歩路さん、ちょっと・・・!?」

「「「ハッハッハッハッ!!」」」

「ソレ確実に『どっか悪い』どころの話じゃないっすよ?! それは・・・っ!!」

「入院! 入院!! 手術! 手術!!」

「明らかにソレ、心臓じゃないっすか!!」

「「「ハッハッハッハッ!!」」」


そんな会話を交わしている最中、長谷川は未佳と厘が着ている浴衣を見て、ふっと小首を傾げた。


(なんか・・・。サイズが合ってへんような気が・・・)


それもそのはず。

この時厘と未佳が着ていたのは、お互いに身長と体格が1サイズだけ合わない『M』サイズ。

本来、このホテルで用意されている浴衣の適応サイズを考えるならば、厘が『L』サイズ。

未佳が『S』サイズなのだ。


しかしさすがにサイズまで尋ねるのは少々言いにくいので、長谷川はやや遠巻きに未佳達に口を開いた。


「と、ところで二人とも・・・。その浴衣ー・・・」

「ん?」

「『浴衣』が何?」

「いや、サイズー・・・。合うてるんかぁ~って・・・。な、なんか坂井さんのブカブカで、袖短すぎに見えたから・・・」

「えっ? ・・・あぁ~! そうなんよー、さとっち! ウチなぁ、部屋に用意してあった一番大きい浴衣、選んだんやけど・・・。サイズが『M』やから、全っ然体に合わへんのよ!」


そう返事を返して『ほら~!』と、自分の両袖と足の辺りを指差す厘に、長谷川はやや苦笑しながら頷き返す。

するとそんな厘の話を隣で聞いていた手神が『それなら・・・』と、こんな提案を口にした。


「じゃあ小歩路さん。あとで僕と一緒に受け付けのところに行って、サイズ変えてもらおうよ」

「えっ・・・?」

「実は僕も浴衣のサイズ、合ってないんだ・・・。本当は『L』じゃ収まらないんだけど、用意されてたの『L』サイズまでしかなくて・・・」


そう口にする手神の浴衣は、確かに手首や足首などが通常よりも大幅に出ていて、見るからにサイズが合っていなさそうだった。

ちなみに手神自身の体格はかなり痩せ形に等しいので、今の浴衣は体格にはフィットしている。


しかし、身長約180センチを超えるという長身では、体格以外の箇所。

特に腕や脚の長さなどに関しては、ここの浴衣の『L』サイズ規定には収まり切れていないのだ。

無論、それは今の厘も同じ状況である。


その手神からの提案を聞いた厘は、どうやら自身も相当、このサイズの合わない浴衣を一晩中着たままでいるのは耐え難いらしく、その提案に頷き返した。


「・・・・・・うん。ほな、ウチもそうする」

「よし。じゃあ・・・、そうしよう」

「でも手神さん・・・。下手するとサイズ『X“S”』じゃないっすか?」

「「「「〔「・・・『XS』!?」〕」」」」


ふっとすぐさま長谷川の言い間違いに気が付いた5人と一人が、慌てて長谷川にその単語を聞き返す。

その聞き返された単語に、慌て驚いたのは他ならぬ長谷川本人だ。


「! じゃなかった・・・! 『XL』! 『XL』!!」

「だ、大丈夫? 長谷川くん・・・」

「お腹空きすぎて頭スパークしたん?」

「・・・もあるかもしれませんけど、今のは単なる言い間違え・・・。スンマセン、訂正します・・・。『XL』っすよね? 手神さん」


そう今度は言い間違えずに尋ね直す長谷川に、手神は半分可笑しそうに苦笑しながら返事を返す。


「あ、あぁ・・・。そうだな。この流れだと、たぶん・・・」

「というか『浴衣』とか『着物』とかって、身長とか腕の長さとかで、サイズ決めてるやん? せやからいっつも身体に合うサイズ、ダブダブになるんよねぇ~。もう遠い昔の話やけど、成人式の時めっちゃ苦労した・・・」

「「「〔「へぇ~・・・」〕」」」

「みかっぺ、そういう経験なかった?」

「あっ、うん。私は別に・・・。それに成人式の時、私これから下ろす予定のレンタル振袖だったから・・・。私の体に合わせて繕ってもらっちゃってた」

「ふ~ん・・・」

「でも小歩路さんのソレはすごくよく分かる」

「分かるでしょ!? 手神さん!」

「うんうん! 僕も体格的には『M』なんだけど・・・。身長がソレを着させてくれない!!」


次の瞬間、その手神の発言を聞いた5人と一人から、一斉に大きな笑い声が上がった。


「「「「〔「アッハッハッハッ!!」〕」」」」

「手神さん! ナイス名言!!」

「『身長が着させてくれない』・・・アカン、めっちゃド・ストライクやわ! それ!」

「見事にツボった・・・! ハハハ!」


そう口々に笑う中、ふっと再び未佳の浴衣が目に入った長谷川は、再度未佳の浴衣を見て口を開く。


「んで・・・。それとは逆に坂井さんのはー・・・。明らかにダボついてません?」

「!! ちょっ・・・! 『ダボついてる』って何よ! 『ダボついてる』って・・・!!」


その長谷川の言い方にムッとした未佳が、両脇腹に手を当てて顔を突き出しながら怒鳴り散らす。


しかしそのポーズを取る瞬間も、腕から余った長く大きな袖は激しく揺れ、明らかにサイズが合わないことを物語らせていた。

その激し過ぎる揺れ方に、当然鋭い長谷川が気付かないはずもなく。

空かさず長谷川は、その大きな未佳の浴衣の袖部分を指差して指摘した。


「ほら、腕動かしたらめっちゃ余ってるやん。こっちこんくらいしかならへんのに、なんでそっちそんな袖デカイん?」

〔ほら・・・。や~っぱり『大きい』ってよ? 今のサイズ・・・〕

「!! ・・・か、関係ないでしょ?! 私はさとっちよりも腕細いの!!」

「・・・んなアホな・・・」


そんな未佳の必死な言い訳に、長谷川はややジト目になりながら軽く『ハハハ・・・』と笑う。

だがあくまでも笑っているのは声と口だけで、顔は笑ってなどいない。

むしろ呆れ返っている表情だ。


「それ『M』でしょ? そのサイズ・・・」

(! ・・・・・・)

〔(! やっぱり長谷川さん・・・、鋭い・・・)〕


そう長谷川の言い当てに感心するリオとは逆に、何ともキッパリとした感じにサイズを言い当てられ、未佳は一瞬体を『ビクッ・・・!』と小さく震わせた。

すると今度は、この未佳の反応が『正しい』という証拠であると確信した女性陣3人が、口々に未佳に対して驚いたような声を上げる。


「!! えぇ~っ?! みかっぺ今『M』サイズ着てるん!?」

「・・・・・・う、うん・・・」

「嘘ぉ~・・・! いくらなんでも未佳さんの身長じゃあ『M』はちょっと大きいでしょ~?!」

「もしかして・・・。部屋に『M』サイズしか小さいの、置いてなかったんですか?」


優しげにそう尋ねてくる日向に、未佳は下を向いたまま小さく首を横に振る。


別にそういうわけではない。

未佳の宿泊する部屋には、ちゃんと『M』サイズや『S』サイズの他に、一番小さい『XS』サイズも置かれていた。

だから厘のように、小さいサイズで選べないようになっていたわけではない。


「じゃあなんで『M』サイズなんて大きなサイズ選んだんですかぁ~?」

「そうっすよ、坂井さん。サイズ表示見ればすぐに分かるはずやのに・・・」


もちろん未佳自身にも、今のこのサイズが合っていないという自覚はあった。

少なくとも、あの大浴場を出た後の更衣室で、いざ身体に合わせた時にはそう感じた。

そう感じたのだ。


だがそれでも無理を通してコレを着たのには、別に理由がある。

それは、実に子供っぽいこんな理由からだった。


「・・・・・・だって・・・、私だけなんだもん・・・」

「・・・? 何が??」

「いっつも『S』サイズ着てるの・・・。私だけなんだもん・・・」

〔え゛っ? ・・・まさかのそういう理由?!〕


実はこの6人の中で、一番小さいサイズの浴衣を着込んでいるのは未佳ただ一人のみ。

残りの5人に関しては、今話したように手神が『XL』、厘が『L』サイズ。

残りの人達が皆『M』サイズなのだ。


その何ともチンケな理由に驚くリオの一方、その未佳の行動理由を知った栗野達は、やや『くだらん』とばかりにその場で落胆した。


「あっ、やっぱり・・・」

「ハァッ・・・・・・未佳さ~ん。ま、またですかぁ~・・・?」

「まあ・・・、何となく予想はしてましたけどね・・・。『またこんなことじゃないかな~』って・・・」


実は未佳がこのような言葉を取ったのは、これが初めてというわけではない。

以前にも未佳は数回、まったく同じような理由で同じことを仕出かしたことがあった。


だがいくら一番小さなサイズを着ているのが自分一人であったからと言って、そんなことを理由に無理なことをしようとする未佳ではない。

きっとそれほどの理由がなければ、本来のサイズの浴衣を何も考えず、ただただ当たり前のように着込んでいたことだろう。


にも関わらず、こんな無謀な挑戦でもあるようなことを何度も繰り返す原因は、実は他ならぬ長谷川にあった。


「坂井さん・・・。何もそんな毎回、毎回僕に敵意を向けなくても」

「ふん! いいわよねぇ~、さとっちは・・・」

「・・・・・・何が?」

「私とたった“1センチ”程度しか違わないのに、1個上のサイズを見事に着こなせる人は・・・!!」


これが、未佳の無謀な挑戦をする原因だった。


実は身長約159.6センチと語る未佳に対し、長谷川の身長は約160.7センチ。

わずかながら、長谷川の方が未佳よりも身長が1センチほど高いのだ。


しかしこの微妙な身長差が、男女兼用・上下一セットになっている衣類の場合、大きな差となってしまう。

それが、今未佳と長谷川が直面している『S』サイズと『M』サイズの境界線なのである。


ちなみに普段のこの二人は、未佳の場合は高いヒールのサンダルやブーツなどを履いていることが多く、またヘアースタイルなども、最近ではライヴステージで上の方に盛っている形にすることが多い。

一方の長谷川は、特に自分の身長に対してのこだわりはそんなになく、靴もスニーカーなどの厚底ではないものがほとんど。

またギターを扱っている関係上猫背になることも多く、未佳と並んで歩く時は毎回、長谷川の方が低めに見られがちになっている。

そのため未佳自身も、そこまで身長差を気にすることは日常的にはないのだ。


しかし、いざホテルや旅館で浴衣を羽織り、ヒールのあった靴からほぼ素足に近いスリッパに履き替えられると、ふっとこの現実を見せ付けられてしまうのである。

もちろん、お互いの身長差は1.1センチのみではあるし、相変わらずやや猫背気味の長谷川と鏡で見比べれば、ほとんどどんぐりの背比べだ。


しかすそこに、たった1サイズしか違わない衣服が合わさると、目の錯覚からか、妙に自分の身体が小さくなったように感じてしまう。

そしてそんな些細なことが、少々負けず嫌いな未佳にとっては、毎回癇に触れるような形になってしまっていたのである。


「小歩路さんの手首の出方とか見てたら、ここは今までのよりもサイズ規準が小さめみたいなのに・・・、や~っぱり私が着ると『サイズでっかい』って言われるし・・・。あ゛ぁ゛~! いいわねっ! 身長がビミョーに高い人はっ!!」

「・・・あ、あの・・・。またそこで逆ギレっすか? 坂井さん・・・」

「・・・・・・・・・」


以前も同じような状況で逆ギレされたことを思い出し、長谷川は若干困り果てたような口調と表情で話し掛ける。


しかし未佳はその言葉には答えようとはせず、今度は両腕を組み『フンっ!』と、長谷川に対してそっぽを向いてしまった。

その未佳の反応に、長谷川はさらに困り果てた表情を浮かべて『どうしたものか・・・』と、軽く首の後ろ辺りを掻き毟る。


正直言うと、この身長差トラブルは未佳一人が引き金になっているわけではない。

気になったことを何も考えずに指摘する長谷川の性格にも、多かれ少なかれ原因があるのだ。

現にこの未佳との言い争いも、元を辿れば根源の長谷川が、未佳の心情のことなど一切考えずに触れたためである。


ようやく今頃になってそのことに気が付いた長谷川だったが、慰めるつもりで出てきた言葉は、こんなどうしようもないものばかりだった。


「な、何もそこまで気にする必要~・・・、ないと思うんですけどねぇー・・・。坂井さん?」

「そりゃあなたは別にいいでしょ!? お仲間たっくさんっグループなんだから!!」

「あっ、いや・・・! そういう意味やなくて・・・、その・・・。ぼ、僕も立場的にはこれでも『小っちゃい組』の部類やし」

「じゃあ私は『小っちゃい』じゃなくて、もはや『チビ』ね・・・」

(ゲッ・・・! ・・・アカン! さっきよりもめっちゃ悪い方になってってる・・・)


何処そとなく状況が悪化したような未佳の様子に、長谷川は顔を蒼くして冷汗を垂らす。

この時、肝心の未佳の顔はこちらに背を向けていたので分からなかったが、その身体の周りからは、明らかに巨大な怒りの炎が、メラメラとこちらの発言による燃料で大きくなっていることだけ、窺い知れた。


『コレはさすがにマズイ・・・!!』と、今度は慰めることではなく、謝ることを中心に、長谷川は口を開く。


「さ、坂井さん、すみません・・・!! その・・・、さっき言ったことは全部撤回するから・・・!」

「・・・ん?」

「あの・・・。ぼ・・・、僕の言ったことでキレてるんやったら、ホンマに謝るし・・・! そ、それにその浴衣!」

(? ・・・ゆ・・・『浴衣』??)

「その浴衣~・・・、全然ダボついてなんていませんし・・・!!」

(・・・・・・はっ?)

((((〔えっ!? そっ・・・、そっち?!)〕))))


一応ここで伝えてはおくが、未佳が長谷川に対してキレているのは『浴衣がダボついている』と言ったからではない。

自分と身長がたった1センチしか違わない相手に、1センチ大きな浴衣を指摘されたことに腹を立てているのだ。


さとっち(このギタリ)・・・。何にも分かってない・・・)

「だ、だから・・・! その・・・」

「もういい!!」

「えっ・・・? ・・・・・・も、もしかして・・・。また、キレてます? 坂井さん・・・」

〔(フツー当人に聞き返さないだろ! ソコ!!)〕

「あの・・・。で、でも、身長差なんて別に気にすることないじゃなぃ」



ブチッ!!



「あなたに言われると余計に頭にくるのよっ!! この鈍感ギタリッ!!」

「ひっ・・・!」


不器用な男の発言は何処までも不器用ということなのだろうか。

結局長谷川の謝罪は未佳に届くことはなく、最終的には燃料どころかガソリンを撒く形となり、未佳を本気でブチ切らせる形となってしまった。

その際、長谷川の方を振り返った未佳の顔は何とも険悪なもので、何か凶器になりそうなものがあれば今にでもこちらに襲い掛かってきそうだ。


そんな未佳に思わず腰を抜かす長谷川を庇ったのは、意外なことに普段未佳の味方側に回っている厘だった。


「もうやめや! みかっぺ。せっかくの旅行気分が台無しやないの」

「! だって・・・!!」

「さとっちも一応反省してるし、謝る言うてるんやから・・・」

「この人私がキレてるのと違う内容で謝ろうとしてるじゃない!!」

「とにかく! ・・・もうみかっぺも、ここまでさとっち腰抜かすほどビビらせたら気ぃ済んだでしょ?」

「・・・・・・・・・」


確かにそう言われてみれば、先ほどまで自身が感じていたムカムカや苛々感などは、多少たりとも、少しは抑え込めるほどにまでになったように感じる。

どうやら、耐え切れず長谷川に対して怒鳴り散らした行動が、そこそこの効果をもたらしたようだ。


そんな自身の感情や気持ちの変化を多少ながらも感じた未佳は、とりあえずその厘の言葉に『コクリ・・・』と、小さく頷き返す。

すると厘は、先ほどの未佳のように両脇腹に手を当てて。

しかし表情は明るげな笑みを浮かばせながら『よし!』と、大きく未佳に向かって頷いた。


「じゃあもうみかっぺは、この件に関しては何にも言わない。・・・ええね?」

「・・・う、うん・・・」

「さ、小歩路さん。ありがとうございます・・・」

「ん~?」

「・・・それと、スミマセン・・・。助けてもらってしもて・・・」


そう厘の後ろに隠れながら頭を下げて礼とお詫びをする長谷川に、厘はやや呆れたような視線を送った。

一応未佳側の怒りが収まったと言っても、こちらはこちらで伝えなくてはならないことがある。


「さとっち・・・。一応こっち言うとくけどね? 全部の根源はさとっちやったんよ? それは自覚してる??」

「あっ、はい・・・。まあ、それは・・・」

「じゃあ、みかっぺは何に対してキレてたんか分かってる?」

「・・・・・・・・・」


この沈黙の意味は、こちらが予想していた内容がキレた理由ではないと知り、原因が分からなくなってしまったという証拠。

そしてそれが、今の長谷川の返事であると受け取った厘は、その場で『ハァー・・・』と大きな溜息を吐くと、仕方なく長谷川にその真相を説明した。


「・・・えぇ? さとっち。みかっぺがさとっちに対してキレてたんはなぁ~・・・。たった自分と1センチしか身長違くない相手に、サイズが合わへん浴衣のことを指摘されたからなんよ」

「・・・えっ?」

「ねっ? みかっぺ。逆にウチとか栗野さんが指摘してきたんやったら、みかっぺ何とも思わんかったんやろ?」

「・・・まあ・・・『何にも思わなかった』は、ちょっとアレかもしれないけど・・・」

「ほらね」


そう長谷川に説明すると、長谷川はこれでもかと言うほどにまで両目を見開かせ、表情を固まらせたまま二人に聞き返す。


「えっ? ・・・えっ?? あっ! じゃあ・・・! さっきの僕の発言は・・・!」

「えぇ、そうね・・・。私がもし時限爆弾だったら、時間が来る前に『ドッカーン!!』の内容ね」

「・・・・・・・・・」


その瞬間。

突然長谷川は厘の背後から飛び出し、先ほどまで怯えていた未佳の前へ。


そして未佳と正面で向き合うような位置に立つと、体をまるで板のように直立させながら、深々と頭を下げて叫ぶ。


「坂井さん、スンマセン! ホンマにスンマセン!! ゴメンナサイ!!」

「!! あっ、いや・・・。何にもそんなオーバーに謝んなくても・・・」

「でもホンマにすみません!! ホントにスミマセン!!」


その後も長谷川は、未佳に対して必死に謝罪として頭を下げ続けたのだが、そのオーバー過ぎる長谷川の謝罪姿勢に、謝られていた未佳自身が酷く困惑。

結局最終的には、未佳自身がその長谷川の謝罪を強制中断させ、どうにか二人は和解するのであった。


『風邪』

(2004年 5月)


※事務所 楽屋。


みかっぺ

「ズズズッ・・・(啜) 鼻がヤバイ・・・(鼻声)」


さとっち

「坂井さんも風邪なんっすね・・・。ゲホッゴホッ!(咳)」


「う~ん・・・。ウチもちょっと熱っぽいかも・・・?(怠)」


手神

「へーっくしょっん! ・・・これでくしゃみ何回目だぁ~?(ウロ)」


栗野

「本当に珍しいですよね・・・。皆さん一緒に症状違う風邪を引くだなんて・・・。あぁ~、喉痛い~(ガラ声)」


みかっぺ

「みんな一体何処から風邪もらってきたのよぉ~。ズズズッ・・・(啜)」


さとっち

「僕が根源じゃないですよ? ゲホッゴホッ!(咳) 僕は小歩路さんにうつされたんですから・・(ジト)」


「えっ? ・・・違うよ~(フラ・・・) ウチ手神さんにうつされたんやもん」


手神

「えっ? 僕!? ち、違いますよ!(否定) 僕栗野さんからもらったんだから・・・! へーっくしょんっ!!」


栗野

「はぁ~?! そんなデタラメ言わないでくださいよ、手神さん!(ガラ声) 私は未佳さんにこの風邪うつされた身なんですから・・・」


みかっぺ

「!! そっちこそデタラメ言わないでよぉ~! 私はズズズッ・・・(啜) さとっちから風邪うつされたんだから~・・・!」


みかっぺ・さとっち・厘・手神・栗野

「「「「「(゛ ̄)(゛ ̄)(゛ ̄)(゛ ̄)・・・・・・・・・( ̄;)」」」」」


さとっち

「えっ? 僕・・・? ゲホッゴホッガホッ!(咳) というかそもそもの始まりー・・・、誰っすかね?(苦笑)」


みかっぺ・厘・手神・栗野

「「「「・・・・・・・・・さとっち」」」」


さとっち

「やっぱり僕かっ!!Σ( ̄□ ̄;)」



とりあえずみんな・・・。

高野のトコ行け(爆)


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