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80.意外な一面

追加300枚のポスターサイン作業も終了し、未佳達はやや足早に、先ほどまでの作業場でもあった大広場を後にした。

その間、メンバーから予定変更の要望を受けた栗野は、一応担当リーダーでもある男性スタッフにそのことを電話で伝え、変更を許可できるのかどうかを確認する。

当然栗野自身が予想していたとおり、向こう側からの返事は『別に構わない』とのことだったのだが、この手のものはほんの少しの変更であっても、随時上の人間には報告しなければならない。


もし何の報告もせずに独断で行動し、何らかのトラブルなどに巻き込まれてしまった場合には、その責任は全て、その独断行動を許してしまった人間が背負うことになるのである。

さらにその独断の内容などによっては、予定の場所にメンバーがいない、時間になってもメンバーが現れないなど、周りの人間にも混乱を招いてしまうことにもなるのだ。


こうした一見かなり面倒臭そうな連絡や報告であっても、それは今現在のメンバーの所在を把握することでもあり、そして予期せぬトラブルや緊急事態から、メンバーの身の安全を確保することに繋がるのである。


「はい・・・・・・、はい・・・。はい、そうです。その予定内容に変更を・・・、はい・・・・・・。はい、分かりました。わざわざすみません。では、皆さんが上がった時にでもまた、ご連絡の方をさせていただきますので・・・。はい、では・・・、失礼しまーす・・・・・・。さてと・・・」

「あの・・・。栗野さん」

「えっ? 何?」

「あれ~・・・」

「・・・・・・ん?」


ふっと連絡を終えて電話を切った栗野は、日向が指差す方へと視線を向けてみる。

そこには、何やら通路の壁側に集まっているメンバー達の姿があった。


ちなみに皆が集まっていたその場所は、始めに大広場へ向かった際に見ていた、あのタコクラゲ達がいる水槽の辺り。

そして集まっていた理由は、やはり未佳達が最後にもう一度、そのクラゲ達を見たがったからだった。


「やっぱりこのクラゲ達、なんかモフモフしてて可愛い~♪♪」

「みかっぺ、さっきからそればっかり・・・」

「てへっ♪」

「でもなんか触ったらイメージ壊しそうやから、僕はただ見てるだけの方がええかな」

「ハッハハハ。それは僕も同感。なんか『クラゲ』って、見た目よりも固そうに見えるしね」

「そうそう」

「ちょっと皆さ~ん?」

「またクラゲ達を見てるんですか~?」


ふっと途中そんな会話を小耳に挟みつつ、栗野と日向はやや苦笑いを浮かべながら、相変わらずクラゲを見つめたままの未佳の元へと歩み寄る。

すると未佳は、そんな栗野と日向の聞き返しに対し『だって可愛いんだもん!』と、まるで幼い子供のような口調で言い返すと、再び水槽の方に首を戻してしまった。

そんな未佳の言い返しに、栗野はやや軽めの呆れ笑いを浮かべる。


「はぁー・・・。やれやれ・・・」

「ははは・・・」

「あっ・・・。そういえばさとっち達の階って、どんなクラゲがいたの?」

「せやせや。ウチらまだ何にも聞いてないんやけど・・・」

「「・・・・・・え゛っ?」」


特にそんな変なことを聞いた覚えはないのだが、その未佳と厘の問い掛けに対し、長谷川と手神は何やら感じの悪そうなものを言うかのような濁点声で、お互いの顔を向い合せる。

その時の二人の顔は、まるで苦虫を噛んだかのような表情だった。


そんな二人の反応に、未佳や厘もやや苦笑しながら口を開く。


「いや・・・『え゛っ?』って別に・・・」

「そんな反応はしなくてもええんやけど・・・」

「・・・もしかしてまだ自分の階のクラゲを見てないの?」

「! いやっ・・・! 見たことは見たんっすよ? ちゃ~んとモノ自体は・・・」

「と、ところでー・・・。お二人の階のクラゲはどんな感じのクラゲでした?」

「結構グロテスクな感じだったり・・・?」

「えっ? 私達の?」

「ウチらの階のは別に・・・・・・。ねぇ?」

「うん・・・」


繰り返し言うようではあるが、未佳達の階で飼育されているのは、日本の海でも普通に見られるポピュラーな種類のアカクラゲ。

しかも、笠の部分にはまるでパラソルのような赤と白の縦じま模様。

そして触手の色も、ただの半透明色というものではなく、美しい朱色を帯びているなど、クラゲにしては随分と華やかな色合いの種類だ。

そのくせ体の形状も、よく『クラゲ』と聞いてイメージするような形をしている。


そんなアカクラゲは、はたして『グロテスク』な部類なのだろうか。


確かに『クラゲが世界で一番気持ち悪い』と極端に思っている人間であれば、あのクラゲでも十分『グロテスク』だと思うだろう。

いや、むしろ『クラゲ』であってしまえば、どれも『グロテスク』を通り越して『気持ち悪い』と思うに違いない。


しかし、そこまでクラゲに対して毛嫌いしていない人間や『もはやクラゲが大好きすぎて仕方がない』という偏った人達からしてみれば、あのクラゲを『グロテスク』な絵のものと思われることはないだろう。

少なくともクラゲ自体をそんなに間近で見たことのなかった未佳の感覚では、あのクラゲの印象は『キレイ』『可愛い』『ガールカラー』である。


「別に『グロテスク』なんかじゃなかったよ? 普通にキレイだったし、可愛かったもん。まさに『女の子!』みたいな・・・。ねっ♪」

「でもみかっぺ・・・。普通クラゲにオス、メスはないで?」

「・・・・・・・・・」

「あれ、雌雄同体やから・・・」

「・・・・・・いや、分かってるけど・・・。イメージよ! イメージ!! とりあえず、そんな感じじゃなかったけど・・・」


そうアカクラゲの姿を思い浮かべながら返事を返すと、長谷川は両腕を組みながらしばし沈黙。

そしてその後、ふっと隣に立っていた手神の方へと視線を移し、手神に尋ねた。


「・・・・・・・・・じゃあ僕らの階だけっすかね? あんなに見た目がスゴイやつって・・・」

「う~ん・・・。まあ他の階のクラゲにどんなのがいるのか、まだ分かんないけど・・・」

「えっ? ・・・『見た目』? 見た目が変わってるのクラゲなの?」

「ま、まあ・・・」

「見た目に限らず名前もでしたけどね・・・」


ふっとその長谷川達の話を聞き、厘は自分の真後ろに立っていた栗野と日向の方に視線を向ける。


「・・・そういえば栗野さんとか日向さんって、さとっち達の階のクラゲは知らへんの?」

「さ、さぁ・・・」

「分からないわねぇ~。何せこちらは、女性陣担当側だったから・・・。男性陣達の階のことは何にも・・・」

「そう・・・」

「で? どんなクラゲだったの?」


そう未佳が聞き返すと、長谷川は『「どんなの」?』と口で繰り返し、しばし自分の顎に右手を当てながら考え込む。


「う~ん・・・。まあ一言で言うとー・・・・・・青い」

「あ・・・『青い』?」

「そっ。青い・・・。しかも色的には、結構キレイな感じの青系ね? 水色とか、アクアブルーとか・・・。あと他にある特徴はー・・・」

「デカイ」

「! そうそうそう!」

「え゛っ・・・、それって『エチゼンクラゲ』ちゃうの?」


たった今厘が口にした『エチゼンクラゲ』とは、日本で見られる巨大な種類のクラゲのことで、名前に入っている『エチゼン』とは、このクラゲが初めて発見された福井県の越前市から取られたものだ。

またこのクラゲは、毎年秋頃に群れた状態で網などに掛かることが多く、それが原因で魚を獲るための網が重みで破けてしまったり、せっかく獲れた魚を傷ものにしてしまうなど、漁業の場では深刻な被害をもたらしている。

その被害の内容に関しては、もはや新聞やニュースなどで知らぬ者はいないだろう。


だがその一方で、このクラゲは『食用クラゲ』としても有名なものであり、一般的に料理として出てくる『クラゲ』は、この種類であることが多い。

特に2年間明礬みょうばんに漬けて作られる『沙クラゲ』は、よく中華料理や海藻サラダなどの食材として調理されている。


「あ゛ぁ゛~っ! あの・・・、よくニュースでやってる問題クラゲ・・!!」

「あっ、いや・・・。ソレじゃない・・・。『エチゼンクラゲ』はさすがに僕も知ってるけど、それじゃない・・・」

「『デカイ』っていうのはあくまでも体の縦の長さのことね? だからー・・・、本当は表現的には『長い』の方が正しいと思うんだけど・・・」

「『長い』って、50センチとか1メートルとか?」

「いやっ、そんなモンやなかった・・・!」


長谷川はそう未佳の問い掛けに対して答えると、おもむろに未佳達の立っていた位置から歩き出し、通路のやや先の方へと向かって行ってしまった。

そしてある程度の距離まで離れた辺りで、ふっと長谷川は足を止めてこちらを振り返る。


その距離、およそにして2~3メートル。


「今僕が立ってる辺りから、ちょうど坂井さんの足元辺りまでっすね。こんくらいです」

「そっ・・・、そんなに長いのっ?!」

「あぁ~、確かに・・・。ヤツはそれくらいの長さがあったな・・・」

「ですよね?」

「うん」

「嘘ぉ~っ! ソレ本当にクラゲ?!」

「ま、まあ・・・。一応分類的には『クラゲ』でしたけど・・・」


などと種名が書かれていたプレートの文章を思い出しながら答えていると、ふっとそのクラゲの特徴に心当たりがあったのか。

しばし口を開かずにいた厘が、長谷川達に最終的なことを尋ねる。


「なぁ・・・。そのクラゲー・・・、なんて名前やった?」

「えっ? 『名前』??」

「そう。名前・・・。ちょっと変な名前やなかった?」

「・・・うん、結構変わってたよ? 長かったし・・・。『クラゲ』って付いてないし・・・」

「なんだったっけなァ~・・・?! アイツの名前、何かと何かの名前がドッキングしてたやつだったんっすよ~・・・。えっとー・・・」

「・・・頭文字くらい出てこないの? さとっち・・・」

「・・・そんなジト目で聞かないでくださいよ、坂井さん・・・。えっとぉ~・・・・・・」


それから頭を捻ること約5秒。

ようやく長谷川の脳内に、そのクラゲの最初の四文字が浮かび上がった。


「かっ・・・かっ・・・かっ・・・・・・、かつお? !! そうだ!  頭四文字が『カツオノ』だったんっすよ!!」

「『カツオ』って・・・、もしかしてあの魚の?」

「そうそうそう! えっ・・・と~・・・。『カツオノ』何とかだったんすけど・・・。あとのヤツ、何だったかなぁ~・・・? あと三、四文字だった気がするんっすけどー・・・」


ようやく頭四文字の名前は出てきても、その後の名前に付いてはまったく思い出せず、長谷川は自分の後ろ髪をボリボリと掻きむしる。


するとここで、何となくあるクラゲの種名を想像していた厘が、やや興奮気味な様子で長谷川に確認するかのように尋ねた。


「!! なぁ、ソレってもしかして・・・! 『カツオノエボシ』っていう名前だったんとちゃう!?」

「・・・・・・!! そう! そうだ、ソレ!! 『カツオノエボシ』!!」


まさかの厘の予想が的中し。

さらには何故か種名までもを知っていたというこの二重の出来事に、長谷川もまた厘同様に興奮しながら、右人差し指を厘の方に向けながら何度も頷いた。


「ソイツです! ソイツ!! 僕らの階にいたクラゲ・・・!!」

「・・・かっ・・・、カツオノ・・・」

「・・・エボシ・・・」

「・・・・・・変な名前・・・」

〔同感・・・。ねぇ。もしかして人間って、イキモノ一つにまともな名前すら付けられないの?〕

「ッ!!」


ふっとそんな鋭いことをいきなり尋ねてくるリオに一瞬ドキリッとしながらも、未佳は軽く苦笑することでそれを誤魔化した。


(ハハハ・・・。でもそんなことを私に聞かれても・・・)


そうあえてリオとは目線を合わせぬよう笑っていた未佳だったのだが、その直後に起こったある人物の叫び声によって、二人の視線は同時にその人物の方へと向けられた。


「えええぇぇぇ~っ?! ホンマにっ?! ・・・ホンマに『カツオノエボシ』がおったの?! ねぇっ?!」

「あっ・・・、はい・・・。いましたー・・・、けど・・・」

「さ、小歩路さん、大丈夫? というかー・・・、どうしたの?」

「ウチ! 今までカツオノエボシの本物ホンモン、見たことないの! いつもダイビングの写真とかばっかりで・・・」

「そ・・・、そうだったんだ・・・」

「もう嘘ぉ~!! うそ・・・っ! こんな海でも水族館でもない場所で・・・?! しかも生きてる個体?? わあぁ~っ・・・! アカン! もうっ・・・!! 信じられへんっ!!」

(いや・・・。今一番『アカン』のは小歩路さん自身やで? 正直・・・)

「いや~っ♪♪ ホンマにどないしょ~っ!!」


まるで好きなものを目の前にした時の未佳のように、厘は微かに赤らむ両頬に手を当てながら、その場をぴょんぴょんと飛び始めた。


普段は物静かなはずの厘が、たかがこんなクラゲ1匹如きでハイテンションになるというのは実に稀なこと。

そしてさらに言ってしまえば、これまで多くのファンやメンバー達が持っていた厘のイメージや印象が、大きく崩れ去ったのである。


そんな初めて目にする厘の興奮し切った姿に、未佳と長谷川の二人は揃いも揃って、ただただ目を丸くしながらア然とした。


「あ・・・、あんなに興奮し切ってる小歩路さん・・・。私初めて見た・・・」

「僕もっすよ。いつも好きなもの前にしても、全然。ましてやあそこまで興奮し切ったことなかったのに・・・」

「というか小歩路さんにも・・・、あんな一面があったんだね」

「確かに・・・。ちょっと意外っすよね。ねっ? 手神さん」

「・・・ん? あぁ・・・・・・。でも僕は逆に・・・、少しホッとしたかな?」

「「・・・えっ?」」


そう口にして安堵の表情を浮かべる手神に、未佳と長谷川は同時に声を揃えながら『えっ?』と聞き返す。

その後の詳しいワケを聞き始めたのは、一番位置的に手神に近かった、長谷川だった。


「・・・なんでっすか?」

「ん? だってほら。小歩路さんって結構・・・、なんて言うか・・・。『女性らしさ』みたいな部分が乏しかったところがあるだろう?」

「「・・・・・・・・・」」

「あっ・・・、全然悪い意味で言ってるんじゃないよ?! 言ってるんじゃないんだけどさ・・・・・・。なんかあっただろ?」

「まあ・・・、言わんとしてるところは・・・」

「分かるけど・・・」


確かに手神がそう言うように、厘には『女性っぽい一面』というものが、他の女性陣よりも極端に乏しく感じることが多かった。

もちろん元々性格がかなり物静かで、休日などには趣味のアウトドアをやるなど、かなりドライな部分はある。


だが同じ女性同士の未佳や栗野達の性格と比較してみた時、厘はその全てが他の女性陣とまったく真逆なのだ。

たとえば、好きなものがあっても決して興奮せず、冷静な反応をする。

自分の気持ちで許可を出さないものは、たとえ何があってもやろうとしない。

感動もののTVやビデオを見ても、平然としたまま泣かない。

オシャレなどに興味を持たない。

どちらかというと一人でいることの方が好き。

誰かと話すよりも、読書に明け暮れる毎日を好む。

今まで数えられる程度しかはしゃいだことがない、などなど。


やや同世代でもある栗野と比べてみても、厘との性格の違いは歴然である。

そしてその違いすぎるが故の性格の暗さが、手神は時折心配になっていたのだ。


「だから内心『小歩路さんってすごく性格暗いのかなぁ~』って、ちょっと心配してたんだけど・・・。今日のあの小歩路さんを見たら、少し安心した。『やっぱり女の子だよなぁ~』って。・・・・・・僕が言いたいことー・・・、通じた?」

「「うん」」

「よ~く、深~く、伝わりましたよ? 手神さん」

「そ、そう?」

「・・・・・・そう言われてみれば・・・」


ふっとその手神の話を聞いて、未佳はおもむろに宙を仰ぎながら、過去の記憶を一つひとつ辿ってみる。


そしてその結果、自分の記憶の中に残るこれまでの厘の姿に、未佳は小さく『あっ・・・』という声を漏らした。


「・・・・・・そうだ・・・。私よく・・・、小歩路さんに自分の学生時代の友達の話はしたけど・・・。小歩路さんの口から、友達の話を聞いたことない・・・。特に女性の話とかは全然・・・・・・」

「えっ? ・・・今までずっと??」

「うん、たぶん・・・・・・。それに事務所とかも、私以外に話してる女性の人って~・・・。栗野さんと日向さんだけじゃない?」

「えっ? えぇ・・・。そう言われてみれば・・・」

「私達以外に小歩路さんが話し掛けてくる人、見たことないですよね? 逆の場合はあっても・・・」


確かに厘は、同じ事務所で活動してる女性アーティストや、栗野や日向以外の女性スタッフに対して、自分から声を掛けようとしたことはない。

基本的に何かをその相手と話している時は、曲の歌詞に関する相談ごとや設定などについての内容話などがほとんど。

それも、それらは自分から話しかけるのではなく、相手が話し掛けてきた時のみだ。


「・・・やっぱり苦手なんでしょうね。女性の方と話すの・・・」

「確かに・・・。もし小歩路さんみたいな性格の子が学校のクラスとかにいたら、結構孤立しやすそうですもんね。誰とも波長が合わないから・・・」

「まあ、でも・・・。その代わり小歩路さん、結構まっちゃんとか赤ちゃん達とかとは喋ってるから・・・。男性の方は話しやすい見たいっすね。・・・・・・・・・ある意味・・・『女性の枠からは孤立してる』ってことにはなりますけど・・・」


そんな栗野達の話を聞いて、ふっと未佳は思った。


おそらく厘は、“学生時代の頃から孤立していたのかもしれない”と・・・。


確かにその日向の言葉を聞いて思い返してみれば、未佳はただの一度も、厘の口から学生時代の思い出話のようなものを聞いたことがない。

もちろん、こちらがそれらのことについて一切聞かなかったこともあっただろうが、実は厘にはやや、話している話題で大盛り上がりになった時には、勢いに乗ったまま自分から話し出すところがある。


しかし、これまで数回未佳達が自分の学生時代の話をしてみても、厘はそれらの話に対しての受け答えはするも、そこから自分の学生時代の話をし出すことはなかった。

それこそまるで『言いたくない・・・』と、避けているかのように・・・。


(・・・・・・孤立してる・・・か・・・)

「~♪ ・・・・・・? みんな・・・? なんでそんなトコでぼーっとしてるん? 何かあった??」


ふっと何故か、皆がこちらをしんみりとした表情で見つめていることに気付き、厘は小首を傾げながらひょこひょことこちらの方へと足を向かわせる。

その厘の言葉に、いち早く口を聞いたのは栗野だった。


「あっ、いえ・・・。なんでもないですよ? 厘さん」

「そう・・・? あっ・・・。そうや、栗野さ~ん♪」


そうやや甘えるかのような声で、厘は栗野の元へと小走りで走り寄ると、そのまま栗野の二の腕に抱き付き、何かを企んでいるかのような眼差しで栗野を見つめる。

そんな厘の様子に、栗野はこれまでの10年間で培ってきた危機感を感じずにはいられず、思わず厘をジト目で見返す。


「・・・・・・毎回出てくるあなた達のその呼び方は軽く『恐怖』なのよね・・・」

「「「・・・エ゛ッ・・・?」」」

「それで? 何ですか?」」

「これから8階に行こっ♪」

「「「「〔ッ!?〕」」」」


その発言内容に、栗野はその場で瞬きを2回ほど繰り返しながら『えぇ~っ?!』と声を上げる。


「一体何を言ってるんですか?! 厘さん!!」

「だって栗野さんと日向さんが一緒やったら、別にウチら8階に行っても大丈夫なんやろ?」

「そ、それはそうですけど・・・」

「・・・えっ? って、小歩路さん。もしかして私も同行するんですか??」

「そう今言うたやないの」

「で、でも・・・。そんな大人数で僕らの階に何の用事が・・・?」

「そんなん決まってるやん!」

「「「「〔「・・・ん?」〕」」」」

「エボシ様拝みに行くんよ!! 当ったり前でしょっ!?」



ドテッ!!



その後あまりの厘の熱意に押すに押され、結局未佳達は途中、部屋へ洗面用具を取りに行くついでに、しばし8階に寄り道をすることになった・・・。


『お正月~手神編~』

(2008年 1月)


※東京駅 新幹線改札出口。


手神

「はぁー・・・。やっとこっちに帰ってこれた(安堵) なぁ~? ノラ~(猫撫)」


ノラ

「ニャー(鳴)」


手神

「さてと・・・。とりあえず実家に電話して、誰かに車で拾ってもらうか」


※実家に電話を掛ける手神。


手神の母

『もしもしー?』


手神

「あっ、母さん? 今やっと東京駅に着いたんだけどさ。誰か車で拾ってくれないかな~?」


手神の母

『えぇ~? そんなこといきなり言われても・・・(困)』


手神

(『いきなり』って・・・。今日の朝『これからそっちに行く』っていう電話で展開読めそうだけどな・・・(汗))


手神の母

『みんなちょっとだけど、もう飲んじゃってるのよ』


手神

「んあっ?!(驚) もうみんな先に飲んじゃったの!?Σ(@□@;)」


手神の母

『そうよ? だってせっかくのお屠蘇だったんだから。もうお父さんなんてベロンベロンよ?(笑)』


手神

(おいおい。明らかに『ちょっと』よりも飲んでるじゃないか!!(orz))


手神の母

『あっ! そうだ、広人。ついでに帰りに駅でおまんじゅうか何か買ってきてよ。お土産の・・・』


手神

「エッ・・・(汗)」


英雄

『あぁ、広人? 今ちょっと電話代わったんだけどさぁ・・・。あとお餅できたら買ってきてくれないか? なんか嫁も子供達もかなり食べるから・・・。ちょっと足りなそうなんだよ』


手神

「・・・んあっ?!」


淳大

『あっ、広兄? あとさ。門松のデッカイの! 家に飾ってんじゃん? アレの代わりになるやつ買ってきてよ。家の門松さぁ~。新年早々亀裂入っちゃって・・・。んなの飾りたくねぇからさぁ~・・・(ジト目) ってなわけで買ってきてちょんっ♪』


手神

「・・・はい?(怒)」


海月

『もしもし~? 広人おじちゃーん??』


手神

「ん? ・・・あっ、はーい。聞こえてるよ~?(^_^;)」


海月

『お年玉ちょうだーい(^^)』


手神

「・・・・・・・・・」


手神の母・英雄・淳大

『『『んじゃよろしくー♪(^o^)/』』』


ブチッ

ツー・・・ ツー・・・ ツー・・・


手神

「・・・新年早々いいコトないなァ~!(__;)ズンッ」


ノラ

「ニャ・・・?(心配)」



何気に子供の『お年玉ちょうだーい♪』は、ある意味脅威です・・・(爆)


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