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77.7階のJelly Fish

「そういえばさとっち達・・・。もう7階に行ってるんかなぁ~?」


未佳達がエレベーターに乗り込んでから数秒後。

ふっと思い出したように、厘が誰に対して言うでもなくそう呟いた。


確かにこちらは、長谷川達よりもやや遅めに部屋に入ったし、そこからこのエレベーターに乗るまではかなりモタついている。

普通に考えれば、あの二人はとっくに7階でこちらを待っているだろう。

下手をすれば、長谷川の場合は逆に待たせすぎて、少々苛ついている可能性だってある。


「あぁー・・・、たぶん~・・・・・・。あの二人はとっくに下にいるんじゃない?」

「長谷川さんは結構ゆっくりしてる方ですけど・・・。何せ同じ部屋に泊まってるのが朝一の手神さんですからねぇ~」

「うん。だからたぶんもう下だと思うよ? ・・・・・・下手したらさとっちなんて『遅いー!!』って、言ってるかも・・・」

「えぇ~・・・?! ウチ結構急いだんに・・・」

(そりゃあなたは一番早かったみたいだけど・・・)


その厘の一言に、未佳は胸中だけで静かにそう突っ込む。

ふっとその時だった。



チーン・・・



【8階です。ドアが開きます】

「「・・・えっ?」」

「えっ? 8階?」

「えっ・・・、あっ、あの・・・。誰かボタン・・・、押しました?」


突然エレベーター内に流れたアナウンスの声に反応するように、4人は一斉に階を示す掲示板と扉の方に視線を向ける。

どうやら、8階でこのエレベーターを呼んだ人がいたようだ。

その後エレベーターは8階でゆっくりと停止すると、これまたゆっくりと前の両扉を開け放つ。


そして扉が開いたその瞬間。

見覚えのある二人の姿がハッキリと、未佳達の両目に飛び込んできた。


「「・・・えっ?」」

「「「〔「あっ・・・!」〕」」」



ドテッ!!



「ちょっ・・・! ちょっとみんな・・・!!」

「何も僕達を見て倒れることないでしょ!? ねぇ!?」


まるで自分達がここにいたのは場違いであるかのように倒れる未佳達に、長谷川と手神は口を揃えてがなった。


そもそもよくよく考えてみれば、2台あるエレベーターが8階と9階に停まっている時点で、この二人が7階にいるはずがないのである。


「ハ、ハハハ・・・。というか二人とも・・・。まだ8階にいたんだ・・・」

「う、ウチらてっきり・・・。もう二人のことやから、とっくに先に行ってるんやろう思ってて・・・」

「それはどうもすみませんでしたねぇ! 先に7階に行ってなくて・・・!!」

「あっ、いや・・・。何もそんな怒った感じに言わなくても・・・」

「と、とりあえず僕達~・・・。エレベーター乗っちゃっていいかな?」

「えっ? ・・・! あ゛っ・・・! どうぞ! どうぞ!! 遠慮せずに乗っちゃってください!」


そう栗野に言われて乗り込んだ二人ではあったが、その後は誰一人として口を開かず、結局エレベーターは会話のないまま、目的階数の7階へと到着した。

到着早々最初にエレベーターを降りたのは、男性陣の長谷川と手神。

その次に降りたのは、長谷川達の後ろにいた未佳とリオと厘。

そして最後に、ボタン係りを行っていた日向と栗野が、エレベーターから下車した。


ここから先の行き方は、マネージャーでもある栗野の仕事である。


「・・・はい。じゃあ早速、サイン記入を行う大広場のお部屋へ案内しますね。皆さん、準備はいいですか?」

「「「「はーい」」」」

「じゃあ私の後ろを付いてきてください。こっちです」


そう言うと栗野は、最初だけ右手を上げながら先頭を歩くと、まるで慣れたように左角を曲がり、少しだけ長い廊下通路を進んでいく。

そしてその通路のちょうど真ん中辺り。

未佳達の方から見て左側にある木のドアの前辺りで、歩いていた栗野の足がピタリと止まった。


「・・・はい。ここが大広場の入り口になります。ちゃんとそこに、目印のクラゲちゃんもいますからね?」

「えっ?」

「クラゲ・・・?」

「・・・・・・! あっ、いた♪」


ふっと栗野が手で差した方に視線を向けてみれば、そこには反対側の壁に、やはり未佳達の階と同じような水槽が嵌め込められていた。

ということはこの大広場の場所は必然的に、未佳達の宿泊している部屋と同じ位置の場所ということだ。


「うわーっ♪ ここのクラゲちゃんもすっごく可愛い~!!」

「おぉー・・・」

「ホンマ。このうっすい黄土色の笠に付いてる白い水玉模様、めっちゃキレイやねぇ~」

「うん。しかもなんかモフモフしてる♪」


確かにこの二人がそう言うように、このクラゲは全身が薄い黄土色か薄い茶褐色で、どれも体には小さな白の水玉模様が付いていた。

さらに笠を含めた体全体には膨らみがあり、それもかなり柔らかいのか、そのクラゲは笠を動かす度に激しく、周りの皮膚が波立つように動いている。

しかもクラゲ自体の大きさも差ほど大きくはなく、水槽には大体20匹ほどこのクラゲがいたが、一番大きなものでも未佳の手のひらほどの大きさしかなく、水槽もそんなに狭そうな感じではなかった。


そして何よりも特徴的だったのは、通常『足』と呼ばれるクラゲの笠の中心から4本ほど生えている部分が、このクラゲの場合は4本以上。

それも、その足の付け根から下は、まるで太いフサのような形をしていた。


「なんか私達の階にいたアカクラゲとはだいぶ違うね」

「うん。この子体小さいくせに、めっちゃ足太い・・・」

「でも全然形が丸っこいから可愛いんだよねぇ~♪ こんなクラゲだったら私も飼ってみたいなぁ~♪♪」

「え゛っ? ・・・坂井さん、コイツ飼うんすか?」

「な・・・、何よ、その聞き返し・・・。私が『飼いたい』って言っちゃダメ!?」

「あっ、いや・・・。だって仮にも『クラゲ』だし・・・」

「でもこんなクラゲ・・・。ウチダイビングやってて見たことないけど・・・。何てクラゲ??」

「えっ? えっと~・・・」


ふっと厘に尋ねられ、未佳はアカクラゲの水槽と同じ位置に貼られていた種名のプラスチック版に視線を向ける。

その種名欄のところに書かれていた名前は『タコクラゲ』というものだった。


「たこ・・・、くらげ・・・? 『タコクラゲ』だって。小歩路さん知ってる?」

「あっ。名前だけやったら知ってる! よく海外のダイビングスポットとかに行ったりすると、ようこの名前聞くんよ」

「「へぇー・・・」」

「僕は逆にモノの方が見覚えありますけどね。・・・・・・というかコイツ、よく水族館とかで見たりするヤツじゃないっすか?」

「・・・・・・そう言われてみれば・・・。なんかポスターとかの広告とかで、よくこんな感じのクラゲ出てこない?」


実はこのタコクラゲは、そのクラゲらしからぬ愛らしいルックスから、よく見ずに関する広告ポスターやPV画像、イラスト画などで使われていることが多いクラゲなのだ。

またこのクラゲは色彩変異が非常に豊かで、さらにはクラゲ特有の猛毒も持っていないということから、最近では熱帯魚店などにペット用として販売している場所も多い。


「でもこのクラゲ・・・。なんで『タコクラゲ』っていう名前が・・・」

「・・・・・・。そもそもこの『タコ』って・・・『Octopus』の方? それとも『Kite』?」

「そら食べる方の『タコ』と違うん? 『虫』に『肖』の・・・」

「あっ・・・。やっぱりそっちだよね?」

(ってか・・・。あえて英語の部分は無視したな? 小歩路さん・・・)


ふっと未佳の問い掛けに答えた厘の返答に小声で呟く長谷川だったが、当の未佳本人はあまり気には止めてはいないらしく、再びクラゲ達をじぃーっと見つめた。

確かに少々膨らみのある皮膚や色、見た目の丸っこさなどは、あの軟体動物のタコとよく似ている。


しかしその逆を言うとすれば、それ以外にタコと似ている箇所がないのだ。


「まあ・・・。確かに見た目のブヨブヨ感はタコみたいだけど・・・。たったそれだけの理由で『タコ』クラゲ?」

「う~ん・・・・・・。でも地球上の生物はめっちゃ種類多いし・・・。逆に1箇所でも名前に使えそうなところがあったら、そのまま名前になってしまうんとちゃう?」

「ふ~ん・・・」

「いや、たぶんコイツ・・・。単純に“足が8本”やから『タコ』なんやないっすか?」

「「「・・・えっ?」」」

「ほら。笠から出てるぶっとい足の数・・・、コイツらみんな8やぞ?」


そう長谷川に言われてよくよく確認してみれば、確かにこのクラゲの笠から伸びている足の本数は、全部で8本。

あのタコの足の数とまったく同じだ。


「あっ! ホントだぁ!!」

「そっか! せやから『タコクラゲ』・・・!」

「でもなんかこう『タコ』『タコ』言ってたら・・・、無性にタコわさが食べたくなってきたなぁ~・・・」

「あ゛あ゛ぁ゛ぁぁ・・・~!! 手神さぁ~んっ! そんな『これから一仕事』って時に、そんな今すぐ食べたくなるようなもの言わんといてくださいよ~!! 僕コレが終わるまで、ビールと焼酎とさかなのことは考えないようにしてたのにっ!!」

「あっ・・・。ゴメン、ゴメン、長谷川くん。思い出させて・・・」

「もーう・・・」

「さかな? ・・・『さかな』って・・・『うお』の?」



ズルッ・・・



「ちゃいます。ちゃいます。そっちのピチャピチャ跳ねてる方やなくて『酒の肴』の方の『さかな』・・・」

「・・・・・・あぁ~! あの・・・、あたりめとかシシャモとかモツ煮とかいう・・・、そっちの方ね?」

「うん・・・。そしてさり気な~く全部思い出させたね、うん・・・。・・・・・・酷くない??」

「別に・・・。さとっち達はコレ終わった後に飲めばいいじゃない。私なんて明日のイベントが終わるまでは“絶酒ぜっしゅ”なんだから・・・」


ふっとそう口にして両腕を組んだままジト目を向ける未佳に、長谷川はやや顔色を伺いながらあることを聞き返す。


「・・・ところで『絶酒ぜっしゅ』なんていう言葉あるんですか?」

「さぁ? ・・・・・・少なくとも私は聞いたことがない・・・」



ズベッ・・・



「皆さーん! 一体いつまでクラゲ達の水槽の前にいるつもりですかーっ?! いい加減中に入って作業に取り掛かってくださーい!!」

「早めに終わればその分、その後の休み時間が長くなりますよ~?」


ふっと大広場のドアの前に立っていた栗野と日向が、未佳達の方に向かって大声を発しながら、皆の視界に入るように右手を大きく振る。

その栗野達の様子に、ようやく未佳達も水槽の前で長居していたことに気が付いた。


「あっ・・・。じゃあそろそろ、向こうに行きましょうか」

「せやね。ちょっとここでのんびりし過ぎてたみたいやし・・・」

「そうっすね・・・。行きますか」

「バイバイ、タコクラゲさーん♪ また終わった後でね~♪♪」


未佳は最後にクラゲ達の水槽に向かって右手を振ると、皆と共に大広場のドアの奥へと進んでいく。


中へと入ってみると、さすがは『大広場』という名前のとおり、一応室内はこれまでの部屋よりもかなりの広さがあった。

しかし逆に室内の家具類などは少なく、唯一置かれていたものも、白い大きめの横長テーブルと、おそらくテーブルとセットのものであろう、人数分の白いしっかりとした椅子が置かれているだけ。

そしてそのテーブルの上には、サインが一切書かれていない見覚えのあるポスターが、プラスチックの箱に入れられた状態で数百枚。

その隣には、ペン入れの代わりとして茶封筒を使用したらしい入れ物の中に、真新しいサインペンがざっと10本ほど放り込まれていた。


そんな大広場を目の当たりにして、未佳が思わずボソりと呟く。


「コレ・・・。完全に今日の私達のためだけに用意したって感じね・・・」

「「「確かに・・・」」」

「というか・・・。普段この部屋何のために使われてるんすか?」

「まあ~・・・。一応こっちが聞いた話ですと、どうもホテル関係者達のミーティング室だそうで」

「・・・・・・んな大事な場所、僕らがこんな内容のことで使ちゃっていいんっすか?」

「・・・ええ。一応ホテルの職員の方からは『ミーティングはいつも朝に行うので、この時間は特に関係ない』と、聞いてますから・・・。まあだからと言って、長くダラダラとやってもいいというわけではありませんけど・・・」

「・・・・・・えっ・・・? じゃあこの部屋、逆に言うとミーティングにしか使われてないの?」

「あっ、いえ・・・。あとはホテル側のイベントなどで使う飾りなどを作ったりするのに、この部屋を使ってるみたいですよ?」


実はこのホテルでは、利用者達からのリクエストやご要望などがあった場合、事前予約で様々なイベントや演出を行うサービスを実施している。

その際、部屋を飾ったりするのに必要となった飾りなどは全て、ここの職員の人達がこの部屋で作っているとのことだった。


ちなみに主な演出依頼例としては、断トツで結婚式祝いや誕生日祝いなどの内容が多いという。


ただ今回はそれらの事前予約での依頼がなかったため、この部屋の使用が許可されたとのことだった。


「ふ~ん・・・・・・。じゃ~あ~・・・。ちゃっちゃかやって、さっさと終わらせちゃおうっ! みんな早めに終わってご飯食べたいでしょ?」

「食べたーい♪」

「そうっすね」

「さすがに疲れたから風呂にも入りたいし・・・」

「じゃあ私達、ちょっとこれからスタッフさんとの打ち合わせがあるので、一旦2階にある喫茶店に行きますね? それとサインを書き終わったポスターは、ポスターの入ってる箱の下にもう一つ箱がありますんで、その中に入れておいてください。包装作業は、あとで私達が行いますから」

「あと何かあったら、私か日向さんに連絡してください。あっ・・・、あとトイレは部屋を出て右に角を曲がったところにありますから」

「あっ、はーい」

「では」

「失礼しまーす」


栗野と日向は最後にそう告げて頭を下げると、大広場を後にした。

『ガチャッ・・・』というドアの閉まる音だけが、一瞬だけ静かになった室内に響き渡る。


「・・・よしっ。じゃあ・・・、やるか!」

「ねぇ。目標どれくらいにする? たぶん時間決めてやると、終わるのかなり早くなると思うけど?」

「じゃあ今ちょうど3時20分だから・・・、夕食1時間前の5時ジャストにしようか」

「・・・・・・つまり1時間40分? ・・・余裕ちゃう?」

「もう全っ然余裕! これならもっと早くに終わるよ。きっと」

「じゃあ最悪6時までにして、それよりも早めに終わらせるの前提でやりましょうか?」

「「「OK!」」」

「んじゃ早速作業開始ー!!」


その未佳の号令と共に、4人は早速サイン記入の作業へと取り掛かるのだった。


『お正月~みかっぺ編~』

(2005年 12月)


※みかっぺの母の実家。


みかっぺの母

「未佳ー! ちょっと悪いんやけど~・・・(ニヤニヤ)」


みかっぺ

「・・・・・・・・・なんかすご~い嫌な予感・・・(ーー;)」


みかっぺの母

「そんなこと言わないで・・・(^_^;) ちょ~っと台所に来てくれない?」


みかっぺ

「・・・・・・・・・嫌な予感倍増・・・(orz) 何~?」



※渋々台所へ向かうみかっぺ。



みかっぺの母

「コレ作っててくれない?」


みかっぺ

「・・・ゲッ!!(汗)」



※鍋の中に入れられた昆布巻き&別の鍋に入れられた蓮根と里芋。



みかっぺの母

「お母さん。これから車でお父さんとおばあちゃんと一緒に、お酒とかお餅とかこうてくるから。出掛けてる間代わりに煮とってね?」


みかっぺ

「・・・・・・・・・え゛っ?! 嘘っ!! ちょっと、お母さ・・・!」


みかっぺの母

「あっ。煮てる間、絶対に目を離さないでよ? 明日は親戚みんなが集まるんだから。新年早々煮すぎた煮物のおせちなんて真っ平だからね?!(念押)」


みかっぺ

「う゛っ・・・!」


みかっぺの母

「もう三十路も過ぎてるんだから、これくらいの料理はできるでしょ~? ほなよろしくね~♪」



※そう言って家を出て行くみかっぺの母。



みかっぺ

「・・・・・・・・・『煮物』ってどうすればええんやっけ?」←(テンパった末の関西弁)



基本母親が娘を呼ぶ時は、何かの手伝いをさせる時と相場で決まっている(笑)


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