76.Run end Run!!
通路で女性陣3人と別れた未佳は、自分の宿泊する予定の部屋の前へと立ち、栗野から手渡された鍵の番号と部屋の番号を確認する。
もちろん誰かの鍵と間違えている可能性はないのだが、一応部屋が合っているかどうかの確認のためだ。
こうしてややざっとではあるが、未佳は自分が泊まる予定の部屋を確認。
「908号室・・・・・・。ここね。じゃあドア開けるよ? リオ」
〔じゃあ僕は先に中を確に・・・〕
「ちょっと待って。コラ!」
ふっとさり気なく未佳よりも先に室内に入ろうとするリオを、未佳はリオの身体が透け始める前に後ろ襟付近をわし掴み、ジト目でそれを制した。
この未佳の行動がかなり素早かったのもあり、リオはそのまま前に進もうとする下半身は前へ。
未佳に引っ張られた上半身は後ろの方へと、大きく身体がグイッと斜めに動く。
一応未佳がしばらく襟元を掴んでいたおかげで転びはしなかったが、リオはこの未佳の制し方に目を大きく見開き、まるでギョッとしたように未佳を見つめた。
〔! ・・・・・・ビックリしたぁ~・・・〕
「何宿泊者よりも先に中に入ろうとしてるのよ! 抜け駆け禁止!!」
〔だって鍵入れてから中に入るのが遅いんだもん〕
「!! なんですってぇ~?! 私伊達に32年も生きてないし・・・! ドアの鍵くらいすぐ開けられるわよ!!」
〔じゃあやってみれば? 結構未佳さん・・・、ドア開ける時、鍵逆側に回す癖があるよね?〕
「うっ・・・」
〔ホントにすぐ開けられるの~?〕
そうニヤニヤと笑いながら聞き返してくるリオに、未佳はやや冷めた感じのジト目になりながら、ふっとこんなことを切り出し始めた。
「いいわよ・・・。じゃあ競争しよう。どっちが先に、部屋のベッドにダイブできるか・・・」
〔・・・いいよ?〕
「ただし! 身体を透かせられるリオはハンデ付き!! う~ん・・・、そうねぇ~・・・。私がドアに鍵を入れた時点から、5秒後にスタートでどう?」
〔・・・たったの5秒でいいの?〕
「それともう一つ! 瞬間移動能力は使用禁止!! あなたその手のこと出来るでしょ? それをやったら反則。帰るまで私のウォークマン使わせないからね? 分かった??」
〔・・・チッ〕
「ちょっと!? 今あなた『チッ』って言わなかった?! ねぇ?!」
もちろん未佳がこのハンデを口にするまで、リオが瞬間移動能力を使用しようとしていたのは、もはや言うまでもない話である。
その後リオの方から、渋々『了解』というハンデ両省の返事をもらい、未佳は右手に鍵を持ったまま、通路の左側にあるドアの真ん前にスタンバイ。
一方のリオは、さらに個人的なハンデをもう一つ未佳に追加してもらい、その未佳の後ろにある通路の右側の壁。
つまりドアから見て一番後ろの方から、約5秒後にスタートすることとなった。
しかし実はコレ。
表向きでは『リオに対するハンデ』ということになってはいるが、実際はドアへ突っ込むための助走ができる距離が欲しかっただけ。
そもそもこの競争で設けられていた『5秒後スタート』とは、最初からリオが身体を透かしてもいいという条件からできたもの。
つまり、いざとなれば未佳の身体をすり抜けてしまってもいいというわけだ。
まさかそんなセコいことを『ハンデ』と誤魔化して言ってきたとは露知らず、未佳はドアノブの上のところに付いている丸い鍵穴に視線を向ける。
「よーし・・・。スタート!!」
なんて自分で気合いを入れながら言って、未佳は早速鍵穴に鍵を『差し込む』と言うよりかは軽くぶち込む。
そこから『ガチャッガチャッ』と鍵を左側に回し、一回ドアノブを引いてみる。
しかし。
ガッ!
「あ゛っ・・・! 嘘っ! 逆!?」
〔(やっぱりやってるし・・・)〕
リオのその予想はモロに的中し、未佳は結局開ける方とは逆側に、鍵を回してしまっていた。
ちなみに何故逆向きに鍵を回す癖があるのかと言うと、実は仕事場でもある事務所の控え室と屋上は、鍵を左側に回して開けるタイプなのである。
さらにそれ以外にも、家や事務所の窓ガラスの鍵は、鍵穴ではなくノブタイプではあるものの、明ける時は基本左回し。
つまり未佳からしてみれば、日常生活では圧倒的に左側に回すパターンの方が多いため、ドアを開ける際にはよく間違えてしまうというわけである。
その後慌てて鍵を逆側に回し直し、未佳はどうにかドアの開放に成功。
しかしこの直後。
〔5秒経ったからお先にね~♪〕
「えっ? あ゛ぁっ!! ちょっと待てぇ!!」
〔待たない!〕
そうキッパリと口にして、リオはドアの前に立っていた未佳の胴辺りと、やや半開き状態だったドアを一気に突き抜け、まるで弾丸のように室内へと突っ込んでいく。
奇しくも未佳はこの時、ようやくリオが提案してきた半での意味を理解した。
「あ゛・・・っ! ズルッ! ちょっと待ったぁっ!!」
リオに負けじとドアを開け放ちながら、未佳も大急ぎで室内へ。
やや大きな『バタンッ!』というドアの閉まる音が響いたが、未佳自身はまったく気にも止めなかった。
しかしいざ中へと入ってみると、さらにもう一つの問題が発生した。
「うりゃっ! よし!! ・・・で、ベッド何処っ?!」
〔じゃあね~♪〕
「!! ア゛ァ・・・ッ! ちょっ・・・! 待ったぁっ!!」
ふっとリオが横切っていった左側へと走り出してみれば、そこには凝った柄入りのシングルベッドが一つ。
それも洋風な関係もあってなのか、そこそこのサイズのものだ。
「〔あった!!〕」
ようやく目的のものを発見し、二人はそこへ向かって一目散に走り出す。
まず始めに走り出したのは、ハンデによって後から走り出したリオ。
そしてそのリオの後に続くように、未佳も遅れまいと急いで走り出した。
しかしこの時、先にベッドの方へ走り出していたのはリオの方。
そしてそのベッドまでの距離は、僅かメートル足らず。
このままリオが先陣を切って走り抜けてしまえば、もはやリオの勝ちだ。
(ま、マズっ・・・! このままじゃ確実に負けじゃない!!)
だがさすがに、さり気なくズルを行った相手にだけは負けたくはない。
それだけは絶対に避けたい。
ふっとやや前方を走るリオを見て、未佳は『ならば・・・!』と咄嗟にこう叫んだ。
「リオ! その上着のボタン取れ掛かってるっ!!」
〔えっ? えっ!?〕
突然後ろからそう言われ、リオはふっと走る速度を落とし、自分の上着のボタンに目を向ける。
その一瞬の隙を突いて、未佳はリオの左隣を走り抜いた。
『サッ』という未佳の走った後の風がリオの身体に当たり、リオはそこで『ハッ』と前方に首を上げる。
よくよく考えてみれば、未佳はこの競争を始めてからずっと、あのドアの辺りからはリオの後ろを追うように走っていた。
つまり、競争中は一切として、未佳にはリオの上着のボタンが見えるはずがないのだ。
ならば何故未佳は、リオの上着のボタンが外れ掛けていると分かったのか。
その答えは実に簡単。
単にその情報が全て“ガセ”だからである。
〔! しまった・・・!!〕
すぐさまガセであると気が付いたリオは、やや本気の全力疾走で未佳の真後ろから追い抜きに掛かる。
実は先ほどまで少々余裕を持った走りで走っていたのだが、こう状況が変わったとなるとそうもしてはいられない。
リオが全力を出したと同時に、両者は同じ位置に。
そしてそのまま、前からベッドの上へと倒れ込んだ。
「キャアッ!!」
〔うわっ・・・!〕
ドサッ!
ボフッ・・・
二人がベッドへ倒れ込んだと同時に、上に乗っていた分厚い羽毛布団の角が大きく、まるで上の方へと反り返るように持ち上がる。
しかしそれはほんの一瞬のことで、その後持ち上がった布団の角はゆっくりと、再び元の位置へと倒れるように戻っていった。
おしてそれからしばしの静寂が続くこと、約数十秒後。
うつ伏せの状態のまま先に口を開いたのは、ベッドの左側に倒れていたリオだった。
〔・・・で? ・・・・・・今のどっちが勝った?〕
「・・・・・・分かんな~い」
同じくうつ伏せの状態のまま右手をヒラヒラさせて話す未佳に、リオはそのままの体勢で溜息を吐いた。
一応、途中まではリオがリードしていたのは分かっている。
そしてその後すぐ、未佳がリオの隙を突いて追い抜き、それに気が付いたリオが全力を出した結果、二人がほぼゴール間近で互角に並んだのも分かっている。
そこまではハッキリと分かっているのだ。
ただその後どちらが先にベッドへダイブしたのかは、正直まったく分からない。
そもそもあの時は、お互い『どちらがリードしているのか』ということよりも『どれだけ早くベッドへ飛び込むことができるのか』ということしか考えておらず、すぐ隣にいた対戦相手のことなど、まったく眼中になかったのだ。
〔・・・・・・コレ・・・、本当は勝負を見るための第三者が必要だったヤツなんじゃないの?〕
ふっとこの競争を行ってみた結果に落胆したリオが、ゆっくりとベッドから上半身だけを起こして口を開く。
そのリオに続くように、未佳もまたその場から起き上がり、リオと同じようにベッドの上に座り込んだ。
「で、でも・・・。リオは私以外には誰にも見えない存在だし・・・」
〔じゃあ不成立だね〕
「ま、まあ・・・」
〔それに今になってよくよく考えてみたけどさ・・・。なんで『ドアを開けるのが遅いから』っていう理由から、こんな『ベッドへ飛び込む』なんていう競争をすることになったの?〕
「!! そ、それは~・・・。ちょっと成り行きで・・・」
そう冷や汗と苦笑を浮かべながら、未佳は特にボサボサにもなっていないポニーテールの髪の束を指で解かす。
「そっ・・・、それにそういうリオも・・・! 結構途中楽しんでたじゃない!? わざとズルしたりしてさっ!」
〔『ズル』って・・・、未佳さんだってズルやったじゃないさぁ~! 取れ掛かってもいないボタンを『取れ掛けてる!』とか言って・・・!!〕
「アレはリオが先にズルをして私を追い抜いたからでしょ~っ!?」
だがリオが一番未佳に言いたかったのは、この競争中のズルのことではなく、その競争で走っている最中のことだった。
〔それと僕さ・・・。今ベッドの上に乗ってる時点で明らかだと思うけど・・・。途中から身体透かしてないんだよね〕
「・・・・・・分かってるわよ? そんなの・・・」
〔それって簡潔に言うとさ・・・。『未佳さんとまったく同じ身体で走ってた』ってことなんだよね・・・〕
「うん・・・・・・。だから??」
〔けっ・・・こ~ううるさかったと思うんだよなぁ~・・・。下・・・〕
そう口にしてベッドの真下の床を指差すリオに、未佳はしばし一時停止。
それから何を言わんとしているのか察するまで、5秒も掛からなかった。
「!! ヤバッ・・・! ・・・・・・この下って・・・、さとっちと手神さんの部屋だっけ?!」
〔うん。しかもあの二人、僕らよりも先に部屋のフロアに着いてたし・・・。僕ら少し入り口でモタついてたから、多分とっくに中に入ってたと思うよ?〕
「あっ・・・ちゃ~・・・っ!」
それを聞くや否や、未佳は自分の顔を右手で覆いながら目を固く瞑る。
当たり前だ。
午前中散々ミーティングを行っていた車の中で『やらない!』と言っていたことを、早速この場に着いたと同時にやってしまったのだから。
「うわぁ~・・・。手神さんはともかく・・・、絶対にさとっちは何か言うよぉ~・・・」
〔まあー・・・。いつかの時みたいにメール程度で済ませてくれる可能性もあるけど・・・〕
「あるわけないじゃない。そんなの・・・。この後みんな下で会うんだから・・・。会った時に言ってくるに決まってるわよ。・・・・・・覚悟しておかなくちゃ・・・」
〔・・・ご愁傷様〕
ゴンッ
「あ、あのさ・・・。こういう時に限って他人事みたいにするの止めてくれる? コレあなたもちょっと関与してるんだけど・・・」
〔・・・・・・だって何すればいいのか分かんないもん・・・〕
「・・・・・・・・・・・・」
そんなどうしようもない返事を真顔で返され、未佳は『あ゛ぁ゛・・・』という、何とも落胆ですらピークに達したかのような溜息を吐いた。
その後はとりあえず、競争のために一時的に玄関に置きっ放しにしていた荷物類を室内へと運び入れ、それぞれの置き場へと並べる。
と言っても、基本的には自宅から持ってきた水を冷蔵庫に仕舞ったり、洗面所にいつも愛用している洗顔石鹸を置くなど、その程度のことだ。
(・・・・・・一応・・・、こんなもんかな・・・。でもこの部屋、壁紙が凝っててキレ~イ・・・。これって西洋風のツル植物の柄よね?)
〔ねぇねぇ〕
「ん?」
〔この部屋・・・。全体見た感じだと結構広いね〕
ふっと部屋の真ん中辺りに立ちながら、リオが辺りを見渡して言った。
ちなみにこの部屋の広さはというと、大体4畳半よりも少し広い程度。
そこまでリオが言うほどの広さであったわけではないが、考えてみれば、ここには自宅のような余計なモノはないし、ベッドのところも壁で仕切られてはいない。
ひょっとするとその関係もあって、リオにはこの部屋が少し広めに感じたのかもしれない。
そう未佳は思った。
「まあ・・・。本当は私の家のリビング程度の広さしかないんだろうけど・・・。ベッドルームとかに仕切りの壁がないからね。ちょっと開放感で広く感じるかな?」
〔エ゛ッ・・・? ・・・・・・未佳さんのリビングって・・・、そんなに広かったっけ?〕
「そうよ? 何気にリビングだけで4畳半もあるのよ!? ・・・今はちょっとモノが散乱してるけど・・・」
〔なんでここはこれだけの広さでモノが収まるのに・・・、未佳さんの家はこれ以上の広さで溢れかえるの?〕
「悪かったわねぇ!! 色々溢れかえってる自宅で・・・!! これでも毎年大掃除でゴミ袋二つは出してるのよ!?」
〔・・・生ゴミを?〕
「違うわーっ!! 粗大よ! 粗大っ!!」
その後ある程度の整理もし終え、未佳は例の水のペットボトル1本と鍵を持つと、再びリオと一緒に宿泊部屋から外の通路へと出ていく。
その際、何故かドアに鍵を掛けないまま通路を歩き出す未佳に、リオはやや慌てながら未佳に声を掛ける。
〔未佳さん! 鍵は!?〕
「えっ?」
〔ドアに鍵、掛けてないよ!?〕
「・・・あぁ~っ! それなら大丈夫♪ あれ、オートロックタイプのドアだから」
〔? おーと・・・、ろっく??〕
あまり聞き慣れないその単語に、リオは頭上に大きく『?』マークを浮かべながら、未佳の口にした言葉を復唱して聞き返す。
そんなリオの反応に、未佳はやや面白おかしそうに『クスリ』と笑いながら、リオの真ん前にしゃがみ込んで説明した。
「そう『オートロック』。これはね。一回あそこのドアが閉まると、勝手に鍵が掛かる仕掛けになってるの。だから中に入る時には鍵が必要だけど、出ていく時には使わなくてもいいってわけ。どう? スゴイ便利でしょ?」
〔う、うん・・・〕
だがその『一回出ていくと鍵が閉まる』という仕掛けに関して、リオの脳裏にはこんな素朴な疑問が浮かぶ。
〔・・・じゃあ部屋に鍵を置いたまま出ちゃった場合は?〕
「! その時はー・・・・・・。まあ1階のフロントにでも行って、合鍵で開けてもらうしかないわね・・・」
〔面倒臭っ・・・〕
「でも今の私は、そんな心配なんて全然ご無用~♪」
そう言って、まるでバレリーナのように軽やかに踊りながら通路を進む未佳に、リオはまたしても頭に『?』マークを浮かべながら、舞い踊る未佳に聞き返した。
〔? えっ・・・、なんで??〕
「♪~っ♪」
〔・・・・・・あっ、言っとくけど・・・。僕は代わりに開けないからね?〕
「!! なっ、なんでよーっ!!」
〔(あっ・・・。やっぱりそういうことか・・・)〕
何となく自分の身体の能力を利用しようとしているのではないかと想像はしていたが、その内容があまりにも未佳の考えていたこととまんますぎて、リオはムッとした顔とジト目を未佳に対して向けた。
しかし一方の未佳は未佳で、そのリオの『開けない』という言葉に少々『イラッ』ときたのか、未佳側の都合と考えでリオに言い返す。
「今回はずっと同じ部屋に泊まるんだし、行きの時にちゃんとウォークマン貸したんだから・・・! 少しはそういう時くらい助けてくれてもいいじゃない!!」
〔だってなんかそれよると・・・。未佳さん毎回鍵持ち歩かなくなりそうな気がするんだもん〕
「! 何変なこと言ってるのよ! そんなことこっちがするわけっ・・・! ・・・・・・・・・・・・」
〔ねぇ? ・・・今未佳さん自分で『図星』だと思わなかった?? ねぇ!?〕
「・・・・・・とりあえず7階に行こう!」
〔おーい!?〕
だが一応肝心な時にはしっかりとしている未佳のことなので、さすがに鍵を部屋に置いたまま外へ出るなどと言うことはないだろう。
ついでに今さっきはああ言っていたが、一応リオももしもの時には手を貸すつもりだ。
さすがに何らかの事情で鍵を無くしてしまった歌姫を、わざわざここから1階にまで繰り出させようとするほど、リオも鬼ではない。
その後エレベーターホールへと続く通路へ出た未佳は、こちらに背を向ける形でエレベーターホールの真ん中に立つ人物に、ふっと目を凝らしてみる。
その立ち姿や着ている服、髪の長さなどからすると、どうやら厘のようだ。
「あっ、もう先に出てたんだ・・・。小歩路さ~ん」
「・・・ん? あっ、みかっぺ、こっち~」
一応後ろから名前を呼んで右手を振ってみれば、呼ばれた厘もすぐにこちらの存在に気が付いたらしく、未佳の方に向かって右手を振り返した。
しかしこのエレベーターホールに立っていたのは、たったの厘一人のみ。
肝心の栗野や日向の姿は何処にもなかった。
「あれ? ・・・栗野さんと日向さんは? まだ部屋から出てきてないの?」
「ううん。あの二人やったら『まだみかっぺが部屋から出てくるまで時間掛かるやろうから』って、横のトイレに行ったよ? もうすぐ出てくるとは思うけど・・・」
「あっ・・・、ハハハ・・・。なるほど・・・」
一応個人的には早めに出てきたつもりではあったのだが、どうやら未佳は一番部屋を出るのが遅かったらしい。
ちなみにその理由がリオとの競争のせいであったということは、言うまでもない話だ。
「あっ! そういえばみかっぺ」
「ん?」
「部屋の窓の景色、中入ってから見てみた?」
ふっと思い出したようにそう尋ねてくる厘に、未佳は右手を額に当てながら顔を顰めた。
「あっ・・・、ゴメ~ン・・・。色々バタバタしてて、ウッカリ見損ねちゃった・・・」
「えぇ~っ?! な~んや・・・。てっきりみかっぺ、中入って即外見た思ったんに・・・」
「ハハハ・・・」
「めっちゃ外の海キレイやったんやよ?! 街も手前辺りから見えとったし」
「えっ? ホント!?」
「うん。みかっぺの部屋ウチの隣やから、多分同じ感じの景色なはずやけど・・・。でもサイン記入やり終わった後やったら、多分真っ暗で何も見えなくなってしもてるね・・・」
「そ、そうだね・・・。でもいいや。それは明日の朝一にでも、たっぷり拝ませてもらうから♪」
「うん。せやね♪」
そんな会話を厘と交わしてから約数秒後。
ようやくトイレに出向いていた栗野と日向が、エレベーターホールの方へと戻ってきた。
「厘さ~ん、おまたせ~」
「あれ? ・・・未佳さん! もしかして待ってました??」
「ううん、大丈夫♪ 今さっき来たばっかだから」
「・・・そう?」
「うん」
「あっ、じゃあー・・・。みんな揃ったことだし、早速下に下りましょうか」
最後に確認も兼ねてそう言うと、日向は最上階に停まったままのエレベーターの下りボタンを押し、4人はエレベーターで7階へと向かっていった。
『高級』
(2008年 11月)
※事務所 控え室。
栗野
「皆さん、どうです? 高級コーヒーのお味は・・・」
厘
「うん・・・、めっちゃええ・・・。ええよ?! この香りとかコクとか!(興奮)」
さとっち
「まさに『高級』って感じっすね(ホッコリ)」
手神
「うん・・・。確かにコレは高いよ・・・(見) 一般の人はなかなか飲めない!!(笑)」
栗野
「感謝してくださいよ~? 私が行きつけの喫茶店のマスターからと・く・べ・つ・に!(強調) もらってきたんですからね? 『いつもお世話になってるお礼で』って・・・」
厘
「はいはい・・・」
さとっち
「でも『ジャコウ』の高級コーヒー、ヤバイっすねぇ~・・・。猫ちゃん様さま(笑)」
手神
「確かに(笑) まあアレ、なんか『猫』じゃないみたいだけどね(^^;)」
厘
「そうそう。名前には『猫』って付いてるけど、ホンマはネコ科やないんやってね」
さとっち
「んで、坂井さんはどう? なんかさっきから黙ってるけど・・・」
みかっぺ
「いや・・・。『ただただビックリ』っていうか・・・・・・。泣きそうになるくらい美味しい・・・(感動)」
さとっち
「ハッハハハ!(笑) えっ? そんなに??(笑)」
みかっぺ
「うん・・・・・・。ところで『ジャコウ』のコーヒーって・・・、どうしてこんなにいい香りとコクになるの?」
さとっち・厘・手神・栗野
「「「「・・・えっ?(・▽・;)」」」」
みかっぺ
「だってコーヒー豆って、みんな大体同じ種類なんでしょ? なのになんでこんなに、他の安いコーヒーと質が変わるの? 何か他と、豆の製法が違うってこと??」
厘
「・・・・・・まさかみかっぺ・・・」
栗野
「『ジャコウ』の意味を知らずに飲んでました?」
みかっぺ
「いや・・・。『「ジャコウ」のコーヒーが最高級品』っていうのは知ってたけど・・・。考えてみたらコーヒーなのに『ジャコウ』って名前なのも変わってるよね?」
さとっち
「坂井さん、それはね・・・。このコーヒーは動物のジャコウネ」
手神
「長谷川くんっ!!(怒鳴)」
さとっち
「Σ(@_@;)!? は、はいっ?!(聞返)」
手神
「それはもう少し時間が経ってから説明しよう!! なっ!?(爆)」
みかっぺ
「ちょっと待って! 今この人一瞬『動物』って言わなかった!?(聞返) ねぇっ?!(焦)」
ちなみに最高級品コーヒーの『ジャコウ』は、ジャコウネコという動物の○○から取った豆を使用しています。
知ってる人なら覚悟して飲めるんだけどなぁ~・・・(ーー;)