74.災難続きの長谷川智志・・・
「・・・っ!! すっ・・・、スゴーイ!!」
3つ目のオープンゲートを出た先に広がった光景を見て、未佳は心のままに感激の声を上げた。
未佳達のいた1階は、通常であればロビーの場所となっているはずの中心部が円形に空いており、そこから地下3階や最上階が見渡せるようになっている。
さらにその中心部から見渡せる一番下の階には、アンデルセンの『人魚姫』を象った大きな噴水。
ホテルの天井部分には、色鮮やかな太陽を象ったステンドグラスの窓が取り付けられている。
また未佳達から見て中心部の正面の奥には、最近よく駅ビルなどでも目にするガラス張りのエレベーターが忙しなく動いていた。
しかもここまで見渡せる内部の内装カラーは、あまり飾らない程度の上品な金色や黄土色など。
そのカラーから察するに、おそらくこれは陽だまりか、もしくは黄色い砂浜などをイメージして考えた色なのだろう。
そんな半分場違いなほど美しいホテルの内装に、未佳は両目をキラキラときらびかせながら、あの開けていた中心部のところへと走っていく。
一方の残されたメンバー3人はというと、その内装の光景と構造にただただ口を半開きにして固まっていた。
「うわぁー♪ !! スゴイ! 噴水まである~!! しかもアレって『人魚姫』の『セイレーン』よね・・・? わぁっ♪♪ ねぇ! みんなも早くこっち来てみなよ! なんかすっごくキレイだよぉ~っ?! ・・・・・・? どうしたの・・・?」
「いや・・・。なんか僕ら場違いな気がして・・・」
「えっ?」
「めっちゃ中キレイやし・・・。整備整ってるし・・・」
「色々と・・・、お高そうなー・・・」
「ここホンマに僕らが今日泊まるホテル?!」
そのあまりにも飾られた内装に、長谷川は思わず隣に立っていた栗野に確認のため聞き返す。
するとその長谷川の驚いている表情が面白かったのか、栗野は口元に手を当てて『クスクス・・・』と笑いながら答える。
「ええ。今回はこちらに泊まるんですよ? 長谷川さん」
「で、でも・・・。ちょっと豪華過ぎやしません?」
「しかも・・・、まだ建ったばっかりだし・・・」
「だからですよ。オープンしてからまだ日が浅いので、ちょうど今やってる『お試しキャンペーン』の関係で、通常よりも安く泊まれるんです」
「「な、なるほど・・・」」
「それに今年は、あなた達のデビュー10年目の年・・・。『おめでとう』を言うのは少し早いですけど、これは事務所側からの『お祝い』だと思ってくださいね? まあそれとついでに、今回はずっと働き詰めだった私達の『休暇旅行』の要素も入ってますが・・・」
栗野のその説明であらかた納得したのか、3人は数回その場で頷き、辺りを『どれどれ?』と見渡してみる。
すると先ほどから興奮状態でもあった未佳が、3人の服の袖を『ガシリッ』と掴み、例の開けた場所へと3人を引っ張っていく。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ・・・! ちょっと、みかっぺ!!」
「そんなに袖引っ張らんでもそっち行くて・・・!」
「いーいから! いーいから!! 早く! 早く~!!」
「そんなに慌てなくても、構造は変わりませんよ?」
「いーいから、早く! こっち! こっち!!」
そんなメンバーの言葉もロクに聞かず、未佳は『グイッグイッ』と3人を半ば強引に誘導。
一番眺めの良いあの開けた場所へと連れ出す。
すると先ほどの栗野の説明によって多少安心感が得られたのか、ついさっきまで硬直していた3人の顔から、ようやく好奇心に満ちた笑顔が浮かんだ。
「うわ~っ! こらスゴイなぁー!!」
「でしょ?! エレベーターガラス張りよ?! ガラス張り!!」
「! あぁっ! ちょっと、小歩路さん! 天井にステンドグラスまでありますよ!?」
「えっ!? ・・・あっ! ホンマや!!」
「この一番下には噴水もあるんだよ?! 噴水!!」
「えっ? どれどれ~??」
「ん? あ゛ぁ゛~っ! アレ、アンデルセンの『セイレーン』やないの?!」
「そうそう! 『人魚姫』の・・・!」
「ここめっちゃ飾り込んでるやん!!」
(ハハハ・・・。や~っと素直に喜んでくれたわ~。みんな・・・)
ここに来てようやくいつもの4人の姿になってくれたことに、栗野は後ろの方でホッと、安堵の溜息を吐いた。
一方、一度栗野の説明によって安心感が得られた4人は、そんな栗野の安堵の溜息などに一切気付かぬまま、辺りを忙しなく見渡して大興奮。
その姿は、まるで初めて連れていかれた環境を見てはしゃぎ回る、幼い子供のようである。
「ホンマにすごい・・・」
「あっ・・・。あの・・・、もしかして手神さん」
「ん?」
「ここって上が浅瀬とか砂浜イメージで、地下が海底イメージになってんすかね?」
「そう言われてみれば・・・。下ちょっと水色っぽいっていうか、青系の色になってんもんな。しかも少しだけ暗めだし・・・」
「きっとそうよ。だって下にはあの『セイレーン』がいるんだから」
「確かに・・・」
「しっかし色々と凝ってんなぁ~・・・あ゛ぁ゛っ!!」
「「「えっ?」」」
ふっと突然、背後から長谷川のあらぬ叫び声がこだまし、皆は一斉にその声のした方へと首を向ける。
ちなみにこの時長谷川は、他の位置から見える周りの景色を確認しようと、やや通路の方に歩き出そうとしている時だった。
一体今の叫び声は何だったのだろうかと、すぐさま一番位置的に近かった未佳が傍へと駆け寄る。
「ど、どしたの? 急に・・・」
「・・・・・・アンモナイトや・・・」
「・・・へっ?」
「ほら! ちょうど坂井さんの足の下辺り・・・!!」
「足のし・・・・・・! あ゛ぁっ!!」
ふっと長谷川が指差す足元に視線を移してみれば、そこには大理石風の通路の床に、大きなアンモナイトの貝殻が横向きに象られていた。
まさかこんなところにこんなモノがあったなど思いもせず、未佳は少しばかり踏みつけていたアンモナイトの貝殻から慌てて足を退かす。
しかし通路の床に描かれていたのは、このアンモナイト1匹だけではなかった。
「あっ・・・。ねぇ~ねぇ~♪ ウチの隣辺り、二枚貝が描かれてるよ~?」
「ん? あっ、僕のところにも・・・。なんか『サザエ』とか『ホラガイ』みたいな巻貝が描かれてる・・・」
「私のところにもありますよ? これはー・・・、海星かな?」
「ホンマや~。栗野さんのところにもおる~」
ちなみにこの床に象られているアンモナイトや魚介類達は、全て本物の化石などではなく、床に柄や模様などを入れて作った偽物だ。
おそらく、よく大理石の中などに残っている化石などをイメージして作ったものだろう。
特に『大理石』と『アンモナイトの化石』という組み合わせは、小中学校の教科書に写真で載るほど、かなり有名な話である。
「いや~・・・。凝ってますねぇ~。この通路・・・。まあ『化石イメージ』やから、ちょい分かりにくいっすけど・・・」
「確かに。でも一回目が慣れてくると、そこそこ見つけやすいな」
「ですね」
「・・・・・・。あれ? そのさとっちの後ろにあるの・・・。もしかしてウニ違う?」
「えっ? あっ! ホンマや、こんなところにゥ・・・」
「ウ~ニ~♪♪」
「えっ?」
ドンッ!!
「ぐはッ・・・!!」
「わぁー♪ ウニだぁっ! ウニだぁっ!! コレ写真に撮る~♪♪」
『ウニ』という単語を聞いて興奮した未佳は、目の前に立っていた障害物を突き飛ばしながら、即座に持ってきていたデジカメをカバンの中から取り出す。
そして床に象られた化石風のウニにピントを合わせると、何度もそれを『パシャリッ! パシャリッ!』とカメラの中に収めていった。
「~♪♪」
「な・・・、なんか未佳さん。すっごい嬉しそう・・・」
「あれ? でもみかっぺって・・・。このトゲのある状態のウニも好きやったっけ?」
「ううん。どっちかというと食べる方が好き♪」
「そ、そやよね・・・」
「・・・ん? おや? なんかこんなところにも巨大なヒトデが・・・」
「違うわ!! 僕やっ!! 坂井さんにたった今突き飛ばされた僕やぁっ!!」
「あっ・・・。な~んだ、長谷川くんかぁ~・・・。どおりで『妙に足が一本短いなぁ~』っと・・・」
「かァーッ! おォーッ! やァーッ!! かァーおォッ!! 『足』やなくて『顔』やァッ!!」
そう長谷川は自分の顔を何度も指差しながら、まるで手神に念を押すかのように同じ言葉を繰り返す。
一方の手神はというと、まさか冗談のつもりで言った言葉にここまで真剣になって反論してくるとは思ってもおらず、その長谷川の反応に、込み上げてくる笑いを必死に堪えていた。
「よし! 写真撮影終了~♪ ・・・アレ? さとっち、なんで自分の顔指差してるの?」
「ん? あぁ~・・・。コレ? コレはねぇ~、うん・・・・・・。色々あったんやァ!!」
「ッ!?」
「ったく・・・。どいつもこいつも僕を邪険にしよってからに・・・・・・。『僕は動かん化石かっ?!』ちゅうねん!!」
「何言うてるの、さとっち! ・・・さとっちは単なる『化石』ちゃうよ!!」
「・・・ん~?」
やや自虐モードになりつつあった長谷川に向かって、厘はしっかりとした目付きと口調で、それを否定した。
さらにその後も、厘はまるで自分のこの発言を単なる慰め程度にしか受け取っていない様子の長谷川に対し、否定発言を続ける。
「さとっちはウチらが活動していく上で、絶対にいなくなったらアカン存在やもん! ただの地層に埋まってる『化石』とはちゃう!!」
(・・・・・・・・・)
「えっ? ・・・・・・さ・・・、小歩路・・・さん・・・?」
「・・・そういう必要性があるの、何て言うのやったかちょっと忘れてしもたけど・・・。さとっちは立場的に『使える方の化石』なんやよ? 古来の歴史を知るためだけの化石やないんやからね?!」
「な・・・、なんかその『使える方の化石』っていう表現がアレですけど・・・。でも見直しました・・・! 見直しましたよ!! 小歩路さ・・・っ」
「ねぇねぇ・・・。もしかしてその『使える方の化石』って・・・『化石燃料』のこと言ってる?」
「えっ? 『化石燃料』・・・? あっ! そうや! それや!!」
ドテッ!!
「あ゛っ! ちょっ・・・! さとっち?!」
「あっ・・・。また『長谷川ヒトデ』が・・・」
早くも通路で大の字に倒れた状態の長谷川に、手神は適当ながらも学名を付けてからかってみる。
しかし、よほど今の未佳の発言による真相がショックだったのか、今度は反論する気力すら沸いてこなかったらしく、そのまま床に倒れたままになっていた。
「ダメだ・・・。全然起き上がる気力がないらしい・・・」
「・・・・・・じゃあせっかくだから、この体勢の写真撮っちゃお~♪」
パシャッ!
ガバッ!!
「撮るなァーッ!!」
ハッキリと前方から聞こえてきたシャッター音に、長谷川は恐ろしいような形相を浮かべて、顔だけを持ち上げながら未佳に怒鳴る。
その動作はまるで、地を這っている幽霊がいきなり恐ろしい顔を持ち上げたかのようだ。
しかしそんな表情を長谷川に向けられても、至近距離から大声で怒鳴られても、未佳の反応はノーリアクション。
伊達に10年間も一緒にいるわけではない。
こんなことはもう慣れっこだ。
そして長谷川のその反応に慣れてしまっている未佳は、長谷川に向かって左頬にVサインをしながら、満面の笑みを浮かべた。
「ハハハッ♪ ざんね~ん。もう撮っちゃったよぉーだ♪♪」
(~・・・ッ!!)
「あっ・・・。ほら、見て! 見て!! なかなかいい『長谷川ヒトデ』フォトじゃなーい?!」
そう写っている本人に尋ねながら、未佳は撮れたばかりの、自称『長谷川ヒトデ』の写真を見せ付ける。
その未佳の撮った写真には、完全に床で大の字になりながら突っ伏している長谷川の全身が、正面からやや頭上アングルで収められていた。
しかも普段から何かと写真を撮っている人間だったこともあり、その撮られた写真にはピントのズレも、手振れなどによるボケ等も一切として見られない。
モノ的にはかなりいい1枚だろう。
そしてこんなにいい写真で撮られているからこそ、尚のこと頭に来る。
「知らんっ!!」
「えっ、どれどれ~? ・・・あっ、ホンマや~」
「ちょっ・・・! 小歩路さん!!」
「おぉ~! 結構アングルもいい感じですね」
〔確かに〕
「でしょっ?」
「手神さんまで・・・!!」
「コレ、スタッフDiaryに載せようよ! きっとみんな喜んでくれると思うよ?!」
「何を喜ぶんやッ! 何をッ!!」
「あっ、でも未佳さん・・・。その写真をDiaryに載せるのは、早くても明後日の夕方・・・。私達が帰りの新幹線に乗った後ですからね?」
ふっと栗野からそんな忠告を受け、未佳は『えっ?』という声と共に、栗野の方を振り向き聞き返す。
「えっ!? なっ、なんでっ?!」
「『なんでっ?!』って・・・。じゃあ未佳さん。その写真をよく見てください。・・・長谷川さんと一緒に、ホテルの床や柱まで写ってしまっているでしょう?」
「えっ? ・・・・・・あっ・・・、ホントだ・・・」
確かに言われてよくよく確認してみれば、長谷川が倒れている大理石風の床はもちろんのこと。
その奥にあるやや黄土色がかった柱までもが、例の長谷川ヒトデ写真の中に写り込んでしまっていた。
こうした特徴的なモノが写り込んでしまっている写真は、基本的にその場所から離れない限り、スタッフDiaryや公式サイトなどにはUPできない。
それには、こんな止むを得ない事情があるからだ。
「こういうホテルの特徴が写ってしまっている写真は、ここをチェックアウトしない限り載せられないんです。下手にサイトとかでUPさせてしまうと、私達がどこに泊まっているのかバレてしまう可能性がありますから・・・。ましてや今日は、まだ2泊3日の内の1日目・・・。感付かれる可能性は大いにありますしね」
「えぇ~・・・・・・。じゃあ・・・、さとっち以外の箇所にボカシを入れるとかは?」
「えっ・・・?」
「〔「えぇーっ?!」〕」
「!!」
その未佳の『ボカシ』という発言に、先ほど未佳の撮影した写真を拝見していた3人は、同時に未佳の背中に向かって大声を上げた。
さらにその後3人は、その突然の大声に驚いた様子の未佳に向かって、必死に『ボカシを入れて載せないで!!』と、未佳に詰め寄る。
「みかっぺ、その写真ボカシ入れて載せるん?! ソレめっちゃ勿体ないよ~!」
〔うん! うん!〕
「そうだよ、坂井さん。その写真こんなにキレイによく撮れてるんだから・・・。床の色合いとかの相性もかなりいいし、モザイクを入れるのはよくないと思うよ?」
「えっ・・・・・・・・・」
「載せるのはホテルをチェックアウトするまで待ったら?」
「そうよ、未佳さん。それに写真なら、私も何度か数枚。新感線とかバスの中とかで撮りましたから・・・。どうせだから、私の写真と一緒に載せましょうよ。ねっ?」
そう栗野が手神に続くように説得すると、ようやく未佳も踏ん切りがついたのか、小さくコクリと頷き返した。
「・・・・・・うん・・・。分かった。そうする♪」
「〔「「うんうん♪」」〕」
「さとっちもそれでいいよね?」
「いや・・・。僕まだ何にも言ってないし・・・。ってか・・・、写真載っけていいとも言ってないし! コレ、プライバシーとか著作権関係アリな内容っしょ?! だったら僕嫌っすよ?! 絶ぇ~対に嫌っすよ!?」
どうやら余程『ギタリスト』としてのプライドが許せなかったのか。
はたまた『長谷川智志』という一個人のポリシー的に許せなかったのか。
長谷川はその画像転載を激しく否定した。
そんな長谷川に、これまた激しく反論してきたのは他ならぬ未佳だ。
「なんでよ!! 別にいいじゃなーい! こんな面白画像くらい載っけても・・・!」
「いっ! やっ! でっ! すっ!! ・・・むしろ『面白画像』言うたら・・・。栗野さん、確か行きの新幹線の時、コソコソ僕らの寝顔写真撮ってましたよね?」
「えっ? えぇ・・・」
実は栗野が隠れて写真を撮っていたのは、あのバスの中が最初だったわけではない。
この日栗野が初めて会報カメラで写真を撮っていた場所は、実は行きの時の新幹線の中。
それも、メンバー4人が熟睡して眠っている寝顔を狙って撮影していたのである。
しかし、まさかその一部始終を長谷川に見られていたとは夢にも思わず、栗野は口元に手を当てながら冷や汗を流す。
「え゛っ・・・。はっ・・・、長谷川さん・・・。私が隠れて撮ってたの、気付いてました・・・?」
「ま、まあ・・・。あの時ちょっと新幹線が大きく揺れて起きたんで・・・。目は一回だけ開けてすぐ閉じたんっすけどー・・・。な~んか傍で『パシャッ! パシャッ!』音がするなぁ~って・・・。撮ってましたよね??」
「は、はい・・・。何枚か一応・・・」
「ゲッ・・・! 嘘・・・」
「えっ? じゃあ何?? 栗野さん勝手にウチらの寝顔写真、隠れてコソコソ撮ってたってこと!?」
「・・・って! そもそも厘さんは一回も寝てないでしょっ!!」
「で! あの時の坂井さんの寝方。栗野さん、撮りました??」
「撮りました・・・、けど・・・、それが何か?」
「いや! あれこそこんなんよりも絶対に『面白画像』っすよ!!」
そうやや興奮気味に話し出す長谷川に、未佳は一瞬その発言を頭の中で何度もリピートさせながら『はっ?!』と、長谷川に聞き返す。
「ちょっとソレどういう意味よ!?」
「だって坂井さん。窓枠に肘付いて、頬杖付きながら寝てるんっすもん! しかも足組んで寝てたし・・・」
「あっ・・・。それウチも本読んでる時気ぃ付いて笑ってたわ」
「あっ、僕も」
「見ましたよね?!」
「「見た見た!」」
「アレはかなり笑えたな~! 体勢が・・・。『ちょっと・・・!? 坂井さん?!』みたいな」
「そうそうそう!」
(・・・・・・・・・・・・)
「ですよねぇ?! なんかもう・・・! 完全に“会社とかで居眠りしてるオッサン”みたいな感じで」
「!!」
ベシッ!!
バシッ!!
〔(ゲッ・・・!!)〕
((お・・・、往復ビン・・・))
「あ~ら、やだ・・・。ちょっとここで長居し過ぎましたね」
ふっと自分の右腕に付けていた腕時計を確認しながら、栗野がサラリと言い零す。
どうやら、これから各メンバーの部屋へ移動するらしい。
「じゃあ皆さん。そろそろそれぞれの階と部屋に行きましょうか。ねっ?」
「はーい♪ さんせーい♪」
「「は、はぁー・・・」」
「じゃあ皆さん、エレベーターに乗りますよ~? ・・・長谷川さん、そんなところに蹲ってないで立ってください。移動ですよー?」
「・・・・・・・・・痛い・・・」
((〔(そりゃあいくらなんでもあれは・・・)〕))
「痛くても立ってください。自分で蒔いた種でしょ?」
「・・・・・・あんな種そもそもいらんわ・・・」
「屁理屈はいいから・・・! ほら! 早く!!」
栗野は何度も長谷川にそう言って立たせようとしたのだが、予想以上に未佳から受けた往復ビンタのダメージが強かったらしく、長谷川は両頬を押さえて蹲ったまま、一向に立ち上がる気配を見せない。
そんな長谷川にとうとう栗野も痺れを切らし、仕舞いにはこんな提案をメンバーの一人に言い付けた。
「・・・手神さん。長谷川さんをエレベーターのところまで“引きずってください”」
「!? ひっ・・・、引きずるんですか?!」
「フードのところを引っ張っていけば楽だと思うんでお願いします」
「・・・それ今テレビでやってる壁紙のCMと被りません?!」
「いいからやってください。お願いします」
「・・・・・・・・・・・・」
「あっ。手神さんが嫌なら私がやるよ♪」
「行きますっ! 行きますっ! 歩きますっ!! 歩きますっ!!」
その未佳の立候補に恐怖心が沸いたらしく、長谷川は慌てて蹲っていた体勢から立ち上がると、そのままスタスタと通路を急ぎ足で歩き始めた。
正直コレ以上未佳に関わるのはかなり危険だ。
下手をすれば自分の命に関わるような事態になる気もしなくはない。
(コレ以上坂井さんに何かされたら・・・。僕完全に殺されるわ! それだけは何としても避けたぃ)
「さとっち~!」
「んぁ?」
「エレベーターはこっちだよ~? そっちW.C」
ズルッ・・・
「あぁ~・・・っ!! ったく、一体なんやねん! まったくもうっ・・・!! 絶対に今日は僕の厄日や! 厄日っ!!」
「・・・それ、数時間前にみかっぺがまったく同じこと言うてた・・・」
「あぁ~、多分アレね。もれなくさとっちが全部引き継いでくれたみたい・・・」
「いらんわっ!! んなモン・・・! なんで毎回よりにもよって僕のところやねん!! どっか別のトコ行けや! オラッ!!」
そんな誰に向かってでもない怒鳴り声を上げながら、長谷川はズカズカとした足取りで、皆と共にエレベーターの方へと向かっていった。
ちなみに、そんな長谷川の様子を近くにいた人々が不審な目で見ていたのは、もはや言うまでもない話である。
『ネイル』
(2001年 12月)
※事務所 控え室。
みかっぺ
「ねぇ♪ ねぇ♪ 見て! 見て~! 今日いつものネイル屋さんで、クリスマスイメージネイルしてもらったの~♪♪*ш(^^)ш*」
厘
「あっ・・・。ホンマや!」
手神
「そういえば明日はイヴか~・・・(しみじみ)」
厘
「へぇ~。ラメ入ってるし、こうして見るとめっちゃキレイやねぇ~(うっとり)」
手神
「しかも指の交互で色違いストライプ。凝ってるなぁ~」
厘
「うん。右の親指と中指と小指とー・・・、左の人差指と薬指は赤と白・・・。残りはみんな緑と赤のストライプ柄やね。・・・なにか意識して塗ってもろたんか?」
みかっぺ
「そう♪ ほら、よくクリスマスの時期に売られてるじゃない。赤と白のストライプ柄になってる、ステッキみたいな飴・・・」
厘
「あっ、あるある~♪ よくツリーの飾り道具とかでも見るやつやろ?」
みかっぺ
「うん。この赤と白のストライプは、それに似せてみたの(^^)♪」
手神
「じゃあそっちの緑と赤のストライプは~・・・、ツリーかな?(ニヤッ)」
みかっぺ
「に見せ掛けて、実はツリーとサンタさんだったり・・・(ニヤッ)」
手神
「あっ、なるほどっ(笑)」
ガチャッ
さちっち
「失礼しまーす。ただ今レコーディングから戻りましたー」
厘・手神
「「お疲れ様ー」」
みかっぺ
「あっ・・・。さとっち見て見て~♪♪」
さとっち
「ん?」
みかっぺ
「いつものところでネイルしてもらったの~(^^)♪ なんか可愛いくない??(キャピキャピ)」
さちっち
「・・・・・・その色もしかして・・・」
みかっぺ
「♪♪(ワクワク)」
さとっち
「正月飾りと角松か?」
みかっぺ
「Σ(゛ ̄□ ̄)!! かっ・・・、カドマツッ?!(ア然) ・・・・・・コレそっちに見えた?」
さとっち
「うん・・・。えっ? 違うんですか??(聞返)」
何気にあの行事二つ時期近いんだよねぇ~・・・(ーー;)