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59.1円の日は・・・

かなり荒めの水の洗礼を受けながら、未佳とリオはようやく、目的地でもある大玉スーパーへと到着した。

ちなみに到着するまでに掛かった時間は、片道だけで約1時間ほど。

今回は途中あんな出来事があったり、雨が降っていたということも多少関係しているのだろうが、少なくともここに到着するには40分ほど掛かるようだ。


スーパーに到着すると、二人は迷わずスーパーの左側にある駐輪場へと向かった。

今日は雨が降っている関係もあり、自転車でやってきている人は誰もいない。

まさにリオと二人で濡れた箇所を拭き取るのには最適な場所だ。


「ふぅ~・・・。酷い目に遭ったね・・・」

〔うん・・・。あのあと一回身体透かしてみたけど、服の水落ちなかった・・・〕

「えっ? 服の水落ちないの? なんか感覚的には落ちそうな雰囲気あるのに・・・」

〔多分固形じゃない+染み込んだせいからだと思う・・・。何となく心当たりあるし・・・〕

「あっ・・・。もしかしてこれまでの経験上?」

〔・・・うん〕

「なるほど・・・・・・。結構ややこしいのね・・・。え~っと、ハンカチは~・・・・・・。あった。ほらリオ、こっち向いて」

〔ん?〕


未佳はそうリオに言うと、自分よりも先にリオの身体と顔を、持ってきていた黄色いハンカチで拭き始めた。

実はあの後も2~3度似たような目に遭い、未佳とリオはお互いにズブ濡れ状態になっていたのだ。


ただしリオの場合は、未佳が率先して道路側を歩いてくれていたおかげで、そこまで身体が濡れるということはなかった。

もっともその代わり、リオの盾となっていた未佳はというと、ご丁寧に髪までズブ濡れというかなり悲惨な姿になってしまっていたのだが。


〔いいよ、僕は・・・! 未佳さん、自分の身体先に拭いたら!?〕

「私はいつでも拭けるからいいの。リオは人のいない今しかできないんだから・・・。ほら、まだ水ついてる」


こうしてリオの身体をあらかた拭き終えた後、ようやく未佳は自分の身体の雨水処理に取り掛かった。

とりあえず拭く前にロングワンピの裾を絞ってみると『ポタポタ・・・』と大きめの水滴が4~5滴ほど落ちてゆく。

さらに場所によっては、指の間から小さな一筋の水となって落ちる始末。


「・・・なんか絞ったらスカート軽くなったかも・・・」

〔重かったの・・・?〕

「そこそこ・・・。よしっ。こんなもんでしょ。じゃあ中入ろっか」

〔外寒いしね・・・〕

「雨微妙に入ってくるし・・・」


二人はそんなことを呟きつつ、ようやく店内へと向かっていった。


深緑色の買い物カゴを左腕に掛け、出入り口となる自動ドアを通ってみると、スーパーは当然のことながら大賑わい。

人の数も尋常ではないほどの混み具合だ。

一応未佳の中では予期していた光景ではあったが、いざ目にしてみるとやっぱり気が引ける。


「・・・・・・すごい人・・・」

〔しかも年配者多し・・・〕

「あっ・・・、考えてみたら今日木曜日でしょ? カード持ってる人はポイント20倍デーじゃない・・・」


実は大玉では、毎週木曜日に欠かさず『ポイント20倍デー』というサービスデーを設けているのだ。

またその他にも、毎月1日はレジにて5%オフ。

毎週日曜日はポイント10倍。

毎月30日はポイント30倍などなど、色々な種類のサービスデーを設けている。


〔ちなみに未佳さん、カードは?〕

「いや、私は普段行かないから・・・。雨が降ってる時とかに気が向いたらっていうくらいだし・・・」

〔エッ!? 持ってないの!?〕

「だって雨の日はほとんど1円なのよ!? そんな日に大量に買い物やって20倍のポイント付けられても、正直ポイント数たかがしれてるでしょ!?」

〔そりゃそうだけど・・・〕

「それに残りの日にち考えたら、今からカード作っても無駄になりそうだしね・・・」

〔・・・まあね〕


確かにこの先、またここへ買い物に出向き、カードが活躍するとは思えない。

当の本人も『そんなに行かない』というのだから、そこまで求める必要もないだろう。


「あっ・・・、安っ!」

〔何が?〕

「ジャガイモ1袋5個入りで1円。ちょっと小ぶりだけどね・・・。東京から帰ったあとでポテトサラダにでもしよっかなぁ~♪」

〔僕、フライドポテトがいい・・・〕

「・・・んな面倒なの要求しないで。何かの機会にまた買ってくるから・・・」


未佳はそう額に汗を浮かばせながらリオに言うと、とりあえず良さげなジャガイモを1袋手に取り、カゴの中へと放り込んだ。


さらにその後、ペットボトルの烏龍茶に梅干し、玉ねぎにキャベツにサラダ油、キュウリに醤油にキムチ、うどん、焼きそば麺などなど。

自宅でよく使用するもので1円になっている食品を、未佳は次から次へとカゴの中へ放り込んだ。

その結果あっという間にカゴの中身は一杯になって言ったのだが、それとほぼ同時に未佳の左腕にも負担が圧し掛かる。


「まずい・・・。重い・・・」

〔・・・あの車輪付きのヤツ使ったら?〕


リオが指差す先にあったのは、買い物カゴを乗せて手に押す、いわゆる『カート』と呼ばれるもの。


しかし未佳の中では、それは何が何でも使いたくなかった。

それにはこんな理由があったからである。


「ダメよ、カートなんて・・・。あれじゃあ自分で持てる量なのかどうか分かんなくなっちゃうじゃない。リオ、分かってる? 私達車じゃないのよ?」

〔それは分かってるけど・・・。せめて他の食品とか見てるうちは使ったら? このままじゃ、取っ手の痕が腕に残るよ?〕

「ん? ・・・ギャアァッ!! しまった! また栗野さんに叱られる~!!」

〔(って、気付かなかったのかよ・・・)〕


その後、リオからの勧めにより渋々カートを使っての買い物を始めた未佳だったのだが、これによってリオはようやく、未佳がカートを使いたくなかった理由を知った。


「う~ん・・・。あっ! 人参とサツマイモ安っすいっ♪ これは買っとかないと損ね。トマトも1円じゃないけど、他のスーパーのものよりは安めだし~・・・。買っとこうっかな♪」

〔ちょっ・・・、ちょっと未佳さん!? そんなに入れたら余計に持てなくなるんじゃない!?〕

「えっ? ・・・大丈夫よ。いざとなったらタクシー使えばいいんだから♪」

〔たっ・・・、タク・・・!!〕

「あっ! そういえばカレールーがなかったんだった・・・。安くなってるかな?」


未佳はそう呟きながら、再びカートを押して食品を探し始めてしまった。

どうやら未佳は、何か楽なものを使うと際限なくやってしまう人間らしい。


〔(・・・・・・ハァ~・・・。カートなんて勧めなきゃよかった・・・)〕


そう悔やんでみても、もう後の祭りだ。


こうしてしばし買い物を続けること約30分。

外の雨はやはり勢力を強めたまま、激しい雨音を立てて降り続いていた。


ちなみにスーパーで買い物をしていた人達はというと、何となく先ほどとは入れ代ったような気もするが、人の数的には先ほどとあまり変化はない。

まさに今日は、スーパー側からしてみたら痛い日と言ったところだろう。


そして肝心の未佳の買い物はというと、実は恐ろしいことにまだ続いていた。

もっとも先ほどよりもマシだったことは、際限なくカゴに商品を放り込んでいたという事実に、本人が気付き始めたということである。


「・・・・・・ちょっとやり過ぎたかな・・・」

〔『ちょっと』じゃなくてやり過ぎだよ!! どうすんのさ! このカゴの中の買い物っ!! こんなに大量に・・・! 僕は運べないんだよ!?〕

「それは分かってるんだけど~・・・。まだ1個欲しいのがあるから・・・」

〔諦めたら!?〕

「でも一番の必需品なのよ!」

〔なんで最初に入れないんだよ!!〕


ちなみに言うまでもないことだが、ここまでのリオの発言は全てごもっともである。


「う゛ぅ~・・・。でもせめてアレだけは入れさせて・・・」

〔何?〕

「・・・ケチャップ」

〔・・・・・・軽く中毒並みに好きだね・・・〕

「“中毒”って何よ!? “中毒”って!!」


まるで害のあるもののような表現にムッとしつつ、未佳はいつも自宅で使っているケチャップをカゴの中へ放り込む。

こうして未佳の買い物は終了した。


「・・・・・・よし」

〔にしても・・・、女の人が多いね。買い物してる人・・・〕

「うん。考えてみたら、夕食の材料の買い出しとかやってる時間帯だし・・・。主婦の人とかは今更じゃない?」

〔あぁ~・・・。いわゆる“嫁はん”っていう人達か〕

(・・・・・・ん?)


ふっと何気なくリオの口から出てきたこの言葉に、未佳は思わず眉を顰めた。


「・・・・・・リオ」

〔・・・ん?〕

「その言葉ー・・・、誰から聞いた?」

〔へっ?〕

「『嫁はん』っていう言葉。誰から聞いたの?」

〔『誰から』って・・・。えっ? なんで?〕


リオがそう聞き返すと、未佳はリオと同じ目線になってしゃがみ込みながら、まるで言い聞かすかのような口調で、リオに言った。


「いい? リオ。・・・『嫁はん』って、よく関西の方じゃ出てくる言葉だけど、あんまりいい言い方じゃないの。特に私とかは絶対に言いたくない言葉だから・・・。だからリオはそんな汚い言葉は言っちゃダメ。分かった?」

〔う、うん・・・〕

「少なくとも私の前では言わないこと・・・。分かった?」

〔うん・・・・・・。ごめん・・・〕

「いいの、別に・・・。で? 誰から聞いたの? 事務所のスタッフ? テレビ? それともスーパーの誰かが言ってた?」

〔長谷川さん・・・〕



ドテッ!!



「・・・・・・『長谷川』ってどの『長谷川』?」

〔『どの?』って・・・、未佳さんがよく知ってるぁ〕

「ギタリの長谷川? 正式名称が『長谷川(さとし)』っていう長谷川!?」

〔・・・逆に訊くけど、他に誰がいるの?〕


正直な話、未佳の知り合いで『長谷川』という名の付く苗字の人間は彼しかいない。

これまで伊達に32年間生きてきたわけではないが『長谷川』という苗字の人間に出会ったのはコレっきりなのである。


リオの口から出てきたその名前に、未佳はリオの両肩に手を置きながら落胆した。


「“あの”長谷川かぁ~・・・」

〔『あの』って、だから未佳さん他にいるの!? 『長谷川』っていう苗字の付く人・・・〕

「いないけど・・・。とにかくリオ! 今後はさとっちの言葉は参考にしちゃダメよ? いい!?」

〔・・・じゃあ『ケチャラー』も?〕

「あんまり良くない!」

〔語尾が『す』か『っすか』も?〕

「リオの場合使う機会ないだろうけどNG!」

〔じゃあ『ドンガラガッシャーン』は?〕

「・・・・・・それは別に・・・。でも逆に何処で使うの? ソレ・・・」

〔じゃあ『はなびん』は?〕

「『はなびん』?? ・・・何ソレ? 私一緒にいて聞いたことないけど・・・。もしかして『花火』か何かを文字って遊んだの?」

〔ううん、なんか花を生けてある入れ物をそう呼んでた〕

「・・・・・・・・・『花瓶かびん』でしょっ!? それは!!」


そうツッコミながら、未佳は頭痛のする額に手を当てる。

まさか自分よりも学歴のしっかりしている長谷川のことだけに、今のリオの発言はかなりの衝撃だ。


(うっそ~・・・。今時小学生でも言わないわよ。そんな呼び方~・・・)

〔み、未佳さん? 大丈夫?〕

「だっ、大丈夫・・・。とにかくリオ、さとっちの言葉はなるべく真似しないように。いい? 特に『はなびん』なんて、日本語としても間違ってるからね?」

〔う、うん・・・。分かった〕

「よしっ」


とりあえずリオにそう言い聞かせたところで、未佳はカートに手を掛け、レジの方へと踵を翻す。


「・・・にしてもまったく・・・。あのギターリストときたら」

「ヘー・・・、クッションッ!!」

(〔(・・・・・・あ゛ぁっ!?)〕)


ふっと自分達の前の方から聞こえてきたその声に、二人は思わず顔を見合わせた。

どうやらその声の主は、今未佳達のいる棚を左に曲がったところにいるらしい。


「今・・・、なんか聞き覚えのある声が聞こえてこなかった・・・?」

〔う、うん・・・。なんかあの角曲がったトコにいるみたいだけど・・・〕

「あそこって確か・・・、精肉売り場だったと思うけど・・・」


そう少し前の記憶を辿りながら、未佳とリオは声のした方へと向かってみる。

すると二人の耳に、今度はこんな声が自然と飛び込んできた。


「あれ? 長谷川くん、風邪?」

「いや・・・。多分これは風邪やなくて、噂くしゃみですね」

(あの声ってまさか・・・!!)


ふっと聞こえてきたその声に、未佳は『もしや・・・』と、左角の方に視線を向けてみる。

その未佳の予想は、見事に的中した。


何とそこには、まるで品定めをするかのように精肉売り場に立ち尽くす手神と、カートの取っ手部分に両手を組ませるようにして乗せている、あの長谷川の姿があったのだ。


あのカートの中に入っている商品の量からすると、どうやら二人で一つのカゴを使っているらしい。

おそらく、会計の際にどちらかが自分の分の金額を渡すと言ったやり方だろう。


ふっと未佳が二人の様子を見ていると、普段は掛けているはずのサングラスを外している手神が、面白おかしそうに長谷川の方を見ながら口を開いた。


「『噂』って・・・。ハハハ、誰か長谷川くんの噂してるのかな? 自宅かどっかで」

「いや、それもないっすよ・・・。コレ経験上のことなんですけど、僕の噂くしゃみは、噂してる人が半径100メートル以内にいる時しか起こらないんで・・・」

「えっ? ウソっ!?」

「ホンマ・・・。ホンマに」

〔『半径100メートル以内』・・・。ここだと5メートル以内だね〕

(別に分析なんてしなくてもいいから!!)


その後も二人の様子を確認していると、やがて二人の会話は、仲のよい中学生男子達のような会話へと変わっていった。


「それだけでもだいぶ飲んでられるネタだよ? 僕的には・・・」

「ハハハ! じゃあこの後飲みに行きます?」

「行く?」

「行っちゃいます?? 明日移動だけど」

「『無理だよ』っていう・・・」

「ハハハ」

「『今日僕車だよ!?』って」

「ハハハ! 飲むのはイベント終わってからっすね」

「だね。・・・残念!」

「ハハハ!」

(あの二人・・・。二人しかいない時はあんな会話してたんだ・・・。・・・・・・まあ・・・、とりあえずこっちの買い物は済んだし、早いとこレジ行って引き上げちゃお)


別に見られたくないわけではなかったのだが、この二人とは普段仕事場でよく顔を合わせている存在。

何もオフの日まで顔を合わせる必要はないだろうと、未佳はそう思ったのだ。


一方『今のは噂くしゃみだ』と断言した長谷川は、しばし小首を傾げながらふっと辺りを見渡す。


「にしても・・・。誰が噂してたんだろ?」

「ん? ・・・僕じゃないからね?」

「・・・でも当て嵌まる距離にいるの手神さんだけなんですけど・・・」

「いや、僕じゃないよ!? 他のメンバーとかじゃない?? あとはファンの人とか・・・・・・。あまり意識したくないけど・・・」

「ヤバイじゃないっすか! ここに僕らの熱狂的なファンがいたら・・・!」

「だ、だよね・・・・?」

「そうっすよ! ましてやこんな男二人がめっちゃ安売りの日にスーパー出かけてる絵なんて・・・!!」



ドテッ!!

バタンッ!!



「そこかっ!! 君が気にするところはっ・・・!! って・・・」

「な・・・、なんか今倒れる音しませんでした?」

「う、うん・・・、あっちのソース売り場から・・・。ちょっと様子見に行ってみる?」

「あっ、はい」


そう口にした二人がそこで目にしたもの。


それは、額に手を当てながらゆっくりと立ち上がる、見覚えのある女性の後ろ姿だった。


「痛っ・・・たぁ~・・・。頭からモロに倒れた~・・・」

〔何してんのさぁ・・・〕

「だってあのタイミングであんな場違いな発言言いかますなんて・・・。こっち全然思わな」

「さ・・・、坂井さん?」

「へっ? ・・・あ゛っ!!」


ふっと自分の苗字を呼ばれ振り返った未佳は、目の前に平然と立ち尽くす長谷川と手神の姿に、思わずお決まりの濁点付き声を上げた。

それと同時に、自分の真後ろに建つリオの方を横目で見つめながら、未佳はこめかみに冷汗を流す。


(ヤバッ・・・! 喋ってるトコ見られたかも・・・)

「坂井さん奇遇ですね。こんなところで」

「て・・・、手神さんにさとっち・・・。ほ、本当に奇遇ね。ハ、ハハハ・・・」

〔(会話がしどろもどろ過ぎだよ・・・)〕

「何してたんっすか? こんなトコで・・・」

「『何?』って・・・、見れば分かるでしょ? 買い物よ。買い物」

「で・・・、しょうね・・・。ん? そのジャガイモはフライド用?」

「っ!? な、なんでみんなフライドポテトを希望するわけ!?」

「・・・? 『みんな』?」

「あっ・・・、いや、なんでもない・・・。ところで二人も買い物で?」

「まあせっかくの雨だったしね・・・」

「ホンマは僕、手神さんの家に用があって、それで一緒におったんですけど。いい感じに雨が降り出したんで出かけようってことになって・・・」

「あっ、なるほど・・・」


ふっとその二人の事情に納得していると、二人は未佳の着ている服や髪などを見て、恐る恐るあることを尋ねた。


「あの・・・、もしかして坂井さん・・・」

「ん?」

「今日歩いてここに来ました?」

「なんか髪の毛とかかなり濡れてるけど・・・」

「えっ? あぁ・・・。うん。電車は高いし、バスは行っちゃったあとだったから・・・。だから傘差して歩いてきたんだけど・・・」

「えぇ・・・っ!? あの距離をわざわざ!?」

「うん。でも行きの途中に3回もトラックに水の洗礼受けて、本っ当に悲惨な目に遭ったわよ・・・。『雨の日は外出るな!』ってことなのかな・・・? ハハハ・・・」


そう僅かながらも湿っているロングワンピを摘まみながら苦笑すると、長谷川と手神はお互いに無言で顔話を見合わせる。

そして再び未佳の方に視線を向けると、手神はこう未佳に口を開いた。


「何なら坂井さん・・・。帰り僕が車で送っていこうか?」

「えっ・・・?」

「その荷物じゃあ、ここからあのマンションまで歩いて帰るの大変だろうし・・・」

「それにいつかの僕みたいに、雨で風邪でも引かれたら大変ですからね」

「そっ・・・、そんな・・・!! それはさすがに悪いよ!! ましてやたまたま会っただけなのに、ついでに送ってもらうだなんて・・・!!」


まさかの手神の口から出てきたその言葉に、未佳は両手と首を振りながら遠慮した。


別に車に乗せてもらいたくて、トラックに水を掛けられたなどと言った話をしたわけではない。

ただ単に服が濡れていることについて訊かれ、その理由を少しだけ詳しく話しただけなのだ。


しかし手神は、遠慮する未佳に笑みを浮かべながら車に乗ることを勧めた。


「大丈夫♪ 大丈夫♪ どうせ長谷川くんも途中で送るんだから。この買い物と一緒に」

「今日みたいな日は、逆にその方がいいっすよ。雨しばらく止まないみたいだし・・・。あんなにザーザー言ってんだから」

「・・・・・・なんだか悪いなぁ~・・・。本当にいいの?」

「「もちろん♪」」

「・・・って、長谷川くん。言わせてもらうけど僕の車だからね?」

「そんなん百も承知ですが?」

「・・・・・・じゃあ・・・。せっかくだからご厚意に甘えさせてもらっちゃおうかな? ・・・自宅までお願いします」


そう控えめな笑みを浮かべて顔を下げると、手神は『はいはい』と返事を返した。


だがただ送ってもらうわけにはいかない。

こういう場合大人のマナーとして、何か礼を返すのが筋だ。


ふっと手神の財布に視線を移した未佳は『そうだ!』と、あることを手神に尋ねた。


「あっ、手神さん」

「ん?」

「手神さんってカード持ってる? 大玉の・・・」

「あっ、うん・・・。あるよ?」

「お会計ってどうやる予定だった?」

「『どう?』って・・・」

「僕が自分の分のお金を手神さんに渡して、一緒に払ってもらうつもりですけど? あとでレジ袋でお互いの荷物分けて・・・」

「カードはどっちのカード?」

「・・・今日は僕が手神さんの車に乗せてもらってるから、手神さんのカードにポイント貯めてもらうつもりですけど?」

「じゃあ私の分も一緒にレジで払っちゃって。お金は渡すから・・・。そうすれば3人分の買い物のポイント、手神さんのカードに貯まるでしょ? ちょっと乗せてもらう礼にしては合わないかもしんないけど・・・」

「あっ・・・、わざわざどうも・・・」

「いえいえ♪」


こうして無事送ってもらう際での交渉も済み、3人は大玉を後にした。


ちなみに手神の車は、長谷川のものよりも一段下の白の5人乗りワンボックスカー。

ただし、車の車種的にはかなりお高めのものである。


未佳はその車の後部座席に座りながら、ふっと隣にいるリオに言った。


「リオ。コレ一応高級車なんだからね? 栗野さんのとは全然乗り心地違うでしょ?」

〔言われてみればね・・・。もしかして乗せてもらうの否定してたのはそういう理由?〕

「だって悪いじゃない・・・。滅多に乗れないような車なんだから・・・」


すると長谷川も未佳と同じようなことを思っていたのか、徐にこんなことを呟き始めた。


「フゥ~・・・。やっぱなんかいいっすよねぇ~。僕も車替えよっかなぁ~・・・」

「フッ。そんなことしたらまたお父さんから文句くるんじゃない? 『なんや!? この小っさな車は!!』って」

「別にええやないですか。僕個人のなんだし・・・」

「そういえばさとっち。この間の修理代の請求書の件、どうなったの?」

「ん? 厭味いやみったらしく昨日家のポストに現金そのまんま放り込まれてた・・・」

「え゛っ・・・? クスッ・・・」

「ハハハ! それは面白いな」

「ハハハ!!」

「二人して笑わんといてーな!! 結局息子の反撃失敗してるんやから!!」


そんな和気あいあいの中、車は未佳の自宅のマンションへと向かっていった。



予約死亡期限切れまで あと 165日


『春の植物』

(2002年 3月)


※PV撮影地のとある公園 休憩中。


みかっぺ

「うわ~♪ キレイな草がいっぱーい♪」


「ホンマ。野草が沢山生えててええね」


みかっぺ

「ね~♪ タネツケバナにナズナにスギナにタンポポに~(^^) あっ! ハコベやオオイヌノフグリもある!! やっぱり春の公園はいいなぁ~(笑顔)」


手神

「長谷川くん。坂井さんが言ってること、分かった?(コソコソ)」


さとっち

「すんません。植物無知なんでまったくです・・・(コソコソ)」


手神

「だよねぇ~・・・(苦笑)」


みかっぺ

「あぁ~! 園芸のムスカリまである~♪」


「あっ・・・! ねぇ、みかっぺ! これモッコウバラちゃう?」


みかっぺ

「あっ、ホントだ! モッコウバラ!!(ハイテンション)」


さとっち

「ダメだ、全然付いていけない・・・(諦)」


手神

「そ、そうだね・・・(苦笑)」


「あっ・・・。みかっぺ、コレは?」


みかっぺ

「ん・・・? あっ、ねぇ! ねぇ!! ねぇっ!! 二人ともこっち来て~!」


さとっち

「ん? 何?」


手神

「どうかしたんですか?」


みかっぺ

「ほら! こんなところにオランダミミナグサがっ♪」


さとっち

「オランダシシガシラ!?」


みかっぺ・厘・手神

「「「ドテッ!!(倒)」」」



それは金魚の品種だぁ~っ!!(苦笑)


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