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58.It goes into my umbrella・・・

(さぁ~ってと・・・。朝食まがい的な物も食べ終わったところだし・・・。早速始めるか・・・)


朝食後の休憩もそこそこ取った辺りで、未佳は『よし!』と気合いを入れ、ダイニングチェアーから立ち上がった。


今日は東京へ出向くための荷造りをしなければならない大事な日。

しかも荷造りのために与えられた時間はこの日のみ。

つまり、荷造りは今日しかできないというわけだ。


(じゃあまずは・・・。荷物を入れるバッグ類ね)


未佳はそう胸中だけで呟くと、まずリビングにある引き戸の押し入れを引き開け、中から真っ黒の大きなキャリーケースを引っ張り出した。

ちなみにキャリーケースとは、ケースの下部分に付いている二つの車輪を利用して、上の方にある長い持ち手を引っ張りながら持ち運びする旅行用カバンのことである。

最近では、よくこの車輪の転がる音から『ゴロゴロ』という通称で呼ばれていることが多い。


「・・・・・・もう長い間使っててだいぶくたびれてるけど・・・。でもいっか・・・」

〔それが荷物を入れるカバン?〕

「そっ。ここに二泊三日分の荷物を放り込むの。もっとも・・・、いつもいっぱいになってギュウギュウ詰めみたいになっちゃうんだけどね」


未佳はそう苦笑しながら、とりあえず持っていくもので何が必要なのか、それを慎重に考え始めた。

とにかくいざ現地に到着して『アレが足りない』『これが無い』などと言ったことが起きてはならない。

まず最初に未佳の脳裏に浮かんだものは、泊まりで用意するものの中では基本中の基本。


「とにかく最初は着替えね。二泊三日なんだから、ジーパンは明日履いていくとして~・・・。靴下2足。下着2つ。上着4つくらい。あとパーカーかダウン・・・。パーカーの方が融通利くか・・・。それからステージ衣装とその小道具とぉ~・・・・・・」


そう未佳は必要なものを一つひとつ口にしながら、とりあえず現段階で上がったものを集め始める。

その途中何度か『こんなに入るのだろうか・・・』という不安が脳裏を掠めたが、いざ畳んで仕舞ってみるとそうでもなさそうだ。


「あっ・・・。まだそれなりにスペースはある・・・か」

〔でも着替えだけでかなりの量だね・・・。こんなに必要?〕

「失礼ねぇ~・・・。別に無駄な物なんて入れてないわよ。女の子は、色々と必要なものがお・お・い・の! おまけにまだ夏じゃないから余計によ・・・。夏だったらあんまり上着なんて持っていかなくたって済むのにね・・・」

〔・・・・・・・・・〕

「もっとも暑いの苦手なんだけど・・・」

〔ダメじゃん!!〕


続いて未佳がカバンに仕舞ったのは、大阪公演でも使用した歌詞付きの楽曲楽譜と、MCの大雑把な手順表。

これがなければ東京は悲惨だ。

さらにその他にも、携帯やウォークマン用の充電器、よくライヴの前などに使用している吸入器なども、カバンの中に仕舞った。

今はとりあえずこんなところだろう。


そしてその次に未佳が取り出したのは、普段事務所へ出勤する際に活用している茶色い肩掛けカバン。

もちろんこちらも、明日の東京移動で持っていくものだ。

ちなみにこのカバンに入れるものは、専らキャリーケースに入れられないもの、入れてはならないものだけ。

それも、このカバンに収まる範囲のものだけだ。


(こっちは財布と・・・。ハンカチと・・・。ティッシュに携帯と・・・。あと手帳とペンと化粧道具・・・。女性用品は最初から入ってるから、あとはー・・・・・・、ウォークマンくらいかな)

〔あっ、そっちのカバンも持っていくの?〕

「うん。だって財布とか携帯とか、一々キャリーケース開けてらんないでしょ? むしろ不可能だし・・・」

〔まあ・・・。そうだね〕

「だからこっちも持っていくの。どうせキャリーケースは引くだけだから、肩や片手は手ブラだしね」


またその他にも、未佳はもしもの時のための折り畳み傘や、空き時間などに読むための本などをカバンに仕舞った。

その他に入れていないもので必要なのは、空きボトル数本に入れた浄水器済みの水や、歯ブラシセットくらいだろう。

もっともこの水を今から荷物に仕舞ってしまったら、衛生面的にはあまりよろしくはまいだろうし、歯ブラシセットの場合は、今からでは今日明日の歯磨きができなくなってしまう。

どちらにしろ、カバンに詰めるのは明日だ。


「一応・・・・・・、こんなもん?」

〔僕に訊かないでよ・・・。そういえば栗野さんが『大浴場が売り』って言ってたけど、タオルとかはいらないの?〕

「うん。多分そういうのは部屋にあると思う。あと寝巻きとかも・・・。最近のホテルは、何処もそれくらい用意してるから。タオルくらいだったら、頼めば追加で貰えるしね。あ゛っ!!」

〔!? なっ・・・、何!?〕

「洗顔石鹸! 荷物に入れ忘れてた!! アレないと私ダメなのにぃ~!!」


そう気付くや否や、未佳は洗面所の方へと駆け出す。

そんな未佳の姿に、リオは苦笑しながら溜息を吐いた。


〔(結局忘れもんしてんじゃん・・・)〕


だが実際、旅行や移動での忘れ物はツキモノ。

今回は早めに気付けただけ『まあ、よかった』と見るべきだろう。


こうしてキャリーケースやらカバンやらに荷物をまとめ始めて1時間半。

あらかたの用意が済んだ辺りで、ふっと未佳は壁に掛けてあった時計に目を向ける。


時刻はもうじき午後1時。

そしていつの間にか、外は激しい雨音が鳴り響いていた。

最悪なことに降っている。

それも大量に。


「うわ~・・・。いつ降ってきたんだろ・・・」

〔ざっと15分前・・・〕

「えっ? 雨に気が付いた?」

〔だってうるさいんだもん・・・。雨音が・・・〕

「フフフ・・・。確かにそうね。こんだけうるさいとね。・・・私全然パッキングで気付かなかったけど・・・」

〔で、荷物詰め終わったみたいだけど・・・。このあとどうするの?〕


そうリオに訊かれ、未佳はかなり渋い顔をしながら顎に手を当てて冷蔵庫を見つめる。

その未佳の仕草から、彼女が何を考えているのかはすぐに想像が付いた。


〔あっ・・・。もしかしてスーパーで買い物したい感じ?〕

「うん・・・。ほら。さとっちの家の“近く”に『大玉』っていうスーパーがあったでしょ?」

〔・・・・・・決して近くはなかったけどね? かなりあの時歩いたけどあったね〕

「あそこにいっつも雨の日になると『雨の日限定1円セール』っていうのをやってて・・・。売ってるものの半分以上が1円になるのよ」

〔エッ!? でも普段も1円のやつ売ってるんでしょ? あそこ・・・〕

「うん・・・。一部はね」


しかし売られているものの大半が1円になるのは、こう言ったしっかりめの雨が降っている時のみ。

しかも途中で雨が止んでしまうと、商品は即座に定価に戻されてしまう。

まさにタイミングと天気の運次第のセールなのだ。


〔じゃあ早めに出掛けようよ! 雨が止まないうちに・・・!!〕

「・・・なんて簡単に言うけど・・・。ここからだと一番近いところで、あのさとっちの家の方の大玉なのよ・・・」

〔うん、知ってる〕

「遠いでしょ!? あそこまで私歩かないといけないのよ!? ついでにバスは行っちゃったあとだし・・・。電車は高いし・・・」

〔仕方ないじゃん・・・〕

「・・・・・・雨降ってるし・・・」

〔雨降ってるから行くんじゃないの!?〕


そうリオにハッキリと突っ込まれ、未佳はその後も渋い顔をしていたが、やがてやっと決心が付いたのか『ハァ~・・・』と溜息を一つだけ零し、遅い動作ながらも出掛ける準備をし始めた。


その際、未佳は室内で履いていたブルージーンズを脱ぎ捨て、あえて薄での生地でもあるロングワンピへと着替える。

このロングワンピは、よく染め物などで用いられる染色技法を使った柄が特徴で、白い生地の数ヵ所には、手のひらサイズほどの青や赤い丸。

その他にも、黄緑色で描かれた線や山形の柄などが入っている。

コンセプトとしては、アサガオをイメージしたロングワンピだ。


ちなみにこのロングワンピは、あの未佳の友人でもある綺花の店で買ったものだ。

しかもこれを購入しようとレジへ出向いた際、別の店員に突然サインを求められ、そのサイン記入と引き換えに半額で購入したものである。

今では私服の中でも上位に入るくらいお気に入りの服だが、コレに着替えたのにはこんな理由があった。


〔あれ? ジーパンで行くんじゃないの?〕

「アレだと一回濡れたら全然乾かないからダメ・・・。ついでに重くなるし、冷えるし・・・」

〔ふ~ん・・・〕

「それに・・・。“足青くなる”・・・」

〔ちょっ・・・! それ完全に色落ちしてんじゃん!! もしかして買ってから1回も洗ってないの!?〕

「だって買ったの去年だもん・・・。しかもまだ2回しか履いてない・・・」

〔もうちょっとジーパン履いたら!?〕

「・・・面倒」

〔じゃあ買うなよ!!〕


それからノロノロと身支度を済ませて10分。

ようやく出掛ける準備が整い、未佳とリオは家の外へと歩き出した。


内心『身支度中に雨が止むのでは・・・?』とヒヤヒヤしていたのだが、幸運なのか不運なのか、雨は一向に降り止まず。

むしろそれかりか、その勢力をより一層強くして降り続いている。


未佳のお気に入りでもある桃色の黒レース柄入り傘は、その雨粒によって小刻みに揺れながら『ザザザッ』という独特の雨音を立てていた。


正直、どんなに着飾った格好をしてみても、美しい傘を差してみても、この雨では全てが霞んでしまう。


「・・・せめて止まない程度に弱くなってほしいんだけどなぁ~・・・」

〔弱くなるどころか強くなってるね〕

「うん。私もう足元ビチョビチョ・・・。サンダル履いてきて正解だったけど、足の裏が濡れて若干気持ち悪い・・・。おまけに寒いし・・・」

〔まあ・・・。まだ3月の頭だし・・・〕

「・・・・・・リオはいいわよねぇ~・・・。身体透かしてれば濡れないんだから・・・」

〔っというか・・・。身体透かしてないと、未佳さんの隣を何かが歩いてるみたいに見えちゃうんだよ。変に水が動くから・・・〕


リオはそう言うと、一瞬だけ身体を透かすのを止め、未佳と同じように歩いてみる。

するとリオの頭上から降ってきた雨は、ありもしないリオの身体の障害物に当たって飛び散り、ある一定の空間だけ雨粒が当たらならない光景が広がった。

さらに足元にある水溜りは、リオがその上を歩く度に『ビチャリ』と大きく揺れ動き、足のある位置のみ水が変に窪んだような形になる。


もちろんリオの姿が見えている未佳には違和感はないが、他の人達からしてみれば、これは一瞬目を疑いたくなる光景だろう。


この時未佳は初めて、雨や雪の日のリオの不自由を知ったような気がした。

こういう天気の日は、彼はいつものように歩けないのだと。


「あっ、そっか・・・。ねぇ・・・。そういえば“身体を透かす”のって、どんな感じ?」

〔何? 急に・・・〕

「なんか気になって・・・。だって、ほら。人間にはマネできないことでしょ?」

〔マネできたら怖いよ・・・〕

「だからどんな感じなのかな~って・・・。時々リオやってるじゃない? ちょっと気になる」


未佳がそうニコニコ笑みを浮かばせながら尋ねてくるので、リオは宙を仰ぎながらふっと考え込む。



正直、答え方が分からなかった。


この能力は、自分がこの世に生まれた時から絶えず持ち続けていたもの。

いつもできたのが当たり前。

だからこんなこと、今まで一度も考えたことはなかった。

思ったこともなかった。


そんなことを唐突に尋ねられたリオはしばし考え込み、やがてある答えを口にする。

その内容は、実に素っ気ないものだった。


〔・・・・・・『どんな感じ?』って言われても・・・。感覚ない。透けてるから・・・〕

「えっ?」

〔身体に何にも当たんないから・・・。だから日差しの暑さとか、風の冷たさとか・・・。今日みたいな雨粒の強さとかもね。全然分かんない。でも外にいる時とかは、逆にそうしないと変に気付かれるから・・・。僕の中じゃ当たり前の動作だけどね〕

「・・・・・・・・・・・・」

〔だから『どんな感じ?』って訊かれても、そもそも“感じてない”から答えようがないんだけどさ・・・・・・。・・・? 未佳さん・・・?〕


ふっと気付けば一緒に歩いていない未佳に、リオは『ん?』と後ろを振り返ってみる。

未佳は何故か、リオから3歩ほど後ろのところに、席を差したまま立ち尽くしていた。


〔未佳さん・・・? ・・・どうしたの・・・?〕

「・・・・・・リオは・・・・・・」


ようやく未佳の口から出てきたその声は、雨音によって消えてしまいそうなほど、か細過ぎる声だった。

しかしそれでも、未佳は悲しげな表情を浮かべながら、小さな声で一つひとつ、言葉を繋ぐ。


「リオはずっと・・・・・・、そうやって過ごしてきてたの・・・?」

〔・・・えっ?〕

「生まれてからずっと・・・? ・・・今の今まで・・・?」

〔・・・・・・う、うん。だってそうしないと・・・、“存在してる(僕がいる)”って知られちゃうから・・・。周りの人達に・・・〕


そうリオが口にした、まさにその瞬間。




未佳の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。

音も立てず・・・。

ゆっくりと頬を伝うように・・・。


リオにはなぜ未佳が泣いているのか、まるでその理由が分からなかった。

ただ何故か未佳は悲しげな表情を浮かべて、明らかに泣いているのだ。

雨粒が目元に当たっているのではない。

完全に泣いているのである。

リオ(自分)を見て・・・。


〔未佳さん・・・? なんで泣いてるの? どうかした?〕

「・・・か・・・・・・って・・・」

〔えっ・・・?〕

「『悲しいなぁ~』って・・・。そう・・・・・・、思ったの・・・」

〔・・・なんで?〕

「・・・だって・・・、生きてるのに・・・。ちゃんとここに存在してる(いる)のに・・・・・・! 何も今まで・・・・・・、感じられずにいたんでしょ・・・?」

〔で・・・、でも・・・! 別に泣くようなことじゃないじゃん?! そんな・・・。だって・・・! ただ感じられないだけのことで〕

「それが悲しいの・・・!! リオは私達みたいに生きてるのにっ・・・! 私達みたいに暮らしてるのにっ・・・!! リオには、人間なら当たり前に感じられることが感じられなくて・・・! それが・・・、それが『当たり前』になってるのが・・・・・・・、悲しすぎるの・・・。・・・・・・私なんか・・・・・・・、私なんかっ・・・」

〔・・・・・・・・・〕

「もう・・・『嫌っ!』って言うくらいそういうの、体験してるのに・・・・・・。なのに・・・、なのにそんな贅沢・・・。私・・・、自分で打ち捨ててた・・・。バカだよね・・・? リオみたいな人も、世の中に入るのに・・・」

〔未佳・・・、さん・・・・・・〕


未佳のその涙のワケを知って、リオはようやく全てを理解した。



あぁ・・・、そうか・・・。

僕らにとっての“当たり前”は、未佳さん達にはまったく真逆の意味で“当たり前”で・・・。

僕らの“感じられない”ことは、未佳さん達にとっては“贅沢なくらい感じていること”で・・・。


だからこそ・・・。

未佳さん達からしてみれば、僕らは悲しいんだ・・・。

“感じられないことが当たり前になっている”、僕らのことが・・・。



自分のために、未佳が泣いている。

未佳が涙を流している。

自身が死んでしまっていることはどうあれ、未佳にとってそれは、あまりにも衝撃的すぎる言葉だったのだろう。

たかが他人のために、涙を流すくらいなのだから・・・。


未佳は静かに、少しだけ赤くなった目でリオを見つめると、離れていた3歩の距離を埋めるように、リオの前へと歩み寄る。


そして静かに、リオの頭上に傘を差し出した。

その瞬間、今まで自分の身体をすり抜けていた雨粒が、リオと未佳の頭上にある傘によって遮られる。


〔(・・・・・・えっ・・・?)〕

「これなら・・・。身体透かさなくても、気付かれないでしょ・・・?」

〔!!〕

「だから・・・・・・、だから・・・」



“私の傘に入って・・・。”



未佳のその言葉が発せられた瞬間は、まるで静寂の中にいるかのようなほど、音がなかった。

雨音も、車の走る音も、水が流れる音も、何も聞こえてこなかった。


ただ唯一分かったことは、未佳が差し出してくれたこの傘の存在が、途轍もなく大きかったこと。

そして嬉しかったこと。

それは、今までリオが一度も体験したことのないような、初めての嬉しさだった。


だからこそ、リオは未佳を見上げて言った。


〔ありがとう〕


そのリオの言葉を聞いて、未佳の顔が一気に笑顔に変わった。


「どういたしまして・・・」


そう言い終えた辺りで、未佳は軽く目元を拭うと、さり気なく空いていた方の左手でリオの右手を握った。

この突然の未佳の行動に、リオは本日数度目の『えっ?』を口にする。


〔な・・・、何?〕

「たまには手繋いで歩こう?」

〔・・・『たま』どころかお初だと思うけど?〕

「いいじゃない。どうせこんな日に外歩いてる人なんていないんだから、見られるわけでもないし・・・。私が水溜りの道歩かない限り、リオが足元気にする必要もないでしょ?」

〔・・・・・・でも横殴りの雨だから結構雨水当たる・・・〕

「一気にびちゃ~よりはかなりマシよ」


そんなことを未佳が口にしてしまったからなのだろうか。

ふっと二人で道路側に近い道を歩いていた、まさにその時だ。


突然1台の大型トラックが交差点を曲がり、未佳達の真後ろから猛スピードで走ってきた。

そして次の瞬間。



バッシャアァァンッ!!



「キャッ!!」

〔うわっ・・・!〕


トラックの走り去った後の二人は、かなり悲惨な姿となっていた。

とにかく上半身、下半身共に右側がズブ濡れになるという、まさに最悪な状態。


「! ゲェ~・・・。うっそぉー・・・!!」

〔うわ~・・・。キレイにほぼ全部濡れた・・・〕

「あ゛ぁ゛~っもう! 最・・・悪っ!! ロングワンピビッショビショになっちゃったじゃない! もうっ!!」

〔仕方ないよ。あんなトラックか走ってったんだもん・・・〕


そう冷静に答えるリオに、未佳はロングワンピの裾を絞りながら、やや先の方に見えるトラックをキッと睨み付ける。


「~ッ!! 雨の日に猛スピードで走るな~っ!! このアホトラック~ッ!!」

〔多分・・・、聞こえないよ・・・〕

「~っ!! もう! ・・・・・・・・・・クスッ」

〔へ? 何笑ってんの?〕

「はは・・・。だってリオ、なんか雨に濡れた子犬みたいなんだもん! 濡れるとそんな姿になるんだね♪ ははは」


そう言って口元に手を当てながら肩を揺らして笑う未佳に、リオは少しばかりムッとしつつも、負けじと未佳に言い返した。


〔未佳さんだってきれいに半分濡れてるから、半分だけ水溜りに落ちたみたいになってるよ?〕

「!! なんですって~!?」

〔何さぁ!?〕

「・・・・・・・・・」

〔・・・・・・・・・〕

「・・・・・・ふっ」

〔・・・・・・はは〕

「〔ハハハッ!! ハッハハハハ!!〕」


次の瞬間、二人はお互いに顔を見合わせながら爆笑した。

きっと周りに人がいたら『この女性は一体どうしたのだろう?』と思われていたに違いない。


その後二人は一頻り笑い終えた辺りで、ようやくスーパーの方へと歩き出して行った。

お互いにさり気なく、手を繋ぎながら。


『デビュー』

(2000年 10月)


※喫茶店。


綺花

「へぇー(驚) 未佳、アーティストになったんだ~(意外)」


みかっぺ

「うん・・・、まだ出だし程度だけどね・・・」


小春

「でもスゴイわぁ~。まさか高校の優等生だった未佳がアーティストやもん。ウチ、めっちゃビックリしたわぁ」


みかっぺ

「もう何よ。みんなしてしみじみ・・・(笑)」


由利菜

「だからみんな驚いてんのよ。・・・それより、バンドの人達ってどんな感じなの?」


綺花

「男の人も二人いるんでしょ?!」


みかっぺ

「う、うん・・・。でも『どんな感じ?』って訊かれても・・・」


※ふっと、喫茶店のスピーカーから自分の歌が流れる。


みかっぺ

(あっ、うそ~っ!! ・・・コレこの間レコーディングやった私の歌じゃない! うわーっ! ちょっとこんな場所で流れるとすっごい恥ずかしいんだけどーっ?!(恥))


綺花

「あっ・・・、なんかいい歌だね。この曲」


みかっぺ

(えっ? ホント?!(嬉))


由利菜

「でもコレ・・・、歌ってんの男・女どっち?(問)」


みかっぺ

(えっ・・・?(゜゜;))


小春

「う~ん・・・。声が低いから男っぽい気もするんやけど・・・。なんか女の人の声にも聞こえるしー・・・。どっちか分からん!」


由利菜

「未佳どっちだと思う?」


みかっぺ

「・・・・・・・・・・・・さぁ~・・・(汗) どっちだろう~・・・(苦笑)」



いっそ『私っ!!』と言った方がいいと思う(笑)


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