54.アンカーべ~
サイン入りポスターも手渡し終え、未佳達は両手にローションを塗りながら、少しばかり休憩を取る。
肝心のコーナーが二つも終わり、もうやることは何も残されていないようにも見えるだろうが、実はまだこれで“終わり”というわけにはいかないのだ。
何故なら先ほどポスターを受け取ったはずの数十人の人々が、再び新たなポスター引換券を持って、手渡し会会場付近に待機していたからである。
これが、未佳達の言う『第2波』と呼ばれる人々のことだ。
この『第2波』と呼ばれる人々の狙いは、その時その時のイベント内容によって大きく異なるが、今回はCARNELIAN・eyesの誰かからポスターを受け取れる。
または間近でメンバーに会えるなどと言った、ようするにメンバーとの対面・触れ合いを求めた人々が大半だろう。
ちなみにこうしたファンの人々が度を越してしまうと、それはそれでかなり大きな問題を引き起こしてしまうことにも繋がるのだが、今のところCARNELIAN・eyesの活動上では、そのような事態は起こっていない。
【はい! それでは只今より、第2回目のポスター手渡し会を開始します! 尚こちらのポスター手渡し会で渡されるポスターは、全てサイン無しのものになりますので、予めご了承ください! それでは先ほどと同じく、ポスター引換券をお持ちの方は、テーブルの右通路に並んで、お待ちください!! ・・・もう一度繰り返します! 只今より・・・】
その栗野のアナウンスが流れた途端、引換券を手にしていた人々は『待ってました!』と言わんばかりに、再び先ほどと同じ右通路に駆け出しながら、我先にと列を作って整列する。
その人々の姿に、未佳達はただただ圧倒されるばかりだった。
「毎回見る度に思うけど・・・。本当にスゴイよね、アレ・・・・・・」
「うん・・・。一体ウチらの何処がええんやろ・・・」
「え゛っ・・・?」
「『何処が』って、小歩路さん・・・」
「そりゃあ“品格”とか“作詞能力”とか“ものの見方”とか・・・・・・、挙げてったらキリがないっすよ」
「同じ人間やのに?」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
【では、ポスター手渡し会を開始します! メンバーが見える位置にお並びの方は、予めポスター引換券を手に持って、順番に前へお進みください!!】
そうこう言っている間もなく2回目のポスター手渡し会が再開し、未佳達はやや慌てながら、先ほどと同じ立ち位置でポスターを構えた。
ちなみにこうしたイベントでの第2波は、傾向として未佳のみがポスターを手渡す割合が多くなる。
何故ならこの第2波として舞い戻ってくる人々は、皆かなりの熱狂的な、あるいは常連ともなっているファンがほとんど。
そしてそうしたファンの人間は、なるべく多くメンバーの元へ回り戻るために、あえて大量に買った引換券を1枚ずつしか出さないようにするのだ。
もちろん、一々そんなことをされていたら時間が延ばされるだけなので、ある程度の段階からはスタッフがストップを掛けてくるのだが、それまではとにかく顔馴染みのファンのリターンが続くのである。
現にポスターを笑顔で手渡していた未佳も、この第2波を15分ほどやり続けた辺りで、何度もリターンを繰り返す常連者達の存在に気付き始めていた。
「いつもありがとうございまーす♪」
〈みかっぺ、サイコ―っ!! ホンマに大好きっす!!〉
「あっ・・・、ありがとうございます」
〔・・・・・・あの人・・・、今ので回ったの4回目じゃない?〕
(一々言われなくても分かってるわよ・・・。しかもまた並びに行ったし・・・、あの人・・・)
〔・・・あっ・・・、また同じ人来た・・・〕
「えっ? ・・・あっ、リターンどうもありがとうございまーす♪」
〈はいっ! みかっぺのこと大好きすぎて、また回ってきちゃいました!!〉
(ハ、ハハハ・・・。わざわざご報告どうも~・・・・・・って、あれ? ・・・もしかして彼女、これでリターン5回目っ!?)
〈これからもバンド活動、頑張ってくださいね!?〉
「あっ、はい! できる限り頑張りま~す♪ ・・・・・・ハァー・・・、疲れる・・・」
そんな本音がついつい、誰も目の前からいなくなった辺りでポロリと零れる。
そんな中、リターンを繰り返す常連者の中には、こんな謙虚な人物もいた。
未佳が溜息を吐いた直後に現れたのは、本日リターン5回目となる30代くらいの中肉男性。
もちろん、未佳もリターンを繰り返している人間であることは気付いていたので、未佳なりに考えた挨拶で出迎えたのだが。
「あっ、またまたですね? フフフ・・・。毎回ありがとうございまーす♪」
〈あっ、はい! ありがとうございます!! あっ・・・、でももうそろそろスタッフさんから止められそうなんで、次ので持ってた8枚、渡して終わりにします〉
ズルッ!!
(〔はっ・・・! 8回もここを回るつもりだったんかいっ!!〕)
「あっ、そ・・・、そうですか。ハハハ・・・」
〈はい、それでは!〉
(・・・・・・えっ? ・・・私、どうリアクションを取ればよかったの・・・? なんか普通に苦笑みたいな笑い方で見送っちゃったけど・・・。え゛っ?! あの場合どうすればよかったのっ!?)
どうやら妙なところで謙虚すぎるファンも、これまた問題なようだ。
ふっと、次の客にポスターを手渡そうと構えていた未佳は、ここでその次の客と栗野達が、何やらガヤガヤと話していることに気が付いた。
あの様子からすると、少々こごとではあるものの、何らかのトラブルが起こったようだ。
「どうしたんだろう・・・?」
「なんか話してますね」
「まさか例の小歩路さんの誤字クレーム?」
「ッ!! んなわけないやん!!」
「なんで分かるんですか? ある意味可能性大アリですよ?」
「・・・でも話してる相手・・・。なんか学生みたい・・・」
そう未佳が口にしたとおり、栗野達と話していたのは制服を着たままの女子学生だった。
あの制服と顔立ちからすると、まだ中学生くらいだろうか。
(あれ・・・? でもあの娘・・・、さっきポスターの列に並んでたかなぁ~・・・?)
そう思い小首を傾げた直後、やや慌てた様子でこちらへ戻ってきた栗野は、メンバーに聞こえるくらいの声で伝えた。
「あの・・・! まだサイン入りを受け取っていない方がいらっしゃったんで、坂井さんはサイン入りポスターを! 他の3人は、サイン無しポスターを1枚ずつ、用意をお願いします!!」
「あぁ、はいっ!」
「やっぱり一回も回ってない人やったんや・・・」
「え~っと・・・、サイン入りの余りはー・・・。あっ! 手神さん! その黄色いやつ取って!!」
「あっ? あぁ~、はいはい! どうぞ!!」
「サンキュ!」
ちなみにその後ポスターを手渡している間に判明したことだが、この女子中学生がイベントにやってこられなかったのは、学校の卒業式に演奏する校歌の練習が、思いの外長引いてしまったためだという。
さらにその後も同じ理由で遅れてやってくる中学生が続出し、その度に、未佳は手神の足元に置かれている段ボール箱から、一々サイン入りポスターを引っ張り出す羽目となったのである。
もっとも、未佳が憂鬱になっていたのはそのポスターを一番奥から引っ張り出す作業のみであって、手渡す作業に関しては一切苦を感じることはなかった。
むしろ、わざわざ終盤辺りになってもやってきてくれた学生達に、ありったけの感謝の気持ちを込めて手渡しする感じでもあったのである。
「はい♪ こんな遅くに来てくれてありがとう~」
〈あっ、ありがとうございます!! よかった~・・・。内心間に合わないかと思った~・・・〉
「「「「ハハハ!!」」」」
「大丈夫! 大丈夫! 間に合ってるから! ちゃんと間に合ってるから!! 新学期頑張ってね!」
〈あっ・・・、はいっ!! みかっぺありがとうございます!! またライヴあったら、必ずライヴ観に行きますっ!!〉
「! ありがとう~♪ ・・・・・・夜遅くにありがとうございま~す♪」
〈わあぁーっ! ありがとうございます!! いつも通学途中とかに曲、聴いてます!!〉
「ホント? ありがとう~♪ じゃあ学校、これからも頑張ってね!」
〈あっ、はいっ!! 精一杯頑張ります!! 今日はありがとうございました!!〉
「いえいえ♪」
こうしてポスターを配り続けること約30分。
少々予定終了時刻を15分ほど押してしまう形にはなってしまったが、ここでようやく、ポスター手渡し会も終わりを見せはじめた。
実はサイン無しポスターの枚数が、とうとう残り50枚を切ったのである。
『SAND』のイベント方針では、万が一ポスターが足りなくなるような状況を作らせぬよう、ポスターの在庫が残り50枚を切ると、強制的に今並んでいる列で配布を締め切ることになっているのだ。
ちなみに今回締め切った列の残り人数は、ざっと25人ほど。
一人1枚ずつの計算であれば足りるが、それ以下の場合はかなり危うい。
「栗野さーん。今残り何枚ー?」
「ちょっと待ってください! え~・・・っとー・・・、二、四、六、八、十・・・。二、四、六、八、十・・・。二、四、六、八、十・・・。二、四、六・・・。今47枚です!」
「・・・で? 列の人は?」
「えっと・・・。二四六八十。二四六八十。二四六八・・・・・・途中から見えんから分からん!!」
〈〈〈あと27人ー!〉〉〉
〈さとっち、あと27人だよー!!〉
〈〈27人並んでまーす!!〉〉
ふっとそんな長谷川の行動や発言を聞いて気が付いたのか、既にポスターを数回もらい終えたファンや観客達が、大声で未佳達の方に情報を知らせた。
こうしたファンとのやり取りも、CARNELIANならではだ。
「27人? ありがとう、知らせてくれて・・・!」
〈〈〈いえいえ・・・〉〉〉
「でも27人かー・・・」
「一人1枚ずつなら問題ないっすけど、一人2枚ずつとかだったらヤバイっすよ!」
「・・・・・・なんか例年よりもゴタついてへん? 今年のイベント・・・」
「うん・・・。まるで初期の頃のイベントみたい・・・」
「じゃあポスター手渡し会、ラスト始めますよー!? 皆さん用意はいいですかー!?」
「「「「あっ、はい!!」」」」
内心ポスターが余ることを祈りつつ、未佳は最後のポスター手渡し会を行う。
しかし実際に行ってみれば、もう大半の人間が数回目ということもあり、皆の持っている券の枚数は1枚のみ。
(このままいけば足りるかも・・・)
そう思った矢先のことだった。
「はい! 次の方ポスター3枚~!!」
「「「「「ゲッ・・・!」」」」」
ふっと7人目に現れたこの男性は、こともあろうにポスター引換券を3枚も所持していた。
おまけにその3枚の券を、この場で全て出してきたのである。
そんな男性に、未佳は胸中だけでこんなことをポツリと呟いた。
(・・・あなたいっつも東京だってやってくるんだから、どうせなら東京の時に残りを出してよ・・・)
しかしこのような1枚以上の枚数を持っていた人は、実はこの男性だけではなかった。
なんとその後も1枚以上の枚数を出してくる者が数人、列内から現れたのである。
ちなみにその際の券の枚数は大半が2枚。
そしてごく稀に3枚といったところだった。
(足りればいいんだけど・・・)
それから僅か6分後。
列はあと3人を残すばかりとなっていた。
ちなみにこの時既に、残されていたポスターの枚数は残り4枚のみ。
うまくいけば1枚余り、もしくは0枚で余り無しとなるが、悪くいけば最悪な展開になる。
まさにギリギリな状況だった。
(せめてマイナスにだけはならずにいればいいんだけど・・・・・・)
「はい。ポスター2枚ー! お願いしまーす!」
「2枚? はーい」
「これであとの二人が1枚ずつやないと、かなりアカンことになるな・・・」
長谷川が未佳にポスターを手渡しながら、ポツリと言った。
「そ、そうね・・・。・・・・・・今日はありがとうございましたー!」
〈ありがとうございます! 今回東京行けへんから、かなり回ってしまいました。ハハハ・・・〉
〔あっ、この人東京行けないんだ・・・〕
「えっ? お仕事か何かなんですか?」
〈いや、実は“妹が土曜日に結婚式”で・・・〉
ズルッ・・・
〔(((((そ・・・、それは確かにそっちに行った方がいいなぁ~っ!!)))))〕
「あっ・・・、お、おめでとうございます!!」
〈いえいえ・・・。結婚式の会場、みかっぺの曲流す予定なんで・・・。終わったら公式サイトにメッセージ、送っときます!〉
「! ありがとうございます!! 楽しみにしてます!」
「・・・はい。次の方1枚ー!!」
続いてラスト2番目にやってきた歴代ファンの男性は、奇跡的にもポスターは1枚のみ。
これで最後の人も1枚であれば、恐れていた事態は起こらずに済む。
「ありがとうございました~!」
「皆さーん! こちらで最後の方になりまーす!! では引換券を・・・」
〈あっ、はい・・・。あのー・・・、ポスター足りますか・・・?〉
「ちょっと待ってくださーい。枚数はー・・・・・・・・・、ポスター“2枚”お願いしまーす!」
〔「「「「「えっ・・・!?」」」」」〕
聞き間違えであることを願った。
未佳だけではない。
誰もが聞き間違いであることを願ったのだ。
しかしいくらそんなことを願っても、目の前の現実は変わらない。
まさかの最後の最後にして、ポスターが1枚足りないという現実に、未佳達はブツ当たってしまったのである。
「えっ? もしかしてもうポスターないんですか!? 栗野さん!!」
テーブルの方でやや慌てふためく栗野達を見た日向が、少々嫌な展開を脳裏に過らせながら訪ねた。
「えっ、えぇ・・・。1枚ならあるんだけど、2枚はー・・・。長谷川さん。足元とかに転がってませんか!?」
「そう言われて探してるんやけどー・・・、ない・・・、なぁ~・・・。ないです! ない!」
「どないしょう・・・」
厘はそう呟きながら、自分の頭の上に両手を乗せて目を泳がす。
一方引換券を持っていた男性をチラリと見た手神は、ふっと自分の記憶を頼りにこんなことを男性に提案した。
「あのー・・・。何なら1枚は今日この場でもらうことにして、残りは3日後の東京公演で、ってことはできないですか? 確かいつも・・・、東京と大阪セットで見掛けてたような気がしたんですけど・・・」
手神がそう尋ねたとおり、この男性は関西在住の人間ではあるが、いつも東京公演や、場合によっては名古屋公演にもやってきている常連者。
ということは、大阪公演でももらうことは可能なはずだ。
「・・・そうでしたよね?」
〈あっ、はい。いつもはそうしてるんですけどー・・・〉
「「? ・・・・・・けど?」」
(え゛っ? ・・・まさかのbad?)
〈実は今週の土曜日に仕事がー・・・〉
「あっ・・・」
(((Oh My God!!)))
最悪な連鎖というものは、本当に何処までも最悪な方に転がっていくものである。
手神の切り出した提案ですらも叶わず、メンバーはしばし途方に暮れた。
もちろんポスター引換券を2枚も持っていたこの男性だって“自分には何も非がない”などということは一切思っていない。
いや。
そもそも引換券を持っていたこの男性に非はまったくないのだが、この状況では非があるように感じてしまって仕方がないというのが、今の本音だ。
そしてとうとう、男性がこんなことを切り出してきた。
〈あの・・・。ポスター、1枚だけでいいですよ?〉
「「えっ?」」
〈僕もう何回も回ってますし、このもう1枚は、東京の方へ行かれる方に譲りますから・・・〉
「いやいやいやいや・・・!!」
「いや、でも・・・!」
〈だってこのままじゃ埒も明かないんじゃ・・・〉
「そ、それはー・・・」
(どうしよう・・・。このままじゃあの人帰っちゃう・・・・・・)
いくら『数回目』と言っても、最後に嫌な記憶だけを残して帰すわけにはいかない。
未佳は何か手立てはないのかと、再度辺りを必死に見渡し、そしてあるものを発見した。
「あっ! ・・・なーんだ!! あるじゃない、ポスター♪ こんなところに」
〈えっ?〉
「「「えっ?」」」
「ほら! これよ! これ!!」
そう言って未佳が取り出したもの。
それは、たった1枚だけ余っていたあのサイン入りポスターだった。
しかしそのポスターを見て、未佳の隣にいた長谷川は慌てて未佳に聞き返す。
「『あった!』って、それサイン入りポスターの余りですよ!?」
「そうよ? だから?」
「『だから?』って・・・。サイン入りポスターは一人1枚のはず」
「いいじゃん♪ いいじゃん♪ どうせ今日の日付入ってるポスターなんて、今日渡さないと無駄になるだけなんだから・・・。むしろ誰か受け取ってくれた方が、こっちも気持ちとしては嬉しいし」
「それはそうやけど・・・」
「あっ、そうだ! さとっち。そこにあるペン取って♪」
「えっ? あぁ・・・・・・、はい」
「サンキュー」
ふっと長谷川からペンを受け取った未佳は、何やらサラサラとポスターの裏表紙に何かを書き始めた。
それから数秒後。
未佳の『よし!』という一声が聞こえてきたところで、メンバー達は恐る恐る何を書いていたのかと覗き込む。
するとそこには『アンカーべ~』という文字と『(^U^)』という、まるで舌を出しているかのような顔の部分のイラストが書かれていた。
「な、なんや?! これ!」
「新キャラ『アンカーべ~』♪ 『最後になんないと現れない!』みたいな・・・」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「・・・・・・最後の『アンカー』と『あっかんべ~』を掛けたんですか?」
「そっ♪」
〈〈〈〈〈ハハハ!!〉〉〉〉〉
(いや・・・、お客さんみんな笑ってるけど・・・。そんなにおもろいか? これ・・・)
「どうです? 皆さん。もれなく私の落書きイラスト付きですよ~♪」
〈〈〈〈〈おぉ~っ!!〉〉〉〉〉
「じゃあこちらのポスターとセットにして、差し上げますね?」
〈〈〈〈〈おぉ~ッ!!〉〉〉〉〉
〈~ッ!! ありがとうございます! みかっぺ、すごい嬉しいです!! ホントにありがとうございます!!〉
「いえいえ、どういたしまして・・・」
「『今回は特別に!』ですからね? いつもはやらないですよ?」
〈あっ、はい! でも来てよかった~・・・。今日は本当にありがとうございました!!〉
その後もこの男性は何度も未佳達に頭を下げ、やがて手渡し会会場から去って行った。
こうして手渡し会が終了すると、未佳はテーブルの上に置いてあったマイクに手を伸ばし、そのマイクに向かって口を開く。
「皆さん! 今日は・・・。少々トラブル続きで長引く形となってしまいましたが」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「最後までお集まりいただき、本当にありがとうございました!!」
ここで未佳を含め、メンバー全員が一礼をしてみれば、観客からは惜しみもないほどの拍手が一斉に沸き起こった。
「毎回こうしてイベントで皆さんとお会いすると、色々な方々から『ありがとう』や・・・『ありがとうございました』というお声をいただくことが大変多いんですが・・・。私からしてみたら、私自身が、皆さんからパワーと声援をもらっているような感じなので、むしろ私の方が『ありがとう』『ありがとうございました』と言いたいくらいです」
〔(・・・・・・・・・・・・)〕
「・・・若干長くなりましたが、また皆さんとこうしてお会いできるのを楽しみにしております! 今日はホントにありがとうございました!!」
〈〈〈〈〈イエーイ!!〉〉〉〉〉
「はい、さとっち」
そう言って隣にいた長谷川にマイクを手渡してみると、どうやら長谷川はこの展開が読めていたらしく、そのまま普通に挨拶を繋げた。
「あのー、お願いなんですがー・・・。今日発売したニューシングル『“明日”と“明日”と“昨日”』・・・。絶対にここ以外の場でも聴いてください!」
〈〈〈〈〈ハハハ!〉〉〉〉〉
「あの・・・、本当に音楽って、聴くトコ流すトコによって、七にも十にもいくらでも・・・、感情を変化させていくんですよ。特に野外とかは、同じ日なんて絶対にないような環境なんで、それくらい感情も、微妙に同じものであることがないと思うんで・・・。是非通学途中とか通勤途中・・・。あとは一人で現実逃避したい時とか」
「「「ハハハッ!」」」
〈〈〈〈〈ハハハッ!!〉〉〉〉〉
「是非聴いてみてください。・・・取り留めが無くなったところで終わります」
〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉
「今日はありがとうございました!! ・・・はい」
続いてマイクを手渡されたのは、長谷川の隣で観客の方を見つめていた厘だ。
「あっ・・・・・・。どないしょう・・・。何喋ればええか考えてない・・・」
〈〈〈〈〈ハハハ!!〉〉〉〉〉
〈〈〈厘様頑張ってー!〉〉〉
〈〈〈〈〈頑張ってー!!〉〉〉〉〉
「えっと・・・・・・・・・。あっ・・・、東京も行ける方は来てください」
ドテッ!!
〈〈〈〈〈ハハハッ!!〉〉〉〉〉
「そっちですか!? 今日のことじゃなくて・・・!?」
「今日のことはー・・・。楽しかった♪ あとー・・・、もうちょっと男の人二人しっかりしてほしかったかなぁ・・・。なんか色々とふざけてたし・・・」
グサッ!!
〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉
「ポスターのサイン書いてた時もね」
「そうそう。いつまでも二人ダラダラ喋ってたし・・・」
「うん、そうだよね・・・・・・」
「うん・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉〉
「ちょっ・・・! これじゃあ反省会じゃないっすか!!」
〈〈〈〈〈ハッハッハッ!!〉〉〉〉〉
「と、とにかく今日はありがとうございました~。おしまい♪ はい」
そして最後にマイクを手渡されたのは、バンドリーダーの手神だ。
「はい・・・。なんかかなり長い時間を掛けていた割には、感覚的にはあっという間で・・・。ちょっと今個人的に時計を見て思ったんですが、今8時40分過ぎなんですね。軽く・・・」
〈〈〈〈〈えっ?〉〉〉〉〉
〈〈〈ホンマや・・・〉〉〉
「なんで皆さん。今長谷川くんが『必ず曲聴いてくださいね』と言ってましたけど・・・。今日は早めに寝てください!」
〈〈〈〈〈ハハハッ!〉〉〉〉〉
「「「ハハハ」」」
「今日は本当にありがとうございました!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
そう言いながら再び全員で頭を下げてみれば、会場からは先ほどよりも遥かに大きな拍手が鳴り響いた。
こうしてCARNELIAN・eyesの長い大阪イベントは、幕を閉じたのである。
『今日は・・・?』
(2004年 3月)
※大阪市内のデパ地下。
手神
「う~ん・・・。どんなのがいいのかなぁ~・・・(悩)」
さとっち
「手神さん・・・。さっきからデパ地下のお菓子売り場で何悩んでんですか?」
手神
「そりゃ悩むよ~。だって女性に何渡せばいいのか・・・」
さとっち
「えっ? ・・・『女性』?」
手神
「そうだよ。坂井さんと小歩路さんの・・・。そのために長谷川くんと二人でここにやってきたんだから・・・。長谷川くんも買うでしょ?」
さとっち
「えっ? 何を??」
手神
「『何を?』って、お菓子」
さとっち
「なんで?」
手神
「・・・・・・バレンタインデーのお返し」
さとっち
「・・・・・・・・・あ゛ぁ~っ!! 忘れてたぁーッ!!(絶叫!)」
手神
「『だろうなぁ~』と思ったよ・・・(苦笑)」
さとっち
「あ゛あ゛ぁ゛ぁぁーっ!!(冷汗) しかも今持ち合わせが500円しかあらへ~ん!!(焦)」
実際あんまり知られていないホワイトデー・・・。
(3月14日)