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50.予定変更!

今回のイベントのメインでもあった新曲も披露し終え、未佳は本日最後となるMCへと、イベントの手順を進め始めた。


「え~・・・、早いもので・・・。次の曲で、大阪イベント最後の曲に」

〈〈〈〈〈えっ? ・・・えっ!?〉〉〉〉〉

「なってしまいました~・・・」

〈〈〈〈〈えぇ~っ!?〉〉〉〉〉


その未佳の発言に、会場からは驚きとこの時間を惜しむかのような声が一斉に飛び交う。

そんなファンや観客の声に、未佳は一瞬だけ顔をしかめたような表情のリアクションを取り、再びマイクに向かって口を開く。


「はい。なんかあっという間と言うか・・・。若干早いと感じるかもしれませんけど、もう終わり間近です」

〈〈〈〈〈えぇー・・・〉〉〉〉〉

「でもね、このあとはね・・・。ねっ?」

「・・・ん?」

「さとっち、まだあるんだよねぇ~? 今回のメインイベントがねぇ~?」

「・・・えっ? えっ~・・・と・・・・・・えっ?」

「ポスターッ!!」

「あぁっ、そうだ」

〈〈〈〈〈アッハハハッ!!〉〉〉〉〉


まさかのメインイベントでもあるポスター手渡し会の存在を忘れていたことに、未佳はマイクから口元を離し『ハァー・・・』と溜息を吐いた。

一方の忘れていた長谷川はというと、一瞬表情を暗くした後、観客の方に思わず苦笑いを浮かべる。


「アカンわ、僕今日・・・。車ん中でイタいくらいシバかれる・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈えぇー?〉〉〉〉〉

「言ったらアカンことは言ってしまったし、冷めたトークはやったし・・・。挙句の果てにはイベントのメインコーナー忘れたもん・・・」

「「「ハハハ」」」


そんな長谷川の様子に、数名のファン達はこんな言葉を長谷川に向かって叫んだ。


〈〈〈〈〈大丈夫っ!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈気にしてないよー!?〉〉〉〉〉

〈〈〈元気出して! さとっちー!!〉〉〉

「・・・みんなありがとうね。なんか・・・。でも最終的に全部決めるんは、未佳(この人)やから・・・」

〈〈〈みかっぺ、許したげてぇ~!〉〉〉

〈〈〈〈〈みかっぺ~!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈みかっぺ、お願ーい!!〉〉〉〉〉


そんな観客やファンからのお情け声に、若干不満げではあったものの、未佳は渋々口を開く。


「・・・・・・まあ・・・、東京でどうなるかによるけどね。今日のは・・・」

「・・・・・・えっ? ・・・それは『今日はやらん』ってこと?」

「まあ・・・。・・・・・・1000歩譲って保留にしとくけど・・・。今日は・・・」

〈〈〈〈〈おぉ~?!〉〉〉〉〉

「・・・・・・助かった~・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「「「ハハハ」」」

「『1000歩譲って』やから・・・。大事にしないとアカンね。これ・・・」


長谷川が苦笑混じりに安堵の表情を浮かべたところで、未佳は再びポスター手渡し会の方に話を戻す。


「今回皆さんにお渡しするポスターなんですけれども、こちらのポスター・・・。なんと・・・!」

〈〈〈? ・・・??〉〉〉

「超プレミアム!! メンバー全員の直筆サイン入りポスターでございます!!」

〈〈〈〈〈おぉ~っ!!〉〉〉〉〉

「スゴイでしょ? メンバー全員のサインの書かれたポスターが、メンバーの手からプレゼントフォーユーされるっていう・・・」

〈〈〈〈〈おぉ~っ!?〉〉〉〉〉

「これはある意味、私達のサインを確実にゲットできる最初で最後のチャンスですよ?! 皆さん!!」

〈〈〈〈〈イエーイ!!〉〉〉〉〉


そう未佳が観客に説明した時だった。


突然未佳の足元にあった歌詞を映し出すモニター。

今は最期のMCについての手順表を映していたのだが、そのモニター映像が突然パッと画面から消え、先ほどとはまったく違う文章が映し出されたのだ。


だがそんな突然過ぎる出来事でも、未佳は別に慌てふためくことなく、その文章を見つめた。

こうした出来事は決して多くはないが、初めてではない。

ましてやもう既に10年以上もライヴやイベントを行っている未佳からしてみれば、もう慣れたことなのだ。

そしてこうした出来事がいつ、一体どういう状況の場合に起きるのかも、未佳は経験上記憶していた。


「・・・すみません。ちょっとそのポスター手渡し会に関してなんですが・・・。一部内容が変更になりました」

「「「えっ?」」」

〈〈〈〈〈えっ?!〉〉〉〉〉


ちなみにモニターに映された内容の変更は、手渡しされるサイン入りポスターに関してのもの。

そしてその詳細については、未佳が観客に内容変更を伝えたと同時に、モニターに映し出された。


「え~っとですねぇ・・・。最初の予定では『ポスター全部にサインが書かれたものを手渡しする』という風になっていたと思うんですけど・・・・・・。今回ある意味嬉しい悲鳴で・・・。ちょっとお客さんの数が多いんですね」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉

「なのでちょっと・・・。サイン入りポスターが足りなくなる可能性があって」

〈〈〈えっ? ・・・えっ!?〉〉〉


その未佳の説明に、てっきりサイン入りポスターを貰えると思っていた観客達から、一斉に戸惑いの声が上がる。

ここでもし抽選会になってしまったら・・・。

ポスターが無くなり次第終了してしまったら・・・。


そんな不安が観客達の間で広がる中、未佳は冷静に『大丈夫』とジェスチャーを送り、変更内容の説明を続行させる。


「大丈夫です。それで今回なんですけれども・・・。こちらのサイン入りポスターはお一人様1枚まで!! 手渡し券を1枚以上お持ちのお客様は、2回目以降はサイン無しの・・・、通常のポスターを手渡す形でやらさせていただきたいんですけれども・・・」

〈〈〈〈〈あぁ~・・・〉〉〉〉〉

「いい・・・、ですか? ちょっと・・・、緊急の変更だったんですけど・・・」

〈〈〈〈〈OK!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈いいよ~!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈仕方ないもん!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈貰えるならいい~!!〉〉〉〉〉

「よろしいですか? ・・・じゃあ、すみません・・・。ありがとうございます!」


どうやら観客やファンの人達も、この変更内容に関しては理解してくれたようだ。

そもそもCARNELIAN・eyesのファン達は、色々な場所から『対応等が大人びている』と、いい意味で言われることが多い。

主な理由としては、どうも厘の歌詞に惹かれる人間の多くが大人びた性格の傾向をしているらしく、それ故に大人びた性格のファンが大勢集まるのではないかとされているが、実際のところは不明である。


「あっ・・・。それからちょっと今、ポスター手渡し台のトコのスタッフから指示があったんやけど・・・」


ふっと先ほどまで黙って話を聞いていたはずの長谷川が、未佳の説明が一旦途切れたあたりで口を挟んだ。

その長谷川の視線の先には、ポスターを入れるための円柱型の袋を両手に持って振っている栗野の姿。

さらにその栗野の持っている袋は、右が黄色で左が半透明と、左右で大きく色が異なっていた。

おまけに黄色の方の袋には、何故かポスター1枚をセットにして、必死にこちらに見せようとしている。


こんな言葉のない行動だけでも、長谷川には何を言いたいのかすぐに理解できた。


「あの~、僕らのバンドのファンに限っておらんとは思うけど・・・。ズルしてこの会場でサインポスター2枚貰おうとした方は、袋の色で一発で分かりますよ?」

〈〈〈へっ・・・?〉〉〉

「サイン入りポスターの包装は、黄色いビニール袋に入れるんやて。で、サイン書いてないやつは、白? ・・・なんか半透明の袋だそうなんで、一発で分かります」

〈〈〈〈〈おぉ~・・・〉〉〉〉〉

「「「へぇー・・・」」」

「という指示が今マネージャーから来ました・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ!!〉〉〉〉〉

「やらんよね?」

「やらないでくださいよ?」

「やったらアカンよ?」


長谷川のその話に続くように、手神・厘が観客の方に念を押すと、会場からは『やらないよ~!!』という素直な返事が即座に返ってきた。

それも一部の人間からではなく、ほぼ全ての観客からだ。


「こんなに『やらない!』言うてるんやから・・・。大丈夫っすね」

「・・・まあ仮にやろうとした人がいたとしても・・・。私達のバンドには自称『歩く防犯カメラ』な方が二人いますんで・・・」

〈〈〈『歩く防犯カメラ』?〉〉〉

「・・・誰のことです?」


若干嫌な予感がしつつ聞き返してみれば、やはり予想した通りの返事が未佳の口から返ってきた。


「そりゃあもちろん・・・。さとっちと小歩路さんですよ」

「「なんでっ?!」」

〈〈〈〈〈ハハハッ!!〉〉〉〉〉

「だってファンの顔覚えるの早いじゃない? なんだかんだ言って・・・」

「そう言われてみれば確かに・・・」

「いやいや! 何納得してるんですか! 手神さん!!」


だが未佳が言ったことも、決して“間違い”というわけではない。


特に厘は、たとえまだ“常連”とは言えないファンの人間であったとしても、数回顔を合わせてしまえば大体は記憶している人間だ。

現にこの間のカウントダウンライヴの際、厘は前列にいたあるファンに対し『去年の2月のイベント。外でずっと出待ちしてたやろ?』と、ピタリと言い当ててしまったくらいである。


一方の長谷川は、別に厘のようにそんなにファンの顔を覚えるのが早いわけではない。

しかし常連のファンの顔に関しては、メンバーの中では一番記憶している人間。


つまり、この二人であればある程度の見張り役が務まるというわけだ。


「だから二人とも監視役に・・・」

「いや! 小歩路さんはともかく・・・!!」

「えっ?!」

「僕は違うでしょっ?! 僕が覚えてる顔の人間なんて、皆さんだって覚えてるじゃないですか! 小歩路さんなんか・・・、一番記憶してるだろうし・・・」

「でも・・・・・・。ウチ名前は分からへんし・・・」

「いや・・・!」

「「「名前はいいの!!」」」

〈〈〈〈〈ハハハ!〉〉〉〉〉


その後メンバーはしばし話し合い、とりあえずは二人にお遊び程度に監視してもらうこととなった。


「じゃあそういうことで・・・」

「なんだかなぁ~・・・。まあ、やる人間はいないんだろうから・・・。普通に皆さんに挨拶しますよ、僕は」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「あっ・・・、ここまでで何かご質問のある方は? いませんか? ・・・今のうちに気になることは訊いちゃった方がいいですよ~?」


未佳がそう尋ねると、やや前列の方にいた若い女性から、ゆっくりとだが手が上がった。

彼女は未佳も顔を覚えているほどの常連のファンで、関西でのライヴやイベントの際は必ずやってきてくれる人間の一人だ。


「あっ、はい! なんですか?」

〈東京はどうなるんですかー?〉

「・・・えっ?」

〈あの・・・、サイン・・・〉


どうやらこの女性は、東京のイベントの時もサイン入りポスターを貰っていいのか、それを訊きたかったらしい。

未佳はその質問を聞くと、スタッフの方に質問内容を伝えることなく、また足元のモニターを見ることもなく、そのままマイクに向かって回答を述べた。


というのも、東京のポスター手渡しは一体どういう風になるのか、未佳自身は全て把握済みだったからである。


「あの・・・。今質問で『大阪でサインを貰ったら、東京では貰えないのか』というのがあったんですけど、そちらは貰えます。というのも、大阪は手神さんが・・・。東京は小歩路さんが日付けをペン入れしているので、同じ絵でもまったく別のポスターになるんですね」

〈〈〈〈〈おぉ~っ!!〉〉〉〉〉

「なので大阪でサイン入りポスターを貰ったという方も、東京は東京で貰えます」

「つまりお一人様、サイン入りポスターは最大2枚と・・・。そういうわけですね?」

「はい! なのであの・・・、安心してください♪ 他に質問のある方はいますか~?」


続いて手を上げたのは、ステージから少しばかり離れたところにいた男性客からだった。

しかし、辛うじて上げていた手は見えたものの、顔に関しては距離が離れているせいでよく見えない。

おまけにここまで距離が離れていると、こちらの方にまで質問の内容が聞こえるかどうかも心配だ。


(マイク渡した方がいいかなぁ~・・・)


そう思った未佳が、マイクをスタッフに頼もうとした、その時だ。


〈聞こえますかー?!〉

「!!」


突然その男性はこれでもかというほどの大きな声を上げ、未佳に訊き返したのである。

その声量にやや驚きつつ、未佳はマイクに向かって返事を返す。


「はーい! 聞こえます~! マイク無くても大丈夫?」

〈大丈夫です!〉

「じゃあ・・・。質問はー?」

〈サインポスターが足りなくなった場合、どうなるんですか~!?〉

「「「「あっ・・・・・・」」」」


その質問に、未佳達は顔を見合わせてその場に立ち止まる。

ふっと足元のモニターも見てみるが、スタッフからの返事は一切無し。

救いを求めるように栗野達の方に視線を向けてみれば、逆に『想定していない』とアイコンタクトで返されてしまった。


完全にどうすればいいのか分からない状態である。


「・・・・・・・・・・・・どうしよう・・・」

〈〈〈〈〈えぇーっ?!〉〉〉〉〉

「・・・えっ!? 待って! ・・・足りない?! ポスターの数足りないかなぁ~?! もしかして・・・」

「どうなんでしょう・・・」

「でもたったの500枚やろ? ・・・足りへんのとちゃう?」

「・・・1、2、3、4、5、6・・・・・・」

「何数えてんのよ、さとっち!!」

〈〈〈〈〈ハハハ!!〉〉〉〉〉


その後も長谷川は右端から順番に数を数え始め、やがてセンターよりも少し先の方まで数えた辺りで、その手をピタリと止めた。

まだ数えられていない観客はその先にも、この上の階にもいるというのに、だ。


「・・・どうしたの?」

「結論言っていいですか?」

「「「・・・・・・うん」」」

「絶っ対に足りない!!」


その長谷川の断言的な発言に、未佳は額に手を当てる。

正直この言葉だけで眩暈がしそうだ。

ましてやあんなに苦労して書いたというのに、まったくと言っていいほどサインが足りないだなんて・・・。


まさに『頭痛が痛い』とはこういった状況のことだ。


「うそ~・・・」

「ざっと何枚くらい?」

「ざ~・・・っと・・・。200枚くらい・・・」

「えっ?! そんなに!?」

「『ざっと』だよ?! 長谷川くん! 『ざっと』!!」

「だから『ざっと』ですよ!? まあ・・・、全員が全員貰うとも限らへんけど・・・」

「・・・・・・これって・・・、まさかの抽選?」

〈〈〈〈〈え゛え゛えぇぇぇーッ?!〉〉〉〉〉

〈〈〈ヤダーッ!!〉〉〉

〈〈〈ヤダッ!!〉〉〉

〈〈〈〈〈サイン欲しい~!!〉〉〉〉〉


やや予想した通りのブーイングの声に、未佳も『どうすべきか』と頭を抱える。


そして思い出したのだ。

今日のこのあとの予定を。


(確かこのあとは・・・。一旦事務所に帰ったあとで、明後日の東京の説明をやって・・・。それからお開きだったはず・・・。じゃあこのイベントの終了時間って、正確には決まってないのよね? ・・・・・・・・・)

「ホンマにどないするの?」

「ぼ、僕に聞かれても・・・」

「栗野さーん! 栗野さーん! ちょっと・・・」

「あっ、はい・・・!」


ふっと未佳にマイク無しで呼び出され、栗野はやや慌てながら、未佳の元へと向かった。

一方の観客は、突然の栗野出現に、一層不安げな表情を浮かべる。


〈えっ? ・・・あれってみかっぺのマネだよね?〉

〈まさかのマネと相談?〉

〈ガチで今日抽選になんじゃないの?〉

〈やだ~!〉

(・・・・・・やっぱりマネージャー呼ぶと騒ぎになるか・・・)

「すみません、未佳さん。スタッフの人達まだ何にも対策案出してなくて・・・」

「ううん、いいの。それより・・・、今日って何時までに終わらせるとか、そういうの決まってる?」

「えっ? 終了予定時刻ですか?」


未佳に尋ねられた栗野は、今度は慌てることなく冷静に手帳を開く。

そして今日の日付のページを開き、栗野はそこの文章を指でなぞりながら、今日の予定を再度確認した。


「いいえ。特には決まっていませんけど・・・。多分・・・、最低でも8時までには引き上げる感じだと・・」

「じゃあそれまでは、ポスター手渡し会に時間取れるってことね?」

「ま、まあ・・・。そうなりますけど・・・」

「じゃあ栗野さん・・・。こういうのはダメ?」


ふっと未佳は自分の思い付いた案を栗野に耳打ちで伝えた。

これはあくまでも候補案だが、できるのであればこのやり方を取りたい。


未佳が耳打ちで伝えると、栗野はやや驚いたような表情を浮かべた。


「えぇっ!? そんなことできるんですか?! 皆さん・・・!」

「だってもうそれくらいしか手がないし・・・。ね? お願い!! 今すぐスタッフの人に訊いてきて!!」


未佳はそう言うと、何度も両手を合わせながら栗野に頭を下げる。

その結果、最初は微妙な表情をしていた栗野もその熱意に折れ、急いでポスター手渡し会場の方にいるスタッフの元へと走り出して行った。


(許可が下りればいいけど・・・)

「・・・一体何を頼んでたんですか? 坂井さん」

「へっ? あっ・・・、うん。ちょっとね・・・」

「『ちょっと』って・・・」

「あれ? また栗野さんや」

「「えっ?」」


ふっと厘の指差した方に首を向けてみれば、そこには両手で大きな丸を作った栗野が、未佳達の方を向いて見えるように跳ね飛んでいる。

スタッフ達から許可が下りたという合図だ。


「やった・・・。あのー! すみません! たった今、質問の解答が決まりました!! え~・・・っと・・・。サイン入りポスターが足りなくなった場合ですけど・・・」

〈〈〈〈〈・・・・・・・・・〉〉〉〉〉

「私達がその場でサインを記入します!!」

「「「エッ!?」」」

〈〈〈〈〈イエーイッ!!〉〉〉〉〉

「皆さん、生サインですよ!? 足りなくなった場合は!」


その未佳の発言に、観客やファンの人間は大盛り上がりではあったが、肝心のメンバー3人はただただ戸惑うばかり。

そもそもこれは未佳が独断で決めた解決法。

この3人がその内容を知るはずがない。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!これ・・・・・・、どういうことですか?」

「だから今決めたの。足りなくなった時は、私達がこの場でサインを記入するっていう・・・。だから手神さんは、日付けも入れる役で♪」

「えっ!?」

「いや! 急過ぎでしょ!? いくらなんでも・・・!!」

「でももう決まっちゃったことだから・・・。スタッフからも許可出たし・・・」

「「「・・・・・・・・・・・・鬼っ!!」」」

「“鬼”ですが何か?」


だがここで言ってしまったら、正直もうあとには引けない。

結局最後の方では、メンバーは全員この提案を了承し、ポスター手渡し会の際にサインを行うこととなった。


「じゃあ皆さん、いいですか? やる時は私が『プランB』と言いますんで」

〈〈〈〈〈ハハハ!〉〉〉〉〉

「『プランB』と言ったら、ちょっと時間が掛かるのを覚悟してください。・・・それから・・・・・・、あっ! まだ質問のある方いらっしゃいますか~?」

〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉〉

「・・・・・・・・・いないみたいっすね」

「だね。じゃあ・・・、あとポスター手渡し券挿入のCDですが、私から向かって左側のところで販売しておりますんで『是非サインを貰いたい!』または『CDを聴きたい!』という方は“物販”の方で」

〈〈〈〈〈ハハハッ!!〉〉〉〉〉

「お買い求めいただくと、大変うれしく思いま~す♪」


ちなみに観客がこの『物販』という言葉に笑い出すのは、これが未佳のライヴやイベントなどの場においての口癖だからである。

未佳自身は特にそこまで意識していたわけではなかったのだが、いつの間にかこの物販発言が定着し、今では笑いを起こす大事な単語となっているのだ。


ちなみに『こちらは笑いを取るためだけなのか?』というとそういうわけではない。

現にこの発言後、物販で取り扱っているものはちゃんと売れている。


「じゃあ時間もあまりありませんので・・・。いよいよラスト曲に行きましょ~う!! フラ~イング! シーップ!!」

〈〈〈〈〈イエーイ!!〉〉〉〉〉

「皆さんも一緒に歌ってくださいねぇ~!?」

〈〈〈〈〈イエーイッ!!〉〉〉〉〉


それだけ言うと、未佳は早速3人の演奏に合わせ、ライヴの定番曲『flying ship』を熱唱し始めた。



天気のいい~ ひーはねっ(ひぃ~わねっ)

一人で何処かぁ~に 出かけー てくの~・・・


時には公園っ(こうえんっ・・・) 時にはお気にいりぃ~のカフェっ(カフェっ fuー・・・)

でも一番はー・・・ 宛てナシの日帰り 旅行・・・


今日は一日中・・・ 美術館にこーもぉりっきり

ベンチに座って 見飽きた画家の絵を 見つめてるー


いつか~ こんな風に~

君とぉー なれたらいいのになぁっ

こんな呟き もう空を旅してぇ~・・・ 何回目ぇ~・・・?



君と私の飛行船(fuー・・・) 道はないけどまだっ! とぉーい!!

時々風に煽られては(fuー・・・) 激しく左右に揺れ! うごぉーく!


さぁ! このふぅ~ねもっ あの雲と共に 羽ばたいてけぇーっ!!



〈〈〈〈〈Go(ゴ~) in(イ~ン) the(ザァ~) sky(スカ~イ)・・・〉〉〉〉〉


Go(ゴー) inインッ theダッ skyスーカァーイ~!!


〈〈〈〈〈in(イ~ン) the(ザァ~) sky(スカ~イ)・・・〉〉〉〉〉


huー・・・ Yeah(イエイ)! Yeah(イエイ)! Yeah(イヤッ)!!



約束のじか~ん 過ぎても来ずっ(来ずっ)

慌てた君からのぉ~ しゃざい~電話


しん~っけんにっ(しんっけんにっ) ごめん~っと言ってるのぉに 私はおお~笑い

でもこの~ 腑に落ちなーい 気持ちはなに~?


時々空いた わずかな時間 カメラを構えてぇ~

寝返り撮りっ そうしてまたっ 小さないざこざ起こるぅ~よっねぇー


ふざけていぃ~った 別れ話もぉ~・・・

眠りの中じゃ ごちゃまぜで・・・

朝になぁーたっらぁー 忘れてるぅー・・・



空を泳ぐ飛行船(fuー・・・) 時々嵐にっ! のぉーまれてはぁー!!

フラフラふらり揺れながら(fuー・・・) まだ見ぬ先へっ! 飛んでいくー!


白い線を引く飛行船(fuー・・・) これはその日のっ! 目印でぇー!!

一日で白紙に戻しては(fuー・・・) 明日の線をっ! ひぃーき進むぅー!!



〈〈〈〈〈Go(ゴ~) in(イ~ン) the(ザァ~) sky(スカ~イ)・・・〉〉〉〉〉


Go(ゴー) in(インッ) the(ダッ) sky(スーカァーイ)~!!


〈〈〈〈〈in(イ~ン) the(ザァ~) sky(スカ~イ)・・・〉〉〉〉〉


huー・・・ Yeah(イエイ)! Yeah(イエイ)! Yeah(イヤッ)!!


〈〈〈〈〈Ⅰ’m(アイムッ) in(イ~ン) the(ザァ~) sky(スカ~イ)・・・〉〉〉〉〉


in(イ~ン) the(ザァ~) sky(スカ~イ)・・・ huー・・・・・・



「皆さん、ありがとーっ!! 美しい歌声ありがとーっ!!」

〈〈〈〈〈イエーイ!!〉〉〉〉〉

「短い時間でしたが、とっても楽しかったで~す!! 今日はどうもありがとうございました~!!」


その後、観客からの惜しみない拍手の中『flying ship』は最後の長谷川のギターソロにより、無事締めくくられた・・・。


『後ろ姿』

(2008年 10月)


※ラジオ局 楽屋。


みかっぺ

「ただいま~、って・・・。あれ? ・・・誰か椅子に座ってる・・・?」


※ふっと、こちらに背を向ける形で椅子に座っている人を発見。


みかっぺ

(あの後頭部と髪型は~・・・。小歩路さんに間違いないわね(笑) 何してるんだろう・・・。本でも読んでるのかなぁ~・・・)


※とりあえず話し掛けながら小歩路の方へと向かってみるみかっぺ。


みかっぺ

「ねぇ、ねぇ、小歩路さん。そういえば前に栗野さんが言ってた下着、ちょっと私も付け心地イマイチだった~・・・。やっぱり話だけじゃなくて、一回ちゃんと試着してみないとダメね。後々になって後悔したくないし・・・・・・・・・・・・。小歩路さん、聞いてる?」


※何故か返事を返さない厘。


みかっぺ

「ちょっと? 小歩路さん!? ひょっとして寝てる・・・の・・・・・・ッ!!」


※ふっと椅子に座っている人物を見て青褪めるみかっぺ。


みかっぺ

「・・・・・・さとっ・・・ち・・・?(唖然)」


さとっち

「・・・・・・ん? あれ? 坂井さん戻られてたんですか?」


みかっぺ

「・・・・・・・・・・・・今の私の話・・・、聞いてた?(放心・・・)」


さとっち

「えっ? 『話』? ・・・いや。僕イヤホンで音楽聴い」


みかっぺ

「いやあああぁぁぁーっ!!(絶叫) なんでさとっちがこんなところにいるのよぉー!!(怒) もう! さとっちのアホォォォーッ!!(悲鳴)」


さとっち

「痛でででっ!!(痛) なっ・・・、なんで僕、椅子に座って音楽聴いてただけで叩かれなアカ」


みかっぺ

「この変態~ッ!!(号泣)」


「ただいま~♪ って・・・!! みかっぺ何してんのっ!?(驚)」


さとっち

「小歩路さん、助けて~!!\(SOS)/」



ただ単に、みかっぺが厘さんと後ろ姿を見間違えたという・・・(苦笑)

(ちなみにさとっちに罪がいないのは言うまでもなく・・・(__;))


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