49.新曲披露
やや長めに取られていたトーク時間も終了し、イベントは皆が待ち望んでいたあの時間へと突入した。
「はい。まあ、なかなか・・・、トーク的な話は尽きないのですが、ここでもう一曲。歌を披露したいと思います」
〈〈〈〈〈イエーイッ!!〉〉〉〉〉
「次に披露する曲は・・・、本日より発売となりましたニューシングル! 『“明日”と“明日”と“昨日”』という曲なんですが・・・。皆さん、CDを買ってくださったりとか・・・」
〈〈〈〈〈買ったよーっ!!〉〉〉〉〉
〈〈〈〈〈もう聴いたよーっ!!〉〉〉〉〉
〈〈〈〈〈聴いたよーっ!!〉〉〉〉〉
「あっ、ありがとうございます♪ ありがとうございます♪」
未佳はそう口にしながら、笑顔でファンの人達や観客に向かって頭を下げた。
ちなみにこの新曲の発売自体は今日からだが、携帯の着うたや着うたフルなどのダウンロード。
CDを予約した人の場合は、既に前日から入手し、聴くことができる。
おそらく『もう聴いたよーっ!!』と言った人達は、このいずれかの手段で聴いたのだろう。
まあ中には、わざわざかさ張るCDプレイヤーやノートパソコンなどを持ち込み、イベント待ちをしている間に聴いていた人もいるだろうが。
「じゃあまず、曲の話をするとなんですが・・・。どんなアレンジに仕上がっているんでしょうか? 手神さん」
「・・・そうですねぇ~・・・。今回はとにかく・・・。曲とか歌詞の中にある『切なさ』を、結構引き立たせるような。そんな感じの・・・。あんまり1フレーズ・1フレーズで、一度に多くのメロディーが重ならないようにしましたね。常に・・・、三つくらいしか楽器とかの音が入らないようにして、やや静かなような・・・。ひっそりと鳴るような感じのメロディーに仕上げました」
「なるほど・・・。何処までも『切なさを出した』という・・・。歌詞はどんな感じなんでしょうか、小歩路さん」
「・・・へっ?」
〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉
「歌詞の感じとか・・・。なんか『こんなことをイメージして書きました!』的なものとかって、なかったんでしょうか?」
その未佳の問い掛けに、厘の答えが出るまで約20秒。
「歌詞・・・。曲のイメージのまんま?」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉〉
「曲の・・・、デモテープの時から感じてたのをそのまま詞にしたから・・・。別に何かイメージしたとかは・・・・・・、あらへんよ?」
「あっ、もう頭に入ってきたのをそのまま『カツンッ!』と?」
「うんうん。まあ・・・、いつも通り別れの歌で」
「『いつも通り』?」
〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉
「ま、まあ・・・。私達の場合はいつも通りですからね。これが・・・。じゃあ早速新曲の方をひ」
「ちょっ・・・、ちょっと待ってください!!」
ふっと何故か自分だけ忘れ去られたような状況に、長谷川は慌てて未佳に叫んだ。
もちろん、未佳が長谷川の存在を忘れていたわけではない。
ただちょっと気になって、長谷川を一瞬試しただけなのだ。
「あっ、よかった。気が付いた・・・。なんかボーっとしてなかった?」
「・・・えっ?」
「いや・・・。私の気のせいだったんなら、いいんだけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
未佳にそう言われて、長谷川は『はて?』と目だけを宙に向けて考え込む。
確かにあの場には無言で立ち尽くしてはいたが、別にボーっとしていたわけではない。
むしろ長谷川は、あの場の二人のトークを聞いて感心してただけなのである。
しかしある一方方向からしか見ていなかった未佳の目には、長谷川がただただボーっとして突っ立っているようにしか見えなかったらしい。
「いや、別に・・・」
「長谷川くん、もしかして眠い?」
「いやいやいやいや!! ちょっとお二人の話聞いて感心してただけです」
〈〈〈寝るな、さとっちーっ!!〉〉〉
〈〈〈さとっち、寝ないでーっ!!〉〉〉
「だから違いますって! だっ、大丈夫です!! ちょっと感心してただけですから! ・・・・・・二人の話を聞いてて」
「ならいいけど・・・。さとっち、なんか今回の曲で想い入れとか・・・。『ここを頑張った!』みたいなのとかって、ある?」
改めて新曲作成についてのことを聞かれ、長谷川はふっと考え込む。
そして考え込んだ末に出てきたのは、未佳の記憶にも鮮明に残っている、あの日のこと。
「・・・・・・そうっすねぇ・・・。まあ『想い入れ』と言ったら・・・。コレのPV撮影、かな?」
(えっ?・・・)
〈〈〈〈〈おぉー・・・〉〉〉〉〉
「これのPV・・・。まあ、初回限定盤の方に入ってるから、あんま詳しくは話せませんけど・・・。久々に事務所のレコーディング室とか、控え室とかでしか撮影、やってないんですよ。なんか傍から見ると・・・『予算削減』みたいな感じですけど」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「僕らからしてみたら、懐かしいんっすよね? デビューした時みたいで」
「確かに。最初のプロモーションビデオ、控え室だけとかだったもんね。あとは坂井さんが歌ってる顔だけとか・・・」
「みんな静止画だけとか・・・。手元だけ映ってたり、楽器触ってなくて歩いてるだけの画とか・・・」
「そうそう! なんか色々と懐かしかったんすよ。今回の撮影・・・」
(・・・・・・・・・懐かしい・・・、か・・・)
その長谷川達の話を聞いて、未佳はただただ言葉を失った。
こんなにもあの日の撮影が、皆が声を揃えて『懐かしい』と口にする撮影であったというのに。
まるでデビュー当時を振り返るかのような、今となっては貴重な撮影であったというのに。
肝心のヴォーカルでもある自分は、朝から命を絶つことしか考えていなかったのだ。
この場所から。
この世界から。
この人生から。
今のこの命を絶つ、それだけしか・・・。
(・・・・・・。私・・・・・・、ヴォーカルのクセに何考えてんだろう・・・。死ぬことに目を向けるより前に、もう少し周りを見るとか・・・。そういうのできなかったのかなぁー・・・)
「坂井さん? ・・・坂井さん!」
「・・・! えっ・・・?」
ふっと横から聞こえてきた声に気付いて首を向けてみると、そこには少し呆れたような、起こっているかのような表情を浮かべた長谷川の顔があった。
おまけにその長谷川の顔にハッとして辺りを見渡してみれば、他のメンバーや観客が少し不安げにこちらを見つめている。
『これはマズイことをやらかした』と思うよりも先に、長谷川がギターに手を掛けたまま口を開いた。
「『えっ・・・?』じゃないですよ。散々人のこと言っておいて・・・。ボーっとしてるの坂井さんの方じゃないですか」
「あっ・・・、ゴメン、ゴメン。でもちゃんと話は聞いてたから」
「・・・ホンマに?」
「ホント! ホント! ちょっとそれ聞いて色々考え込んじゃって・・・」
「ふ~ん・・・」
「でも坂井さんも、ステージ上で考え込むなんてことあるんですね」
「ねぇ~。よくロケバスの中とかで、色々演出とかで悩んだりしてるのは知ってるけど」
「そうそう! それで最終的には、いいアイデアが浮かぶ前に寝・・・って、ちょっと!?」
〈〈〈〈〈ハハハ!〉〉〉〉〉
そう厘の言葉に続くような形で笑いを取った未佳だったが、本当は先ほどの感情や自分の考えを誤魔化すために必死だったのである。
なんだかここでそのことを考えてしまうと、いつまでもそれを引きずったままでいてしまうような。
そんな気がしたのだ。
「じゃあ、トークはこのあたりにして・・・。早速新曲の方を、皆さんに聴いて頂こうかと思います。それでは、聴いてください。『“明日”と“明日”と“昨日”』」
未佳が話し終わったと同時に、会場からは入場の時よりもやや小さめな拍手が鳴り響いた。
そしてその拍手が粗方消えたと同時に、一足先に手神のキーボードがメロディーを奏でる。
その後は厘のキーボード、長谷川のギターと、順番にそれぞれの楽器が鳴り、ステージの後ろに設けられていたスピーカーからは、事前に録音しておいていたドラムの音が鳴り響く。
少しばかりCDの方とはアレンジが違うが、これもライヴスタイルならではだ。
やがて歌に入る部分が迫ってくると、未佳は足元のモニターに写された歌詞を一度だけ見つめ、マイクに向かって声を張り上げた。
い~つもと変わらなーい・・・ あさひぃー のっぼ~るそら~
また変わりばえのなーい 今日が・・・ 始まるぅ~・・・
不思議よねぇ~
同じーこと なんてある~・・・ わーけない~のにぃー・・・
私のまわりはぁ 飽き飽きしてる・・・
すみかぁ~なんてなーいー・・・ 渡りぃ~どぉ~りみったーいにぃー・・・
何処かぁー・・・ とおっくーへぇ~・・・ 飛んでぇーみたーい・・・・・・
あし~たぁはー どんな風が吹くのぉ・・・
あし~たぁはー 何が待っているというのぉー
流れぇ~てしまった時間のテープはぁ 二度と・・・
巻き戻せっなーい
ならば あーすは何を録ろぅー・・・
心 惹かれる ストォーリィーにぃ~
今はー・・・ ただー・・・ さー徨いたーい・・・
静けさ~に 包まれたー・・・ 闇覆う・・・ そっら~・・・
やぁ~っと・・・ 一番落ち着く 時間がー・・・ やってくるぅ~
もう 私をみーつめないでぇ~
そのこーころが 離れぇてしまっていることくっらーい・・・ 分かぁ~っているのー
“かざり”を 付けなくちゃいけなーいのねぇ~・・・
だってぇー・・・ あなたに映るわったーしはぁー・・・
もぉ~・・・ 一人ではぁー 輝いてぇー・・ ないーんでしょぉ~・・・
大切なぁ~ ものなーんて全てぇ・・・
今すぅってー 去ってしまいたぁ~い・・・
あなたは今の 私にこれ以上ぅ 何を~・・・ 求めるというのぉー
普通の人と 知っていたクぅ~セっにー・・・
お互いにー 知り過ぎったぁ~ じーぶんにぃー・・・
もぉ~・・・ 留まる~想いはなぁーいー・・・
消えてしまうのが こっわいー・・・
離れてしまうのが こっわいー・・・
孤立・恐怖・孤独・・・ そんなーものっがぁー・・・怖ーいのぉー・・・
“違う”と叫べるのぉーなら~・・・ あの人を置いていっまぁー
このそ~らにぃー 飛びたぁ~ってぇー しーまえぇー・・・・・・
あし~たぁはー どんな景色になるのぉ・・・
あし~たぁはー あなたの前で泣ーくのぉー
一人でぇ~旅立っても 結局行く宛~て なんてない・・・
なら成り行き任せにぃー しておきたいっ
私が歩む ばっしょはぁー・・・・・・
きっとあなたが来れない 異国のばっしょー・・・
寄ってぇ~
離れてぇ~
それが私のぉー・・・・・・ 昨日・・・・・・
曲を歌い終えたと同時に、未佳はふっと頭上の空を仰ぐ。
もうすぐ大阪公演のイベントが終わってしまう・・・。
そう教えるかのように、空はほんの少しだけ、明かりを暗くしていた。
『ラーメン』
(2009年 6月)
※事務所 控え室。
さとっち
「う~ん・・・(考) どないしょ~、今回のコーナー企画!(悩)」
※テレビラジオ番組『スクリーン長谷川』
コーナー名『ちょっとやっちゃはない?!~今週のお題♪~』
指令!! 『メンバー全員の口に合うラーメンを作れ!!』
★条件★
・必ず一人で作るべし!
・CARNELIAN・eyesメンバー全員(自分も入れる)が食べられるラーメンにするべし!
・オリジナルラーメンにするべし!
・スープの味・麺・トッピングなど、細かな設定を考えてから作るべし!
(カップヌードル等はNG)
・制限時間は5日間なので、よく考えてから作るべし!!
さとっち
(一応僕はこってり醤油の中太麺が好きなんやけど、他の人達はー・・・・・・。まずは、メンバー一人ひとりから話を聞いてみるか・・・)
※数分後。
さとっち
「手神さん」
手神
「ん?」
さとっち
「手神さんって、ラーメンだと何ラーメンが好きなんですか?」
手神
「えっ? ラーメン? ・・・まあ・・・、僕は塩かな。しかも麺が少し太めのやつの」
さとっち
「ふ~ん・・・」
(自然と情報ゲット~♪)
※さらに数分後。
さとっち
「小歩路さん」
厘
「?」
さとっち
「小歩路さんって、ラーメンだと何ラーメンが好きなんですか? ちょっと気になったんで・・・(^_^;)」←(さり気なく訊く)
厘
「・・・・・・豚骨」
さとっち
(そういえばそうだった・・・(__;))
「あぁ~・・・。麺はどんな感じの?」
厘
「・・・・・・極細麺」
さとっち
「わ、分かりました・・・(苦笑)」
※さらに数十分後。
さとっち
「坂井さーん」
みかっぺ
「えっ? ・・・何? さとっち」
さとっち
「坂井さんって、ラーメンだと何ラーメンが好きなんですか? ちょっと気になって・・・」←(同じ質問方法(笑))
みかっぺ
「『何』って・・・・・・、ラーメンは全般好きよ?」
さとっち
「・・・( 一一) すみません、質問変えます・・・。じゃあ今気になってるラーメンとかってあります?」
みかっぺ
「それなら~・・・。豆乳ラーメンとか?」
さとっち
「はっ?(゜゜;) 何っすか!? ソレっ?!」
みかっぺ
「えっ? だから今注目の新ラーメンよ~(常識!) 熱く熱してしばらく放っておくと、自然に湯葉ができるの♪ あと夏野菜ラーメンとか、ココナッツラーメンとか・・・。カレーラーメンとかも気になってるんだよねぇ~♪(^^) ・・・えっ? さとっち、全然知らないの?」
さとっち
(そりゃ・・・。メンバーの中でグルメの最前線行ってるのはあなたくらいですよ・・・(ーー゛))
「はい・・・(ジト目) じゃあ今一番食べたいやつは?!」←(もはやイラッ)
みかっぺ
「う~ん・・・。やっぱり味見してみて美味しかったから~・・・。トマトラーメンかな♪ トッピングにチーズとバジルを入れると最高だし・・・。何よりあの意外と固めな細麺がスープによく合うのよ~(うっとり)」
※事務所 調理室。
さとっち
(つまり僕が作るラーメンは・・・・・・)
※メモ
・こってり醤油&塩&豚骨&トマトスープで、
・中太&極太&極細&細麺の、
・ネギ&メンマ&チャーシュー&ナルト&ゴマ&バジル&チーズトッピング
ラーメン♪
さとっち
「ワケわからんっ!!(爆)」
ってか・・・。
どう考えてもイタリアン要素が邪魔!(笑)