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48.MCトーク

簡潔ながらも自己紹介が終了し、未佳達は本命でもあるトークへと、話を進めた。


「はい、じゃあ・・・。なんか若干自己紹介だけで疲れた感じにはなりましたけど・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「トークの方へ移りたいと思います。じゃあ、どうしよっかな・・・。私達の周りで最近起こったこと。これを前提でトークしましょうかね。何がありましたか? 小歩路さん」

「・・・へっ!?」

〈〈〈〈〈ハハハ!〉〉〉〉〉


ふっといきなり話を振られ、厘は驚きの声を上げたと同時に、両目を左右に慌ただしく泳がした。

そんな『一体何を話せばいいのか分からない』と言いたげな厘に、未佳はやや笑いながら言葉を付け足す。


「最近あったでしょ? 小歩路さんの周りで起こったことが・・・。ほら、ほんの数日前に」

「! あぁーっ!! サンドのこと!?」

〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・?〉〉〉〉〉

「小歩路さん・・・。『サンド』だけじゃ、僕ら以外の人間には伝わらないっすよ?」


ふっと周りのファンの反応を見た長谷川の忠告に、厘は苦笑しながら『そやね』と口にした。

その間に、未佳はほんの数日前の出来事をファンや観客達に説明する。


「はい。あの、実はほんの4日くらい前にですねぇ・・・。事務所にネズミが出たんですよ」

〈〈〈〈〈えぇーっ!?〉〉〉〉〉

「そう。『クマネズミ』っていう、結構今問題になってるネズミなんですけど・・・。それが一匹だけ、事務所内に出現しまして。それもレコーディング室に・・・。あっ、この中で家とかでネズミを見られた方とかって、いらっしゃったりします?」


未佳がそう問い掛けてみれば、比率的には1/20程度ではあったものの、数名のファンや観客達から手が上がった。

その光景を見て、未佳はやや意外な感じで頷く。


「結構・・・。いますね。まあ、最近マンションにも出るって言いますもんね」

〈今屋根裏にいまーす!!〉

「いるの!?」

〈〈〈〈〈アッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉

「なんか・・・。こういう稀な方もいらっしゃいますが・・・。結構、最初の方はかなり大騒ぎだったんだよね? さとっち」


そんな未佳のお決まり無茶ブリに、長谷川は一瞬『ん?』と聞き返すかのような表情を浮かべたが、その後は話の内容と流れが分かったのか『あぁ・・・』と言いながら頷き返した。


ちなみに未佳が、こんな話の途中で人に会話を振る時は、大概この先のトークをその人物に任せる。

という時だ。

現にこの時も、未佳は既に『あとはよろしく』と意思表示の名の如く、マイクを口元から下ろしていた。

そんな未佳のちょっとした意思表示に気付きながら、長谷川は普通にトークの話を繋ぐ。


「あのー・・・。最初レコーディング室のエアコンが全然点かなくて、それでコンセントを確認してみたら、なんか・・・、齧られてたんですよ」

〈〈〈〈〈ははは・・・〉〉〉〉〉

「そんで『なんや、これ?』って、みんなが言うてたら・・・。いきなり後ろから『チュウ!』って」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「長谷川くん。ネズミに靴齧られたんだよね?」

「そう! そう! お気に入りだったスニーカーの足首ら辺の生地? あそこを思いっきり『ガジッガジッガジッ!!』って!」

〈〈〈〈〈アッハッハッハッ〉〉〉〉〉

「『止めろや! このネズミーっ!!』みたいな。その後はしばらくショックでショゲ込んでたんですけど・・・」


ふっとそんなことをトークの場で話したからなのか。

はたまたショックを受けた長谷川を慰めようとしたのか。

一部のファンや観客の人達から、こんな声が飛び出してきた。


〈グッズを齧られましたー!!〉

〈パソコンとテレビのケーブルダメにされたー!!〉

〈家の柱をボロボロにされたよー!!〉

「・・・・・・なんか・・・、気を使わしてしまったようで、スンマセン・・・」

〈〈〈〈〈いえいえ・・・〉〉〉〉〉

「いや。で、そのあと。別のレコーディング室に移ろうと思ったら、そのネズミが出た部屋に、小歩路さんが昼食のサンドウィッチを忘れてきて・・・。それを取りに行ったらまた出くわしたんですよ」

〈〈〈〈〈うわーっ・・・〉〉〉〉〉

「しかもそれに驚いた坂井さんが、そのネズミを誤って蹴」

「さとっち!!」

「あっ・・・」


ここで初めて、長谷川は言ってはいけないことまで口走ってしまったと気が付いたのだが、話してしまった内容を考えれば時既に遅し。

軽い気持ちで『スンマセン』と謝る長谷川に対し、未佳は『これでもか!』というほどの形相を浮かべ、長谷川を睨みつけた。

その未佳の恐ろしい顔に、長谷川は目を左右に泳がしながら、小さく目の前のマイクに向かって口を開く。


「すみません・・・。今の聞かんかったことにしてください・・・」

〈〈〈〈〈えぇーっ!?〉〉〉〉〉

〈〈〈『誤って蹴って』なんだったのー?!〉〉〉

〈〈〈さとっち教えてーっ!!〉〉〉

「僕の口からは言えません!!」

〈〈〈〈〈ハハハ!〉〉〉〉〉

「皆さんでテキトーに想像してください! 想像程度だったら何とも言わん・・・ですよね?」

「うん。想像程度・・・・だったらね!」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「あっ・・・。で、そのネズミを」


ふっと二人のマズイ空気を感じ取った手神は、慌てて長谷川の代わりにトークを先へと進めた。

こういう場合、ほとぼりが冷めるまでは先へ話などを進めるのが正解だ。

こうして普通に話している間に、いつの間にかいざこざが収まっていることも少なくない。


「何とか事務所内で捕まえましてね。小歩路さんが引き取ったんですよ」

〈〈〈〈〈えぇーっ?〉〉〉〉〉

「えっ? 変? 別にアリやない? ネズミかわええもん」

〈〈〈〈〈ははは・・・〉〉〉〉〉

「ちなみに名前、なんだっけ?」

「ん? 『サンド』。『サンド』っていう名前付いてます。女の子」

「綴りは?」

「S、A、N、Dで『SANDサンド』。そのまんま」


そう厘が説明した辺りで、ようやくほとぼりの冷めた長谷川と未佳が再びトークの会話の輪に入る。


「これ皆さん、勘違いせんといてくださいね。『サンド』っていう名前の由来ですけど、これ事務所の名前やないんですよ」

「その日の小歩路さんの昼食だった『サンドウィッチ』からきてるっていう・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「若干『えっ!? ソコッ!?』みたいな部分ありますけどね」

「そういえば、あれからサンドちゃんどうなってるの?」


『そういえば何にも聞いてないな』と思いながら、未佳は今のサンドの様子を厘に訪ねた。

すると厘は、一瞬宙を仰ぎながら、今日のサンドとの出来事をゆっくりと口にする。


「今日は朝から起きてたんよ。サンド」

「へぇー・・・」

「でぇー・・・、今日『出掛けてくんねぇ~』って言いながら、エサ入れに水菜と三ツ葉入れてきた」

「うわっ、おいしそ!」

「ヘルシーな朝ご飯ですね」

「うん♪ 多分今頃ケージん中で、モシャモシャモシャモシャ・・・」

〈〈〈〈〈ははは〉〉〉〉〉


そんなネズミがエサを食べる時の仕草をマネしながら話す厘に、ふっと長谷川の口からこんな本音がポロリとこぼれた。


「なんか・・・。『ネズミ』でいることがすごいもったいないっすよ」

〈〈〈〈〈ハッハッハッ!〉〉〉〉〉

「なに、さとっち? サンドが羨ましいの?」

「だって・・・。ネズミに『水菜』と『三ツ葉』って・・・。『一体どこのお金持ちのネズミですか~?』みたいになりますやん?! ましてやこんな野菜値上がりみたいな時期に・・・。今年一人暮らしの野郎には辛いんっすよぉ~・・・。忙しいから野菜取らなアカンのに、高くて手が出せないっていう・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉


ふっとそんな切実過ぎる長谷川の話に、同じく男一人暮らしの手神が『そういえば』と口を開いた。


「最近やっとブロッコリーとかに手が出しやすくなったよね?」

「はい。でもあれってデパートリー限られるでしょ? おまけに今のこの時期にビタミンCばっか取っても・・・」

「あれって、風邪予防と美白肌にする作用があるんだっけ?」

「はい。でも風邪はほぼ一年中何かしらで気ぃ付けなアカンし・・・・・・。肌もねぇ~・・・」

〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉〉

(ね、ねぇ、みかっぺ。なんかトークウケてなくない?)


小声で未佳にそう話し掛ける厘に、未佳は『はぁー』と溜息を吐いた。

もちろん未佳にもそれは分かっているのだが、何ともトークのキリが悪過ぎる中途半端なところで、この会話を止めるのはNGだ。

見ている観客達のことを考えれば、それは常識。


しかしそんな二人の想いとは裏腹に、二人の笑えない寒いトークはまだまだ続く。

正直言ってここで今二人が喋っている内容は、明らかに打ち上げなどの飲み会の席で話すような内容だ。

こんなところで話すような話ではない。


(なんでそれが分かんないのよー!!)

「そもそも長谷川くん。かなり肌の色、白いじゃん」

「そうなんっすよ。もう『これ以上白くしてどないする気やねん!』みたいなね」

〈〈〈〈〈(・・・・・・・・・)〉〉〉〉〉

(ま、マズイ・・・)

「だから食べたって意味ないんっすよ」

「確かに」

「『身体が余計に青白くなる』みたいな」

「もういっそのこと透明になっちゃえば!?」



ズコーンッ!!



その未佳の強烈な一言に、長谷川は一瞬表情を固まらせると、そのまま思わずその場に立ち尽くした。


一方の周りにいたファンや観客達はというと、いきなり笑えないトークから爆弾発言が飛び出すというギャップの差に、両手を叩いて大爆笑。

あっという間にステージ一体に爆笑の嵐が巻き起こった。


もっとも未佳からしてみれば、これはただ単に笑えないトークを止めたいがために口にした一言だったので、予想外なほど観客にウケたのは計算外だったのだが。


「さ、坂井さん・・・。発言がなんかすごい酷いんですけど・・・」

「だって笑えないんだもん!! 二人の話が!」

〈〈〈〈〈アッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉

「もう少しお客さんのこと考えてよ! そういう話は打ち上げの時にして!!」

「「すみません・・・」」

「まあ、僕の場合は白くなるだけなんだけどね」

「手神さん!!」


こうしてやや横に反れてしまったネズミの話を一旦打ち切り、未佳は次のトークの話題として、長谷川の『風邪』という言葉から話を繋げた。

言うまでもなくそれは、この間の長谷川が高熱で休んだ時の話である。


「あっ、そういえば『風邪』で思い出したんですけど、皆さんの中で今年風邪引かれた方とかって、いらっしゃいます?」

〈〈〈はーい・・・〉〉〉

「ざっ・・・、とぉ~・・・。20人くらいですかね。挙手ありがとうございます。実はさとっちもつい最近、風邪で寝込んでたんですよ。2日間くらい」

〈〈〈〈〈エェーッ!?〉〉〉〉〉

「ホントに・・・。いやね。出勤の日に事務所にやってこなくて・・・。私だけ午後くらいに出勤だったんですけど、手神さんから『長谷川くんと一緒にいる?』って電話で聞かれて。それでちょっと・・・。ねぇ。まさか脳卒中とかなんかマズイの起こしてたり、強盗とか入ってるんじゃないかとかって心配だったから・・・。マネージャーと二人で、車でさとっちの家に行ったんですよ。そしたらベッドで寝たまま熱で動けなくなってるさとっちを見つけまして」

〈〈〈〈〈うわー・・・〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈大丈夫ー?〉〉〉〉〉

「ん? 今は僕もう全然大丈夫ですよ。・・そんな今イベント中やのに・・・、ダメやったらアカンがな・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「ただ熱出てる時は・・・、記憶曖昧・・・。めっちゃ曖昧。もうね・・・。瞼開ける度にだい~ぶ時間経ってる感じ? 記憶継ぎ接ぎやもん」


その後長谷川はふっと宙を仰ぎ、その時の記憶を辿り始めた。

もっともその記憶自体、大半は完全に忘れてしまっていたが。


「まず最初に瞼開けたら、熱で怠くて動けへんかったんですよ。で、2回目に開けてみたら、みかっぺ達がおって・・・」

〈〈〈〈〈おぉー・・・〉〉〉〉〉

「3回目の時は、目の前に土鍋とお粥が出てくるやん。で、そのあとの4回目は、なんか分からんけど一応土鍋の中身はみんな食べたあとで・・・」

〈〈〈〈〈おー・・・〉〉〉〉〉

「で。5回目の時に目を開けたら・・・。朝になっててね・・・・・・・・・あれ?」

〈〈〈〈〈・・・・・・・・・・・・〉〉〉〉〉

「でもそれやと僕・・・、その日5回しか瞬きしてない・・・?」

〈〈〈〈〈ハッハッハッ!!〉〉〉〉〉

「んなわけないですよね?! 坂井さん?!」

「うん。明らかに私と会った時に、既に5回以上瞬きしてた」

「ですよね?!」

「しかも長谷川くん、今の話だと・・・。目を開けたままか、あるいは閉じたまんまで、土鍋のお粥食べてたことになるよ?」

「ありえないっすね」

「「「ッハハハ!」」」

〈〈〈〈〈アッハハハ!〉〉〉〉〉

「恐怖映像このうえないっすね! それ! ハハハ!!」


ふっと、そのどちらかの姿でお粥を食べている長谷川を想像したメンバーと観客は、そのあまりにもシュール過ぎる絵に思わず爆笑した。

一方の長谷川も、自分のことだというのに笑いを堪え切れず、ただただ腹を抱えて声を上げながら笑い出す。


こうして1回目のトーク時間はあっという間に過ぎ、最後は会場全体が爆笑の渦に包まれたまま、第一トークタイムは終了した。


『カラオケ3』

(2001年 11月)


※せっかくなので、みかっぺとさとっちのデュエットで歌うことになった。


「さて、今度は何点やろ?」


さとっち

「小歩路さん、さっきからそればっかっすね(ジト目)」


みかっぺ

「たまには歌えばいいのに・・・」


「ウチはみんなの歌聴いてワイン飲めればそれでいい・・・」


手神

「でもそれって・・・。一般の方はアレですけど、僕らの場合はかなり豪華な感じですよね(笑)」

(アーティスト二人の生歌聴きながらワインって・・・(^_^;))


さとっち・みかっぺ

「「確かに~・・・」」


ダンッ!!(採点発表)


みかっぺ・さとっち・厘・手神

「「「「・・・・・・・・・・・・えっ・・・?」」」」


「182点って・・・」


みかっぺ

「ちょっとコレ何点満点採点なの!?(謎!)」


手神

「てっきり最高100点だと思ってたのに・・・」


みかっぺ

「じゃあ私のさっきの点数は一体なんだったのっ!?」


さとっち

「・・・・・・実は僕・・・、さっき98点でした(暴露)」


みかっぺ

「・・・・・・え゛っ?!Σ( ̄;)゛(二度見)」



ちなみにデュエットの場合は、一人100満点評価で採点するものもあるんだそうです(苦笑)


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