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47.ボケとツッコミ

ようやく二人のいざこざも収まり始めた辺りで、未佳はようやくメンバー紹介を再開させた。

不覚にも3番目に紹介するメンバーは、つい今さっきまでそのいざこざに関わっていたあの長谷川である。

なんだかこの流れで紹介することに不安を覚えつつ、未佳は再びマイクを口元に向けると、長谷川の方に右手を向けた。


「はい。続いてご紹介するメンバーは、事務所でも一番お忙しい引っ張りだこアーティスト! さとっちこと、ギターの長谷川智志くんですっ!!」

〈〈〈〈〈イエーイ!!〉〉〉〉〉

「イエーイ!! って・・・・・・まさかの『くん付け』?」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉


まだちょっとした紹介と名前を口にしただけだというのに、長谷川は早くも未佳に『くん付け』で呼ばれたのが不満だったのか、やや未佳の方に視線を向けながら聞き返した。


もちろん未佳も、長谷川が『くん付けで名前を読まれたのが不満だ』っと言いたいのは分かっている。

いやむしろ、気に食わない紹介方法だと分かっているからこそ、あえてそう紹介したのだ。


何故なら、こういうネタのあとに長谷川が口を開くと、毎回観客との爆笑トークに発展していくからである。

長谷川の話し方がツッコミを入れたくなるのか、ただ単に観客が長谷川をいじくるのを楽しんでいるのか。

理由はよく分からないが、とにかくステージという場所でライヴやイベントをやり始めてから約8年間、これは片時も変わったことのない流れなのだ。

現にこの時も、長谷川と観客との間では、自然と笑いを取る方向に話が進んでいた。


「あのー・・・。僕こう見えて。坂井さんよりも年、上なんですよ?」

〈〈〈〈〈ハハハッ〉〉〉〉〉

「年代も誕生月も上なんですよ? 一応・・・」

〈〈〈〈〈見えなーい〉〉〉〉〉

「なんだとーっ?!」

〈〈〈〈〈ハハハッ!!〉〉〉〉〉

(ハハハッ!! 私の読み的中~♪)


なんて胸中で爆笑していた未佳は、ふっと自分の左横にいる厘を見てハッとした。

思い返してみれば、厘にまだあの質問をしていない。

一回気付いてしまうと放って置けない性格の未佳は、一旦長谷川とのやり取りを中断し、再度厘の方に話を戻した。


「・・・ちょっとごめんなさい。さっき小歩路さんに聞き損なってた質問があったんで・・・。一旦こっちの紹介に戻ります」

「へっ? あっ、まあ・・・。ええけど・・・」

「えっ? 『質問』って何?」

「いや、手神さんと同じ質問なんだけどさぁ・・・。小歩路さん『ボケ』と『ツッコミ』どっち派ですか?」



ドテッ!!



「いっ・・・、今っ?! 今それ聞きますっ?!」

〈〈〈〈〈アハハハッ!!〉〉〉〉〉

「そんなん・・・! あとでもええやろ?? 正直」

「だって聞き損なってたんだもん!! 小歩路さんとさとっちがず~っと言い争ってたから~!!」

「・・・・・・・・・・・・」


『そう言われてみればそうだ』と少し納得する自分に落胆しつつ、長谷川は厘の方に右手を当てながら『ご回答は?』と、目で尋ねる。

一方の手神も、ここで厘が話さなければ先に進まないと察していたので、こちらは声に出して再度聞き返した。


「小歩路さん・・・。どっち派ですかねぇ~?」

「えっ? ・・・『どっち』も何も、手神さんと一緒なんとちゃう?」

「あぁ~、ボケ?」

「うん」

「まあ、そうだよね、小歩路さんは・・・。ただ内心ちょっと、小歩路さんがツッコミ入れるとこ見てみたいけどね」

「いや。小歩路さんが『ツッコミ』だったら・・・、ある意味このバンドのバランスおかしくなってますよ?」

〈〈〈〈〈ハハハッ!〉〉〉〉〉

「結構『ツッコミ』は、ボケで傾いた軸を直す係みたいなもんですからね。それを小歩路さんが行うことになったら、多分まずい・・・」

「危険?」

「危険。かなり危険」


そう口にした長谷川は、突然『もしも小歩路さんがツッコミを入れる立場の人間にあってしまったら』という設定で、一体自分達の周りやバンドにどんな影響が出るのか。

それを観客やファンの人達に分かりやすく話し出した。


「ね。小歩路さんが中心の軸になってしまったら、えらい色んなことが『当たり前やろ?!』みたいなことになりますよ? たとえばメンバー全員、毎回3~4分ほど出勤時間とかが遅れるとか・・・。これはザラにありますよ」

〈〈〈〈〈ハハ・・・〉〉〉〉〉

「あといつも聞かれてることとちゃう質問の答えが返ってきたりとか」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉

「フラ~っと出掛けたっきり行方不明になったりとかね」

〈〈〈〈〈ハハ・・・〉〉〉〉〉

「挙句の果てには打ち上げ会場や誕生日会の場。肉とケーキととろろが完全にメニューから消える・・・。っていうね・・・」

〈〈〈〈〈ハハハ・・・・・・〉〉〉〉〉

「「「・・・・・・・・・」」」

「誰かツッコンでください!!」

〈〈〈〈〈アッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉

「「「ハッハッハッ!!」」」


ふっとあらかたボケネタを口にした長谷川は、誰も黙るか薄ら笑うかの現状に痺れを切らし、思わずメンバー3人に対して大声で叫ぶ。


だがいざそう叫んでみても、メンバー3人や観客はただただ手を叩いて大爆笑するばかり。

この様子では、おそらく最初からこのボケにツッコむ気などなかったのだろう。

そもそも長谷川がこのようなボケを口にしたのは、先ほど未佳が『小歩路さんがツッコミを入れるところを見てみたい』と言っていたのを聞いて、実際にやらせてみようと思ったからだ。


にもかかわらず、その結果は肝心の厘自身がツッコまないどころか、他のメンバーですら黙っているだけという散々なもの。

普段ボケ役でもない人間が必死にやっただけに、長谷川が叫びたくなるのも無理はない。


「これじゃあ・・・、僕が一人でただボケてスベったみたいな感じになってるやないですか!!」

「ご、ごめんね。長谷川くん」

「でもこれ私達に一番にツッコんでほしかったわけじゃないでしょ?」

「ま、まあ・・・。狙いは小歩路さんにツッコん入れてもらうことやったけど・・・。せめて誰か別の方が空気読んで入れてくれるとか・・・!!」

「いや、だって・・・。どこでツッコんだらいいのか分かんなかったんだもん! だってなんか小歩路さんがツッコミになっちゃったら、本当にこうなりそうだったし・・・。『ツッコミ』ってある意味、言ってた内容に対しての『訂正』とか『否定』でしょ!? ・・・私達どこでツッコめばいいのか」

「だから僕達、場の空気を読んで黙ってたんですよ。これは小歩路さんがツッコムところだと思いましたし・・・」

「そんなぁー・・・」


ふっとそんなことを言い合っている3人の様子を見て、何やら長谷川に散々失礼なことを言われていたようだと、厘はここいきてようやく気が付いた。


「・・・・・・えっ? もしかしてウチ今・・・、さとっちにめっちゃけなされてた?」

「「「うん!」」」

「いや、正確には僕一人やないですよ? ・・・さっきの坂井さんと手神さんの話聞くと・・・・・・。みんな同じこと思ってたでしょ?」

「「・・・うん」」

〈〈〈〈〈ははは〉〉〉〉〉

「えっ! ひどーい!」

「だったらツッコんで否定してくださいよ!!」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉


ふっとここにきて『なんだかさっきと同じような流れになってきてるなぁ~』と、二人の状況を見て感じた手神と未佳だったが、二人がそう思った頃には時既に遅し。

再び厘と長谷川は、若干言い合いのような状況となってしまった。

しかも今度は長谷川のみならず、この場にいた手神や未佳なども巻き込むような形で、トークが展開されることとなってしまったのである。


「言われて嫌やったら、否定してください!」

「えっ? ・・・でもみかっぺ達、何にも言わへんかったやん」

「あっ、いや・・・」

「だからそれは・・・」

「だからさっきからずっと同じトコで話が回ってんねんっ!!」

〈〈〈〈〈ハハハッ!!〉〉〉〉〉

「さっき坂井さんが『小歩路さんがツッコムところ見てみたーい』って言うてたから、僕があえてボケてみたんですよ! でも小歩路さん全っ然ツッコまなくて・・・。おまけに他も人達も、ボケの内容が小歩路さんにツッコんでもらう感じのやつだったから、誰も僕のボケにツッコまなかったんです!! ・・・ツッコめる人間が小歩路さんしかいなかったから!!」

「・・・・・・あっ・・・、そういうことなん?」


その長谷川の発言からしばし間を置いた直後、ようやく厘は全ての状況を理解した。

しかしこの話の内容を理解するまでに掛かった時間などを考えると、どうやらかなりこのてのことを理解するのが、厘は極度に苦手なようだ。


ふっと厘がようやくことを理解した直後。

未佳と手神は即急にこの話のループを止めようと、間髪を空けずに厘に頼んだ。


「そうそう。そういうこと。だから小歩路さん、なんか今すぐツッコんで!」

「えっ?」

「とりあえず小歩路さんがさっきの長谷川くんの発言にツッコめば、この今の流れが止まるから!」

「ほら! さっきのギャグの内容思い出して! それに対してツッコんで!!」

「えっ・・・、えっと・・・・・・なんでやねーん!!」



ドテッ!!



〈〈〈〈〈アッハッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉

「「「「・・・・・・・・・」」」」


まさかこのイントネーションで言われることすらなくなったツッコミが出てきたことに、メンバーはステージ上で大きく揺れた。

一方、そんなメンバーの様子や厘のツッコミなどを聞いていた大勢の観客は、皆手を叩きながら爆笑している。


ちなみにツッコミを入れた厘は、何故ツッコミを入れたのに周りが倒れているのだろうと、かなりキョトンとした表情を浮かべながら辺りを見渡す。

そんな中、ようやく中腰程度に立ち上がった長谷川が、本業で一発ツッコむ。


「・・・そ・・・、それこそホンマになんでやねーん!!」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「えっ? ・・・ウチ、ツッコンだよ?」

「ツッコミの言葉が違う・・・。私初めてだよ」

「「「・・・何が?」」」

「ツッコミがボケに変わるのをやった人」

〈〈〈〈〈アッハッハッハッ〉〉〉〉〉


さらにこの場で倒れた衝撃でなのかは知らないが、厘がツッコミを上手く入れられなかったのには、こんな理由も存在していた。


「それによくよく考えてみたら・・・、小歩路さん京都の人だよね?」

「うん。生まれも育ちも・・・。今関西の何処に住んでるのかは言わんけど」


実際は今でも京都に住んでいるのだが、これは彼らが元々持っていた『ミステリアスさ』を生かすため、事務所側に公表しないようにいわれているのだ。

ちなみにその他にも、メンバーの年齢、生年月日、本名、学歴なども、CARNELIAN・eyesでは基本非公開となっている。


もっとも今となっては、ネット上やメンバーの友人などから情報が広く出回り始めていたこともあり、大半のことは判明してしまっていたのだが。


「そっかぁ! そもそも『ボケ』と『ツッコミ』の文化があんまりないんだ。京都だから・・・」

「京都はちょっと関西でも特殊だよね。なんか・・・『大人な人!』みたいな・・・」

「・・・・・・なんでこの質問出したんですか?」


確かに長谷川がそう口にしたとおり、京都人でもある厘に出すのには少々不適切な質問だ。


いや。

もっと正確に言ってしまえば『ボケ』と『ツッコミ』があまり存在しない関東の人間がメンバーにいる時点で、この質問は失敗である。

おそらく未佳の中には『関西のバンドだからボケとツッコミ』というトークネタが上がったのだろうが、ネタを上げる側の人間ならばもう少し考えてほしいものである。


「ごめん、ごめん。あっ・・・、ちなみにですけど、さとっちは普段『ツッコミ派』の人間ですので・・・。ね?」

「逆にボケても誰もツッコまないんですよ・・・」

〈〈〈〈〈ハハハッ!!〉〉〉〉〉

「はい。でぇ~・・・、さとっちの方に紹介を移りまして・・・。先ほど『さとっちは事務所でも引っ張りだこな人』と、私が紹介したんですけど・・・。実はさとっち、事務所ではギターだけではなくてですねぇ。作曲・・・、編曲・・・。作詞もだっけ?」

「はい」

「はい。あと、コーラス・・・、ソロ活動。それからラジオのDJと・・・。かなり色々活躍しています」

〈〈〈〈〈へぇー・・・〉〉〉〉〉


と、周りがその説明内容に感心する中、数名の女性ファンが口からはこんな言葉が飛び出してきた。


〈〈〈〈〈カッコイイー!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈さとっち、カッコイイ~っ!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈ステキ~♪〉〉〉〉〉

「なんか・・・。女性ファンの皆様からはかなり評判いいですね。忙しく働く男はかっこよく見えるみたいですよ? さとっち、皆さんに対してお返事は?」

「・・・・・・いや~・・・。正直あんま嬉しくないかも・・・」

〈〈〈〈〈えぇ~っ?!〉〉〉〉〉

「えぇ~っ?!」


その長谷川のストレートな解答に、思わず未佳やファンの口からブーイングが飛ぶ。


「いや! 今皆さん、坂井さんも含めて『えぇ~っ?!』って言いましたけど・・・。これ下手したら僕、忙しすぎて死にますよ?」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「本当に・・・。過労死ってやつ? あれに近い状態になりますよ? 僕・・・」

「一回何かで全部重なったことがあったよね? 長谷川くん」

「あぁ、3年の時でしょ? ありましたよ」


それは今からざっと7年前の2003年。

ちょうどCARNELIAN・eyesの知名度がそこそこ上がってきた頃のことだ。

その年に、長谷川は事務所のスタッフやプロデューサー達に誘いを持ち掛けられ、バンドから初のソロ活動。

そして当時アーティストとして珍しかったラジオのDJなどを務めることとなったのだ。


ちなみに何故スタッフやプロデューサー達がこのような企画を持ち上げたのかと言うと、少しでも事務所の宣伝対策として、何か他とは違うものをアーティスト達にやってもらおうと考えたからである。

そしてその世間が注目しそうなアイデアがいくつか出た辺りで、一体誰にこの役をやらせようかと考えた際、言ったことはなんでもそつなく熟してしまう長谷川が、この企画の人物像にピッタリ嵌ったというわけだ。


一方の長谷川自身も、この当時は少しでも有名になれるのであればなんでも構わなかったので、何も考えずにこのお誘いを了承。

こうして長谷川は一躍『SAND』の変わり種アーティストとして注目を集めることとなった。


しかしその後、毎週水曜日収録のラジオ放送やソロ活動などの仕事が忙しくなるに連れ、本来の仕事でもあるバンド活動や作詞・作曲の制作活動が厳かに。

さらにそのあとは追い打ちを掛けるかのように、本家の仕事とソロ・ラジオの仕事が重なる回数が増え、最終的には心身共に仕事が追い付かず、半ば挫折するような形となってしまったのだ。


「あの・・・。夏の一週間だけ、火曜までに作曲と編曲終わらせて、水曜に作詞やったあと、夜ラジオで・・・。そんで木曜にソロのレコーディングで、金曜から日曜までが、別の方のライヴ練習でギターとコーラス担当だったことがあったんですよ。一回だけね」

〈〈〈〈〈へぇ~・・・〉〉〉〉〉

「すごいハードスケジュール・・・」

「あの時はー・・・。どうにか全部やり切れて大丈夫だったんだっけ?」

「いや。・・・ちょうどその一週間が終わったあとで、ちょっと『う゛っ!』って胃にきて・・・」

「あっ、入院したっけ?」

「3日間だけね。いや~! 死ぬかと思いましたよ。あの時は・・・。でもあんなことはあとにも先にもあれっきりですけど」


実はその入院事件が起こってすぐ、事務所側は長谷川の予定などを事前に確認し、時間がある時のみ、ラジオDJやソロ活動などの仕事を入れるよう配慮してくれたのである。

そのため今では、昔のように『休みが一切ない』などということもなくなり、やや過ごしやすい日常を送っている次第だ。


「なるほど・・・。はい、じゃあここで・・・。メンバー紹介をアンカーに移しまして・・・・・・」

「? ・・・どしました?」


ふっと何故か自分の紹介で黙り込む未佳に、長谷川は『?』マークを浮かべながら未佳に問い返す。

しかし肝心の未佳自身は、何やら少し困ったような、戸惑っているかのような表情で笑うだけで、なかなか自己紹介が先へと進まない。


そして再度長谷川が『どうしたんっすか?』と聞き返すと、未佳はようやく口を開いた。


「私の紹介・・・、さとっち達でやってくんない?」

「「「・・・えっ?」」」

「自分で自分のこと紹介するの、すっごい恥ずかしい・・・」

「あっ・・・」

「なるほど・・・」

「そういうことっすか・・・」


ようやく未佳が自己紹介を始めようとしない理由を知り、長谷川達は未佳の自己紹介をどういう風にしようか相談し始めた。


本来のライヴなどで行う自己紹介であれば、バンドの担当ポジションと名前を言えば済むだけのこと。

しかし今回の自己紹介はそういうスタイルではない。

少なくとも、何かトーク的な意味合いのものを持っていかなくてはならなかった。


「どないします? 坂井さんの自己紹介・・・」

「あっ、なんか・・・『変な紹介の仕方しない』っていう条件付きで♪」

「「えぇ~っ?!」」

「何よ! 『えぇ~っ?!』って!!」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

「私みんなのことふつ~うに紹介したでしょ?! だから私のもそうしてよ!」

「・・・・・・分かりました」


本当ならこういう場でウケ狙いの自己紹介をしたかったのだが、本人が嫌がってしまっている以上、それは諦めてしまった方がよさそうだ。

むしろそうしなければ、本人の意思を無視して行ったあとが危ない。


その後厘や手神達と話し合い、未佳の自己紹介は喋り慣れている長谷川に任せることとなった。


「はい。それでは最後のメンバー紹介で・・・。作曲&ヴォーカル担当! 自称『歌姫』! 『みかっぺ』こと、坂井未佳さんでーす!!」

〈〈〈〈〈イエーイッ!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈みかっぺ~っ!!〉〉〉〉〉

「どうも~! みかっぺでーす♪ って・・・。なんかこれはこれで恥ずかしいね・・・」

「えっ? ちゃんと条件通りに本当のこと話しましたよ?」

「それはそうなんだけど・・・。まあ、いっか」


本当はもう少し控えめな感じで紹介してほしかったのだが、さすがに『人に頼んでおいてそれは図々しい』と思い、未佳はあえて口を閉じた。

ましてやちゃんと条件に沿った内容で自己紹介をしてくれた長谷川に、あれやこれやと文句は言えないだろう。


「で、まあ・・・。未佳さんは『ボケ』と『ツッコミ』ですと・・・。どちらでしょうかね? 手神さん」

(えっ? 私に聞くんじゃないの?)


ふっと話を聞く相手をスルリと変えた長谷川に、未佳はやや目を泳がしながら、手神の方に視線を移す。

一方の手神は、いきなり長谷川に話を振られたにもかかわらず、何故か慣れた感じでその質問に答え始めた。


「・・・そうですねぇ~・・・。坂井さんは『ツッコミ』でしょう。それもかなり過激な方の」

(かっ・・・『過激』って何っ?!)

「あぁ~。僕よりは少し乱暴な感じのね」

〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉

(いや! お客さん『ハハハ』じゃなくて!!)

「あと坂井さんってどんな方ですかねぇ? 小歩路さん」


ふっとまたしても聞く相手を自分以外の人間に指名する長谷川に、未佳は再び目を泳がしながら厘の方に視線を向ける。

そして何故かやはりその質問を持っていたかのような反応の厘に、未佳はようやく気が付いた。


(もーう! さっきどういう風に紹介しようか考えていた時に、こっそり打ち合わせしてたなぁーっ!!)

「みかっぺはぁー・・・。いい部分やと、明るい・元気がある・強い」

〈〈〈〈〈おぉ~・・・〉〉〉〉〉

(・・・そうかなぁ~・・・?)

「それで悪い部分やと・・・。大雑把・ちょっと乱暴・強い」

〈〈〈〈〈アッハッハッハッ・・・?〉〉〉〉〉

(何よ、それーっ!! って・・・、あれ?)

「あの、小歩路さん。『大雑把』と『ちょっと乱暴』はともかく、なんか『強い』が2回出てきましたよ?」


そう長谷川が話してみると、厘は首を横に振りながらこう答えた。


「ちゃう、これで合ってんの。いい方の『強い』は、何があっても諦めないし、仕事は最後までやる人っていう意味」

「な、なるほど・・・。じゃあ逆に悪い方は?」

「・・・・・・・・・逆らえない」



ドテッ!!



〈〈〈〈〈アッハッハッハッ!!〉〉〉〉〉

「ちょっ・・・、切実過ぎるよ! 小歩路さん!!」

「「以上! 坂井未佳の自己紹介でしたー!」」

「チャン♪ チャン♪ って・・・、またこのオチなの!?」


そんな未佳の聞き返しを最後に、未佳の自己紹介は何とも中途半端なまま、閉じられた。


『カラオケ2』

(2001年 11月)


※トイレから戻るみかっぺ。


みかっぺ

「あっ・・・、さとっち歌い終わったんだ。・・・・・・あれ? なんか嬉しそうだけど、どうしたの?」


さとっち

「いや~! なんかああいうの見ると、カラオケって楽しくなりますね!!(笑顔)」←(採点でテンションが上がった(笑))


みかっぺ

「そ、そう・・・(汗)」

(何かあったわね。これ・・・)


「あっ、みかっぺ。次みかっぺの番やよ~?」


みかっぺ

「えっ? あっ、ホントだ! じゃあやるね♪」


※みかっぺ熱唱。


「さて何点やろ?」


さとっち

「ハハハ・・・(苦笑)」


みかっぺ

「えっ? 採点機能付けたの!?」


手神

「長谷川くんが若干つまんなそうにしてたんで(笑)」


ダンッ!!(採点発表)


手神

「きゅ・・・、96点・・・(汗)」


さとっち

(・・・(@_@;)!!)


みかっぺ

「やった~!!(↑) あっ、ねぇ! ねぇ! ところでさとっちは何点だったの~?」


さとっち

「え゛っ!?」


みかっぺ

「さとっちも採点やったんでしょ? 何点だった~?」


さとっち

「ぼっ・・・、僕は~・・・。僕は89点でしたよ?!(数字逆転) やっぱり坂井さんには敵わないっすから~(苦笑)」


みかっぺ

「そりゃそうでしょうよ~♪ 100年早い!(笑)」


さとっち

「はっ・・・、ははは・・・(・・・涙)」



一応ここで言っておきますが、みかっぺだいぶ酔ってます(苦笑)

(そして悲しみに暮れるさとっち・・・(落))


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