45.いよいよ本番(ステージ)へ!
栗野の説明も終わり、未佳と厘は足早に楽屋の右方向にあるメイク室へと向かった。
ちなみに先ほどまで栗野が説明していた更衣室は、このメイク室の中。
それも部屋の奥にある。
早速メイク室の中へと入った辺りで、再び栗野の方から手短に説明が行われた。
「はい。ここがご存じのとおり、更衣室とメイク室になります。で、私の後ろにいる女性スタッフの楢迎さん、峪菅さん、古一さんの3人が、お二人の衣装着替えのお手伝いと、メイクを担当します。まあ~・・・。そんなに彼女達のことを話す必要はないですよね?」
「うん。もう何回もやってもらってるし」
「また今回もよろしくね♪」
「「「はい。よろしくお願いします」」」
実はこの女性スタッフ達は以前にも、未佳達のメイクや衣装着替えなどの担当を行ったことがあったのだ。
そのためいつもメイクをしてもらっている未佳達からしてみれば、彼女達はやや顔馴染みのような存在なのである。
「それで・・・。衣装に着替え終わりましたら、更衣室を出ていただいて、またこのメイク室へ。後々長谷川さんと手神さんが来られましたら、全員でメイクを行います・・・。何か質問とかは?」
「着替え終わった私服とかは?」
「それは更衣室の中にある編みカゴに入れたままで・・・。まさかここに出されたくはないでしょう?」
その『まさか』の発言に、未佳と厘は『ブンッブンッ』と首を横に激しく振った。
これが女性しかいない状況ならまだしも、後々長谷川達がやってくるとなっては大問題だ。
それにたとえやって来られなかったとしても、男性スタッフの誰かが尋ねてこないとも考えられない。
少なくとも、誰か一人は必ずやってくるだろう。
そんな状況下の場所に、自分達の着替えが放置されるなど考えたくもない。
「いや! いや!」
「あとで男が集団で来るんやろ?! 絶対に反対や!!」
「でしょ? じゃあ、他に質問は? ・・・・・・なければ衣装に着替えちゃいましょうか」
「「「はい」」」
「じゃあ二人とも更衣室へ」
「「はーい」」
簡単な説明もそこそこに、未佳と厘達は早速更衣室の中へと移動した。
ここの更衣室は楽屋よりもやや広めで、中には靴を仕舞う靴箱や、私服や小物などを入れる編みカゴ。
その他には、コートや衣装などを掛けるための小さなクローゼット、一応人目を気にする人用のカーテン付きの個室などがある。
ちなみにこの個室を使用したのは、これまでにたったの1回だけ。
おまけにそれは未佳ではなく、厘が使用したのだ。
「そういえば小歩路さん。今日は個室使う?」
「ううん・・・。全部脱がへんもん。ウチがあそこに入る時は、靴下以外全部衣装で着替えるときだけやから」
「そうね。それに個室使った経験なんて、あとにも先にもあれ1回切りだったし」
「あぁ~。もしかしてそれって、随分前のレースドレスだった時のことですか?」
ふっと二人の後ろで話を聞いていた女性スタッフの楢迎が、やや服を脱ぎ始めていた二人に心当たりを尋ねた。
実は彼女が以前二人の衣装着替えの手伝いを担当した際、例の5年前のイベントで一度だけ、厘がここの個室を使用した記憶があったのだ。
当然これこそが、後にも先にもあれっきりの個室を使用した回なのだが、何よりも印象に残っていたのは、その時の厘のステージ衣装。
「あの、紺色? ・・・何ていうか、ダークブルーのレースが幾重にも重ねられて作られた感じの・・・」
「そうそう! しかもかなり透けてて『ウソっ?!』みたいな・・・。地肌少し見える感じのだったよね? 小歩路さん」
「うん・・・・・・・・・しかもご丁寧に下着の分まで作られてるヤツやったし! 『大丈夫ですよ、小歩路さん。下着の方はレース5枚重ねで、衣装も5枚重ねですから。大事な箇所の地肌は見えませんよ~』って・・・。それはそうかもしれへんけど! オカシイやん!! みかっぺよりも目立つ衣装って! ましてや単なるイベントやのに!!」
そう口にすると、怒りのスイッチが入った厘は誰にともなく辺りに怒鳴り散らした。
そもそも厘は、あまり自分の身体を誰かに見られることに堪えられる人間ではない。
その証拠に更衣室で着替えている今も、未佳に対しては背を向けているし、脱いだ衣装はすぐには畳まず、素早く衣装を着てから畳み始めるなど、丸っきり未佳とは手順が逆だ。
さらによくよく過去の出来事を思い起こしてみれば、その他にも心当たりがいくつかある。
「そういえば小歩路さん・・・、ホテルとかでお風呂一緒に入る時とか、身体にタオル巻いたまんまだったよね? いつも服脱ぐのとか、着替えるのも先にやっちゃうし・・・」
「うん・・・、ウチちょっとあの手の苦手・・・。あっ! べっ・・・、別にみかっぺに見られるのが『嫌っ』いうわけちゃうよ?! ただ大まかに『人に』っていうか・・・」
「分かるよ、それくらい・・・。私の高校の友達にも、そういう『裸の付き合い』的なの苦手な人いるから。別に気にすることないんじゃない? 私も場所によってはそういうのある人間だし」
「? ・・・『場所』って?」
「えっ? ・・・あぁ、ほら・・・。周りが年配の人ばっかりとか・・・」
「あぁ~・・・」
「坂井さん。コルセット嵌めるんで、壁に手を付いてください」
「あぁ、はいっ」
『あれこれと話している間にもうこの段階か』と、未佳は壁に手を当てながらしみじみと思った。
そして自分の後ろに立っている楢迎の手に持っているコルセットを見て、未佳はやや重めの溜息を吐く。
このコルセット嵌めが、なんだかんだで衣装着替えの手順の中では一番キツい。
今の女性用のコルセットというものは、昔のような胴回りに装着してからヒモで縛り付けるタイプではなく、大半が背骨の位置に10個ほどのフックが一列に並んでいるタイプなのだが、これが何かとかなり面倒なのだ。
まず、このコルセットは基本一人での装着は不可能なので、装着する際には必ず、後ろのフックを止めてくれる人間が最低一人は必要。
さらに今の未佳のような大きめのドレスなどの場合は、コルセットを身体に装着する位置も重要になってくる。
そのためこの場合は後ろを閉める人と、胸の位置でコルセットを固定する人の二人が必要になるのだ。
ちなみに最近ではフックではなく、ファスナー型やマジックテープ型などと言った、いわゆる一人でも着られるようなものも多く売られてはいる。
しかしこれらのコルセットはあまり細かなサイズ調整などが利かず、おまけに留め具部分もかなり緩くなってしまうことが多い。
そのため事務所側から支給されるコルセットはみな、このやや旧式でもある丈夫なフック型のものと決まっているのである。
実際にそれを装着する人間が大変なのは、この際置いておいて。
(うぅ~・・・。これ毎回キツい!! 特になんか食べたあととか・・・。かなりキツい!!)
「坂井さーん。力抜いてますかー?」
「・・・・・・スミマセン、抜キマス・・・」
「はい、じゃあ力抜いてくださーい」
「逆に胴回りに変に力入れてると、余計に苦しいですからねー?」
(・・・この二人容赦なーい!!)
そんな未佳の心の叫びがこだまするも、実際コルセットを身体に付けるのはほんの1分程度の話。
その後は順番に衣装、飾り、個々の微調整などスムーズに進み、予定よりもやや早めに着替えは終了した。
「はい。坂井未佳さんOKでーす」
「古一さん。そっちはもういいですかー?」
確認のため、未佳の着替えの手伝いを行っていた峪菅が尋ねてみると、古一と厘の二人は一足早く、脱いだままの自分達の衣服の後片付けを行っていた。
ふっと同僚に声を掛けられた古一は、最後に未佳のジーパンを編みカゴの中に仕舞い込むと、その確認に対する返事を返す。
「はーい。こっちも小歩路厘さんの着が」
「着替え終わったよ~♪」
(ハ、ハハハ・・・。先に言っちゃったよ。小歩路さん・・・)
「じゃ、じゃあ・・・。メイク室に戻りましょうか」
「「はーい」」
こうして全体の着替え、後片付けに掛かった時間は、着替え用の時間として用意されていたうちの約20分程度。
まだ男性群がやってくるのには10分ほど時間が余ってはいたが、かと言って別に余裕があるわけではない。
二人の衣装着替えが終わったことを確認すると、栗野はすぐに次の指示を二人に伝えた。
「終わりましたね? じゃあ二人とも、顔を洗ってください。後々メイクがしやすいように。それから洗い終わったあとは、適当に席に着いてください。楢迎さん、峪菅さん、古一さん。ヘアーセットとメイクの準備を・・・。お願いします」
「「「はい」」」
そう。
女性陣にはこれから『ヘアーセット』という名のメイクが控えていたのだ。
特に髪の毛の長い未佳は、毎回ウェーブやらシュシュやら、飾りやら。
場合によっては部分的な三つ編みやエクステなどもある。
そしてヘアーセットとなれば、髪の毛を一旦水で濡らすなどの工程はもちろん。
やや巻き毛やカーブなどを作るためのアイロンやドライアー、形を整えるためのローションにワックスなど、何かと大幅に時間が掛かる。
正直、この時間で足りるのかどうかも不安なところだ。
(今日もセットに時間、掛かるのかなぁ~・・・)
「それでは坂井さん。まず、あらかた髪の毛を濡らしますね?」
「あっ、はーい。・・・・・・あ゛っ!!」
「・・・っ!! どうしました?!」
「『濡らす』で思い出した・・・! 栗野さん!! 私のお水、あの楽屋の冷蔵庫の中に仕舞ったまんまなの!!」
ふっと楢迎の発言と洗面器の中の水で思い出し、未佳は慌てて、後ろの壁に寄り掛かりながら手帳を開いている栗野に知らせた。
別に話を聞いている限りでは、イベントまでの時間はまだまだ十分あるし、ヘアーセットを終えたあとでもいいと思うだろう。
だがヴォーカルの未佳からしてみれば、これはかなり深刻なことなのだ。
というのも完全に冷え切った水は、かえって喉を悪い状態にしてしまうからである。
そもそも未佳があの冷蔵庫にろ過水を入れたのは、冷やすためではなく腐らせないようにするためだ。
だからこそ、なるべく早いうちに水を冷蔵庫から取り出さなければ、常温に戻すのにかなりの時間が掛かってしまう。
その話を聞いた途端、栗野は手帳とペンを持っていた両手をダラリと下げ、面倒臭そうな表情を浮かべながら、宙を仰いだ。
「えぇ~・・・。あの部屋の中にですかぁ~?」
「うん・・・。どうしよう・・・?」
「で、でも・・・。今あの部屋って、手神さんとさとっちが着替えてるやん。そんなとこの中、入れるん?」
「・・・・・・楽屋のスタッフに電話で取ってくれるように言ってみます。もしかしたら、ここまで持ってきてくれるかもしれないので」
「すみません・・・」
と、半分申し訳なさそうに頭を下げる未佳を尻目に、栗野は携帯の電話帳から男性スタッフの一人に連絡を入れる。
するとその電話の相手は即座に出てくれたらしく、未佳の真後ろからは、やや低姿勢の栗野の声が聞こえてきた。
「・・・恐れ入ります。私、坂井未佳さんのマネージャーの栗野奈緒美という者なんですが・・・、すみません。そちらの楽屋に、坂井さんがお水の入ったペットボトルを、冷蔵庫の中に入れたままにしてしまったようで・・・。はい、できれば冷蔵庫から取り出していただいて、こちらに持ってきていただきたいのですが・・・」
(・・・・・・・・・)
「あっ・・・、そうですか。はい! よろしくお願いします! 失礼しまーす・・・。・・・・・・・・・・・・持ってきてくれるそうですよ。未佳さん・・・」
「・・・・・・ふぅー・・・」
「『ふぅー・・・』って安心してないで、今度は忘れないでください! くれぐれも『東京でも』なんてことがないように!! いいですね?!」
「はい・・・」
「あ、あのー・・・。坂井さんのヘアーセット、やってもいいですか?」
「へっ? ・・・あぁーっ!! すみません! どっ・・・、どうぞ!!」
一方のハプニングが発生していない厘の方は、早くも髪を濡らして整える段階が終わり、毛先を少し内側にカーブさせるなどのヘアーセットの段階へと入っていた。
今回の厘は、その毛先をカーブさせるのと、少しばかり髪の毛をフワッとした感じに整えることにはなっているが、それはあくまでも予定の話だ。
というのも実は極稀に、実際にその髪型にセットしたあとで、何処そとなく物足りなさや不満などが出てきてしまい、当日に変更するなどということがあるからである。
一応今回はしっくりとくる髪型だったので、わざわざ別の髪型に変えるなどということはなかった。
「小歩路さん。こんな感じでどうですか?」
「う~ん・・・・・・。うん。ええと思う」
「じゃあもう少しだけ、ちょっと毛先を整えますね」
「はーい♪」
「坂井さん。こんな感じでどうですか? 少しシュシュでまとめた髪をアップにしてみたんですけど・・・」
「うーん・・・・・・・・・。ちょっと右に寄ってるかなぁ~・・・。なんか・・・、もう少し全体的にバランスのいい感じにできますか?」
「じゃあ・・・。このまとめた髪をもう少し、左側に寄らせてみましょうか」
「あっ、はい。お願いします」
それからさらに30分後。
二人のヘアーセットは時間通りに終了し、お次はいよいよ男性陣合同でのメイクだ。
未佳達のヘアーセット等が終わってからさほど時間が経たぬうちに、楽屋で衣装に着替えてきた長谷川と手神が、男性スタッフ二人と、新たに追加でやってきたヘアメイクの女性と共に入ってきた。
メンバーのメイクは基本1対1。
それも、未佳のメイクは楢迎夢。
厘のメイクは峪菅紗良。
長谷川のメイクは、先ほど追加で入ってきた巴丘小百合。
そして手神のメイクは古一恵と、専属でメイクを行う人間とメンバーは予め決められている。
中に入ってすぐ、長谷川は未佳と厘の間の席に。
手神は厘の隣の席へと座り、メンバーは早速最終段階のメイクを開始した。
ちなみに未佳のメイクを担当する楢迎は、メイクだけでなく未佳のネイルも担当しているベテランキャリアのヘアメイク師である。
現にこの日も、楢迎は未佳の爪に付けたツヤ出し液を乾かしている間に、顔の方のメイクを行っていた。
「一応土台はここまでで、ここから化粧をしていきますけど・・・。今日はどんな感じにします?」
「・・・今日披露する新曲がちょっと切なめだし、衣装もこれだから・・・。グロスはブラックレッドのラメ入りで。それからファンデーションは、明るい感じじゃなくてちょっと暗い感じの・・・。なるべく全体的に『白』を中心にした感じに」
「・・・・・・長谷川さんの肌くらいに?」
「いや・・・。アレよりは色がある感じで」
「ちょっ・・・! 坂井さん! 『アレ』ってなんですかっ!? 『アレ』って!!」
ふっと隣の方から聞こえてきたそんな会話に、長谷川は空かさず未佳と楢迎の発言にツッコむ。
しかし当の未佳達はというと、長谷川の発言には一切目もくれず、そればかりか再び話を今日のメイクの方へと戻した。
「あと目元なんですけど・・・。今回少し風が出る感じのステージだから、付けまつげは長くて太めのを一つだけ。それから黒っぽいアイシャドーとマスカラで、いつもみたいに目元を大きく見せてほしいの」
「分かりました。じゃあ今回は、目元以外は薄化粧ということで。それから、ネイルはどういうのにします?」
「そうねぇ~・・・。衣装が黒だから、やっぱりベースは黒かな。あとは赤と白で適当に柄を付けてくれれば・・・。あっ! それからラメとラインストーンは絶対に付けて!」
「はいはい。じゃあそれでやりますね?」
「お願いしまーす♪」
一方その頃、他のメンバーのメイクは一体どうなっていたのかというと、それぞれが自分達の個性を表すかのような要望を出していた。
「小歩路さん。今日はどんな感じにしましょうか? やっぱり薄めにします?」
「うん。落とすの面倒やし、別に照明とかで周り明るいんやから、そんなに強調させへんでもええやん。今日もそうして」
「長谷川さん、今日はどうします?」
「ん? あぁ・・・。とりあえずいつもみたいに、色が白くないやつ使ってください」
「ま・・・、またですかぁ~? 毎回言いますけど、それだと手と色が違い過ぎて、不自然になりますよ?」
「・・・そんなに手を見る人おらんでしょ? ・・・・・・たぶん・・・」
「手神さんはいつも通り、少しブラウンな感じにしますか?」
「はい。あっ、目元は粉が入らないように薄めでお願いします。みんなの前で、サングラス外せないんで・・・」
こうしてメイクも順調に進み、やがてメンバーはメイクが終わった順に、ステージへと続く通路に整列した。
と言っても、基本的にメイクが先に終わるのは男性群の方で、毎回凝った内容で行う未佳が整列のビリになるのは、もう既に相場で決まっていることだ。
現にこの日も、未佳は一番最初にメイクを行ったにもかかわらず、終わったのは一番最後だった。
「お待たせ~♪」
「「遅ーい・・・」」
「いいじゃなーい! ネイルくらいさせてよっ!!」
「ネイルだけじゃないでしょ?」
「ま、まあね・・・。あっ、小歩路さんカワイイ! 髪の毛のカールしてるとこ」
「えっ・・・? そう?」
「うん。今度私もやってもらおうかなぁ~♪ 髪の毛ショートにして」
「「「エッ?!」」」
「冗談よ・・・」
内心『失礼だなぁ~』と思いつつ、未佳は微妙に肩に乗るようにして掛かっていた髪を、肩の後ろの方へサッとはらう。
正直『やってみたいなぁ~』と興味はあったのだが、今ので完全にその興味は消え去った。
「そういえば手神さん、目元やっぱり薄目にしたん?」
「うん。こうしないと粉が入って・・・。それと、ちょっと全体的に茶色い感じの色に・・・」
「『色』っていえば・・・。さとっち、また顔塗った? なんか手と微妙に色がちが」
「気のせいです!! 断言します! 気のせいですっ!! ・・・・・・そういうことにしとってください・・・」
「・・・・・・別に私いじめてるんじゃなくて『色なんて付けなくてもいいんじゃないの?』って言いたかっただけなんだけど・・・」
「すみません・・・。自分があまりにも白過ぎて悲しくなってくるんで、これで自分はいいです・・・」
(どうしようもないなぁ~・・・。この人・・・)
「あぁーっ!! 皆さんもうイベント開始まで5分前ですから! 早くスタンバイしてください!!」
「「「「あぁっ・・・! はいっ!!」」」」
そしてそれから5分後。
リハーサル時よりも約2倍近く増えた観客が待つステージに、栗野のステージアナウンスが流れた。
【皆様、大変お待たせいたしました! それでは、大きな拍手でお迎えください!! CARNELIAN・eyesのメンバー! アレンジキーボードの手神広人さん! 作詞&キーボードの小歩路厘さん! ギターの長谷川智志さんです! どうぞ!!】
栗野のアナウンスと共にステージへと続く通路を3人が先に通ると、会場は観客達の大きな歓声と黄色い声に包まれた。
メンバー3人の耳に、まるで嵐のようなファンの声が響き渡る。
〈〈〈〈〈キャーッ!! さとっち~っ!!〉〉〉〉〉
〈〈〈〈〈小歩路様ァーッ!! 小歩路様ァーッ!!〉〉〉〉〉
〈〈〈〈〈手神さ~ん!! 手神さ~んっ!!〉〉〉〉〉
「どうも~♪」
「短いけどよろしくね~」
「どうもよろしくお願いしまーす」
こうして3人はステージへと上がり、それぞれの楽器の前に手順通りにスタンバイ。
そしてメンバー全員の準備が整うと、栗野の最後のアナウンスが流れた。
【そして・・・、CARNELIAN・eyesの自称『歌姫』! 作曲&ヴォーカルの、坂井未佳さんのご登場です!! どうぞ、盛大な拍手でお出迎えください!!】
(・・・・・・よし! 行けっ!!)
そんな言葉を自分に発しながら、未佳はステージに向かって、嵐のような歓声の中を歩き出した・・・。
『草食系女子or肉食系女子』
(2009年 6月)
※事務所 ライヴハウス。
まっちゃん
「最近さぁ・・・。よく『草食系男子』とか『肉食系男子』とか聞くけど、アレってどう思う?」
小河
「『どう?』っていうか・・・。なんかどっちつかずの人間はどうしたらいいのか分かんないっすよね(苦笑)」
まっちゃん
「雑食的な意味のね(笑)」
赤ちゃん
「確かアレって・・・。最初は『女子』がよく言われてたような・・・」
さとっち
「あぁ~・・・。『肉食系』『草食系』ってね。・・・・・・どういう人指すのかイマイチあれですけど・・・」
赤ちゃん
「ん? さとっちは一番よく分かってるだろ?」
さとっち
「えっ?」
まっちゃん
「確かに・・・」
小河
「さとっちは両方とも近くにいるもんな」
さとっち
(・・・・・・・・・・・・『両方』?)
※数日後 ビュッフェレストラン『ザース』にて。
厘
「ほなウチ、サラダ取りに行ってくる♪」
栗野
「もぅ~・・・。また厘さんは野菜ばっかり・・・」
手神
「まあまあ・・・。食事は本人の好きなようにさせてあげればいいじゃないですか(^^;)」
さとっち
(・・・、ああ・・・、アレが俗に言う『草食系女子』だったとしてー・・・・・・)
※さらに数日後。
焼肉チェーン店『牛丸』。
みかっぺ
「すみませーん! 特上カルビと特上ロース! あとハラミとタン塩とサムギョプサルくださーい!!」
栗野
「ちょっ・・・! ちょっと、未佳さん! まだ食べるんですかー!?(汗)」
みかっぺ
「うん♪ だってせっかくラジオの打ち上げで来てるんだし、こういう時はたらふく食べておかないと・・・。あっ、あとビビンバとサンチュのセットも追加で!」
さとっち
(・・・・・・違う! これは絶対に『肉食系女子』のレベルちゃう!!(恐怖))
若干『暴食系女子』やん・・・(汗)