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42.ステージへ上がる時・・・

午前11時27分。

関係者用通路の室内出入り口前にやってきた長谷川、厘、手神の3人は、ほぼドアの隙間から見える人の数に、毎度のことだというのに『おぉ~・・・』と口を開いた。

ドアの小さな隙間から確認できる観客の数は、この時点で約50人以上。

しかもまだリハーサルの階段だというにこの数だ。


そしてその次に長谷川達が驚いたのは、ここからステージのある方にまで向かうための通路。

なんとこともあろうに、ファンの間を通らなければステージに上がれない通路になっていたのである。


いや、むしろその前に、通路自体が今のこの場所には存在していない。

ただファンがステージの周りを固いバリケードのように囲っていて、その中心にステージがあるような感じなのである。


「ここ・・・、どうやって通るんですか?」

「衣装ちゃんとやってても、ここ通ったら確実に揉みくちゃですよ?!」

「ええ、分かってます! だから今回は、スタッフ10名ほどが手であなた達の通路を作り、そこを通ってもらうことになってますので・・・」

「それってつまり・・・。ステージの階段前の観客を、それこそモーセが海を割ったみたいに、人の手で道開けて、そこをウチらに通らせるってこと?」

「その通りです。皆さんはその通路を、ほぼ全力疾走でお願いします。立ち止まると、ファンの人達がドカドカやってきますから・・・」

「な~んか前よりも面倒になったなぁ~・・・」


長谷川はそう口にしながら、溜息と同時に髪の毛を掻き始めた。


実はほんの数か月前まで、ここにはちゃんとしたアーティスト用の専用通路が作られていたのだ。

その作りとしては、出入り口からステージ階段までの距離に、長さ1メートルほどの棒を2本ずつ、横幅2メートル、縦幅50センチ程度の間隔で並べ、その棒の上下から赤いロープを2本、次の棒の上まで渡しただけの単純なもので、決していいものとは言えなかった。

現に未佳達がその通路越しにファンの人達とハイタッチを行った際、数人のファンがその通路のロープなど関係無しに身を乗り出したところ、通路を作っていた棒が呆気なく倒れ掛けたことがある。


だがそれでも、ステージに上がる側の未佳や長谷川達からしてみれば、たとえ役に立たないような甘い作りであったとしても、無いよりは幾分もマシだったのだ。


ところが去年の8月、その通路は必要性を持っていたにもかかわらず、業者の人間によって撤去されてしまった。

その原因は、ホールの真ん中にあるステージから一番端の関係者用通路の出入り口にまで通路が伸びていたことにより、その階で買い物などを行っていた歩行者達の邪魔になってしまったから。

実は前々からその苦情は届けられていたものの、ここのスタッフ達はあまり対処を行っていなかった。

しかし去年の7月にその苦情が50件を越し、止む無く撤去が決まってしまったというわけなのである。


長谷川はそんな無くなってしまった通路を見つめると、ふっとポケットの中に入れていた携帯電話を取り出し、そのまま未佳宛てにメールを打ち始めた。

打った内容はもちろん、今回の会場の通路について。


そのメールが未佳の元に届くまでは、ほんの数秒ほどだった。



ウィイイイーン・・・

ウィイイイーン・・・



「・・・・・・あれ? メール・・・って、さとっちからじゃない。一体数メートル離れたところで何メール打ってるのよぉ~・・・」


そんなことを呟きながらメールを開いてみると、中には短い文章でこんなことが書かれていた。



Time   2010/3/9 11:28

From   長谷川智志

Subject  会場通路


アカン・・・。

通路ないから大量に流れ込

んでくるパターンです

(-_-;)



「・・・・・・知ってるわよ」

〔! まさかのツッコミ?!〕

「返事一応書いとこ。・・・そんなの分かってるから・・・、早めに調整やって・・・。後ろが・・・、詰まってるの、っと」



To    さとっち

To    《宛先参照/入力》

Subject 時間押してる!


そんなの分かってるから、

早めに調整やって!

後ろが詰まってるの!!

<`ヘ´>



「・・・これでよし!」

〔いいのかなー・・・〕

「送るよ?」


なんて尋ねておきながら、未佳はリオからの返事を待たずに、長谷川にメールを返信した。

もちろんこちらも、メールが届いたのは数秒後。


(おっ! 返ってきた・・・って・・・・・・。なんだ、知らなかったのは僕だけか・・・)

「じゃあ皆さん! 通路ができたんで走りますよ?!」

「「あっ、はーい」」

「嫌やなぁ~・・・。走らずに通ることでけへんの~?」


そんな厘の最後の呟きなど完全無視に、出入り口付近に待機してい二人のスタッフは『いっせいのーせっ!』と口にして、ドアを一気に開放する。

その瞬間、ホール一帯はまるで嵐でもやってきたかのように、甲高い歓声と黄色い声に包まれた。


〈〈〈〈〈キャーッ!! キャーッ!!〉〉〉〉〉

〈〈さとっち~っ!! さとっち~ッ!!〉〉

〈〈〈厘様ァーッ!!〉〉〉

〈〈〈小歩路さーんっ! 小歩路さーんっ!!〉〉〉

〈〈〈GOD! HANDッ!! GOD! HANDッ!!〉〉〉

〈手神さーん!! こっち向いてぇーッ! 手神さーん!!〉

「皆さん! メンバーに触れるのは禁止ですーっ!! そこ! 通路に乗り出さないで!!」

「ここより先には入らないでくださーい! 押さないで下がって!!」


もはや色々な声が混ざり過ぎて何だか分からなくなっていたが、長谷川達はめげずにスタッフ達が作ってくれた小さく狭い通路を、ほぼ全力疾走で駆け抜けた。

その途中、どうにかメンバーの目に止まろうと必死にハイタッチを求めてくるファンがいたが、当の本人達はそんなことなどに一々構ってなどいられない。

長谷川達はそんなファンの人達に軽く頭を下げながら、一気にステージへと続く階段を駆け上る。


たかが3段程度の階段。

たかが5メートルほどの道のり。

にもかかわらず、ステージに上がった3人の顔は、ほんの少しだけやつれていた。


「だ・・・、大丈夫でした・・・?」


マイク越しでなければファンに会話が聞こえないことを経験済みの上で、長谷川は手神と厘に尋ねてみる。

すると二人は、その問い掛けに言葉では返事を返さず、ただただ苦笑だけを長谷川に返してきた。

きっと、これがこの二人からの“答え”なのだろう。


「ライヴの時は客席に座ってるからあれですけど・・・」

「イベントは完全にみんな解放状態だからねぇ~・・・」

「ウチ、3回くらい二の腕掴まれ掛けた・・・」

「え゛っ!? それって連行され掛けたんと違いますか?!」

「あのー・・・、皆さーん。もう時間も押しているので、早めに楽器の調整を行ってほしいんですけどー・・・?」

「あっ、すみませんっ!」

「すぐに取り掛かります!」


確かに栗野がそう口にしたとおり、イベントのリハーサル時刻は既に5分ほど経過していた。

そもそも楽器自体の調整を半になる5分前に行っておかなければならなかったのだから、時間的に言ってしまえばかなりのロスタイムだ。


栗野への挨拶もそこそこに、3人は早速それぞれの楽器の調整に取り掛かり始めた。

キーボードの音量やキーの音割れは勿論のこと、ちょっとした不具合一つ見逃さぬよう慎重に。


さらにはファンに対しての私語等も慎んだおかげか、長ければ10分以上も掛かってしまう楽器調整は、ほんの5分程度ほどで終了した。


「終わった?」

「はい」

「・・・こっちもええよ」

「じゃあ・・・。栗野さん、坂井さんを」

「あっ、はい。すぐに呼んできます」


栗野はそう手神達に返事を返すと、未佳のいる楽屋の方へと小走りで向かった。

ここから楽屋までの距離はかなり短かったが、リハーサルの時間が押してしまっていると、急がないわけにもいかない。


楽屋へ着くや否や、栗野は楽屋のドアをやや乱暴に2回ほどノックし、ドアの外で未佳を呼んだ。


「未佳さーん! 用意ができたんで、リハーサル始めます! 早めに出てきてくださーい!」

「はっ、はーい! 今出まっ・・・キャッ!」


そう口にしながら未佳がドアを開けた途端、栗野は未佳の右腕を思いっきり『ガッ!』と捕まえると、そのままステージの方へと乱暴に引っ張り始めた。

いくら時間が押していたからとはいえ、さすがの未佳もこの行動にはやや悲鳴を上げ、無駄なことだとは分かっていつつも抵抗する。


「ちょっ・・・、ちょっと栗野さんっ! そんなに強く引っ張らないで! ちょっと痛い!!」

「時間がだいぶ押してるんです! 痛いのならもっと走ってください!! 遅いと余計に引っ張られて痛みますよ?!」

「そんなこと言ったって・・・。私、ヒール履いてるのよ?! それも長めのブーツを!!」

「私だってヒールがそこそこあるの履いてます!」

「捻ったらどうするのよ?! 湿布貼った状態でミニライヴなんて洒落になんない!!」

「あれこれ言わないで急いでください!! 時間が10分ほど押してるんで・・・!」


などと栗野はかなり慌ててはいたが、よくよく今日のスケジュールを思い返してみれば、今日はリハーサル終了後にランチを取り、女性は2時半からメイクを行う予定になっていた。

そのため時間的には、ランチタイム終了後予定時刻の1時間半から2時間半まで、フリータイムとして空いている時間があるのだ。

ということは、もしここでリハーサルの時間がかなり伸びてしまったとしても、減るのはその1時間ほどあるフリータイムであって、イベントそのものには響かないのではないのだろうか。


そんな疑問が脳裏を過ぎり、未佳は腕を引っ張られながらも、栗野にそのことを尋ねた。


「でも遅れたらその分、食後のフリータイムが減るだけなんじゃないの?!」

「あっ・・・・・・、考えてみればそうだ」



ドテッ!!



「ちょ、ちょっと・・・! 未佳さん!! 今頭から倒れたけど・・・、大丈夫!?」

「・・・うん・・・。って! それじゃあ私急ぐ必要なかったんじゃなーい!!」

「すみません・・・。でも、ここの外に出る通路からステージまでは、必ず全力疾走で走ってくださいよ? ファンの人達がほぼ解放状態なんで」

「あっ、はーい・・・」


とは答えたものの、しばし『なんだかなぁー』という心境のまま、未佳はゆっくり倒れていた通路から立ち上がり、埃を叩きながら出入り口の方へと向かってみる。


すると信じられないことに、あのステージへと続く通路のドアが、何故か全開に開け放たれたままになっていた。

さらにそのスタッフ側のミスにより、未佳は出口へ出るほんの5メートルほどの辺りで、会場に集まっていた多くのファン集団達から、まるで嵐のような歓喜の声を受け取ることになってしまったのである。


〈キャーッ!! みかっぺ~ッ!!〉

〈えっ!? みかっぺ、やっと来た?!〉

〈みかっぺ、キレイー!!〉

〈私服のロングワンピ、カワイイよー♪〉

〔・・・・・・僕、初めて本来のファンの人達見たかも・・・〕

「た、確かにー・・・。あっ! 栗野さん! ドア開けたままだけど、ファンの人達・・・、こっちに雪崩れ込んだりしない?」

「すると思うんで、ちょっとここに・・・。すみませーん!! スタッフの皆さん! 一旦こっちに来てください!! このままじゃ未佳さん通せないんで・・・!!」


栗野のそんな大声の呼び掛けで、ステージの方に立っていたスタッフ達は、慌てて未佳と栗野の立つ通路の出入り口の方へと駆け寄る。


しかしその呼び掛けの時の声があまりにも大き過ぎたのか、若干『えっ・・・?』と言いたげな表情を浮かべているファンの姿が、あちらこちらからチラホラと見られた。

中には申し訳なさそうに項垂れている人の姿まである。


そんな少し離れたファンの人達に、未佳は苦笑い混じりに数回頭を下げると、キッと栗野を睨み付けた。


(もうっ・・・!! 栗野さん、声が大き過ぎ!! なんで私が頭下げなくちゃいけないのよ!)

「未佳さん・・・、未佳さんっ!!」

「ギャッ! ・・・・・・えっ?」

「『えっ?』じゃないです! 行きますよ?!」

「あっ、はい!」


その後は未佳も湧き上がる歓声の中、持ち前の明るい笑顔で手を振りながら、皆の待つステージへと駆け上がっていった。


『サングラス』

(2006年 9月)


※事務所 控え室。


手神

「はぁ~・・・(溜息)」


みかっぺ

「あれ・・・。どうしたの? 手神さん」


「しかもサングラス掛けてへんし・・・」


手神

「はい・・・。実は今日、小屋木さんのライヴリハーサル中に、サングラスを落として割っちゃったんですよ(涙) 気に入ってたサングラスだっただけに、もうショックで・・・(泣)」


みかっぺ

「そっか~。それでサングラス掛けてなかったんだぁ~(納得) でも、それじゃあここから外に出られないんじゃ・・・」


「ねぇ、ねぇ、みかっぺ。それなら、コレ・・・」


みかっぺ

「えっ? ・・・・・・それって確か~・・・」


「うん、そのアレやけど・・・。ねぇ、みかっぺ。コレを黒く塗ったら、サングラスの代わりにならへん?」


みかっぺ

「そりゃあ、コレを塗ればなりはするけど・・・! ・・・・・・・・・・・・まぁ・・・、いっか♪」


※というわけで、あるもののある部分を黒く染めるみかっぺと厘。


みかっぺ

「よし、できた!!」


手神

「えっ・・・? これってサングラスじゃないですか!?(驚) でもどうしたんですか? これ・・・」


みかっぺ

「まあ、いいから♪ いいから♪ とりあえず今日はコレを掛けて帰ったら?」


「その代わり、明日必ず返してなぁ~(^^)/」


手神

「あっ、分かりました。それじゃあ・・・」


※手神帰宅から数十分後。


さとっち

「あれ? ・・・・・・僕のメガネは?(捜索)」


みかっぺ

「あぁ~・・・。アレ? アレならレンズを黒くしてー・・・」


「手神さんに貸したよ?」


さとっち

「なんでぇなぁーっ!!(怒)」



口癖・・・(笑)


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