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22.大阪公演練習

午後1時28分。

やや雲があるものの、久々に空が晴れてきたこの日。

何となく自然に目が覚めた未佳は、瞼を開けた先に写る視界に、思わずガバッと飛び起きた。


あの時と同様、自分の身に一体何が起こったのかまったく分からない。

ただ言えることは、ここが自分の自宅ではなく、事務所の何処かの部屋だと言うこと。

そして何やらそこで、一夜を明かしてしまったということだった。


「何処・・・? ここ・・・」


とりあえず辺りを確かめようと視界を後ろの方に動かしてみると、何故か自分の足元に毛布が落ちていた。

拾ってよく見てみると、洗濯表示のタグには太めのマジックで『SAND』と書かれている。


「事務所のだ・・・。も~う・・・。何があったのよぉ~」


未佳が半分お手上げ状態で混乱していると、ドアが開いていないにもかかわらず、自分の近くから小さな足音が聞こえてきた。

もうこの足音には慣れていたし、その主も分かり切っていたが。


「リオ?」

〔やっと起きた・・・〕

「? 『やっと』・・・?」

〔さっき未佳さん達が行方不明だって、事務所内大変だったよ。厘さんとか手神さんとか栗野さんとか・・・。みんな心配して探してたんだから〕

「・・・・・・・・・ごめん。もう少し事情を分かりやすく教えてくれない?」


そう頼んだだけなのに、リオは一体何処でこんな行動を覚えたのか、未佳のその言葉に合わせるかのように、その場に膝をガクリッと折らしてコケて見せた。

その反応に、未佳は半分怪しむかのような視線を向けて尋ねる。


「あれ? ・・・リオ、関西スベリ出来たっけ?」

〔いや、単に脱力しただけ・・・じゃなくて!! 昨日長谷川さんと二人でポスターサインやったの覚えてないの!?〕

「・・・・・・・・・あ゛っ!!」


リオにそう聞かれて、未佳はようやく全てを思い出した。

実は昨日、長谷川を無理やり説得させてサイン記入を再開させた後、最後の1枚を書き終えたあとで、その場に倒れるように寝てしまったのだ。

正確には、その30分くらい前には既に、ハッキリとした意識はなくなりかけていたのだが、とりあえずあそこまでやっていたのは何となく覚えている。


「まさか私・・・。あのまま寝ちゃったの?!」

〔まあ・・・。時間も夜中の3時回ってたしね・・・。予約死亡期限がここで一回分切れただけのことだよ〕

「あ・・・っちゃ~!! もう!! 予定狂いっ放しじゃない!! ましてや昨日の服のまんまで、お風呂にも入り損なうなんてぇー・・・!!」

〔シーッ!! 未佳さん! 静かに!!〕

「はっ?」

〔と・な・り!!〕


一体何のことを言っているのだろうと、未佳はリオが指差している方に視線を向けて、ようやくその意味を理解した。

未佳の隣の席には、一緒に作業を行っていた長谷川が、未だに寝息を立てて眠っていたのだ。

そんな長谷川の背中には、先ほど未佳が拾った事務所の毛布が掛けられている。


「さとっちまで・・・」

〔さっき二人を見つけた事務所の人と厘さん達が、未佳さんと長谷川さんに毛布を掛けたんだよ〕

「じゃあ・・・、私達を見つけても起こさなかったのは・・・」

〔うん。『かわいそうだからもう少し寝させてあげよう』って、厘さん達が言ったから・・・〕

「あ~ぁ・・・」

〔そう言えば未佳さん。警備員の人が控え室に二人がいることに気付かなくて、そのまま鍵を掛けちゃったの気が付いた?〕

「えっ?! ・・・ううん」

〔やっぱり・・・。僕大声で『まだいるよー!!』って叫んだんだけど、未佳さんにしか僕の声聞こえないから・・・。気付かなかったんじゃ、開けようがないね〕

「そ、そうね・・・。で? あなたは何処にいたの?」

〔ドアの前で寝てた・・・〕


そう答えながら、リオは何故か自分の背中の辺りを右手で摩り始める。

その行動に『おや?』と思いながら、未佳はまさかと尋ねた。


「もしかしてリオ・・・。あなた寝違えるの?」

〔違うよ!! 硬いところで寝てたから、背中が痛くなっただけ・・・〕

「じゃあなんで身体を透けさせなかったのよ」

〔そんなことしたら、背中から部屋の方に倒れるに決まってるじゃん!!〕

「・・・・・・ま、いいや・・・。手神さん達は?」

〔6階のライヴハウス。今はサイン書きやってるけど、未佳さん達が起きてきたら、イベント練習やるってさ〕

「ちょっと待って・・・。今が12時過ぎでしょ? それでこれからじゃあ・・・! ほとんど時間がないじゃない!! さとっち寝かしてる場合じゃないわよ!!」


未佳はすぐさま椅子から立ち上がると、隣で眠っている長谷川をどうにか起こそうとしてみたのだが、かなり爆睡しているのかなかなか起きない。

いくら体を揺すってみても、大声を掛けてみても効果なし。

それだけ疲労困憊だったということもあるのだろうが、もう自分達には無駄にしている時間などない。

未佳は焦りながらも、大声で名前を呼びながら体を左右に揺する。


「さとっち!! 起きて・・・!! 長谷川ッ!!」

〔(・・・ッ!?)〕

「・・・・・・ん?・・・」

「あっ・・・、起きた?!」

「・・・・・・もう・・・、書きたくないです・・・。・・・・・・僕のサインなんて・・・」

「んなの分かってるわよ! っというか・・・。昨日全部書き切ったでしょ? 何を寝ぼけてって・・・、二度寝しないでよっ!!」


これはどうしようかと考え込んだ未佳は、半分申し訳ないとは思いつつ、長谷川の耳元でこう叫んだ。


「あっ!! さとっちの背中にが・・・っ!!」

「? ・・・・・・・・・うわ゛っ!! おわっ・・・!」



バタンッ!!



〔「あっ・・・」〕


未佳のその叫び声で、長谷川は無意識に自分の両肩を払いながら飛び起きた。


ここまでは未佳の予想通りだったのだが、その勢いで長谷川が椅子ごと後ろに倒れてしまったのは計算外。

未佳はすぐさま、椅子ごと倒れた長谷川の元へと駆け寄った。


「だ・・・、大丈夫?」

「イタタ・・・。もう少しマシな起こし方にしてください・・・」

「ご、ごめん・・・」

〔でもなんで後ろに?〕


その後二人と一人は、リオから聞いた情報を頼りに、6階のライヴハウスへと向かった。

ライヴハウスに到着してみると、聞こえてきたのは楽器の音色ではなく『シャシャシャ』という何かを擦る音。

しばらくその音を聞いていて、それがサインペンで何かを書いている音だと気が付いた。


「サイン書き、やってるみたいですね・・・」

「昨日の地獄を、今度はあっちがやってるのね・・・」

「まあ、入りましょう・・・。失礼しまーす」

「寝ててすみませーん」


二人はそんなことを言いながら、とりあえず出入り口のドアを開けて中へと進んでみる。

そしてその先に見えた光景に、二人は『えっ!?』という声を漏らした。


何故なら、その問題のサイン記入を行っていたのだが、リーダーである手神一人だけだったからである。

もう一人のメンバーでもある厘はというと、手神がサインを書いている場所からやや離れたところで、一人大好きな読書を楽しんでいた。


『楽しんでいた』と言っても、特にあれやこれやとその本について喋っていたり、本の内容に爆笑しているわけではない。

ただ厘の場合、本を読みながら笑みを浮かべ、さらにその本の文章のどれかにペンで線を引いている時は、楽しみにながら読んでいる証拠なのだ。


しかしてっきり二人で書いていると思っていた未佳と長谷川は、その二人の行動の違いにただただ顔を見合わせるばかり。

すると二人の到着にようやく気が付いた厘は、未佳達の顔を見るなり『おはよう』と口にした。


「もう『こんにちわ』でしょ・・・?」

「ところで・・・。小歩路さんはサイン書かないんですか?」

「えっ? 終わったよ?」

「「おっ・・・、終わった?!」」


そうあまりにも澄ました顔で答える厘に、二人は一体何処から突っ込めばいいのか分からず、ただただ目を泳がすばかり。

結局お互いに二言目が終わってこないでいると『終わった』と口にした厘が、二人にその理由ワケを説明し出した。


「だって手神さん、サイン書くのウチより遅いんやもん。一つ書くんに5秒くらい掛かるから・・・」

「僕が書き終わった時には、小歩路さんは3枚ほど書き終わっています」

「だからウチが早めに終わったから、今ここで読書してんの」


そんな単純な回答を平然と口に出されても、昨夜に地獄を体験している二人は何にも言い返せない。


「え・・・~っと」

「全部って、大阪分のみですか?」

「そんなん! 全部なんやから東京分もに決まってるやろ!?」

「「・・・・・・お見逸れ致しやした・・・」」

「それより・・・。手神さんもそれあとにして、イベント練習やったら? 二人とも起きたんやし・・・。時間ないんやろ?」

「あ、はい」


厘のその一声で、手神はサイン記入を一時中断。

その後メンバーは、4日後に控えた大阪・東京イベントの練習へと取り掛かり始めた。


会場でのトークやポスター手渡し会は、司会者と未佳達が適当に行う予定なので、練習等は本番前のリハーサルだけで十分だろう。


だが新曲を含めた楽曲披露コーナーは、本番前のリハーサルだけにするわけにはいかない。

アーティスト上、これだけはできるだけ完璧にやっておかなければならないだろう。


ちなみに今日披露する予定の曲は、新曲の『“明日”と“明日”と“昨日”』。

デビューシングル2枚目で、ライヴではやや終盤に盛り上がる『flying ship』。

そしてライヴでは欠かさず歌っている3大名曲の一つ『Endless Requiem』の計3曲。

その中で、本番までに必ずマスターしておかなければあらない曲を、未佳達は順番に並べてみる。

その結果『やはり』というよりかは『予想通り』で、一番に上がったのは新曲の『“明日”と“明日”と“昨日”』だった。


「やっぱり・・・、新曲は第一よねぇ・・・」

「ですね。んでその次は、ライヴではどっちも定番曲ですけど・・・。やり方がみんな違うやつって言うたら・・・」

「『Endless』が次ちゃう? 最後に練習するのが『flying』で・・・」

「ですか・・・ねぇ? 妥当なところで言うと・・・」

「じゃあ久しぶりに、新曲の練習から始めますか」


こうして流れ的に、本日最初の一曲目でもある新曲『“明日”と“明日”と“昨日”』の練習が始まった。

最後にPV撮影のために弾いてから、かれこれ9日間ぶりの演奏である。


「でも新曲って、結構作ってからの時間が短いから、まだ歌詞覚えてるのよね」

「確かにせやね。ウチもまだ自分のパート、普通に弾けそうやもん」

「予め覚えておいてると、いざ弾く時に譜面見ないもんですから、結構他の曲よりもスムーズにできますもんね?」

「ちょっとアレンジ入れたりしてね」

「そうそう♪ 『ちょっとここ変えたろぉー!』みたいな」

「うんうん」

「ほら、二人ともやるよ」


その未佳の一声で、一先ず雑談は中断。

メンバーは早速新曲の披露練習へと取り掛かり始めた。


最初は今までどおり、とりあえず終わりまで歌い通す。

そしてその後は、皆で手神が持っている譜面やアレンジメモ、曲のスピードや時間などが細かく書かれているプリントを見つめながら、真剣な打ち合わせを始めた。

何を話しているのかと言うと、そのイベントのためのアレンジ変更についてだ。

今回のイベントは、本格的なライヴスタイルとはまるで異なり、サポメン無しで演奏を行う予定になっている。

つまり、メンバー4人のみでこった演奏やアレンジを行わなくてはならないのだ。


さらに本番の会場は、その会場内での原則音量やイベントの演奏時間。

さらにはその日の天候や湿度の関係などによって引き起こされる、音の微妙な変化などにも対応しなければならない。

ようは元となっているメロディーや時間通りに、曲は演奏できないというわけだ。


そんな未佳達の大事な打ち合わせは、それぞれ一人ひとりが意見を出し合いながら行われた。

まず最初に話し合われたのは、曲の演奏時間短縮についての内容。


「時間が・・・、トータルで本編4分32秒・・・」

「長い」

「・・・最後の部分が・・・、伸びるんですよね。メロディーが」

「そう。『たぁー・・・ん』ってね」

「そこでとりあえずカットして、手神さんにドラム音出してもらって」

「一発切り」

「うん。一発切り。・・・で、間奏短縮」

「えっ? そこも?」

「うん。上からは『short.ver.にしないで』としか言われてないから・・・。新曲でもあるし、ラジオで試しに流してる頭以外は、みんなメロディー知らないから・・・。そこだけはしょれば、時間はある程度削られると思う」


その未佳の提案により、時間は大体4分32秒から4分17秒くらいにまで縮まった。

ちなみに本番では、毎回曲自体の演奏スピードなどもかなり速くなるので、おそらく当日の演奏時間はさらに短くなるだろう。


ここまでざっと決めたところで、未佳達は再び、今度は会場用に短く設定したバージョンで歌ってみる。

こうして実際に歌ってみて、歌いにくい箇所がないかどうか、メロディーや曲においてのバランスがいいかどうかをチェックするのだ。


それが済んだら、今度は手神の得意分野でもあるアレンジ変更の打ち合わせ。

このアレンジ変更は、曲を短くしてしまったことによって起こる『物足りなさ』を解消するために行う、かなり重要な打ち合わせ項目だ。

またそれとは別に、会場にやってきてくれた多くのファン達に『ライヴ会場限定ver.』と題して、本編とは少し掛け離れた別の楽しみ方を味わってもらうための試みである。


だが今回は少々、そのアレンジ等においての大きな問題が2つほどあった。

まず今回のライヴ会場では、メロディーやアレンジで必要な機材があまり使えず、本番はキーボード2台のみで、原曲のあのしっとりとした感じを演出しなければならない。

さらにこちらも原曲で重要だったドラムが、今回はドラマーが参加しない関係で、ライヴ会場で演出することが一切できない。

これをどうアレンジを変えて表現し補うかが、今回のイベントの大きな課題だった。


「ドラムがいないんだよねぇ~・・・」

「前にこんなイベントやった時は・・・、どうしましたっけ?」

「あの時はバックで、Instrumentalカラオケ流したんだよ。その上から、僕達が演奏。歌を歌って」

「あっ・・・、そっか・・・」

「ドラムって、手神さん出せへんの?」

「・・・? 『キーボードで』ってこと?」

「うん。・・・無理?」

「無理ではないけど・・・。う~ん・・・。難しい、かな?」


手神が言うには、もしドラムの音をキーボードで出すとすれば、当日はキーボード3台。

それも絶えず1台を片手で弾きながら、もう片方の手で演奏しなければならないとのことだった。

もちろん、いくら『GOD HAND』という名を持つ手神であっても、そんな芸当をこんな日付が迫っている時期でマスターするのは到底無理な話だ。

ましてやこの曲一つで、手神はキーボードを2台も使わなくてはならないのだから、3台もなどというのは酷過ぎる。

かと言ってドラム音がなければ、曲のサビは盛り上がらない。


「ましてや他の曲も、ドラムは必需品だしねぇ~・・・。スタッフ達に頼んで、ドラム引っ張ってもらえるかどうか話してみる?」

「あぁー・・・。赤領せきりょうさんにってこと?」


未佳の言う『赤領』とは、よくCARNELIANのドラムを担当してくれている赤領せきりょう良一りょういちのことで、CARNELIANメンバーとはデビュー当時からお世話になっているドラムリストだ。

特にメンバーの長谷川とは、よく湯盛や小河の4人で居酒屋に行くほどの飲み仲間でもあり、バック演奏やサポートメンバーとしての信頼も厚い。


「確かにさとっちが頼めばー・・・。すぐにOK出してくれるわよね」

「いや・・・」

「えっ?」

「多分予定空いてないっすよ? あの人小屋木さんのライヴ練習にも引っ張られてますから・・・。当日リハがあるでしょ? ライヴの・・・」

「あっ・・・。そっか、そうだ・・・。じゃあ・・・、どうする?」

「バックでドラム流したら?」

「・・・あるいはアレンジキーボードの1台を、ドラムに変更して演奏する。・・・だよね? 手としては・・・」


一応候補として二つの案が上がりはしたが、どちらもややデメリットのあるものばかりだ。


まず最初に厘が言った『バックでドラムを流す』という案は、演出での違うアレンジ等は行える。

だが、曲の長さや早さは録音しているものを流すので、本番は一切変えることができない。

さらにそのドラムの速度にも合わせて歌わなくてはならないのだから、タイミングを測っての演奏となるのだ。


逆に未佳の案の方は、曲の速度などを本番中に変えたり、歌う側でのアドリブもできる。

しかしそれと引き換えに、曲のアレンジはキーボード一つで行わなければならないので、少々ファンの人達に物寂しさを感じさせてしまう可能性がある。


一応演奏方法としては『ドラム音を一切入れない』という手もあったのだが、ドラム無しでは物寂しさが大き過ぎると分かり切っている上で、とてもそんな案は言い出せない。


その後しばし意見を出し合った結果、今回のイベントでは『バックでドラム音を流す』という厘の案に決定。

先ほど問題として上がっていた演奏時間・速度に関しては、アドリブなどを含めた場合の時間でドラム音を録音し、それを本番までにマスターしておくという話でまとまった。


「じゃあ・・・、あとはアレンジだけど・・・。そうやる予定?」

「これ? ・・・う~ん。一応原曲はしっとりでソフトな感じだから、それは大事にしたいと思ってるけど・・・」

「私的には・・・。なんか『これ!!』っていう感じのアレンジを入れてほしいんだけど・・・」

「ああ・・・。なんか印象付けられそうな感じの?」

「そう。ほら、原曲は結構メロディーが切ない感じのメロディーだから、その中にちょっと違うのが入ってると・・・。お客さんの脳裏にしばらく曲のイメージが残るんじゃない?」

「「あ~あ・・・」」


だがその取り入れるもののいいアイデアが、なかなか浮かんでこない。


確かに未佳が言うように、切なげなメロディーだけではインパクトが無さ過ぎる。

ましてやCARNELAN・eyesは、元々この手のメロディーを使う楽曲が多い。

つまり、ライヴで原曲のアレンジのまま曲を披露してしまうと、観客は他の楽曲のイメージと新曲の印象が重なり過ぎてしまい、すぐに記憶から曲のイメージが薄れてしまう危険性があるのだ。


「ねぇ? 何入れんの?」

「う~ん・・・。楽器の音だとワンパターンだしなぁ~」

「デジタル風な音やってみたら? 少し高めの・・・」

「ああーっ! それいいかも・・・。ちょっとサビのあととかに入れてみると、それだけでだいぶお客さん『おっ!』って思ってくれるだろうし」

「せやね。そうしてみたら?」

「うん。まあ・・・。練習はドラムの音入れてもらってからだね」


まだドラムのメロディー無しの状態では、アレンジを入れる場所や相性などが確認できない。

一応今この曲でできるのは、このアレンジメロディーの候補と、曲のアドリブを入れる箇所くらいだろう。


「あっ! そういえばアドリブ!! 入れてほしいところ、みんな言わないと・・・」

「僕、ラストのソロギー」

「ちょっと! 略さないでよ!!」

「すみませんっ・・・! ラストのソロギターパート・・・」

「はいはい。ラストのソロパートね・・・」

「せやったらウチは・・・」


その後も1時間ほど、未佳達の楽曲アレンジ打ち合わせは続いた。


『女の話』

(2003年 8月)


※事務所 控え室。


みかっぺ

「・・・・・・ねぇ・・・。最近さとっちが太ってきたと思わない?」


「うん。中年太りちゃう? 少しはダイエットすればええのにね」


みかっぺ

「でしょ? 前は撮影とかで水の中泳いだりとかしてたけど、今じゃ絶対にそんな撮影ないもんね・・・」


「うん。今久しぶりにあのオレンジの海パン履いたら、完全に太ってるの丸分かりになるんとちゃう?」


みかっぺ

「・・・・・・・・・」


(妄想)


さとっち

「坂井さーん。見た目どんな感じ?」


(妄想終了)


みかっぺ

「フフッ」


「へっ?」


みかっぺ

「ううん・・・。なんかその姿想像してみたら、あまりにも体が白いから“鏡餅”みたいだなぁ~って。フフフ」


「・・・・・・・・・みかっぺ。それ多分さとっちに言うたら、自分が太ってることよりも傷つく思うよ?」



きっと3日は布団に包まって泣いてる・・・(笑)


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