19.鬼は外!!
長谷川がここにやってきたのは、それから約10分後のことだった。
決められていた集合時間よりも大幅に遅刻してしまったことに、長谷川はかなり慌てていたのだろう。
帰ってきた長谷川は、まるで飛び込むかのように控え室の中へと入ってきた。
「アカン!! 絶対に坂井さんとか小歩路さんとか怒って・・・・・・る・・・あれ?」
控え室に戻ってきた長谷川は、とりあえず辺りをキョロキョロと見渡してみる。
しかしそこにメンバーの姿は一人もなく、代わりにテーブルや椅子やロッカー。
その他には紙でできた小さなひな人形と、何故か部屋の中央に中型の段ボール箱が置かれているだけだった。
「・・・みんなの荷物は? というかみんなは? ・・・・・・えっ? まさか部屋間違えた?」
なんて一人呟きつつ、長谷川は今言っていた言葉とは裏腹に、何故か部屋の中央に置かれた段ボール箱の方へと近づいてみる。
だがその段ボール箱の中にも、みんなの荷物は入っていなかった。
ただその代わり、何やら二つ折りにされた小さな白い紙が、その問題の段ボール箱の中に入れられている。
「なんや・・・? 紙?」
とりあえず長谷川は、その白い紙を段ボール箱から取り出し、半分丁寧にその中を開いてみる。
その紙の中には、何やら見覚えのある文字でこんな文章が書かれていた。
長谷川智志さん。
長谷川智志さんにとって、
・坂井未佳
・小歩路厘
・手神広人
は、どんな人ですか?
「フッ・・・。なんや、これ・・・」
半分苦笑に似たような笑い声が、広い控え室内に響いた。
長谷川はとりあえず、そこに書かれていた文章をもう一度読み返す。
「なんかいきなりフルネームで訊かれるとなぁ~・・・。それに『どんな人』って・・・。単純にメンバーでしょ? ・・・えっ? それを聞いてるわけじゃないの?」
長谷川はそんなことをブツブツと呟いた後、真剣にそこに書かれている人がどんな人なのかを考え込んだ。
「う~ん・・・。坂井さん? 坂井さんは・・・。まあ・・・。ライヴの時とかもだけど、結構楽曲に対しての指示とかがしっかりしてるし、ファン意識もかあり強いかな。そこが取り柄だとは思うけど・・・、ただ・・・。口調が少しキツめのところがあって、なんか逆らえないんだよなぁ~・・・。うん・・・」
続いて長谷川は、視線を『小歩路厘』と書かれている方に向けた。
「小歩路さんは・・・。いつも詞で驚かされてますよ? 僕は。よく曲を聴いただけであそこまで書けるなぁ~って思うし、CARNELIANにしかない寂寥感とか、空虚感が出せてるって思いますもん。素直に・・・。まあ・・・、ちょっとフリーダム過ぎる部分がありますけど・・・。うん。すぐ一人でどっか行っちゃうし・・・。あと、トンチンカンな質問をしてくるから、アンサーを出すのがムズい!」
そして最後に目を向けたのは、我らがリーダー『手神広人』の名前。
「手神さんは・・・。アレンジは神ですよ。大先輩だから、何にも僕言えませんけど・・・。でも編曲は神だと思います。んで・・・・・・それ以外は特に・・・。たまの親父ギャグが不発になること以外は何も・・・・・・。そして僕ずっとこれら口に出して言ってますけど、盗聴とか録音機とかなんかあるんですか!? この部屋!!」
なんて最後に騒いではみたものの、結局誰もここにやってくる気配はない。
もちろん、部屋の中も人の気配は一切なしだ。
「一体何がどうなって・・・・・・ん? なんか書いてある」
ふっと長谷川は、その紙が入れられていた段ボール箱の下の面に、何やら赤いマジックで文字が書かれていることに気が付いた。
文字を発見した長谷川は、とりあえずその段ボール箱を持ち上げ、中に書かれている赤い文字を確認してみる。
↑この位置でかぶって♪
「『この位置で』って・・・。こう?」
一応、文字で書かれていたとおりに、長谷川が段ボール箱を頭にかぶった。
その時だ。
「今だっ!!」
「えっ?」
「うりゃー!! 鬼はぁー外!」
「福はぁーうち!」
「ついでに雨男も外!!」
「えっ、うわっ・・・!! 痛っ! 痛っ! 痛っ! えっ、何っ!?」
何がなんだか分からぬまま、長谷川はいきなり用具入れから飛び出してきた3人に、まるで囲まれるかのように豆を投げ付けられた。
これには長谷川もまったく意味が分からず、しばし豆攻撃を喰らうばかり。
段ボール箱の中にある顔に至っては、まるで豆鉄砲を喰らわされた鳩のように固まっていた。
さらに最悪だったのは、未佳達が先ほどの長谷川の本音を聞いていたこと。
半分その発言に対しての仕返しのように、3人は豆を投げ付けながら叫んだ。
「悪かったっ! わねぇっ!! 口調がキツめのっ! 女でっ!!」
「フリーダムの何処がいけないんっ!? 三十路過ぎ真近のっ! 女性がっ! 自由求めたらアカンっ!?」
「長谷川くんっ! 酷いじゃないですかっ!! 僕だけ『特に何もない』ってっ!!」
「そっ・・・、そこキレます?! ちゃうでしょっ!? 痛っ!」
「大体さとっちねぇ! 自分で思ったこと口に出し過ぎっ!! 用具入れで笑い堪えてる私達のこともっ! 少しは考えなさいよっ!!」
「えっ!? 痛った!! えっ・・・、聞いてたの!?」
「『聞いてたの?』って!! あれウチの字やて気付かんかったん?! もう10年もおるんに!!」
「あっ!! そ、そっか! だからあの字見覚えが・・・痛いですって!!」
もうやられっ放しなのが耐え切れなくなり、長谷川は段ボール箱を頭から外した。
そしてその時初めて気が付いたのだ。
その段ボール箱の丁度目の穴が空いていた外側の面に、大きく鬼の顔の絵が描かれていたことに。
「!!」
「ハハッ!! 気付くの遅ーい」
「てっきり気付いてるかと思ってたんに。ねぇ?」
「はい♪」
「『はい♪』って・・・!! それになんで今日節分?!」
「だって、2月にできなかったから」
「そういう理由っ?!」
「他に何があんのよ。ねぇ?」
「「うん♪」」
「~っ!! あ゛あ゛ぁ゛ぁーっ!! もうっ!! こうなったら僕も黙ってないですよ!!」
長谷川はそういきなり言い出すや否や、勢いよく控え室を飛び出して行った。
そんな長谷川の後ろ姿を見て、3人は困惑するどころか大爆笑している。
しかも豆を持ったまま。
「ハハハッ!!」
「さとっち叫んで出ていった♪ ハハ」
「ハッハッハッ! でも、追い出す形になっちゃいましたよ?」
「の前に・・・。あの人何しに行ったの?」
「「・・・さぁ?」」
何故か出て行ったきり戻ってこない長谷川が気になり、未佳達は入り口の扉に近付いた。
その瞬間。
「おりゃー!!」
「ギャッ!!」
「キャー! 何? 何?」
「なんだコレ?!」
出入り口扉から戻ってきた長谷川は、一体何処で拾ってきたのか、大きな麻袋を片手に抱え、その中に入っていた小さな紫色の粒を、豪快に未佳達の方に投げ付けてきた。
いきなりわけの分からないものを投げ付けられ、3人は一時大パニック。
だがその投げ付けられたものの正体が判明した途端、未佳は『あっ!』と声を漏らし、長谷川に怒鳴り口調で口を開いた。
「ちょっ・・・、ちょっと!! これ小豆じゃない!! 節分に関係ないもの投げ込んでどうするのよ!!」
〔あの・・・、未佳さん? 今日の時点で節分関係ないよ?〕
「そんなんもう関係ないです!! さっきの仕返しですから!」
「小豆じゃ投げ終わったあと食べられないでしょ!!」
未佳はそう怒鳴りながらも、器用に長谷川からの小豆投げ攻撃をひょいっとかわす。
その後もしばらく投げ合い、逃げ合いを続けていた時、悲劇は起きた。
運悪く未佳の後ろに隠れていた厘が、未佳がその場を離れたことによって、大量の小豆を頭にぶつけてしまったのだ。
その光景を見た3人の脳裏に『マズイ』という言葉が浮かぶ。
そしてその予測は、モロに的中した。
「さぁー・・・!! とぉーっ・・・!! ちぃー・・・!!」
「あ・・・、アカン・・・」
「わ・・・、私知ら」
「もうみんな許さへん!!」
そう大声で叫んだと思えば、厘はリオが今まで一度も見たことのないような形相を浮かべ、床に散らばっていた小豆を両手で掴み取り、3人に向かって思いっきり投げ付けた。
厘がこんな度を越した行動を起こす時は、本気でキレた時のみ。
さらにこちらの投げ方は、先ほどの長谷川の軽い感じのものとはまるで違い、当然手加減も一切無し。
万が一目や顔などに当たってしまったら、正直言ってかなり危険だ。
もはやこれはどうにもならないと悟り、3人はただただ厘からの攻撃に逃げ出すばかり。
「な、なんで関係のない僕まで~っ!!」
「泣きたくなる気持ちも分からなくはないですけど・・・!! も、もうどうしようも・・・」
「もう! さとっち、どうしてくれるのよ!!」
「『どうしてくれるの』って・・・」
「あなたが小歩路さんを鬼にしたんでしょ!? 責任取りなさい!!」
「んな無茶な・・・っ!!」
そんなことを言っている間にも、厘は小豆を3人に向かって投げ付けてくる。
そればかりか、未佳以外姿の見えないリオは、先ほどから長谷川達に踏み付けられ、厘の小豆攻撃をモロに喰らわされ、まさにてんてこ舞い状態だ。
一応身体を透けさせているので痛みはないが、それにしても未佳達に近付きようがない。
〔ど・・・、どうしよう・・・〕
「ああーっ!! もう! こうなったらみんなで投げ返そう!!」
「「・・・えっ?」」
「ほら! ・・・うりゃっ!!」
「痛っ! ・・・みかっぺぇ~っ!!」
「んじゃあ・・・。僕は長谷川くんに・・・。それっ!!」
「えっ!? なんで?! 痛っ!! 手神さん・・・・・・裏切らないと思ってたのに・・・」
「ハッハッハ!」
「っ・・・もういいですよ!! だったらこっちだってみかっぺに・・・おりゃっ!」
「っ! ・・・いったぁーい!! なんで私に投げるのよ!!」
「じゃあこっちも・・・、手神さんに、えいっ!!」
「・・・っ!! なっ・・・、なんでそうなるんですか?!」
皆が敵仲間関係なしに小豆を投げた時点で、このあとの結果は決まっていた。
「やったわねぇーっ!!」
「うりゃっ!!」
「喰らえっ!」
「それっ!!」
まるで真冬の雪合戦のように、未佳達は手当たり次第に周りのメンバーに小豆を投げ付けた。
ただし今度は、単なる『遊び』になっていたので、ある程度の力加減はした状態で。
しかし、それでも投げているものは硬い小豆と大豆。
痛くないはずがない。
「痛っ! もう・・・っ! うりゃっ!! ・・・キャッ!」
「おりゃっ!! おりゃっ!!・・・ぐはっ!」
「よし! 当たった♪ 当たった♪ それっ!!」
「さっきから僕だけ一人狙い・・・酷いじゃないですかっ!!」
「痛っ!!」
「キャッ!!」
〔・・・ハアー・・・。これじゃあまるで戦争だよ・・・〕
しばしその投げ合いを、リオは半分呆れ顔で見つめた。
するとたまたまリオの近くで小豆を拾っていた未佳が、リオの方を見ずにやや興奮気味のまま口を開く。
「ほら! リオも投げて!!」
〔えっ・・・!? 無理だよ! 僕が投げたら、小豆が宙に浮いているみたいに見られちゃうよ!!〕
「みんなの後ろから投げれば大丈夫よ! これ楽しいけど、一人じゃ全員に投げられないから」
〔・・・って、みんなそうだよ!!〕
「みかっぺ隙アリ!!」
「えっ・・・、キャアアーッ!!」
「当たった♪ 当たった♪」
「やったなぁ!! ほら、リオ! 早く!!」
〔・・・・・・僕どうなっても知らないからね!?〕
その後は謎の小豆一握り浮遊なそも加わり、未佳達の小豆合戦はヒートアップした。
もはや何のために事務所に来ているのかも分からず、メンバーは小豆をひたすら投げ続けている。
特に女性群に至っては、両手で一握りずつ小豆を掴んで投げ付けてくるので、なかなか男性群は投げられない。
「うわっ! また両手や・・・ギャアァァァーッ!!」
「う・・・、わっ、わっ、ワアアァァァ!!」
「そっ・・・れっ!!」
「ほい!! はい!! うりゃっ!!」
「・・・っ・・・ぼ、僕やって、やられっ放しじゃないですよ?! 反撃だってぇー・・・っ!!」
長谷川がそう叫びながら、女性群同様、両手いっぱいに小豆を握り締め、それを未佳と厘に投げ付けようとした。
その時だ。
「な・・・、何やってるんですか!!」
「「「あっ・・・」」」
「栗野・・・、さん・・・」
「ハ・・・、ハハハ・・・・・・。まずい・・・」
「一体皆さんで何をやっているのか・・・。じっくり聞かせて頂きましょうかぁ?!」
その栗野の登場により、未佳達の節分小豆合戦は、約5分ほどで終了した。
その後、栗野からたっぷりと事情聴取&説教を受けた未佳達は、長谷川が勝手に何処かから持ってきた小豆を、全て手洗い場で洗うという罰を受けることとなった。
とりあえずメンバー4人で小豆を洗っていると、全ての根源でもある長谷川からこんな言葉が漏れる。
「はぁー・・・。滅多にないですよ。一応名が知られているアーティストが、手洗い場でザル使いながら小豆洗ってる絵なんて・・・」
「・・・あのさぁ! 誰のせいでこんなことになったと思ってる?」
「・・・・・・すみません」
「まあまあ。それにほら・・・。途中から僕達も投げちゃいましたし・・・、長谷川君ばっかり責めるのは・・・」
「『責めてる』んじゃなくて『訊いてる』のよ」
(それを『責めてる』って言うんじゃないですか。世間じゃ・・・)
「あっ、大豆みっけ♪」
そう言うと、厘は長谷川のザルの中に紛れ込んでいた大豆を手に取り、元々大豆が入っていた箱の中に仕舞った。
先ほどからちょくちょく見つけては入れていたこともあり、大豆はほぼ二箱分全てを拾いきっているような数になっている。
厘はその箱の中を一旦覗くと、控え室に散らばっていた小豆を全て入れた袋の方に視線を向け、溜息を吐いた。
皆が控え室にバラ撒いた小豆の量は、麻袋の中の5分の1。
その内、洗い終わって乾かしている分は、まだそれの半分にもなっていない。
ましてや今はまだ3月。
外の寒さのせいか、水道の水もかなりの冷水となっているため、とにかく手が悴んでしまって仕方がない。
本気で最悪な気分だ。
「冷たーい・・・。もう指が氷みたいよ」
「ウチ、霜焼けになってしまうかも・・・」
「うん。キーボードやる人間には辛いわよ。これ・・・」
(ギターも十分辛いんですけど・・・)
本音を声に出してしまうとまずい結果になると分かり切っていたので、長谷川はあえて胸中だけで呟いた。
その隣では、未佳が両手に『ハァーッ・・・』と息を吹きかけ、手を温めている。
「ところでさとっち・・・、熱またぶり返したりしてない?」
「ん? ・・・あぁ~・・・。今日の朝が36度6分だったから『よし!』と思ったんですけど、まずかった・・・、ですか?」
「それくらいなら・・・、治ったってみていいんじゃない? いやね。復帰して早々こんなことやり出したから、また熱上がっちゃったんじゃないかなぁ~って・・・」
「いや、それに関しては大丈夫です。にしても・・・・・・シュールやなぁ~。小豆洗うの・・・」
「ホンマ・・・。これじゃあ妖怪の『小豆洗い』やん」
「えっ?」
「はい?」
「なんです? その『小豆洗い』って・・・」
「えっ? 知らん? ・・・『小豆洗い』って、いっつも小豆だけ洗ってる変わった妖怪・・・」
「なんか知らんけどある意味悲しいわ!!」
(っと言うか、むしろ哀れ・・・)
そんな厘のわけの分からない話をすること約40分。
ようやく問題の小豆洗いが終了した。
やっときれいに洗い終えた小豆を見て、未佳は安堵の溜息を吐く。
そしてそれと同時に、ずっと気になっていたことを長谷川に尋ねた。
「ところで、これ何の小豆?」
「えっ? ああ、これ・・・。なんかよく分かりませんけど、どうやら事務所のクッションの中に入れる小豆みたいよ」
「クッション?」
「ええ。元々そのクッションの中に入っていた小豆が、古くてボロボロになってきたんで、この小豆を入れて詰め直すつもりで持ってきたみたいです。僕が昼休み後に事務所に来てみたら、2階のスタッフルーム前に置いてあったで」
「・・・でもさぁ・・・。『中の小豆がボロボロになるくらい』って・・・、一体何年前のクッションよ」
「明らかに新しいものを買った方がいいですよね?」
「ねぇ。しかも中身が小豆って・・・、普通ビーズかもみ殻でしょうよ」
「まあ、その人にはその人なりの理由があるんちゃう?」
「「「・・・まあね」」」
ふっと未佳は、厘が集めているこの大豆が気になった。
この大豆を撒いていた部屋は土足なのだが、まさか食べる気なのだろうか。
未佳は恐る恐る、厘に大豆のことを尋ねた。
「ところでその大豆・・・。どうするの?」
「えっ? 食べるよ?」
「え゛っ!? みんな土足で歩いてた床に落ちてたのに?!」
「洗って食べればええやん」
「・・・・・・・・・・・・」
「みなさーん! あっ・・・、終わったみたいですね」
ふっとみんなの作業状態を確認しにやってきた栗野は、きれいに洗い終わった小豆を見て『うんうん』と頷いた。
とりあえず今乾かしている小豆は、明日にでも回収して仕舞えばいいだろう。
「はい! じゃあ今日はこれでいいですよ。皆さんお帰りになっても」
「よーし!」
「やっと終わった・・・」
「栗野さ~ん。もうウチ手ぇ冷たくて痛い~」
「えっ?」
いきなり聞こえてきた厘の発言に驚いている暇もなく、厘は栗野の右腕に両手でガシリと掴んできた。
その袖越しに伝わってくる手の温度に、栗野は思わずヒヤッとする。
「冷たーい! ・・・えっ・・・、厘さん、手大丈夫ですか? ほとんど固まってますけど・・・」
「小歩路さん、運転できる? そもそも・・・、今日は車?」
「ううん。ガソリンあんまりなかったから、今日は乗ってこうへんかった・・・」
「じゃあ・・・、途中まで私の車で送りましょうか?」
「えっ? ・・・ええの?」
「はい。未佳さんもいいですよね?」
「まあ・・・。さとっちも手神さんも車だし・・・。今日くらいいいんじゃない?」
「そういうことですから・・・。送っていきますよ」
二人が笑みを浮かべながらそう言って頷いてみせると、厘は一気に表情を『ぱあ~っ』と輝かせた。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
「じゃあ本日はこれにて解散です」
「「お疲れ様でした!」」
「あっ! ちょっと待って!!」
「「「「?」」」」
突然厘はそう言い出すと、そのまま何故か控え室の方へと走り出してしまった。
それから待つこと約1分。
「はい。これみんなに」
そう言って厘が持ってきたのは、個別に袋に入れられたひなあられだった。
袋の数を見てみると、メンバーだけではなく栗野の分もある。
「わぁーっ♪」
「懐かしい~」
「ひなあられじゃないですか!」
「これ見ると本当に『3月』っていう感じですね」
「でしょ?」
「なんか今日一日だけで、行事を二つも体験した気分ね」
未佳達はそう口々に言いながら、それぞれ懐かしげにひなあられを受け取り見つめた。
袋の中のひなあられは、ポン菓子ほどの小さなものや、少々ビー玉よりも大きめのものなど、色や大きさも様々。
今しか売られていないお菓子と言うのもあり、未佳の顔にも自然と笑みがこぼれる。
「はい。これは栗野さん」
「私ももらっていいんですか?」
「うん。人数分買うてきたから。ちょっと事情があって、大豆入ってへんけど・・・」
〔「・・・え?・・・・・・」〕
「「・・・ん?・・・・・・」」
「って・・・」
〔「「「「これの大豆だったんかいっ!!!!」」」」〕
そんなツッコミを最後に行ったところで、メンバー達はそれぞれ開きとなった。
予約死亡期限切れまで あと 173日
『お金』
(2004年 4月)
※事務所 ライヴハウス。
みかっぺ
「さとっち~」
さとっち
「ん~?」
みかっぺ
「100円貸ーして♪」
さとっち
「・・・・・・あっ?」
みかっぺ
「私いま財布の中に、10円玉が10枚と、100円玉が3枚と、500円玉が1枚・・・。あと千円札が4枚あるの。だから・・・」
さとっち
「・・・・・・つまり5千円にするには100円足らないと?」
みかっぺ
「そう♪ だって事務所の手続きのお金・・・。さとっちもう払ったでしょ? アレ私まだで、おまけに5千円ビミョ~にないのよ。ね? 100円できたら返すから」
さとっち
(・・・坂井さん。そんな世の中甘くないですよ。実は僕も小銭が多くなってたんですよねぇ~・・・)
「じゃあ、ほいっ」
みかっぺ
「ゲッ!!」
※渡されたのは1円玉20枚と、10円玉3枚と、50円玉1枚。
(酷ぇー・・・)
みかっぺ
「・・・・・・・・・(睨)」
さとっち
「これでも一応100円ですよ~? さ・か・い・さ・ん?」←(なお酷ぇー!!(爆))
みかっぺ
「・・・・・・・・・小歩路さーん!」
さとっち
(え゛っ・・・)
みかっぺ
「5千円札持ってなーい?」
厘
「えっ? あるけど・・・」
みかっぺ
「じゃあちょっとその5千円と両が」
さとっち
「あ゛あ゛ぁぁぁーっ!! さっ・・、坂井さん!! ぼっ、僕、5千円札ありますから・・・!! その細かい小銭と千円札、こっち引き取るからっ・・・!!(慌)」
『なんでこないに小銭多いの?!』って聞かれて『だってさとっちが』なんてみかっぺに答えられたら・・・・・・。
(あぁ~・・・、恐いっ恐いっ(笑))