139.イケメンアルバイター
「皆さん、こちらですー。こちらのポスターに、サイン記入お願いしま~す」
ふっと栗野が大きく右手を振っているサービスカウンターの方へと向かってみれば、そこにはあからさまなポスターが1枚、カウンターテーブルの上に広げられていた。
ちなみにこちらのポスターは、この間行ったイベントの大阪公演で手渡したものと同一のものである。
「こちらに上の方から・・・未佳さん、長谷川さん。その下に続くように厘さん、手神さんの並び順でお願いします」
「つまり今までのと同じ書き方だね?」
「そうですね。・・・何かメッセージなどを入れたいようでしたら、そのサインを書き終えたあとの余白部分に書き入れてください。まあ、せいぜい一言、二言程度で・・・」
「「「「はーい」」」」
「あっ! それから・・・毎回しつこく言ってますけど、サインやイメージは、必ず余分なトコを見つけて入れてください! 間違っても発売日やタイトルの上には書かないでくださいよ?! それから目に掛かる感じの顔にも・・・。いいですね?!」
「「「「はーい」」」」
栗野がここまでしつこく言うのには、ワケがある。
実は今現在事務所に所属している後輩アーティスト達が、ことある毎にそのような場所にサインやメッセージを書き入れてしまう傾向があるのだ。
特に顔部分に関しては、あまり直に見られたくないのか。
それとも写真写りが気に入らないのか。
よく鼻から上に掛けて、まるで隠すように文字を書く人がいるのである。
基本的に文字を入れられるフェイススペースは、最低でも頬のみ。
それ以外の箇所を、まるで隠すように書き入れるのは禁じている。
ただそれは後輩達の話であって、未佳達のような書き慣れたアーティストというのは、特にそのような記入ミスを、意図的に行うということはまずない。
だが時折、無意識のうちに誤って、文字が顔の部分に入ってしまうことがあるのだ。
「って言われてもポスター1枚やもんね・・・」
「作業早っ。・・・はい、終わりー!」
「・・・・・・ほいっ、小歩路さん」
「んー。・・・・・・最後、手神さん」
「リーダーしっかり決めてっ!」
「はいはーい。・・・・・・・・・はい、終了!」
「栗野さん、終わったよぉー?」
作業終了と同時に未佳が栗野を呼ぶと、栗野は足早にカウンターの方へと向かい、サインの出来を確かめる。
指定しておいた箇所には書き入れることなく、それぞれのサインの大きさや、文字のバランス。
そして一言メッセージには、若干丸文字が特徴的な未佳の文字で『最新作の新曲です! みんな聴いてネ♪』と、書き入れられていた。
これならば、宣伝用には申し分のない出来だろう。
「・・・・・・はい、大丈夫ですね。じゃあ、私コレお店の方に渡してくるんで、皆さんはここでちょっと待機を」
「「「「はーい」」」」
「ぁ、あのぉー・・・」
ふっと、栗野の背後から聞こえてきたその声に視線を移してみれば、何やらレコード店の服を着込んだ30代ぐらいの男性が、低姿勢ながら栗野の後ろに立っていた。
その胸に付けられている名札には、苗字だけながら『福山』と書かれていた。
明らかにレコード店の従業員である。
「は、はい?」
「皆さん、お得意さんのCARNELIAN・eyesさん・・・ですよね?」
「え、えぇ」
「そうですが・・・」
「私、こちらの新店長の福山という者なんですが」
それを聞き、栗野達は慌ててペコペコと頭を下げる。
いきなり低姿勢で声を掛けてきた相手なだけに、まさか店長だとは誰も思わなかったのだ。
「あ゛っ!! てっ・・・、店長さんだったんですか!?」
「すみません! ちょっと警戒心バリバリで応答してしまって・・・!!」
「あぁっ、いえいえいえ!! こちらこそ・・・いきなり声を掛けてしまって、すみません。まだー・・・、作業中でしたか?」
「あっ、いえ。もう皆さん済みましたけど・・・。あの、何か?」
「実はー。ここをリニューアルしたと同時に、来店してくださったアーティストの方々や、有名人の方々に、サイン色紙の方を1枚書いていただいて、飾っているんですが・・・。是非皆さんからも、メンバー全員で1枚、お願いできないでしょうか?」
そう言って福山店長が手差しするレジ上の壁には、まだほんの5枚程度ではあったものの、既に来店していたアーティスト達のサイン色紙が、横一列に飾られていた。
こう言った店側からのサイン依頼は、一応自分達から許可を出した時同様、行ってもいいことになっている。
ただしそれは、空き時間の程度にもよる話であるが。
「僕は全然OKっすよ?」
「ウチも・・・。手神さんも構わへんやろ?」
「うん」
「栗野さん。私達が書いてる時間・・・ある?」
「・・・・・・『ある?』ってあなた達・・・。全員書き終わるのに1分も掛かんないでしょぉー? 大丈夫ですよ。皆さん書いてもいいそうなんで」
「あっ、本当ですか?? ありがとうございます!! ・・・じゃあー、1枚」
「畏まりました~♪」
まるで明るい女性店員のような受け答えをしながら、未佳はレコード店の名前とロゴが入れられている色紙を受け取り、サラサラとサインを書き込む。
さらにそれを、相変わらず無言のまま長谷川へと横に流し、はたっと気が付いた。
「あれ? ・・・・・・『新店長さん』ってことは・・・。前の店長さんは・・・?」
「あぁー・・・。確か小野さん・・・やったよね? 前の店長さんの名前」
「う、うん。ずっとここで働いてて、私達とも顔馴染みだったんですけど・・・」
実は未佳達と一番この場所で顔馴染みであったのは、その『小野』という男性店長であった。
もちろんこちらの店舗を仕切っている立場上、顔を合わせる機会も多かったのだが、それ以外の場でも、小野店長は雑談などでの話も面白く、いつも場を和ませてくれる存在であったのだ。
特に初期の頃、全員が不慣れ且緊張感でガチガチに固まっていた頃は、何度もそう言った雑談やらで助けてもらっていた。
接客もでき、店舗の管理もしっかりとできる。
そんな小野店長の姿が見られないことに、未佳は恐る恐る福山店長に尋ねた。
「もう・・・辞められてしまったんですか・・・?」
「あっ、いえ。別に辞められたわけではないんですが・・・リニューアル前に移動を」
「移動ッ?! 小野さん、飛ばされたんっすか!?」
ズルッ!!
「長谷川くん!!」
「さとっちのアホ!! そないこと大声で言うんやないの!!」
「す、すみません!! うちのギタリストが、とんだ言動を・・・!」
相変わらずデリカシーのない言葉を大声で尋ねてしまう長谷川に、メンバー3人は慌てて注意をしつつ、福山店長に頭を下げる。
ただ今回は長谷川も多少マズイと思ったのか、口にした直後は慌てて口元を。
注意されたあとは、顔の前で両手を合わせながら『ゴメン・・・』の仕草を見せていた。
さがいくら『マズイ』と思っても、言ってしまったあとではもう遅い。
『きっと次には福山店長の苦笑いが飛ぶだろうな』と、未佳は渋い顔をしながら、そう思っていた。
「あっ・・・、いえ。『移動』と言っても、悪い方の移動ではなくて・・・。実は、神戸の方にある本店の営業係りに、つい最近回されたんですよ」
「ぁっ、えっ・・・? ここ、本店神戸にあるんですか?」
「はい。神戸市内では一番大きいレコード店なんですが・・・。そちらの方に」
ようはこの新店長いわく、こちらでの長年の営業成績が認められ、店長ではなくなってしまったものの、本店での営業係りに呼ばれたということらしい。
さらについでに聞いた話では、小野店長の実家が現在神戸にあるらしく、実家から出向くのにもちょうどよかった、とのことだった。
「そうやったんっすか・・・。本店に・・・」
「でもせめて・・・。最後にもっ回、会いたかったなぁ~・・・。小野店長さん・・・」
「せやねー・・・。知っとったら、もういっぺん会いに行っとったんやけど・・・」
「なぁに。何かのついでに神戸に行った時にでも、また会いに行けばいいじゃない。ついでにCDとかDVDも買ったりしてさ」
そう笑顔で解決策を述べる手神に、3人はしばし寂しげな笑みを浮かべつつも、ゆっくりと頷いた。
「でも前の店長がやり手だったばっかりに、こっちは不慣れなことが多過ぎて、まだまだ・・・」
「あら~。そうなんですか~?」
「まあ始めのうちは、みんなそうですもんね」
「そうそう! 時間が経ってから、仕事とかは慣れてくるもんなんっすよ」
「あ、あの。すみません」
「えっ? あっ、はい」
「ソレ、終わったようでしたら、こちらが引き受けますよ?」
『なんだか今日はやたらと背後から声を掛けられるな』と思いつつ、栗野はサイン色紙を持ったまま振り返り・・・。
そして固まった。
栗野の前の前に立っていたのは、見るからに若そうなイケメンの店員。
しかもかなりの長身で、スタイル的にもまるでモデルのような青年である。
(うっ、嘘・・・! ここにきて私・・・春到来?!)
先ほどから振り返った先の人物が同性であったり年配者であったりはしたが、こんな顔立ちの整った好青年に当たったのは初めてだ。
そんな半分運命的な出会いがよほど嬉しかったのだろう。
栗野はしばし気分が舞い上がったまま、その青年の顔を正面から見つめてしまっていた。
「もらってもええですか?」
「あっ・・・。は、はい・・・」
「では・・・。店長! これぇ、上に飾っときまーす」
「ん? あぁ。頼んだわぁ」
「・・・・・・ん? 栗野さんどないした~??」
「見た・・・? 見た?? 見た?! あの従業員の子! 信じらんないぐらいのスッゴイイケメンだったわよ?!」
「えっ? そんなに?」
「えぇーっ!? どれどれ~??」
半分その栗野の言葉に釣られるよう、未佳と厘もテーブルの位置からレジカウンターの方を覗いてみる。
青年は若干手神には及ばぬものの、ざっと180近くある身長を活用し、脚立無しで色紙を高い位置の壁に貼り付けていた。
ここからの位置では、残念ながら青年は後ろ姿のみではあったものの、それでもそのシルエットから、フェイスパーツ以外の身体のバランスは見て取れる。
そしてセロハンテープを取ろうと正面に向き直った際、僅かながらに下向きながらも、その整った顔立ちに思わずはしゃぐ。
「うっわぁー! 超まれに見る爽やか系!!」
「そうそうそうそう!」
「なんや某男子アイドル系に近ない?」
「まあ、確かに・・・。でも中々居ないわよぉー?? あんな当たり玉!! 従業員ならもっと最高!」
「短期バイトやないんっすか?」
ふっと女性陣3人の背後で同じく覗き見ていた長谷川が、半分呆れたように栗野に言い放つ。
しかし栗野はそんな言葉にはめげず、続けてこんなことも言い始めた。
「しかもスタイルすごくない?? かなりの細身だしー・・・」
「身長もすごいあるわね・・・。180ぐらいかしら??」
「手神さんより低いじゃないっすか」
「それにしても脚長ッ!!」
「あれなら男性雑誌の一面飾れるわよ!? 普通に・・・!」
「何かやってるのかなぁ~? モデルとかぁー、俳優とかぁー」
「筋肉がエライ引き締まった感じやから・・・。案外スポーツ系なんとちゃう?」
「いや、あの顔立ちやったらー・・・。差し詰めホスト系やろ?」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
ドガッ!!
バキッ!!
ボコッ!!
毎度の如く長谷川を一旦殴り倒し、3人は再びその青年に視線を戻した。
「私達の事務所にも、あんなイケメンのスタッフがいてほしいわぁ~・・・」
「そらぁ~、いくらなんでも・・・」
「あの方も従業員なんですか?」
「ん? ・・・・・・あぁ、松下ね。いや、彼はつい最近働き始めた、若手アルバイトですよ。いや~、でも・・・。彼働き上手だし、物覚えもいいし。うちではかなり助けられてます。若いのはやっぱり・・・覚えるのが早いですね。ハハハ・・・」
そう、さも自分のことを皮肉気に思いながら、福山は苦笑する。
その一方では、ようやく色紙を壁に貼る作業を終えた松下が、セロハンテープを元あった場所へと戻していた。
「彼ー・・・。何か他にやってないんですか? モデルみたいな・・・」
「・・・いや。副業は特に何もしていないはずですけどね・・・」
『むしろこちらの方が副業なのでは?』という長谷川の予想は、とりあえず今は置いておく。
「ただ彼、夜は定時制の音専行ってて、ダンスなり歌なりやってるみたいですよ?」
『音専』とは、俗に言う音楽系の専門学校のこと。
特に関西にはその手の学校やら大学やらが多く、アーティスト達の出身地も、関西地方に集中しやすい。
現に未佳達の事務所にも、アーティスト達の卵を育てるためのミュージックスクールがある。
「ダンスや歌・・・。そっち系のアーティスト志望ですか?」
「ええ。・・・なんでも今は、ミュージカル俳優を目指してるんだとかで・・・。なんかそういう学生向けの音専みたいですよ?」
「えっ!? ミュージカル?! スゴーイ!!」
「そらあのスタイルとマスクやったら打ってつけやな・・・」
『ミュージカル』と聞き大興奮する未佳と違い、厘は納得あり気に『うんうん』と頷く。
あの妙に引き締まったような肉付きは、その日々の稽古によるものだったのだ。
「それに、ほら。ここでスタッフとして働いていれば、自然と音楽のアレコレが身に付くでしょう? だから彼には向いてる職場みたいで」
「なるほど。確かに!」
「ちょっ・・・、ちょー待て! ちょー待て! ・・・ちゅうことは彼まだ・・・学生やろ? いくら『音専』言うても、歳かなり若いん違うか??」
確かにこちらからその顔立ちを見てみるかぎりでも、彼の表情にはまだあどけなさがあり、20代に達しているのかどうかも疑わしいように思えた。
そのくらい、見るからに学生の顔立ちなのである。
「あぁー・・・。確か5月で誕生日が・・・。松下ー? ・・・松下ー?!」
「ん? ・・・はーい?」
「お前今年でいくつだー? 歳ー」
「今年ですか? ・・・5月で20ですけど・・・」
それを聞いた瞬間、4人は一斉に栗野を取り囲んだ。
「栗野さん、ダメ! いくらなんでも若すぎる!!」
「えぇ!? でもイケメンじゃないの」
「『イケメン』ってあんさん・・・! 自分の歳考え!」
「10歳近くも離れてるんですよ!? 栗野さん!」
「そんな人落としたら軽く犯罪者よ! 犯罪者!!」
「そんな大袈裟・・・。しかもミュージカル俳優の卵よ?! いいトコばっかりじゃな~い♪♪」
「栗野さん。栗野さん・・・。よう考えてみぃ・・・」
「ん?」
「二十歳やぞ? ・・・下手したら彼のオカンと歳近いかもしれへんぞ!? それに! ・・・手神さんなんかあれくらいの息子おってもおかしない年齢なんやぞ?! なぁ!?」
「一々一言余計なんだよ! 君は!!」
その後も色々と言い争いはあったものの、何とか4人は栗野を抑え込み、どうにかこの栗野の一目惚れを終止させた。
色紙とポスターにサインを書き終えたあとは、外に止められているロケバスとスタッフ達の様子を確認するため、しばし栗野が店内をあとにした。
その間カウンターテーブルに残されたままの未佳達4人は、皆それぞ辺りを見渡すなり、CDを見るなどして、空き時間を有意義に潰す。
もちろん未佳も、少々有意義ではないが、サインペンを手持ち無沙汰な様子で弄り回しつつ、時間を潰していた。
ふっと、その時である。
カンッ カラカラカラ・・・
「あっ」
ウッカリ触っていた拍子にサインペンのキャップを落としてしまい、未佳は慌ててその場にしゃがみ、床下の方を見つめる。
どうやら落ちたキャップはコロコロと転がり、カウンター横の予約表記入用テーブルの下に入ってしまったようだ。
身を屈めて覗いてみれば、ハッキリとあのキャップと同じシルエットが見える。
(うわぁ~・・・どうしよう・・・。ソコソコ奥だぁ~・・・・・・)
ここはリオに頼もうかと一瞬思ったのだが、さすがに自分の失態をリオに解決させるわけにもいかず。
未佳はとりあえず右手を精一杯、テーブルの真下へと突っ込む。
テーブル下の高さは、未佳の細い腕でもようやく入るほどのスペースしかなく、ついでにエッジの付いた縁の辺りでは、腕の出し入れをする度に、二の腕の上側がゴリゴリと擦れた。
(あと・・・、もぅ・・・・・・ちょいっ)
「! ちょっ・・・! 何してんねん!!」
「ッ!! ・・・へっ?」
ふっと背後から聞こえてきたその声に振り返る余裕もなく、未佳は同じく自分の隣りから腕を伸ばしてきた人物に、目を見張った。
間髪入れずに腕をテーブルの下に入れてきたのは、他でもない避け続けていた長谷川である。
「あぁ~・・・、コイツかぁー・・・。コレ、なんや長いもんないとアカンなぁ~・・・」
「な・・・、長い・・・もの?」
「あっ、そこの冊子フライヤーでええわ。ちょっと取ってんか?」
「う、うん・・・」
言われるがまま、すぐ近くにあった雑誌タイプのフライヤーを1冊拝借し、長谷川に手渡すと、長谷川はそれを真ん中辺りで見開きにし、その状態で右手に持ちながら、再びテーブルの下に腕を入れる。
そしてそこから狙いを定め、フライヤーの下側を持ちながら、キャップをテーブルの外へと掃った。
『パスッ』というフライヤーの乾いた音と、掃い飛ばされたキャップの『カラカラカラ・・・』と転がる音が、二人の耳に同時に響く。
テーブルの下から出てきたキャップは、若干埃にまみれたような状態になっていた。
「・・・よしっ。ちょっと埃まみれやけど・・・・・・。ほい」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・ん? どないした? ・・・コレ取ろうとしとったんやろ?」
「な、なんで・・・?」
未佳がそう聞きたくなるのも当然だ。
何せつい先ほどまで、この二人はお互いに口も利かぬ状態となっていたのだから。
それがどういうわけか今になって、いきなり長谷川が普段と変わらぬ態度と口調で話し掛けてきたのだ。
言い争っていた未佳からしてみれば、なぜ急にこんな展開となってしまったのか、まったく意味が分からない。
するとそんな未佳の心情を察してか、おもむろに長谷川はスマホを取り出し操作すると『これでチャラにしたるわ』と言って、ある写真を未佳に見せつけた。
そこに映し出された画像に、一気に未佳の顔が赤面に染まる。
「ちょッ・・・! な・・・、何よコレェ~ッ!?」
写真に映し出されていたのは、テーブルの下を必死に覗き込む、半分下手な土下座体勢の未佳。
それも、かなりのズームで背後から撮られている。
さらにその画像の収められ方やアングルから察するに、どうも床にスマホを置いて撮影したようだ。
「いつ撮ったのよ! こんな写真・・・!!」
「キャップ落っことした時っすよ? だってカメラ構えてんのに全然気付かないんっすもん。おかげで撮りやすかったっすよ。、まあ・・・さすがに腕入れるとは思わんかったけど」
「だっ、だって・・・! シャッターしなかったじゃない・・・!!」
「スマホはシャッター音消せるからな~」
「ッ・・・・・・ッ!」
半分開いた口が塞がらず魚のようにパクパクと動かしていると、長谷川は改めてその画像を見つめながら『う~ん』と顎に手を当てて考え込む。
「やっぱもうちょい引きで撮った方がよかったんかなぁ~? これやとあんまデコるスペースないしなぁ~・・・」
「はっ・・・ハァ~ア?!」
「文字スタンプで精一杯か」
「ちょっ・・・! ちょっと! 今すぐに消してよ! その画像!!」
「嫌っすよ。なんで消さないといけないんっすか?」
「あなたそういうの世間で何て言うか知ってる?! ソレれっきとしたセクハラなのよ?! 盗撮なのよ?! 大犯罪なのッ!!」
「自分だって似たことしたじゃないっすか・・・」
「とにかく消してよ! 今すぐ・・・!!」
「い・や・や!」
こうして必死にスマホを奪おうとする未佳と、スマホを渡すまいと天井に向けスマホを掲げる長谷川の姿に、残された3人はホッとしたように微笑む。
「いつものお二人ですね」
「「ねぇ~・・・」」
「皆さん仲いいですよね? やっぱり」
「エッ!? そ・・・、そうですか?!」
「つい今さっきまでソレ、禁句でしたよ? 福山さん・・・」
その栗野の忠告を小耳に挟みつつ、厘は『ハハハハ・・・』とジト目で苦笑するのだった。
予約死亡期限切れまで あと 160日
『犬派・猫派 2』
(2003年 7月)
※名古屋ライヴツアー リハーサル。
小河
「えっ? 犬派・猫派?」
さとっち
「そっ。ちょっと前の雑誌取材でそんな雑談が出たんっすよ」
手神
「そしたら僕らのバンド、なんかキレイに半分に分かれた感じになってね」
厘
「えっ? 手神さん猫やったっけ?」
手神
「あっ、いや・・・。特に決めてはいないけど、性格的になりそうだなぁ~って」
みかっぺ
「小河さん達はどっち派なんですか?」
小河
「・・・実は俺犬っす。実家でダックス飼ってるんで」
みかっぺ
「うわぁ~♪ いいなぁ~♪♪(羨)」
さとっち
「赤ちゃんは?」
赤ちゃん
「俺はー・・・・・・。それが選べないんだよ~。両方いるから~(^_^;)」
みかっぺ
「「「へぇ~・・・(驚)」」」
まっちゃん
「アメショー(猫)と黒ラブ(犬)だっけ?」
赤ちゃん
「そっ。体の大きさも性別も違うけど、めっちゃ仲いいから・・・。性格によっては、どっち付かずの方にこの飼い方オススメ!」
さとっち
「へぇ~・・・。そう聞くまっちゃんはー・・・・・・聞かずもがなか(^_^;)」
まっちゃん
「ああ! 俺は純潔の猫派まっしぐら!!(キッパリ)」
さとっち
「やっぱり・・・( ̄▽ ̄;)」
(ってか『まっしぐら』って・・・(汗))
まっちゃん
「そして同じくらい温泉&熟女☆(キリッ)」
さとっち
「源泉口まで沈んぢまえ(爆)」
ナイスツッコミwww
(ってか『キリッ』じゃねーよ(爆))