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138.短い撮影・・・

レコード店での撮影内容は、入り口前で全員ショット1枚と、店内のポスターに書き込む予定の、サイン記入作業の写真数枚。

ちなみに今回サインを記入するポスターは1枚だけで、そのポスターも店内用の宣伝品であり、ファンなどに手渡すものではない。

今回は完全に、あまり人目に付かぬような形での撮影なのだ。


ついてすぐにスタッフが取り掛かったのは、カメラや照明などの撮影機具の準備。

撮影場所ではなく駐車場で行ったのは、人目を避けるためと、レコード店へやってくる人たちの通行の邪魔をしないため。

今回撮影する予定の4人全員ショットは、予定上レコード店の入り口前で撮ることになっている。

もしここで撮影の準備をしてしまったら、来店者達の行く手を拒んでしまうことこの上ないのだ。


撮影スタッフ達が機材準備を行っている間、未佳達は一旦ロケバスへと戻り、撮影用のヘアーやメイク、アクセサリーなどの下準備を行っていた。

ちなみに撮影用の衣装については、ここへやってくる前に事前に事務所で着替えておいた。


薄手の桜色のような生地に、赤い小さなドット柄が入ったワンピースを着込み、未佳は専属である楢迎からのメイクを受けていた。

それも、今回はそんなに写るわけでもないというのに、しっかり柄に合ったジェルネイルの付け爪まで施してもらっている。

ふっと完成している付け爪を接着剤で張り付けながら、楢迎が口を開いた。


「今回は撮影だけだって聞いたから、必要ないと思ってましたよ。持ってきておいて正解・・・」

「だって・・・! お店の人には見られるじゃない・・・。私そういうところはしっかりしておきたいポリシーなのっ」

「何も店員相手にやらなくても・・・・・・まあいいわ。はいっ。ネイルの装着終了!」


楢迎のその言葉を聞くや否や、未佳は自らの手をパーの形にし、ヒラヒラと裏表の付け爪の位置、角度、長さ、形、そのどれもが完璧でなければ、未佳的には仕上がりでの納得がいかない。

つくづく面倒臭い性格だと思う。


「どうですか? 何処か曲がってたり、ズレてたりします?」

「・・・・・・ううん、大丈夫。いつもながら完璧♪」

「そう? よかった~・・・。ここで合格点もらえないとみんな中途半端になっちゃうから・・・」

「ハハハハ」

「じゃあ次、ヘアーいくわね? こっちはスタッグさんから指定あるから、まずはそっちで・・・。気に入らないところがあったら最後に言ってください」

「はーい」


返事を返したと同時に楢迎が取り出したカーラーとシュシュを見て『あぁ、今日はアップにしないのね』と、未佳は察する。

いつも髪を上に盛る感じにする際には、楢迎は決まって、大量のヘアピンやケープ缶、アップ用のヘアサロンを持ってくる。

それが電気式ではないただの輪っか型のカーラーで、おまけにアップ時には面積を取って邪魔になるシュシュとなれば、もはや髪型は決まったも同然であった。


「・・・ねぇ。横の髪の毛って、今日巻く?」

「ん? ・・・えぇ。そういうオーダーなら来てますけど?」

「あっ、じゃあいいの。何でもない」

「・・・巻かないなら巻いてほしかったんですか?」

「ま、まあ・・・。だって今日盛らない髪型なんでしょ?」

「ええ。どちらかというと定番のポニーテールですね」

「でしょ? でも触覚部分、巻くならいい。あんまりストンってしてるの、好きじゃないのよね」

「ハハハハ」


そんな会話を楢迎と交わしていた時、ふっと、ロケバスの出入り口扉に掛かっていたカーテンが、誰かの手によって引き開けられた。

もちろん、女性が中でメイクを行っているこの状況下で、そんな行為が許されるのは同性者のみ。

カーテンを引き開けたのは、外で待機していた栗野であった。


「未佳さん? もう皆さんスタンバイ出来てるんで、済み次第始めますよ!? 急いで!」

「あっ、はーい!」

「すみませんっ! もうあとヘアーだけなんで、できるだけ急ぎます!」

「お願いします!」


そんな短い会話だけ交わし、栗野は再度、出入り口のカーテンを勢いよく閉めた。

そのままメンバーの下へと向かったのか、微かに聞こえるヒールの靴音が遠ざかってゆく。


その後楢迎とは必要最低限の会話のみ交わし、撮影用のメイクは終了。

髪飾りでもあるシュシュと、ワンピースに合わせたイヤリング、ネックレスを身に付け、ロケバスから早足で下車する。


皆の待つ駐車場の出入り口付近に向かってみれば、既に照明や反射板などの準備が整っていた。

やや背後から両二の腕を掴まれつつ、栗野は未佳をメンバーの輪の中へと誘導する。


「はいはいはいはいはいっ! 皆さんお待たせしましたー! 坂井未佳さん、撮影は入りま~す!」

「「「「「はーい」」」」」

「遅れてすみませ~ん!!」


もはや待つ相手は未佳のみであったのか、未佳が集合場所に到着したと同時に、一同はレコード店の出入り口前へと向かった。


今回のこの撮影で注意すべきは、メンバーに関係のない第3者。

つまりは一般市民のことであるが、そういった人々が、誤ってカメラに映らないようにすることである。

何せ今回の撮影は、貸し切りも何もしていない普段の営業中店舗を背景に、写真を送るのだ。

店前のお客や通行人などは、半分撮り放題に等しい状態である。


一応撮影を行う際、ある程度の立ち入りはしないようにする予定だが、それもメンバーを遮る、もしくは横切るような立ち位置に入ってきてしまった人のみ。

出入り口に関しては、その手の行為を一切行わぬよう、店側から注文を受けている。

つまり今回の撮影は、なるだけ早めに済ませることが要求されているのである。


出入り口付近の通行路へ入ったと同時に、早速未佳達4人は、予め決められていた立ち位置に並ばされた。

と言っても、軽く腕を掴まれて『この位置にあの方向を向いて立って』と、ザックリとした指示を出された程度である。


ちなみにそれぞれのメンバーの立ち位置は、一番カメラに近い右前方に未佳。

その2歩ほど後ろの左側に厘。

さらに2歩ほど下がり、ちょうど厘の右隣辺りに写る位置に長谷川。

そして一番身長の高い手神は、長谷川から1歩ほど下がり、カメラでは未佳の左隣に並ぶような位置である。


「長谷川さ~ん。もうちょい顔、気持ち上に上げられる?」

「あっ、上っすか? ・・・ちょい『見上げ』みたいな位置っすね??」

「小歩路さん、今一番姿勢いいから、そのまんま待機してて。・・・坂井さんの左側の髪の毛、ちょっと直してきて。髪、風に吹かれると手神さん写んない」

「あっ、はい」

「えっ? 僕隠れてるの??」


そんな撮影スタッフとメイクスタッフとのやり取りがしばし続き、ようやく撮影に適した絵になったのか、大島が自前のデジカメのシャッターを切り始めた。

何やら著名人か芸能人らが撮影を行っていると思ったのだろう。

気付けば撮影スタッフ達の後ろには、チラホラと人だかりのようなものが出来ている。

中には『誰撮ってはんの?』と直接スタッフに尋ねてくる年配の人までいた。

『こういうところは商店街っぽいなぁ~』と、表情を顔に張り付けたまま未佳は思う。


それからほんの数分ほどで、写真撮影は無事終了。

構図違いも含め、計20枚ほど撮り収めたが、これでも未佳達にとっては少ない方である。


「じゃあ・・・。これから中の方でのサイン記入と撮影・・・に入りますので、皆さん店内に進んでください」

「「「「はーい」」」」

「機材係りは機材畳んで、早めに車の方へお願いします。メイクアシスタントと大島さんは、もう皆さんと一緒に中の方へ・・・行っちゃって大丈夫ですから」

「大丈夫? あっ、じゃあ付いてきま~す」


テキパキとそれぞれの役割に指示を出しつつ、栗野は手帳片手にメンバーの後ろを付いていく。


すると手神と横に並ぶ形で店内に向かっていた厘が、ふっと栗野の方へと駆け寄ってきた。

いきなりそのような行動を起こす厘に、栗野はまた何か忘れてきたのかと思ったが、不安げな顔立ちの厘が口にしたのは、自分のことではなくメンバー二人のことであった。


「ちょっとちょっと・・・! あの二人、中の撮影ホンマに大丈夫なん?? さっきから様子確認してんねんけど・・・。あの二人、一切口利こうとせえねん」

「えっ? ・・・・・・あぁ。長谷川さんと未佳さんね。そういえばさっきバスでモメてたみたいだけどー・・・。どうせいつものことでしょ?」


『気にする必要ないわよ』と、栗野はまったく心配していない顔を厘に向ける。


しかしバスの中での未佳の激怒っぷりを見ていた厘にとって、これはとても安心できるような状況ではなかった。


「そーぉ? ウチ的にはえらい心配なんやけど・・・。いつもよりみかっぺブチ切れとったし」

「ホラホラ。そんなことより次の業務に移った。移った」


結局厘の心配は栗野に伝わらず、4人はレコード店へと歩みを進めた。


外の方では、店の看板や壁などが真新しく塗り替えられていたこと以外、特に以前の店舗との違いは見当たらなかったが、店内の方は色々と様変わりしていた。

まず、販売されているCDの並び方が、以前よりも大幅に分かりやすくなったこと。

J-POP、アイドル系、ロック、ビジュアルなど、そのジャンルそのジャンルに合わせて事細かく棚を分け、それをあいうえお順にアーティスト名ごとに並べたのだ。

また洋楽コーナーや韓流コーナーなどでも棚やエリアを分け、それでも目当てのアーティストの棚が分からぬ際には、店内の角4ヶ所に設けられた店内案内パネルにて、捜索できるシステムも誘導されている。


さらに一番変化が大きかったのは、店内ミニステージなるセットスペースが設けられていたこと。

さすがにスペース的には大人4人程度の広さしかないので、楽器を用いての演奏はできないが、それでも歌のみの披露や、握手会や記念撮影、サイン会などを行うスペースぐらいはあるだろう。

そんなアーティスト本人を招くのに手頃なスペースが、改装工事後の店舗には設けられていたのだ。


ただし、今回は店内のポスター数枚にサインを記入するだけなので、そのステージを自分達が使用することはないだろう。

さらに言ってしまえば、このスペースだけでは、正直観客を入れる面積がかなり足りない。

おそらく、大半のファン達は外待機にされてしまうだろう。

別に自慢するわけではないが、自分達はそこそこファンのいるバンドなのだ。


とは言え、長年お世話になっていたレコード店にミニステージが出来ていた事実に、未佳を含む4人は興味津々なまま、ステージの傍へと寄る。


「うそっ! ステージ出来てるじゃない!!」

「おぉー」

「これならちっさいバンドとか・・・新人さんぐらいの人やったら、ここに本人呼べるやん」

「うん。・・・ちょっとしたイベント向きな感じやな」

「ぁ・・・・・・。スケジュール・・・」


ふっとステージの右端側の壁に貼られていたスケジュールパネルが目に留まり、未佳はそこに書かれていた予定を確認する。


リニューアルされたばかりということもあり、ステージ使用のスケジュールはまだまだ少なかったが、それでも土曜日や水曜日辺りは、何かしらのアーティスト名で埋められていた。

さらによくよく予定中のアーティスト名を見てみると、つい今年の頭に入ってきたばかりの後輩バンドの名前まである。


「あれ・・・? ・・・・・・・・・この人達事務所の後輩組だよね??」

「あっ、ホンマや。入ってる」

「きっと事務所ウチの提携先だから、ソレ繋がりで入れてくれたんだよ」

「まあ後輩ぐらいの立ち位置やったら・・・人気に火を付けさせるのにちょうどいい場所っすもんね」

「・・・っ・・・・・・」


ふっと両腕を組んだ長谷川が、未佳が中腰体勢で見つめていたスケジュールパネルの方へと、顔を近付ける。

しかし未佳は、まるでそれを避けるかのように、ふいっと顔を横へと反らした。

もちろん、長谷川と顔を合わせないようにするためだ。


そんな未佳の動作に、少々長谷川も頭にカチンッと来たが、ここで言い争いは余計に酷いことになる。

その結果がハッキリと目に見えていたので、長谷川はあえて何も言わず。

またその行動や態度に対しても、何も言わずに押し黙ることにした。


(・・・・・・・・・でもなんで僕がそうせなアカンねん!)


そんな愚痴だけは、心中のみで呟きながら。


『犬派・猫派』

(2003年 4月)


※大阪 雑誌取材。


撮影スタッフ

「では30分ほど休憩で~す」


全員

「「「「「は~い!」」」」」


みかっぺ

「・・・ん?(゜゜)」


※ふっと窓の外で犬の散歩をしている人が目に止まる。


「ん? みかっぺ、どないしたん?」


みかっぺ

「やっぱりワンちゃん可愛いよね~♪ 私一回でもいいから、家で大型犬飼ってみたい!(^^)」


「みかっぺホンマ犬好きやなぁ~・・・。ウチは猫やけど(ボソッ)」


さとっち

「ふ~ん・・・。僕は同じく犬っすね。ただ大型犬やなくて中型犬くらいのが希望っすけど・・・。そういえば手神さんは何派なんっすか?」


手神

「僕? ・・・僕は別にどちらでも・・・。ただ前に僕の兄が言ってたんだけど、犬派の人間は猫。猫派の人間は犬に似るらしいよ? 性格が」


「それって・・・自分を中心に見る人と、誰かに従う人いうこと??」


みかっぺ

「エ゛ッ!! ・・・さとっち、自分が中心とか思ってるわけ?(ーー;)」


さとっち

「せやからなんで毎回僕やねん!!(苛) それにその内容やったら、明らかまったく該当しとらんのが一人おるやろ!!(怒)」


「ちょっと・・・ソレまさかウチのことなん?!(″`〇)」


ちなみにこの当時、手神さんはまだノラを飼っていません!


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