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134.害虫駆除法

「ぁ・・・、アブラ・・・・・・ムシ?」


普段あまり使用することのないインターネットで行き着いたその正体は、数々の植物の大害虫として知られる、メジャーな昆虫であった。


〔なんか・・・名前だけ見るとギトギトしてそうな・・・〕

「そんなにギトギトはしてなかったけど、でも・・・! こんなにたくさん種類がいるの・・・? ・・・・・・とてもじゃないけど写真見切れないわね」


やや手慣れた手つきでアブラムシの画像サイトをスクロールしてみる未佳であったが、あとからあとから種類の異なるアブラムシの画像が連続表示。

気付けばまったく終わりが見えぬ状況となっていた。


〔でも一番最初に出てきたヤツが、一番見た目近かったよ?〕

「うん? ・・・あぁ。コイツね? ・・・・・・ユキヤナギ・・・アブラムシ・・・。ってアレ、ユキヤナギじゃなくてミニバラなんだけど!」

〔でも『バラ科を好む』って・・・〕

「ま、まあ・・・。この辺のどれかでしょうね。しかもアブラムシの中じゃ、そこそこポピュラーなヤツみたいだし・・・」


ちなみにアブラムシの種類は、日本国内だけでも700種類を越えるほど存在しているとされ、未だ国内などでも新種が見つかっている。

日本に生息するものは、大体がレモンのような楕円形の身体つきをしており、大きさは1ミリ以下のものから、最大で3ミリ以上になるものもいる。

体色も種類によってではあるが、メジャーなものは黄緑色のものから黄色、赤、黒など。

主食は木や草などの汁で、特に新芽や蕾、花などの周りに群がっていることが多い。

付く植物こそ種類によってマチマチであるが、比較的バラ科やユリ科などの甘めの汁を持つ植物を好むとされ、ほとんどの農野菜や園芸種の害虫とされている。


また、染色での赤い色の原料として有名な『コチニール』は、アブラムシに近い仲間である『カイガラムシ』を乾燥させたものだ。


「エ゛ッ?! ・・・コレこの見た目でセミとかカメムシの仲間なの・・・!? 全然・・・似てない」

〔強いて言うなら汁吸うところ? ・・・鳴かないしね〕

「そんなっ・・・! 鳴くのはセミだけで十分よぉ。ただでさえ夏場暑っ苦しいのに・・・!」

〔あぁ・・・。『シュワシュワシュワシュワッ!』って鳴くやつね〕

「あと『ジイイイィィィー・・・』とか『カーナカナカナカナ』とか『ツクツクボーシ』とか」

〔出た。ツクツクボウシ〕

「さすがにリオも知ってたか・・・。えぇ~っと・・・・・・・・・ウエ゛ッ?!」

〔あっ? 今度はどした?〕

「ぁ、アブラムシって・・・・・・メスしかいないの?! ・・・しかも幼虫、産むの?!」


ふっと読んでいた記述の中の文章に、思わず未佳は画面に顔を近付ける。


実際には『オスが存在しない』というわけではない。

正確には、オスと同じ細胞を持ったメスが春先から夏頃に掛けて幼虫を産み、秋頃には数少ないオスと交尾を行い、越冬するための有精卵を散乱して死滅する、という生態を持っているのだ。


また産まれた幼虫は、成虫とよく似た不完全変体の体をしており、成虫になると親と同じく幼虫を産み、数を増やしていく。

そうして出来上がった群れが、先ほど未佳の見た、あの集団の正体なのだ。


「味気な・・・ってか、えげつない」

〔『春先から秋頃まで繁殖し、特に夏場は一番数が増す』・・・。つまり一番多いのは夏なんだ〕

「じゃあその夏までに・・・、こっちは何らかの対策取んなきゃいけないってこと?」

〔あんなに大量にいても、数的にはまだ初期段階ってことだね〕


ちなみにアブラムシの撃退方法は、大きく分けて3つある。


一つは、農薬や化学肥料などを使用しての死滅方法。

こちらは、耐アブラムシ用のものなども生産されているほど、効果や種類などにおいてはかなりバラエティーに富んでいる。

ただし、これは使用したその時から『無農薬』という育て方ではなくなるので、無農薬にこだわる人間には使えない策だ。


二つ目は、アブラムシの付く草木の間、もしくはその近くに、ハーブ系の香りの強い植物を配置するという方法。

アブラムシを初め、多くの害虫と呼ばれる昆虫達は、ハーブ系の植物が放つ香りを嫌う性質がある。

そもそもこの香りは、元々葉や花などを昆虫に食べられぬよう、ハーブ自体が虫除けの役割として香らせたものだ。

他にも似たような例で、ミカンや柚子の木などが放つ柑橘系の香りも、一説には虫除けのためであったと言われている。


もっとも、中にはあえてその植物を主食とする昆虫もいるので、まったく虫が付かないとまではいかないが。


そして三つ目の対策は、アブラムシの天敵を周りに放ち、その天敵にアブラムシを食してもらうという方法。

こちらは海外などでもよく用いられている方法で、日本でも一部の有機野菜を育てる場で取り入れられている。

中でも一番アブラムシの天敵として有名なのは、よくキャラクターマスコットやデザイン画として描かれる、赤と黒が特徴的な昆虫だろう。


「テントウムシの主食としても有名・・・・・・あれ? 『テントウムシの主食』って・・・、確か『アリマキ』とか言わなかったっけ?? ・・・私の記憶違いかな?」

〔・・・・・・別名であって、同種みたいだよ? アリに蜜上げるみたいだし。ここに括弧で『アリマキ』って〕

「あっ。ホントだ・・・」

〔・・・で?〕

「ん?」

〔未佳さん、テントウムシ触れるの?〕

「・・・・・・・・・・・・触ったことない」


そもそも未佳は、長谷川ほどではなくとも虫が大の苦手だ。

今まで生きてきた32年間、まともに触れられた試しがない。

過去に何処かの植物園だかで、奇跡的に蝶が手の甲に止まってくれたことはあったが、あの時もその光景に感動しつつも、自ら翅に触れようなどとは思わなかった。


それ以外に触れた記憶といえば、いきなり背後からぶつかってきたセミや、ものの見事に顔面にぶつかった小さな甲虫など。

大概未佳が虫に触れた記憶というのは、未佳側からではなく虫側から触れてきたものばかりなのである。


そして過去にこれまで、テントウムシが体にぶつかってきた記憶がないことを踏まえて考えると、おそらく触れたことは一度もないだろうと思う。


「でも~・・・。わざわざテントウムシを取りに行かなくてもー・・・」

〔じゃあハーブでも育てる~? ミントとかさ~〕

「・・・・・・でも『マンションでミント育てるの、ソコソコ難しい』って、由利菜言ってたなぁー・・・。なんかね、陽が当たり過ぎちゃうんだって」

〔それにハーブ系って、タダじゃないんでしょ? 人間社会だと〕

「そりゃあ~・・・・・・。園芸種だしね・・・。でもテントウムシを取ってくるなんて、私はちょっと・・・」

〔でもテントウムシならタダだよ? タダで済むテントウムシと、多少お金が掛かるハーブ。どっちの方がよさ気に思う?〕

「それは・・・! ・・・どちらかと言うとタダの方がいいけど・・・・・・。あっ! でもテントウムシって、確か翅あったよね? ミニバラ外なんだし、いつか飛んでくるんじゃな~い??」

〔こんな21階まで?〕

「・・・・・・・・・・・・」


ちなみにテントウムシだけに限った話ではないが、多くの翅を持つ昆虫は、その翅を使って飛行するのに、かなりのエネルギーを消費する。

そのため特に大した理由も無く、意味なく空を舞うなどということは決してない。

普段何気なく見掛けてフワフワと舞っているように見える蝶も、本人的にはかなり必死に飛んでいるのだ。


その中でも甲虫という部類の虫達は、羽だけでなく体も固い殻に覆われているため、消費するエネルギーの量や飛行技術なども、蝶などとはまるで違う。

とにかく体が重い分、長距離での飛行や、小回りの利くような飛び方はできない。

さらにカブトムシなどの大型のものは、成虫の間一日でも樹液を飲み損なうと、翌日は飛行できないほど、体力を失ってしまう。


そんな常に死と隣り合わせな環境である昆虫が、そんな獲物があるかどうかも分からない20階以上のベランダへ、わざわざ飛んでやってくるだろうか。

普通に考えてみても、上に上がっていくくらいであれば、前の方へ飛んでいった方が懸命である。


「で、でもさ・・・! じゃあなんで私の家に、あんなにアブラムシがやってきてんのよ!? アレって『飛んでやって来れた』ってことでしょ??」

〔さぁ~・・・。そもそも体が軽くて小さいしね。・・・・・・案外風に飛ばされてきたのかも〕

「・・・・・・・・・・・・」


いかにも有り得そうな例を挙げられ、未佳は憮然とした表情のまま、その場に固まる。

確かにあの小ささであれば、ちょっとした風程度でも人より高く舞ってしまいそうだ。


「・・・・・・・・・ハァ~・・・。テントウムシって、体柔らかいのかしら・・・」

〔さあ?〕

「摘まんだ瞬間『グチャッ』とか・・・。絶対やなんだけど」

〔せっかく開いてるんだから、ソレで調べたらいいじゃん〕


そう両腕を組んだまま壁に寄り掛かっていたリオは、目の前にあるパソコンを顎で示す。


確かに、事前に捕まえる前に調べておくのは適切だが、未佳自身、まだテントウムシに触れる決心が付いていない。

むしろ、できることなら一生触れたくない。


(さとっちほどじゃあないけど・・・・・・私には無理! 小歩路さんみたいにすぐに触るのなんて、絶対無理!! ・・・・・・・・・あっ)


ふっと昆虫に触れることだけを考えていた未佳の頭に、またしても悪知恵の発想が過ぎる。


「そうだ。リオォ~♪」

〔ヤダ〕



ドテンッ



「まだ何にも言ってないじゃなーい!!」

〔言わなくても分かる・・・。大体予想付く〕

「まったまたぁ~♪ 外れてるかもしんないでしょ??」

〔『私、虫触れな~い!!』『! そうだ、リオ。代わりにテントウムシ、下で取ってきて~』『取ってきたら、ミニバラの辺りに放しといてね? アブラムシ食べてくれるように~♪』・・・・・・でしょ?〕

「そのモノマネ、ムカつく・・・」


口調もさることながら、思っていた考えや言葉もまるで同じだ。

よくもここまで読み取ったものだと、未佳は思う。


〔図星と見ていいよね?〕

「取ってきてよ」

〔ヤだよ。そんなの・・・〕

「あっ、リオも無視触れないんだ~」

〔その前に触れたことないから、力加減が分からない〕

「・・・・・・・・・。手のひらに乗せて連れてくるだけでもいいんじゃないの?」

〔毒とかないの? 臭い液出すとか・・・〕

「あっ。・・・・・・なんかテントウムシって、その手の持ってたよね??」


記憶上ではかなりうろ覚えの域ではあるが、確か液体系の技を持っていたはずだと、未佳は『カタカタッ』とパソコンのキーボードを叩く。

『テントウムシ 液体』と打ち込んだだけで、その正体にはすぐに行き着いた。


「あっ、あった。えぇ~っと・・・。『幼虫は背中から、成虫は両腹の間から、薬品に似たニオイの黄色い液体を出す』・・・『人体に影響はないが、舐めるとかなり苦い』・・・・・・って、舐めたことあるの?! この人・・・ッ!!」

〔まあ学者さんならやりそうなことだよね〕

「でもよく『舐めよう』だなんて思ったわね・・・・・・。私だったら“死んでも”舐めない!!」

〔あの・・・。オタクもう死んでるけど??〕

「・・・・・・・・・・・・」

〔とにかく・・・。僕はやらないよ? 考えてみれば、独りでにテントウムシの入れ物が宙に浮いてるの、違和感あり過ぎるしね〕


確かに、下手に下の階でテントウムシ捕りをしているリオを、通行人やら他の階の住人達に目撃されるのはマズイ。

もちろんリオ自身は見られることはないが、リオが手に持つ袋や入れ物、テントウムシなどはハッキリと見られてしまう。


仮に入れ物をビニール袋に変えたとしても、通行人程度の人間には風で舞っていることにして誤魔化せそうだが、それ以外の人間。

例えばベランダで一服している人や、外を眺めている人に長時間目撃され続けると、さすがに袋の動きに違和感を覚えるかもしれない。

さらに下手をすれば、善意のある人間がゴミと勘違いして、わざわざ回収しにやってきてしまう可能性だってある。

実はこのマンションの周りには、常にそう言った性格や行動をしているお年寄りが、かなり多いのだ。


「・・・・・・・・・・・・分かった! 分かったわよ!!」

〔あっ。やっと決心付いた?〕

「もう近所の花屋で買ってくるわよ!!」

〔あっ? ・・・テントウムシって、そんな普通の花やかに売ってなぃ〕

「せっかくだからローズマリーとペパーミントの若木、買ってくるわよ!! ハーブのぉ!!」


やはり昆虫に触るまでの決心は付かなかったらしく、結局未佳は、多少の金額が掛かる選択であろうとも、ハーブを購入する策に動いたのだった。



予約死亡期限切れまで  あと 160日


『外国人』

(2001年 7月)


※京都 清水寺。


まっちゃん

「相変わらずすごい人の数だなぁ~(圧倒)」


さとっち

「こんな時期にやってくるからですよ~(ジト) 『7月の清水』言うたら、観光客と修学旅行生で一杯いっぱいになる時期やないっすか(苦笑)」


まっちゃん

「だって行きたかったんだもん(ジト)」


赤ちゃん

「こっち関東の人間だから、関西なんてほとんど行く機会なくてさ」


小河

「そうそう♪」


さとっち

「だからって、何もこんな時期に・・・」


外国人

「Ah-….Excuse me.」

(訳:あの・・・。すみません)


さとっち・まっちゃん・赤ちゃん・小河

「「「「ん?」」」」


外国人

「Where is a bus stop?」

(訳:バス停はどこですか?)


まっちゃん

「・・・(汗) な・・・、何を聞いてるんだ?(小声)」


小河

「なんか・・・、バス停の場所を聞いてるみたいですけど・・・」


赤ちゃん

「こっちも土地勘ないしなぁ~(苦笑)」


外国人

「A―…,ah―….Bus.バステイ」


まっちゃん

「ど、どうしよう・・・(困)」


小河

「聞かれてることは分かるんだけど・・・(困)」


さとっち

「え~っと・・・。Bus stop?(聞返)」

(訳:バス停ですか?)


外国人

「! Yes! How can I get to the bus stop…?」

(訳:! はい! バス停にはどう行ったら・・・?)


さとっち

「Follow the passage, and you can see a stairway.

Then, please go down to the bottom and you can see the bus stop on your left.

You can't miss it because the mark of bus stop stands nearby and a lot of people stand in line.」

(訳:バス停なら、この通路をずっと真っすぐ進んでくと階段があるんで、そこを一番下まで下りていって、左側です。行けばすぐに分かると思いますよ。バス停の目印のモノが近くに立ってるし、人もめっちゃ並んでるんで・・・(苦笑)」


外国人

「♪ Thank you!

At first I thought you were not but actually you are also English speaker,right!?

It was good to ask you♪」

(訳:♪ ありがとうございます!! 最初違うかなと思っていたんですけど、やっぱり同じ人間だったんですね!? あなたに尋ねてよかったです♪)


さとっち

「My pleasure….What?」

(訳:いえいえ・・・。えっ?)


外国人

「Thank you!」

(訳:どうもありがとう!)


※その場を去っていく外国人。


まっちゃん

「さとっち、スゲー・・・(感心)」


小河

「さすがは関西の名門大卒! 英語発音共々ペラペラだったな」


さとっち

「! そんなん違うてばっ!(苦笑)」


赤ちゃん

「ところであの外国人・・・。なんかイギリス人ぽかったけど・・・、最後なんて?」


さとっち

「それが僕も・・・。なんか『同じ人間』とか『やっぱり僕に尋ねてよかった』とか・・・・・・ハッ!!」


赤ちゃん

「ん?」


さとっち

「Oh, sir! You were wrong!! I'm clearly a Japanese man!!」

(訳:外国人のお兄さん、違ーう!! 僕はれっきとした日本男児やぁーっ!!(絶叫))


英語の発音と言い、白さと言い・・・。

白人に間違われる長谷川智志・・・(orz)


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