133.ミニバラ開花
ねぇ、どうして?
どうして・・・・・・私じゃなかったの・・・・・・?
なんでその人を・・・選んだの・・・?
私とその人で・・・何が違う?
私とあなたじゃ・・・何が合わない?
ねぇ・・・・・・・・・。
あなたは・・・・・・。
あなたにとっての、私の存在は・・・・・・・・・・・・。
私はただの人間で・・・。
あなたはその人を選んで・・・。
ねぇ・・・。
私は邪魔な、存在なの?
その人だけじゃなく・・・・・・あなたにとっても・・・。
私のことが・・・邪魔だった?
居なくなってしまえば。。。
消え去ってしまえば。。。
って。
一度でも・・・そう、思った?
・・・・・・だから・・・。
だから・・・・・・・・・・・・。
でも、もういい・・・・・・。
なんでも、いい・・・・・・。
私も・・・・・・。
私だって・・・・・・。
自分ヲ堪エ続ケルノニ、疲レタカラ・・・・・・。
こんな暗闇の中を走り続ける、ことなんて・・・。
出口を探して、のた打ち回る、ことなんて・・・・・・。
そんなの、もう十分・・・。
十分・・・やった・・・・・・。
だから。
・・・だからもう、逝くね?
あの人の目に、映らないうちに・・・。
あなたの手が、届かない場所に・・・。
それが・・・・・・。
そうすることが。
あなたにとっては懸命なんでしょう?
そうだよね・・・・・・?
ねぇ・・・。
何とか言って・・・。
何とか答えて・・・。
答えてよ・・・呼んでよ・・・。
《また・・・あなたの灯りが遠ざかる・・・。》
《また・・・あなたの背中が離れてく・・・。》
《死を決意してもなお。》
《あなたは私を、見てくれない・・・》
ねぇ、まって・・・・・・。
まって・・・・・・。
まって・・・。
まって。
まって!
まって!!
待って・・・ッ!!
お願い・・・!
お願い、行かないで!
行かないで・・・ッ!!
《私と同じ、彷徨う目・・・。》
《私と同じ、疲れた心・・・。》
《そんなあなたが行く宛てなく、私の元から離れてく・・・。》
《私の伸ばした手が・・・闇さえ掴めぬ距離へ・・・・・・》
ねぇ待って!
お願い・・・!
私を一人にしないで!!
一人にしないでッ・・・・・・!
“ ッ!!”
「ッ?! ハッハァ・・・ッ! ・・・ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・・・・」
その場から慌てて上半身を飛び起こした時、未佳は布団の半分や枕など、あらゆるものをベッドの上から蹴散らかしていた。
いきなり飛び起きたせいか、それともあの情景を見たせいか。
おそらく後者の方だろうと自身で確信しながら、未佳はしばし放心状態のまま、その場に静止し続ける。
そしてそれだけである程度の時間が過ぎた後、ようやく今さっき自分の見ていたものが夢であると気付き、落胆した。
(バッカみたい・・・・・・。何なの、あの夢・・・)
関西での血筋上、人に対して言うのには抵抗のある『馬鹿』だが、自分に対してはそれほど抵抗感がない。
いやむしろ、今自分に対してこうでも言わなければ、気持ちがスランプにハマっていく結果を重々自覚していたのだ。
そんな自虐の言葉を頭の中だけで呟きながら、未佳は乱れて前へ下りてきた髪を、ざっと手ぐしで後ろの方へと掻き戻す。
たった今眠りから覚めたばかりであるというのに、妙に身体に重い劣等感が圧し掛かる。
時間が近くにないので時間こそ分からないが、閉められたカーテンの隙間から微かに濡れる陽の光りから察するに、既に陽が出てからかなりの時間が経過しているようだ。
(にしてもなんであんな夢を・・・・・・)
相変わらず手ぐしで後ろ髪を直しながら、これもまた、未佳には何が理由であったのか自覚していた。
「・・・・・・・・・フゥー・・・・・・。『暗闇』・・・ね・・・」
その言葉を反動にするかのよう、未佳は半分座っているに等しかったベッドからゆっくりと立ち上がり、目の前のカーテンを両手で引き開ける。
『シャアァー・・・』という音と共に開き切った窓の向こうからは、美しい青空と太陽の光が降り注いでいた。
「めっちゃ晴れてる・・・・・・・・・。あっ」
ふっと何気なく視線を下へと向けた時、未佳はそのベランダのある変化に気が付いた。
未佳のマンションのベランダはコンクリート製のもので、見た目的にはかなり白っぽい。
当然土などが敷ける環境でもないので、ガーデニングはプランターか植木鉢でしか行えない。
もちろん未佳も、一部はプランター、一部は植木鉢のみで、お気に入りの草木を育てていた。
しかし今の季節、花を咲かせているのは春が開花時期のムスカリとユキヤナギだけで、その他の植物達は、皆まだ緑色の葉しか残っていない状態。
色合い的にも、ほぼ白に近いコンクリートやプランターに、茶色が強い陶器製植木鉢。
緑や黄緑色の若葉。
そして、僅かながらに見えるムスカリの紫。
最高でもその4色しか見えない状況であったのだ。
しかし今ベランダを見下ろしてみると、一番陽当たりのいいベランダ中央。
ベランダの手摺り手前に置かれていた植木鉢から、今まで一度も確認することができなかった色があることに気が付いた。
それは、ムスカリの柔らかい感じの紫でも、ユキヤナギのような優美な白でもない。
何処までも深く、そして、強く太陽に向かって突き向くかのような、真っ赤な紅い色。
しかもそれが、ざっと確認できるだけでも3つほど。
大きさはほぼピンポン玉と等しいくらいで、形も少し丸みがかっていた。
そしてそれをベランダで見つけた瞬間、未佳は自分がパジャマ姿であることも忘れ、大急ぎで窓を開けてその紅色の元へと向かう。
他の植木鉢の葉によって隠れていたところを抜け、ようやくその正体を確認すると、未佳の顔が、一気に太陽と似た晴れ顔へと変わった。
「わぁ~っ・・・・・・ハッハハッ♪ やった! 咲いたッ~♪♪」
その真っ赤な紅い固まりの正体は、未佳がずっと大切にしていた、あのミニバラの花であった。
昨日の時点でははち切れんばかりに蕾が膨らみ、ところどころに花の色である紅がチラついていたのだが、残念ながら花を咲かせることはなかった。
しかしそれが、今日のこの満天の青空と太陽の光りによって、一気に3輪も咲き出したのである。
「嬉しいー・・・。昨日咲きそうだったもんね~。枝も折れてないし、ちゃんとイベント中部屋の中に入れといてよかった♪」
ただしバラは、花1輪開花させるのに2日も掛かる植物。
そのため『花が咲いた』と言っても、形状的にはまるでコルクのような形の筒状。
一番バラらしい円形状になるのは、早くても明日くらいだろう。
(全部開いちゃう前に写真撮っとこ・・・)
〔あれ? ・・・未佳さん?〕
「・・・ああ、リオ。おはよ~」
〔起きてたんだ・・・。で、何やってんの?〕
『そんなパジャマ姿で』と、さも言いたげな表情のリオに、未佳はリオがまだ辛うじて室内にいることをいいことに託けを命じる。
「あっ、リオ。ついでにリビングから私の携帯取ってくんない? それとデジカメもっ」
〔はっ? なんで??〕
「いいから! ・・・ほら、バラが咲いたのよぉ! バラがぁ~!!」
これは何を言っても無駄だと察したのか、リオは両目を宙に仰がせながら、短い溜息と共に部屋の奥へと姿を消す。
無論、未佳に頼まれた携帯とデジカメを取りに、だ。
「今日は3輪だったけど~・・・。まだ咲いてない蕾が、いち、にぃ、さん・・・・・・6輪くらいはまだ咲くかな・・・?」
〔デジカメ見当たんないよー?!〕
「そんなわけなーい! ちゃんと持って帰ってきたぁー!」
〔じゃあ何処にやったのさぁー!!〕
「・・・・・・たぶんカバンの中ー! それかもしくは、いつもの棚上ー!!」
〔だから無いんだってばっ!!〕
最初の方では少し苛立った感じに、リオがリビング越しに未佳に対して叫ぶ。
だが他に、デジカメを置いている場所の候補はない。
東京から戻ったあと、荷物は着替えや食料品以外はすべてそのままにしてしまっているし、仮にデジカメを片付けたにしても、いつものバッテリーやUSB、SDカードなどが置かれている本棚の上のはず。
帰りの新幹線の中で画像も確認したのだから、カメラを車内に忘れてきたなどということもない。
もっとも、そのイベント中に入れておいたカメラ内部のSDカードについては『今後の存在として使いたいから』という理由で、一時的に栗野が所有しているが。
「無いわけないでしょぉー?! 私、ちゃ~んっと持って帰ってきたわよ!?」
〔(だから無いっつーの!! ・・・・・・・・・・・・仕方ないな・・・)〕
「・・・・・・? リオ~?? どーしたのぉー? カメラあったぁ~??」
相変わらずミニバラの方に視線を向けたまま、未佳は背中越しにリオに尋ねる。
しかしどういうわけか、リオからの未佳に対する返答は一切ない。
よもや見つからないものを『ある! ある!!』と叫ぶ自分に怒ってしまったのだろうか。
ふっと心配になり、部屋の方に視線を向けた未佳は、その視界に映った光景に硬直した。
開け放たれた窓からも見える、青白い光。
その光が漏れている位置から考えるに、そこはリビングだろう。
そしてこの光の正体は、考えるまでもなくリオだ。
おそらくまた、何か秘めている能力を使っているに違いない。
もちろんこの光も、未佳以外の人間が目にすることは絶対にできない。
だからどんなに激しく光っていようと、周りの人達がやれ騒ぎやら、やれ警察やら消防やらを呼び寄せてくることもない。
それは分かっている。
しかしどんなに他人には見えないものと言っても、唯一ソレが見えている未佳からしてみればかなり不安だ。
いくらリオとの生活が慣れてきたとはいえ、今までに数えるぐらいでしか使っていない能力を見せる瞬間は、今でも目を見開くほど驚愕する。
そしてそんな能力を、今回はこともあろうに未佳の自宅で使用しているのだ。
これは些か室内の状況が不安になる。
まさか炎や電気にも似たエネルギーを発しているのではなかろうか。
それとも時空を歪ませるような能力を使って、過去の私からカメラを引っ手繰っているのではないだろうか。
はたまた、部屋全体のものを宙に浮かせ、その中からカメラだけを取り上げようとしているのではないだろうか。
ちょうどリビングの辺りが寝室の扉に隠れて見えないがために、ついついそんな予測が脳裏を過ぎる。
残り数か月間の命であるにしても、さすがに今住み慣れている部屋をめちゃめちゃにされては困る。
そうでなくとも、今は東京旅行後でやや散らかり放題であるというのに。
(一体何やってんの?!)
さすがに心配と言うよりも不安になり、今度は自分がリビングの方へと向おうとする。
するとその場から立ち上がったと同時に光りが消え、何食わぬ顔をしたリオが再び窓際の方へとやってきた。
しかもその両手には、散々未佳に言われていたデジカメをちゃっかりと握り締めて。
〔ったく・・・。充電器に差してたことくらい、ちゃんと覚えててよ。未佳さんが言うから、全然見当違いな場所を・・・〕
「あなた今リビングで、一体何してたのっ?!」
思わずリオ側からの文句を遮り、未佳がその両肩を掴んで問い質す。
確かに、デジカメをリビングの床に置いてある充電器に差し込んでいたことを忘れていたのは、申し訳ない。
おかげでリオ的には、一切関係のない本棚のソファーの上などを探してしまった。
その件に関しては深く謝罪する。
しかし部屋で何かしらの能力を使っていたことは、また別の話だ。
ましてやその部屋の住居者が見えないような状況で行うなど、こちら側としては堪ったものではない。
そんな酷く慌てた様子の未佳に、リオは落ち着かせるように両手を上げる。
〔あぁっ・・・! だっ、大丈夫! 大丈夫!! 別に、部屋の中のもの散らかしたとか・・・! 宙に浮かせたとかじゃないから・・・!〕
「散らかしたのっ?! 浮かせたのっ?!」
〔いやっ・・・! だから『やってない!』っつってんじゃん!!〕
「じゃあ一体何してたのよぉ~!? あんなリビング全体光らせて・・・!!」
〔あれ? ・・・・・・前にやったのと同じのだけど?〕
「ん? 『前に』って・・・・・・・・・・・・ぁっ。もしかしてさとっちの時?」
そういえば以前、長谷川が風邪で倒れた際に体温計を見つけようとして、リオが似たような能力を使っていたことを思い出す。
しかしあの時は両目や身体の周りが青白く光る程度で、あそこまで広範囲なものではなかったはずだ。
「で、でも・・・。にしては光り方がおかしくない?? なんか扉の辺りー・・・めっちゃ光ってたよ・・・?」
〔あぁ・・・。だって未佳さん、家に“持って帰ってきた”ことはハッキリしてても、家の“何処にあるのか”は分かってなかったでしょ? だから僕、部屋全体調べた〕
「・・・・・・まさか部屋全体であの能力使ったのっ?!」
〔うん。・・・そしたら、足元から、反応があったから・・・。とんだ無駄遣い〕
そうジト目で睨んでくるリオに、未佳はただただ頭を下げて項垂れる。
「はいはい・・・。それはどうもすみませんでしたー・・・」
〔反省してる?〕
「してるわよ」
〔見えない〕
「・・・・・・・・・」
〔ま、いいや。とりあえず、ほいっ。・・・カメラ〕
そう勝手に話を打ち切って、リオは頼まれていたカメラを未佳の右手へと乗せる。
一方の受け取った未佳も、しばしカメラとリオの顔を納得のいかない表情で見比べ、やがて再びミニバラの方へと向き直った。
デジカメの画面に映し出された3輪のミニバラは、肉眼で見るよりもより紅みが強く、そして何とも言い表せない優美な姿をしている。
画面の下側に映っている深緑色の葉や茎や枝も、まるでこの花の紅を映えさせているかのようだ。
「・・・・・・・・・この辺りでいいかな・・・?」
ピピッ・・・カシャッ・・・・・・ピピッ・・・カシャッ・・・
ピントを合わせる音と、シャッターを切る音。
そんな音が数回、交互に繰り返されていた時だ。
ふっと、ひたすらカメラのシャッターを切っていた未佳の手が、突然ピタリッと止まった。
〔・・・・・・ん? どしたの??〕
「いや、なんか・・・・・・。あれ? なんでこの葉っぱ、くるんってなってるんだろ??」
それは、真っ紅な花の後ろ側に隠れるように伸びていた、若葉の一枚。
それも、一番栄養が行き渡っているであろう真ん中の若葉が、何故かくるりと裏側を巻き込むかのように丸まっていたのだ。
さらによくよく他の若葉も見渡してみると、なんと葉が丸まっているのはこの一枚だけではなく、ほぼ全ての若葉。
それも若葉の中でも一番葉の新しい真ん中のものだけが、裏側を巻き込むように丸まっているのである。
一応補足として言っておくが、本来バラの新芽や若葉などが丸まるということは、まずはない。
唯一近いものを挙げるとするならば、できたばかりの若葉が枝から生えてくる段階だが、それは『丸まる』と言うよりも、葉脈を中心に『二つに折れている』と言った方が近く、このような形になることはまずありえない。
むしろそればかりか、このような丸まった形成では、葉脈からの栄養なども葉全体に行き渡りにくく、光合成も葉の一部しか行えない。
明らかに不利益ばかりの状態だ。
とするならば、この状態が意味することはただ一つ。
何かこのミニバラに、良からぬ兆候や症状が出ているということだ。
「・・・まさか病気・・・?! こんなに花咲かせてるし、蕾もあるのに・・・。これで新芽が枯れちゃったら・・・!」
〔でもまだ新芽だけでしょ? 見た目も丸くなってるだけだし・・・、早めに手を打てば何とか戻るよ〕
「それはそうだけど・・・。でもなんで? ちゃんと陽の当たるトコにも置いてるし、肥料や水やりもちゃんとやってたのに・・・」
確かに未佳の自宅にやってきた時から、未佳がこのミニバラを手塩に掛けて育てていたのは知っていた。
少なくとも、このベランダに植えている植物の中では、一番大切にしていたように思う。
しかし植物に起こる病気には、空気感染するものや、水に含まれるもの。
季節、気候、害虫によるものなど、様々だ。
たとえ丹念に育てていたとしても、発症してしまうものは発祥してしまう。
これは防ぎようのないことなのだ。
「ふぅー・・・・・・。とりあえず今日・・・植木用の薬買ってこよ。土に突き刺すタイプの・・・」
〔へぇー。そんなのあるんだ〕
「でもホントになんでこんな状態になってんだろ・・・? 一体裏面はどうなって・・・」
ふっと何の躊躇いや警戒もなく、未佳は実に自然な動作で、丸まっていた葉の裏側をめくり上げる。
するとそこには、何やら美しい黄緑色をした小さな突起物が、葉の裏側にびっしりと浮き出ていた。
本来バラ科の新芽の裏は、深緑色に少しだけ渋めな赤紫色を乗せたような色をしている。
しかしこちらの葉の裏は、見事にその細く小さな黄緑色の出来物に支配され、黄緑一色と化していた。
(うわっ・・・! 何?! このボツボツ!! ・・・気持ち悪ッ!)
思わずそんな言葉を心の中で叫んでいた、その時。
ふっと今まで未佳が摘まんでいた箇所の突起物が剥がれ落ち、それが未佳の薬指や小指の上などに落下した。
しかもその落下した突起物を見つめてみると、微かにだが落ちた指の上を移動しているようにも見える。
さらによくよく目を凝らして見てみると、なんとその1ミリにも満たないような小さな突起物には、まるで人の睫毛よりも細い線状の足が生えていた。
それから、未佳がその突起物の本当の正体に気付いたのは、足を確認したのとほぼ同時のことであった。
「ッ!! ギャア゛ア゛ア゛ァーッ!!」
〔うわッ! どっ・・・、どしたのさぁ?! 未佳さん?!〕
「イヤッ! 虫・・・ッ! 虫イヤァーッ!!」
〔む・・・、虫??〕
「その黄緑の、全部虫!! わっ、私ッ・・・! 私、虫全般ダメなの!! さっ、さささっ、触っちゃった・・・! !! まだいるっ!! ギャアァーッ!!」
〔みっ・・・、未佳さん! とりあえず落ち着いて!! 落ち着いてっ!!〕
半分その虫によって錯乱している未佳を落ち着かせつつ、リオは素早く、未だ未佳の手に乗っている虫を払い落とす。
既にほとんどのものは落ちていたが、未佳はほんの1、2匹残っているだけでも、まったく気が気ではないようだ。
そのうち払い落とす工程の間に、リオは未佳の親指がやや黄色く染まっていることに気が付いた。
無論、最初に葉を摘まんでしまった際に潰してしまった、この虫の体液でないかと思う。
〔・・・・・・はい。たぶんみんな落ちたよ。あと親指・・・、かなり潰れてる〕
「ハァー・・・・・・。ヤダァ~、もうっ。ビックリした・・・。というかコレ、みんなその虫?!」
〔みたいだね。たぶんコイツらが原因で丸まってたんだよ〕
「・・・・・・・・・ハァ~ッ・・・」
よほど大切に育てていただけにショックであったのか、未佳は重い溜息を吐きつつも、果敢にもう一度、新芽の様子を確認してみる。
先ほど未佳が摘まんでしまった新芽には、ちょうど親指が当たったところのみの虫は落下していたが、それでもまだ葉の半分以上にはこびり付いている。
しかもそれがその他の新芽にもいると考えると、これは途轍もない数だ。
コイツらが新芽に付いていた理由は、十中八九栄養があるからだろう。
となればいずれ、また生えてくるであろう別の新芽や、徐々に膨らみつつある蕾にも、コイツらが群がってくる可能性がある。
葉が丸まっている時点で、この虫がミニバラにとって害虫的存在であるのは明らかだ。
枯れるのを防ぐためには、できるだけ早めに取り除からなければならない。
しかしここで木が枯れるのを防ぐために、新芽をすべて切り落とすなどというわけにもいかない。
どうすべきかと考えていた未佳の脳裏に、ふっと、以前ガーデニングについて話していた仲間との会話が過った。
「コレ~・・・・・・。なんだっけ?? なんか小歩路さんとか栗野さんとかに昔・・・聞いたことある・・・」
〔えっ? そうなの??〕
「うん。たぶんソレだと思うんだけど・・・・・・。なんだったっけなぁ~・・・?」
ギュルルル~・・・
「ぁっ・・・」
〔ん?〕
「・・・・・・考えてたらお腹鳴っちゃった・・・」
そういえば朝食がまだであったことを今更ながらに思い出す。
〔・・・・・・とりあえず服装もパジャマだし・・・。朝ご飯食べてから調べれば? この虫・・・〕
「そ、そうね・・・。とりあえず一旦戻るか」
『指も汚れてるし』と、未佳はなるべく親指を宙に浮かせ、ものに触れないようにしながら、室内へと戻っていく。
そしてリビングへと辿り着いたその時、またしても未佳の叫びが、リビング全体へと響き渡った。
「なっ・・・! 何よ、コレェッ!!」
室内へと戻った未佳の目に飛び込んできたのは、小物や雑貨などで酷く荒れ散らかった、自宅のリビング。
それもものの見事にそのすべてが、床一面に散らばっていたのだ。
特に本棚とテーブル上の状況はかなり酷く、乗せていたものはすべて床に散らばっている。
取り分け落としても壊れないようなものばかりであったのが幸運だったが、この荒れ状況は大問題だ。
仕事を増やされたのに越したことはない。
「何なの・・・この散らかりよう・・・・・・。リオーッ!! リオ! あなた一体何したのッ?!」
〔! なっ『何した?』って・・・・・・。カメラ・・・〕
「『部屋散らかしてない』って、さっきハッキリとそう言ったわよねぇ?! 完っ全に、アウトじゃない!!」
〔だから! 最初にカメラ探した時に、こんな感じに・・・。で、でも・・・! 言った通り、能力では一切やってないよ!?〕
「・・・・・・・・・」
〔ほ、ホントだよ・・・? ただ普通に探してる時に、あの〕
「アホッ!!」
その後未佳が朝食を口にしている間、一人リオはせっせと、リビングの後片付けにせいを出していた。
『機嫌』
(2009年 3月)
※事務所 控え室。
みかっぺ
「おっはよ~♪(^^)/(ハイテンション)」
厘
「あっ。みかっぺ、おはよう」
みかっぺ
「おはよう♪ ・・・あっ、さとっちもオハヨー」
さとっち
「ん?(ーー゛) ・・・あぁ、おはよ(適当)」
みかっぺ
「ちょっと? ・・・何? その態度(苛) 人がせっかく挨拶したんだから、もっとちゃんと答えなさいよ(怒)」
さとっち
「あぁ・・・。別に・・・。今日機嫌悪いから、あんま話し掛けんといて(ジト)」
みかっぺ
「はっ?!(謎) ・・・・・・さとっちどうしたの?(尋)」
厘
「なんか昨日の夜中のサッカー負けたみたいで・・・、めっちゃ朝から機嫌悪いんよ(ーー゛)」
みかっぺ
「ハァッ(落胆) 『私情を仕事に持ち込むなっ!!』つうの!(怒) ・・・じゃあ・・・今日はなるべく声を掛けない方がいいわね(ーー;)」
手神
「あっ、みんなおはよう」
みかっぺ・厘
「「おはよう~。手神さん」」
手神
「みんな見た?? 昨日のサッカー完全完ぱ」
さとっち
「あ゛あ゛ぁ゛ッ!! 朝の挨拶みたいにサッカー話すなァ゛ァ゛ァ゛ッ!!(激怒)」
あ・・・、あの・・・。
一応先輩・・・ゞ(-。-;)