131.パールネックレス
「うわぁー・・・・・・。結構広いなぁ~・・・」
2階に到着した早々、思わず未佳の口から零れたのは、こんな感想であった。
だが確かにそう言ってしまったように、2階はジュエリー系のものを扱うアクセサリーフロアとコスメフロアぐらいのものしか入っておらず、またそれがかなりの広さを誇っているのだ。
ただ有り難いことを言うと、アクセサリー系を取り扱っているフロアはここしかなく、またジュエリー系ではいくつもあるブランド店なども、一くくりに『ジュエリー・アクセサリーフロア』として、特定のスペースに固められていたことである。
これであれば、いくつか候補のある店舗を見て回るのも楽だ。
もっとも今回、未佳は特定のブランドやら店舗やらは一切決めてない。
ただすべてのショーケースを見て回り、その中でよさ気に思ったものを購入するだけである。
これだけ高級なものが取り揃えられているのだ。
外れるなどということはまずないだろう。
「じゃあー・・・見てくかっ♪」
〔うん〕
見て回る方法や方角は、何となく作られているように見えた通路に従った。
単に自分達の進行方向から一番最初に見えるショーケースを見てゆき、そこから波縫いのように通路を回っていく。
それだけ。
ちなみに真珠が一番ジュエリー系として店頭に出されるのは、5月下旬頃から8月頃にかけての約3ヶ月半ほど。
理由は、真珠即ちパールが、6月の誕生石とされていること。
そして、お盆の時期などによく着られる喪服などの装飾品として、真珠を身に付ける機会が増えるためである。
そのため、今は一番真珠が出回っている時期ではないのだが、何かしら扱っているところは一つくらいはあるだろうと、未佳はそう思うことにしていた。
(それに6月以降とかになっちゃうと、な~んか喪服っぽいデザインのやつばっかりになっちゃうよね~・・・)
〔あっ〕
「あっ、あった?」
そのリオの声に弾かれるよう見てみると、ショーケースの中には真珠のアクセサリー類がズラリ。
それも一部的な品揃えではなく、メインアクセサリーとして取り扱っているようだ。
「!! おぉっ・・・、ナイス! ・・・若干ここだけでも選べそうね」
〔えぇ~っと・・・。5万円代でネックレスとイヤリングだったよね?〕
「うん。でも無いようならネックレスだけでもいい・・・。とりあえずネックレスは買い決定項目だから」
〔うん。・・・・・・コレは?〕
「うん?」
まず最初にリオが指差したのは、自分達の位置からやや正面に置かれていた、丸い真珠のネックレス。
純粋に真珠のみを使用したデザインであるのか、鎖部分には特に何の飾り等も付けられてはおらず、見た目もかなりシンプルなものである。
ただし真珠の形自体は、未佳の求めていた球体型であるし、値段も31069円と予算内。
この値段なのだから、天然物であるということも間違いない。
だが未佳には一つだけ、どうしても『コレ』とは言い出せない箇所があった。
「ちょー・・・っとぉー・・・・・・。珠デカくない?」
〔そう? ・・・コレくらいが普通なんじゃないの?〕
「いや、だってさ。その横にあるイエローパールの大きさ。・・・あっちの方がちょうどよさ気に見えない?」
〔・・・・・・あぁ~〕
確かにたった今リオが指差した真珠のネックレスと、その隣りに置かれているイエローパールのネックレスを見比べてみると、明らかに通常の真珠の方が大きい。
『大きい』と言っても、決してそのサイズが大珠クラスにまでいってしまっているというわけではなく、単に『中』の中でも大きめな珠を使用しているだけのことである。
「ちょっとコレは・・・お母さんには少し大っきいよぉー・・・。せめてあのイエローパールくらいのがいいかな?」
〔じゃあそのイエローパールは?〕
「アレもない・・・。お出掛けとかの時にはともかく、お葬式とかにはしてけないもん・・・。大体あっちいくらよ?」
〔43016円〕
「高っ!」
次に未佳が目を付けたのは、そのショーケースの2列目に並べられていた中珠のネックレス。
こちらは先ほどの二つとは異なり、ネックレスの中心に銀素材のネックレストップをあしらったデザインだ。
またそのトップの中心には、ネックレスに使用されているものよりやや一回り小さな真珠が埋め込まれている。
フォーマルなアクセサリーとしてはよく見られるデザインであるが、見た目的には悪くはない。
「キレ~イ・・・」
「よろしければお取りしはりましょうか?」
「えっ・・・」
ふっと未佳がショーケースを覗き込んでいることに気付いたのか、明らかに未佳よりも若い女性店員がスルリとショーケースの反対側に手を入れ、未佳が気になっていたネックレスを取り出す。
「こちらは、トップに小振りのアコヤ真珠をあしらってはりまして、その周りは純銀を、使用してはります」
「確かに・・・。ちょっと重さがありますね」
そう、店員に手渡されたネックレスを手のひらで上下させながら、未佳はうんうんと頷く。
『重さがある』と言っても、それは首に負担の掛かるような重さではなく、ただ金属物特有の重量を感じるだけである。
「・・・周りの真珠もアコヤ真珠ですか?」
「はい。養殖のものにはならはるのですが、すべて、愛媛県の宇和海産から取れたアコヤ真珠で、統一してはります。・・・留め金はこちらの丸い方に、もう片側の尖った方を『カチッ』と鳴るまで、差し込むだけです。外す時は丸い方の真ん中を押すと、外れます」
そう細かく未佳に説明しながら、店員はそのネックレスの止め外し工程を見せる。
この止め方も、フォーマルネックレスではよく見られるものだ。
ただ、まだ完全にコレに決めたわけではない。
確かにデザイン等はよかったが、できればもう一つ二つほど、候補的には見てみたい気もする。
「はぁ~ん・・・・・・。こちらのもの以外にも、何かオススメのものとかはありますか?」
「そうですねー・・・・・・。あっ、こちらなんていかがでしょう? 少し黄色がかったアコヤ真珠を使用している、人気のパールネックレスなんですが」
「わぁ~♪ 可愛い~♪♪」
ふっとそのネックレスを一目見た瞬間、未佳は両手の指先を口元に当て、ぱぁーっと両目を輝かせた。
というのもその真珠のネックレスは、何とも未佳好みの可愛らしいデザインであったからだ。
店員が話した通り、その真珠は『イエローパール』とは呼べないまでも美しいクリーム色で、おまけに今までに見てきたアコヤ真珠の中では、一番の小粒サイズ。
またその真珠と真珠の間には、さらに小さく透明な宝石らしきものが繋がれており、それがネックレスを動かす度にキラキラと光り輝いていた。
感じから言って、これは『フォーマル』というよりは『カジュアル』路線だろうか。
「こちらは二重式のネックレスになりまして、真珠と真珠の間には、小粒のクリスタルを使用してはります。留め金は、先ほどのものと同じやり方です。同ブランドで現在、人気の高いパールネックレスなんですよ?」
「へぇ~・・・・・・・・・ぁっ」
そんな店員の説明とモノを見てついついうっとりとしてしまっていた未佳であったが、よくよく見てみれば、これは母親の年齢層に合ったデザインのものではない。
明らかに未佳自身の年齢層に合ったものだ。
そもそも、未佳はまだこの店員に『母親のネックレスを買いにやってきた』と一言も伝えていない。
自分が身に付けるものを買いにやってきたと思われても、それは無理のないことであった。
「あ、あの・・・」
「はい?」
「そのデザインのものもすごくいいんですけど・・・・・・。実はー・・・、今日自分用のものを買いにやってきたわけじゃなくて・・・」
若干苦笑いを浮かべつつしどろもどろにそう話すと、店員もまた可笑しかったのか、こちらに苦笑にも似た笑みを返した。
「あぁ・・・っ! スミマセン! ロクに確認もせずに」
「いえいえいえ! 私もちょっと言うのが遅れて・・・」
「いえいえ、大変失礼しました・・・」
店員はそう苦笑しつつ、今さっきまで未佳が見ていたネックレスを再び、ショーケースの中へと戻した。
「ご家族の方やご友人などの、プレゼントでしょうか?」
「あっ、はい。私の母なんですけど、前々から真珠のネックレスを欲しがっていて・・・。できれば普段や大事な席などでも身に付けられるタイプのものがいいんですが・・・」
「なるほど・・・・・・。すみません、よろしければお母様のご年齢をお伺いしても?」
「えぇ~っと。今月でちょうど60になるんですけど・・・」
「! はぁ~、なるほど・・・・・・。ご予算的には先ほどご覧になはれていたものと同じくらいー・・・?」
「そうですね。一緒にセットでイヤリングとかも買いたいので、できれば全部で5万円弱くらいのものが・・・あっ。ちなみにさっきのネックレスって、おいくらぐらいだったんですか?」
「こちらはー・・・税込み43650円になりますね」
「!! Wh~o」
『さして高くはないだろう』とタカをくくっていた部分もあり、未佳は店員の口から飛び出してきたその金額に目を見開く。
今まで見てきたものの中でも断トツの金額であったが、おそらくそれはネックレスのデザインや真珠によるものではなく、きっとこの間にチマチマと入れられているクリスタルのせいであろうと思う。
(世の中『景気が良くなってきた』とは言うけど・・・明らかに庶民には無縁の話よね・・・)
「セットですと、当ジュエリーネックレスはすべて、イヤリングと2セット、もしくはブレスレットやブローチなどの3セットのものになってはりまして・・・。またセット金額に100円の追加で、イヤリングをピアスに。200円の追加で、ピアスまたはイヤリングの部品を低アレルゲン素材のものに変更することもできます」
「あっ・・・。じゃあどれを選んでも、少なくともイヤリングは、ネックレスのセットで買えるんですね?」
「はい。全セットで、お取り扱いしてはります。・・・そうですねぇ~・・・。お母様のご年齢にあったものでいいますとー・・・・・・・・・こちらのネックレスなんていかがでしょう?」
続いて店員が手にしてきたのは、今未佳が見ていたショーケースではなく、その左側に続いていたショーケースに置かれていたネックレス。
遠目でも分かるソレは、中サイズの白い真珠が丁寧に通された、まさに典型的なパールネックレスのデザインであった。
「たぶん一番目にする機会の多いパールネックレスのタイプであると思うんですが・・・。こちらは少々光沢の強いアコヤ真珠を使用してはりまして、ちょっと手で動かすだけでも・・・このように」
確かにそのネックレスは、店員がほんの少しばかり手を傾けただけでも、ほのかな淡い光を放っていた。
この程度の傾きでここまで光るのであれば、首に飾って振り返る動作をしただけでも、十分な存在感を出せるだろう。
「この光沢はー・・・何も塗料だとか加工はしてないんですか?」
「はい。貝から採取した際に、よくこのように光る真珠が出てくることもございまして・・・。こちらはそう言った真珠のみを使用したものになります。本来、この手の真珠はイヤリングやブローチなどに使用されることの方が多いのですが」
「あぁ~・・・。確かにブローチとかで見たことあります。こういうの」
いや、正確には『自分が以前衣装で身に付けていた』と言った方が正しいだろう。
確かあの時は、白い何かの花をイメージしたかのようなブローチで、その花の中心が、こんな感じの真珠であったように思う。
もっとも、アレが本物であったのか偽物であったのかまでは、少々わからないが。
「コレは真珠のサイズだと『中』なんですか?」
「・・・そうですね。当店舗では『中サイズ』を『M』と呼んではりまして。その中でも1から3までのサイズがございます」
その後の店員の説明によると、ここでは服のサイズ同様に、一番小さいサイズを『S』サイズ。
一番大きなサイズを『L』サイズと呼んでいるらしく、またそのサイズの中にも細かく3段階があり、メインのサイズは全9段階。
さらにそれよりも小さなサイズのものは『小指』を意味する『ピンキー』サイズ。
大きなものは『デラックス』を意味する『Ⅹ』サイズと呼んでいるのだという。
「そちらは『M3』サイズのものとなりますので『M』サイズの中では一番大きなサイズになるのですが・・・・・・。大きいですか?」
「うぅ~ん・・・・・・・・・。ちょっと大きいかも・・・しれないです。・・・これよりも小さいサイズも、一般的な白い真珠がのものってありますか?」
「『M2』以内でですね? かしこまりました。確認してまいります」
そう未佳に言うと、店員は再び左側のショーケースのところへと向かい、その中を条件に合ったものがないか覗き込む。
もしかすると、ここは年齢層別に商品の置く場所を決めているのかもしれない。
そんな予感がした未佳は、自らも同じく左側のショーケースの方へと足を向かわせてみる。
それから店員が次の候補を取り出すまで、さほど時間は掛からなかった。
「こちらはいかがでしょうか? サイズは2段階下の『M1』サイズなんですが・・・。人気は高いものになります」
「へぇ~・・・。二段階違うだけでもだいぶ違いますね」
「はい。こちらも今まで同様アコヤ真珠なんですが、こちらはその時の機会に合わせて・・・このネックレストップの付け外しができるタイプになります」
そう言って店員が左手のひらから出したのは、昔からよく見る菊の花の形を模したような、銀製のネックレストップであった。
その菊の花の中心には、ネックレスのものと同じタイプの真珠が一つ。
そしてその周りの小さな花びらには、微かに粉のようなキラキラと光るものが埋め込まれていた。
「キレ~イ・・・。確かにこれなら兼用できますね」
「はい。今年入荷したばかりの新作パールネックレスにならはるんですが、年配の方々には大変好評で。皆さん付け外しができる点で、大変喜ばれてはります」
「確かに。・・・このトップの花びらが光っているのはー・・・・・・やっぱりクリスタルなんですか?」
「あっ、いえ。こちらは贅沢品ながら、本物のダイヤモンドを使用してはります」
「!?」
ここでまたしても予想していなかった言葉が飛び出し、未佳はトップから一気に店員の顔へと視線を移す。
「だっ、ダイヤなんですか?! それも天然の!?」
「はい。ただしこちらのダイヤは、他の商品の加工途中で粉状に小さく削れてしまったものを使用しておりますので・・・。贅沢品ながら、皆様がお手軽に購入していただける金額設定に抑えました。見た目もそこまで主張的なデザインではないので、どのような場でも身に付けられるかと・・・。私共のコンセプトといたしましては、静かなエレンガントさを意識したものになりますね」
確かにこうして見ている感じでも、そのネックレスはそんなに派手な見た目ではない。
どちらかと言うと控えめに飾った感じだろう。
真珠の珠のサイズや形なども悪くはないし、トップもちゃんとした菊の花型。
ものとしては申し分ない。
ただ問題は、その抑えられた金額がいくら以内なのか、だ。
「は、はぁー・・・・・・。そのぉー・・・、お値段的には?」
「こちらはネックレスのみで、税込み35068円。セットですと、こちらはイヤリングとブローチがございまして・・・」
「イヤリングと・・・ブローチ?」
「はい。こちらに・・・・・・。こちらがそのセットとなっているイヤリングと、ブローチです」
そう言って左ショーケース内の右端を示す先には、透明なプラスチックの小さな台座に乗せられた、ネックレスと同様の真珠のイヤリング。
そしてその手前下の方には、底が白いショーケース内に直に置かれた、真珠とダイヤらしきもののブローチが陳列されていた。
どちらもネックレスに合わせシルバーカラーで統一されており、イヤリングには一つだけ付いている真珠の他に、まるでその真珠の珠の下から生えるように、細く美しい曲線を描いた銀がいくつも飾られている。
かなりの繊細さを感じるデザインだ。
そしてブローチの方は、イメージしたものは川の流れであるのか、下に向かって左右に流れるような形の見た目をしていた。
一部その流れの中で光り輝いて見えるものは、トップにも使われている粉状だろうか。
さらにこのブローチには、ネックレスに使われているものと同様のもの以外に、小さな別の真珠も使用されていた。
ちなみにそれらの真珠は、ブローチのところどころに5つほど散りばめられている。
その見た目はまるで、川に流れていく白い花びらか、夏に飛び交う蛍の灯りか。
それとも、一生を終えた人間の魂が、灯篭流しとして川を下り帰る姿か。
そんな風にも思えた。
「それでお値段の方なんですが、イヤリングが単品で税込み1800円。ブローチが税込み2990円になります」
「・・・・・・つまり最大で4万円弱・・・ということですね?」
「はい。・・・・・・いかがでしょうか?」
金額設定も悪くない。
むしろすべてセットで4万円代というのは、未佳が最初にイメージしていた理想の条件とドンピシャだ。
追加で入っているブローチも、デザインやもの的には悪くない。
それと同じ時に、コレ以上のものは求められないとも感じた。
まるで決心したかのように、未佳は一度肩に掛けていたカバンの持ち手を両手で握り上げ、再び店員の方に向き直る。
「決めました。・・・・・・コレの3セットをください」
「かしこまりました。では新品の方をお持ちしはりますので、少々お待ちください」
どうやら新品のものはここには置いていないようで、店員は未佳に一礼をすると、先ほど1階にあったものと同じ関係者用扉の奥へと消えて行ってしまった。
ただし、そこからこちらへ戻ってくるのに掛かった時間は、たった3分ほどである。
「お待たせしました~・・・・・・。こちらがネックレス。こちらがイヤリング。そしてブローチになります。念のため、欠陥がないかどうかなどのご確認を、お客様ご自身の方で、お願いいたします」
「あっ、は~い」
『一応確認』ということで、未佳はネックレスの留め金が外れていないか。
イヤリングの挟み口が曲がっていないか。
ブローチの装着部分に不具合はないか、飾りや真珠などに傷がないかどうかなどを軽くチェックする。
無論、何処も大きな異常などは確認できなかった。
「・・・大丈夫です」
「大丈夫ですか? はい。・・・それではお客様はプレゼント用ということで、よろしかったでしょうか?」
「はい」
「はい。こちらは直接お届けにならはりますか?」
「ああ~・・・・・・。できれば配達していただきたいんですが・・・」
「配達ですと、こちらは送料無料で、現在はお届するのに2~3日ほど掛かってしまいますが~・・・。ご希望の日付などございますか?」
「あっ・・・。できれば16日には・・・。その日が母の誕生日なので」
「16日ですと、ただ今関西圏内でしたらご希望可能です」
それは有り難い。
未佳の母が住むのは、関西圏内。
それもここからそんなに離れていない京都だ。
「あっ、京都の方なので大丈夫です」
「では、そのようにさせていただきます。・・・・・・配達のお時間はどうしはりますか?」
「! あぁ~・・・・・・」
それはあまり考えていなかった。
ただ午前中などの明るい時間帯にしてしまうと、下手をすれば外出してしまっている可能性もある。
「じゅぅ~・・・・・・8時ぐらい・・・」
「ぐらい・・・・・・。18時から20時までの間の時間帯でも大丈夫でしょうか?」
「はい。それでお願いします」
「かしこまりました。・・・あっ、あと今回クレジットカードでですね。こちらのLife goes on、もしくはCROWカードでご購入いただきますと、合計金額からさらに5%オフ、になる特典が付いておりますが」
この金額から5%オフということは、ざっと計算しても3万8千円ほど。
元値より幾分か安くなるのは嬉しいかぎりであったが、ここでそのカード案内を目にした未佳は思わず口元に右手を当てがる。
「あ゛っ!」
〔あ? どした?〕
「Lifeカード・・・・・・家に置いてきた・・・。10万キッカリ入ってたのに・・・っ!!」
〔あ~ぁ・・・〕
半分呆れたようなリオの声が、未佳の耳にのみ虚しく届く。
こういう時に限って、未佳はいつも容易に手を抜いてしまうのだ。
『まさか使わないだろう』『持っているのは物騒だろう』とついつい思ってしまい、結局自宅のカード類を仕舞っている煎餅箱の中に入れ放しにしてしまった。
その自らの失態にしばし下唇を小さく噛み、しかしそれから数秒と経たぬ内にあることを思い出す。
「・・・・・・あれ? ・・・そういえば私・・・・・・」
〔・・・ん?〕
「・・・!! あっ・・・! あった!! すみません! CROWカード、持ってます!」
未佳が財布から取り出したソレは、先ほどリオと少々話題になっていた、あのドイルのシルエットが描かれているクレジットカードであった。
実はこのクレジットカードは、元々別のクレジット会社のものであったのだが、その会社が4年ほど前にCROW関係の会社と合併し、会社名も『CROW』に代わったのだ。
つまりこのカードは今、CROWのクレジットカードとなっているのである。
「コレも適応されますか? 前の子会社名のままなんですけど」
「ぁっ、っちょっと拝見します。・・・・・・はい。登録名に入っておりますので、大丈夫ですよ。では、5%割引き、させていただきますね」
あっさりとそんな返答を返され、未佳はホッとすることもできず放心したように立ち尽くしていた。
その間にも、店員は手慣れた手付きで目の前に置かれた電卓を片手で素早く打ち込む。
カタッ・・・ カタカタカタッ カタッ・・・
「はい。対象クレジットでのお買い求めですので、定価から5%分引かさせていただきまして、お会計37865円になります」
「は~い・・・」
「・・・よかったですね、クレジット・・・」
「えっ・・・? ・・・あ、アハハハ・・・、本当。前のクレジット会社目のままだから、ついつい間違えそうになっちゃって・・・。ハハハ・・・アブナイ、アブナイ・・・」
そう小声で連呼しながら、未佳はそのクレジットカードを店員に手渡し、領収書にサイン。
さらにその後実家の住所指定やラッピング内容なども事細かに決め、本日最大の目的であった母親のバースデイプレゼントは、ようやく終了した。
『ギャップ』
(2005年 6月)
※雑誌取材会場 控え室。
※本番まで思い思いにくつろぐメンバー。
厘
「~♪♪」
さとっち
「本読んでる時の小歩路さんって、な~んか幸せそうっすね(しみじみ)」
みかっぺ
「あぁ~・・・。でもあれ・・・本じゃなくて漫画読んでるんだけど・・・(苦笑)」
さとっち
「ぶッ・・・≡Σ ̄;) まッ・・・、漫画ッ!?(驚) あの小歩路さんが!?(聞返)」
みかっぺ
「何よ。今頃知ったの? 小歩路さん結構楽屋とかで読んでるよ? そこそこ通みたいだし・・・」
さとっち
「そんなん初めて知ったわ・・・・・・。何系?」
みかっぺ
「・・・それが結構筋肉系とかアクション系・・・。なんか男子が好きそうなジャンルの・・・」
さとっち
「・・・・・・・・・もはや意外過ぎて言葉も出てこうへん(ア然)」
厘
「・・・! アッハハハ!!(笑)」
みかっぺ・さとっち
「「ビクッ!!Σ(゛ ̄Д ̄) Σ( ̄ ̄;)」」
厘
「ここでこう出るぅ~?! フフフッ・・・(笑) コイツ、全然アカンやん! アッハハハハッ!!(爆笑)」
さとっち
「(“ ̄Д ̄) ・・・・・・こんなトコ、ファンには絶対見せられへんな・・・(唖然)」
みかっぺ
「えぇ~? でもなんかギャップ萌えしそうじゃな~い??ヽ(▽⌒*)」
さとっち
「ねぇよ!!(即答)」
それよりもむしろ読んでいた漫画が気になる・・・(笑)