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118.修学旅行の思い出

〈〈〈〈〈キャァーッ!! みかっぺぇ~ッ!!〉〉〉〉〉

〈〈〈〈〈さとっち~ッ!! さとっちーっ!!〉〉〉〉〉

〈〈〈小歩路様ーッ!!〉〉〉

〈〈〈厘様ーッ!!〉〉〉

〈〈〈GOD HAND~!! GOD HAND~っ!!〉〉〉

〈〈〈手神さぁ~ん!! 手神さァ~んっ!!〉〉〉


毎度お決まりの黄色い歓声に手を振りつつ、4人は会場・事務所スタッフの両者に誘導され、元来た関係者用通路へと向かう。

スタッフの一人が扉を開封したところで、まずは先頭を歩いていた未佳が。

次に長谷川、厘、手神へと続き、最後に扉を開けていた男性スタッフが、通路の中へと入って行った。

『ガチャン!』という、扉が閉まる音が辺りに鳴り響き、扉の前にいた男性スタッフが、すぐさま未佳達の先頭へと回る。


「はい。・・・じゃあ一旦、皆さんが午前中入られていた楽屋に向かいますね? ・・・・・・何かスタッフさんやマネージャーさんから聞いてますか?」

「あっ、いえ。今のところ託けは、何も・・・」

「そうですか。ではまずは楽屋へ案内しますんで・・・どうぞ」


何はともあれ『とりあえずは楽屋へ』と言った感じに、男性スタッフはスタスタと先頭を案内しながら歩いていく。

この行き慣れた感じの歩き方や、見知らぬ顔立ちから予想するに、どうやらこの男性は、ここの会場関係のスタッフであるようだ。


もっともその目印とも言うべき首から下げているネームタグは、しっかりシャツの中に入り込んでしまい、見えなくなっていたが。


「あ、あのー・・・。ここの会場スタッフの方なんですか?」

「はい。・・・あっ、すみません。申し遅れました・・・。私、ここの整備係を担当しております。“サカイ”です」


そう言ってシャツの中に隠れていたネームタグを取り出しながら、男性はそのネームタグを自らの顔の横に並べる。

確かにネームタグに印刷されている写真はこの男性であったが、メンバーが注目したのはその箇所ではなく。

その男性の名前の方であった。


「えっ・・・?」

「「サカイ・・・??」」

「なんだ。こっちの歌姫さんと同じ苗字じゃないっすか~」

「えっ? ・・・あぁ、でも。『サカイ』と言っても、僕は一般的な『酒』の方の『酒井』ですから・・・。ほら」

「あ、ホンマや・・・」

「早々私と同じ『坂』の『坂井』はいないわよ。結構少ないんだから・・・」

「でも珍しいですよね? 『坂』の『坂井』って・・・。僕読みが同じな分、憧れます」

「エッ? あっ、そ、そうですね? ハハハ・・・」


もっともそのことがキッカケで、事務所での苗字の誤植が多いのになと、未佳は苦笑しながら思った。


「では・・・。しばらくしましたら、栗野さんもこちらに戻られると思いますので」

「あっ、はーい」

「色々とありがとうございました」

「いえいえ。あぁー、あと・・・! 先ほどスタッフの方々との打ち合わせで、夕食がこちらの会場のeatコーナーで取ることになったみたいです」

「えっ? そうなの?!」

「あっ、はい・・・。なのでいつでも外に出られるよう、貴重品などをまとめておいてほしいと、先ほど連絡が・・・」

「ぁっ・・・分っ・・・かり~ました・・・。ありがとうございます。わざわざ」

「いいえ。それでは、しばしお待ちください。失礼しまーす・・・」


最後に軽く一礼を返し、酒井という男性スタッフは、そのまま静かに楽屋をあとにした。


酒井が楽屋をあとにしたのその後。

4人は先ほどの酒井からの連絡通り、手頃なカバンの中に必要な小物などを詰め込む。

もっとも大半のものは昼食時に入れっ放しにしていたので、新たに追加で入れ直したのは携帯しかなかったが。


「ん? ・・・あっ」


ふっとカバンに荷物を詰め込もうとしていたその時。

偶然にもそのカバンに寄り掛かったまま眠っているリオが目に入り、未佳は両脇腹に手を当てながら『ハァッ』と重い溜息を吐いた。


しかもただ眠っているだけならいざ知らず、リオはまたしてもウォークマンを耳に入れたまま眠っている。

当然のことながらその間、ウォークマンは電源が入っているどころか、音楽が垂れ流し状態である。


(嘘でしょ・・・・・・。っていうことは何? また充電しておいたのに、結局ソレ無駄になってるわけ?? ・・・・・・・・・)

〔・・・・・・・・・っ・・・・・・!!〕



サッ・・・!

バンッ!



「なっ、なんや?! 今の音は・・・!」


ふっと突然背後から聞こえてきた何かを引っ叩く物音に、驚いた長谷川は思わずビクッと身体を飛び上がらせる。

急いで音のした方を振り返ってみるが、そこにいたのは、何故か平手で叩いた形のまま硬直している、あの未佳の後ろ姿のみ。


「な、何やったん・・・?」

「みかっぺ、今一体何したん?!」

「あぁ~、気にしないで・・・。ちょっと埃叩いただけだから」

「どっ・・・、どんだけデッカイ埃やねん!!」


一方その頃。

間一髪のところで平手の気配を察したリオは、とっさの判断で素早くカバンから飛び起き、身軽に空中回転でその場を飛び退いていた。

その動作は、まるでアイドルグループなどが得意とするバク転そのもの。


その意外にも身軽なリオの回避行動に一瞬だけ驚きつつ、未佳は見事に逃げ出したリオを横目で睨み付けた。


「・・・・・・ふ~ん・・・。意外と身軽なんだね」

〔そっ・・・、そういうことじゃないでしょ!? 未佳さん!! ・・・っていうか僕を殺す気?!〕

「あなた別に『死ぬ』も『生きる』もないでしょうよ! おまけにまた人のウォークマン勝手に使ったりしてぇ~・・・!!」

〔そ・・・、それよりももっと周りを気にした方が・・・〕

「はぁ~っ?! ・・・ぁ」


そう言われて背後を振り返ってみれば、そこには荷物をまとめていた3人が、かなり好奇的な視線を未佳に対して送っていた。

もちろん今まで通り大越での会話は行ってはいないが、確かに自分の荷物付近で何やらブツブツと呟いていれば、大概の人間は一体何をしているのだろう、と思わずにはいられないだろう。

実際にもし自分が第三者側であったとすれば、間違いなくこの3人と同じ行動を取っているに違いない。


「あ、あぁー・・・・・・。気にしないで。なんでもない」

「ホンマに・・・? 最近独り言ホンマに増えましたよ? 坂井さん」

「う、うん・・・。大丈夫、なんでもないから」

〔ちょっと言葉と手が乱暴なだけだもんね〕



ガコンッ!



〔あっ、痛ェ!〕


その後気を取り直して荷物をまとめ始めた4人であったが、荷物をまとめているのは自分達だけではなかったらしく。

薄い楽屋壁の向こうからは、関係者用通路で片付けを行っているのであろう機材音や足音などが、少々忙しなく鳴り響いていた。


「なんか外も大騒ぎみたいね・・・。また外出る時、通路すごそう・・・」

「というか・・・。まさか夕飯もここになるとは思わなかったっすね。まだ連絡行き届いてない感じだったみたいっすけど・・・」

「でもホテルに帰ってからっていうのも・・・。ちょっと今からじゃ遅いよね~?」

「どうせ戻ってすぐに食べるわけやないし・・・」

「こっちの方が手っ取り早いと言えば・・・そうなのかもなっ。・・・よし! これで準備完了! ・・・いつでも出られるようにー、カバンをテーブルの上にでも並べとこうか」

「あっ、そうっすね。そっちの方が、スペースも取れますし」


ということで用意の済んだ4人は、それぞれ手荷物をテーブルの上へ。

さらに4人はテーブルとセットになっていた椅子へと腰掛けると、まるで自分の荷物を抱き抱えるかのように、その上に自らの身体を伏せて待機していた。


しばらくそんな体勢で栗野の戻りを待っていると、ふっとここで未佳があることを思い出し、クスリと3人を見て笑みを浮かべた。


「ん? どないしたんっすか?」

「いや・・・。なんか修学旅行の待機時間みたいだなぁ~って」

「「「・・・! あぁ~あ!」」」

「みんな分かるでしょ?? 修学旅行のこの体勢・・・!」

「あのっ・・・。新幹線とか駅で待ってる感じの」

「そうそうそうそうそう! だからちょっと懐かしいなぁ~っと思って・・・・・・。あっ・・・というかみんなって・・・、修学旅行何処行ったの??」


そういえばメンバー内でその手の話をしたことがないのを思い出し、未佳は3人に右手で指名しながら尋ねてみる。

一番最初に口を開いたのは、意外にも最後まで何も話さなそうな、あの厘であった。


「ウチはー・・・。中学校が日光で、高校が神奈川の鎌倉やったよ?」

「あっ! ソレ私と逆だ!! 私中学が鎌倉で、高校が日光」

「へぇ~・・・。でもぉ~・・・なんか鎌倉の方が良くない~? ウチ日光イマイチやったわ・・・」

「えっ? そ~ぉ? 私両方共楽しかったけどなぁ~・・・」

「そら楽しくないわけやないんやけど・・・。学校の一環授業で行くやつやから、回るトコ微妙で・・・。神社とか温泉行くんなら分かるんやけど、ウチらが行ったの江戸の街並み似せたテーマパークだけやったから・・・」

「あぁ~・・・」


確かにテーマパーク好きな自分であればいざ知らず、その手のが苦手な厘からしてみれば、この観光内容はイマイチどころかイマニであったかもしれない。


ましてや京都在住の人間からしてみれば、せめて観光場所は再現された建物ではなく。

しっかりとした歴史を積んでいる建造物の方が、関心的には持てたのではないかと思う。


「でもあそこも劇とかは面白かったけどね。あっ・・・。あと食べ物美味しかったしっ♪」

「・・・って坂井さん、正直食い物あれば何処でもいいんっしょ?」

「ムッ!!」

「へぇ~・・・。でもやっぱり、関西の修学旅行は上に上がっていくんだね。関東とは逆に・・・」

「そういう手神さんは何処やったん?」

「ん? 僕は関東ド定番の京都・奈良だよ~。まあ正確には、奈良半日・京都3日みたいなね」


ちなみに手神は中学・高校とも京都・奈良であったとのことだが、大学ではそれとはまったく別に『研修旅行』というものがあったらしく。

そこでも京都と大阪に出向いていたため、なんだかんだで京都には3回も足を運んだとのことであった。


「あぁっ。やっぱり関東は京都・奈良なんだ」

「うん。・・・大体はね?」

「もぉ~う・・・。これだから夏場に関西弁喋らへん人増えるんよねぇ~。そんな一季節に大勢で詰めかけるんやったら、やってくる時期も分けてほしいわ!」

「ハハハハ。小歩路さん人混み嫌いやし、夏場とか外出ないっしょ?」

「うん、もう・・・。夏の東大寺とか清水寺とか仁和寺とか、ウチずっと行ってない・・・。青葉がキレイな時期やのになぁ~・・・」


ちなみに厘から見て夏でも出向けるお寺というのは、大体季節的なものが差ほど見受けられないところか。

あるいはルートとしての距離的な問題から、学生達が観光コースとして訪れないところであるという。


もっともこの話を聞いている限り、それは地元の人間でも中々行けなさそうな箇所のようにも思う。


「清水寺は『夏』と言わず、一年中だもんなぁ~・・・。あと関東で行くとすれば~・・・。まあ日光も場所によってはあるよ? それから、ちょっといい感じなところは、北海道とか沖縄とか・・・。昔はハワイなんてこともあったみたいだけど」

「ハワイ~ッ?! 私一回も行ったことない!!」

「いやぁ~、やっぱ関東格が違いますねぇ~」

「いやいや、変わんない。変わんない。そんなに今は変わんないよ」


ちなみに『修学旅行でハワイ』という話は、手神の父親の学生時代での話。

その他手神の母親と淳大は、手神と同じ京都・奈良。

英雄は高校の時のみ、北海道が修学旅行地域だったという。


「で? さとっちは修学旅行何処行ったん?」

「えっ?」

「というかさとっち・・・。修学旅行行った?」

「! 失礼なァ~・・・! ちゃんと行きましたよ!! ちゃんと・・・! ってか・・・・・・僕修学旅行3回行ってるから」

「はっ?!」

「えっ? 3回??」

「そっ。中学2回。高校1回。ハハッ、ヤバイっしょ?」

「えっ・・・、なんで・・・?」

「ん? 単純に引っ越したからっすよ」


実は中学3年生の夏休み間近に、長谷川は約2年半通っていた中学校から急遽転校。

その際、元々通っていた中学校での修学旅行が最後の思い出となってしまったのだが、いざ引っ越し先の中学校に出向いてみれば、そこではまだ修学旅行を行ってはおらず。

結局長谷川はやってきた早々、まだ親しくもないクラスメイト達と修学旅行に出向くこととなってしまったのだという。


ちなみに高校の時は、これまた別の学校へ転校したあとであったとのことだが、その時は2年生からの転入であったため、多少の友人はできていたとのことだった。


「僕中学3年まで広島だったんっすけど、そこで修学旅行終わったあとにいきなり引っ越しで・・・。そのあと中学卒業まで名古屋で、そこでもまた修学旅行。ほんで高校2年の時に神戸行って・・・。んで神戸の高校で修学旅行。・・・だから僕3回行ってんっすよ。学生時代」

「うわぁ~♪ ソレすっごくいいっ・・・・・・ううん、良くないね・・・。楽しめないでしょ? 特に二つ目の中学校・・・」

「まあ・・・。時間的にも数ヶ月っすからね? なんか引っ越しも兼ねて旅行ばっかというか・・・。友達もできる前やったし・・・『はぐれても誰も気付かなそう・・・』みたいな?」


『さすがにそれは如何なものか』と、未佳は小首を傾げながら思った。


「場所によって修学旅行、行くトコ違うの?」

「うん。全部ものの見事にバラバラでしたよ? 最初の中学校が日光で、二つ目は仙台」

「え゛っ?! 名古屋って仙台行くの!?」

「あっ、いやぁ~・・・。単にそこが特殊なだけだったんじゃ・・・。僕もちょっとビックリしましたけど」

「でも地域によってはあるよね? 青森とか岩手とか」

「うん。・・・でも一番変り種だったのが・・・! 高校の修学旅行!」

「高校神戸やろ? 何処行ったん?」

「まさかの・・・『パラユニ』」

「ぶッ・・・!」


ふっとその名前を聞いた瞬間、未佳は口にしていたペットボトルのろ過水を、一気に吹き出しそうになってしまった。

一応間一髪のところで飲み込んだため、思わず吹き出してしまうような大惨事にまでは至らなかったが、そのあまりにも意外過ぎる名前に、未佳は長谷川の方に顔を近付けながら聞き返す。


「!! ぱっ・・・パラユニィ~ッ?! 『パラユニ』って、あの・・・! 『パラダイス・ユニバーサル』の『パラユニ』?!」

「他に何処があるんっすか~! そんなメルヘンチックな略称、他にあるわけないっしょぉ!」


この長谷川の言う『パラユニ』というのは、千葉の海沿いにある日本最大のアトラクションテーマパーク『東京 パラダイス・ユニバーサル』の略称である。

ただし『日本最大』と言っても、このテーマパークは日本が本拠地というわけではなく、元々はアメリカに創設された『パラダイス・ユニバーサル・USAアメリカ』が本家本元。

しかし今ではその人気に火が点き、現在では日本の他にフランス、イタリア、韓国などにも進出。

まさに世界的にもトップクラスを誇るテーマパークなのである。


園内には様々なアトラクションの他に、レストランやフードコート、園内限定グッズの販売。

パラユニオリジナルのビッグパレードなども終日行われており、地域によっては限定クルージングや舞台・アイスショーなども開かれている。

また園の周辺には、このテーマパークをテーマにしたホテルなども多く建設されており、今では『テーマパーク』と言うよりも、むしろちょっとした『リゾート施設』に近いような場所となっている。


そしてこの未佳の反応を見れば一目瞭然な話ではあるが、このテーマパークは半数以上もの人間が憧れるところでもあり。

ましてや関西で暮らしている未佳にとっては、中々行きたくても行けないような場所。


そんなテーマパークを高々高校の修学旅行で訪れたという長谷川のこの話は、到底理解できるようなレベルのものではなかった。


「嘘ぉっ! だって・・・! エッ?! 修学旅行でしょ~っ?!」

「修学旅行っすよ? ・・・行きましたよ? 『パラユニ』」

「・・・えええぇぇぇ~ッ?!」


しかしその内容をひどく驚愕し、憧れる者もいれば、逆に嫌う人間もごく稀には存在するようで。


「え゛ぇ゛~・・・? でもソレって、日光の江戸のやつとあんま変わらんや~ん・・・」

「「「いやいや! 違う! 違う! 違う!!」」」

「小歩路さん! 全っ・・・然! 格が違うから!!」

パラユニ(ここ)江戸町(あそこ)を比べちゃダメ!! 比べられる相手じゃないから・・・!!」

「へぇ~! でもそれは僕も初めての例だなぁ~。関西は東京のテーマパークにも出向くんだねぇ~!」

「まあ・・・。性格には『千葉』っすけどね?」


確かに『名前』と付いているのが少々ややこしいが、実際に立てられている場所は千葉の海沿い。

そもそもの話、もし東京の海沿いにこのような大型テーマパークが建設されていたら、この場所からも当然ものが拝めるはずである。


「でもいいなぁ~・・・。いいなぁ~っ♪ 『夢の国』でしょ~?! いいなぁ~!」

「でも『パラユニ』って、小歩路さんみたいに人混み苦手な人間には辛いよなぁ~・・・。一年中スゴイ数だろ?」

「まあ・・・。道頓堀の大晦日以上いますね。人」

「でもって長谷川くんは・・・・・・あっ。・・・もしかしてアトラクション関係」

「めっちゃLoveっすよ~!? なんで超班友人達とEnjoyしてきましたっ!」

「「「ハハハハ!」」」


実は長谷川もこう見えて、未佳と同じくテーマパークや遊園地などは大のお気に入り。

特にジェットコースターなどの絶叫系アトラクションは、あれば必ず乗ってしまうほどのファンである。


「でも修学旅行って・・・。一応は勉強なわけやろ? 遊び違うやん。・・・ほなのになんで修学旅行先がパラユニやったの?」

「いや。一応ちゃんとした野外学習で行ったんっすよ。なんやったかなぁ~・・・? えぇ~・・・っと・・・・・・。確か・・・『パラユニでは来場者増幅のため、どのような取り組みを行っているか』。あと・・・『来場者へのおもてなしとして、どのようなサービスを行っているか』・・・これについて調べる内容で、2泊3日」

「あっ。意外と学習内容凝ってるね」

「しかもちょっと難易度高い」

「でしょ? しかも二つとも、10個以上もの挙げへんといかんの。おまけにパラユニの人に、直接聞き出したらアカンのよ。自分達で体験して探さなアカンから・・・。だから遊んでばっかいると・・・めっちゃヤバイ!!」

「でもさとっち遊んでたじゃない・・・」

「いやっ! 僕らのチーム作戦でやったんっすよ。初日はフードとかグッズとかで調べて・・・。2日目はアトラクションとパレード中心。3日目は時間短いから、その他って分けて・・・。だってあ~んなっ敷地広いんっすよ?! 分けて見なくちゃ見切れないですって・・・!」


ちなみに長谷川達のチームは、この区分作戦がどうにか功をそうしたようで。

その後行われた学習発表会でのプレゼンテーションでは、見事クラスチームでトップになったのだという。


「でもアトラクションで並んでると、1日終わんない?? 頑張っても6個くらいしか乗れないでしょ?」

「いやいやいや。それがなんと・・・。 有り難いっすよ? 『修学旅行生』っていう特権で、全アトラクションがパストパス。・・・つまり並ばずに乗り放題なんっすよ。学生証見せれば」

「はっ!? 何ソレ!!」

「羨ましいっしょ? 絶叫系とかニューアトラクション乗り放題!! まあ元々平日だったんで、そんな土日ほど人がいたわけじゃないんっすけどね~?」

「えぇ~・・・。あっ・・・泊まった場所は?」

「・・・実はパーク提携のホテル」

「えぇ~っ?! ・・・何ソレ! ありえな~い!! すっごい内容豪華じゃなーい!!」

「『豪勢』ってか・・・。そこも調べるやつに入ってたから・・・。でもたかが修学旅行なのに、旅費半端ないっすよ?! 絶対仙台の方が安いっすもん!!」


ちなみにその時の修学旅行の旅費は、まず往復新幹線とバス移動費の時点で4万円弱。

次にパークでの入場料やパストパス制度、パークガイド費用で、約1万5千円。

そして一番高額であった宿泊代は、2泊3日・学割込みで12万円強。

単純計算で考えても、軽く18万円ほども掛かっている。


「えぇっ!? そんなにしたん!? 修学旅行で?!」

「もう生活切り詰めでしょ?」

「そりゃもう・・・! 『マジか~!!』って、家族みんなで大絶叫してましたよ。紙っぺら届いた時・・・」

「「ハハハハ!」」

「えぇ~・・・。でもいいなぁ~・・・・・・いいなぁ~! 私なんて日光と鎌倉だよぉ~?」



ドテッ!!



「って、めっちゃさっきと言うてること違いますやん!! 坂井さん!」

「だってさぁ~・・・。日光と鎌倉って・・・。絶対に旅費格安で済ませるためにソコにしたんでしょぉ~??」

「「「いやいやいやいや・・・!」」」

「みかっぺ違うから・・・。これくらいが、普通の修学旅行の、旅費やの。・・・さとっちのトコが、ズバ抜けて高いの」

「そうそう。でもって結構高いから・・・あんまオススメしないわ、僕。・・・ホント、単なる旅行で行った方が一番いいですって・・・。素直に楽しめるし」

「ふ~ん・・・・・・・・・・・・最後に行けるかな・・・」

「・・・えっ?」

「ううんっ。なんでもない」


ふっと、4人での修学旅行会話が一段落した、その時だった。



コンッ コンッ



「失礼しまーす。すみません、皆さん! お待たせしてしまって・・・!」

「あっ、栗野さん!」

「撤収作業で色々手間取っちゃって・・・。ハァ~・・・」


ようやく待ちに待っていた人物が登場し、未佳達は『やれやれ』と手荷物を肩や背中にしょい込む。

一方の栗野は、戻ってすぐにメンバーに用件を伝えられるよう、メモ帳片手に大急ぎで戻ってきたらしい。


「全然大丈夫っすよ~。用意もうみんなできてますから~!」

「そう! それで・・・! ・・・・・・えっ? 私言いましたっけ? ここでお食事するって話・・・」

「ううん。でもさっき楽屋案内してくれた酒井スタッフさんが教えてくれたの。今日の夕食場所ここだって・・・」

「あっ。『お酒』の字の方の『酒井』さんっすよ? その方」

「うん」

「えぇっ!? あちゃぁ~・・・。それは・・・私の管轄なのに申し訳ないわぁ~。あとでちゃんとお礼言っとかなくちゃ・・・・・・。そうなんですよ。ちょっと3階にある洋食レストランで、本日夕食を取ることになりまして・・・。ということは皆さんもう用意できてますね?」

「「「「Yes!!」」」」

「あ~ら、手際がいい。・・・じゃあすぐに出発・・・ちょい待ち!!」



ズズズズズッ・・・!!



と突然外に出向こうとしたところを口頭で呼び止められ、先頭を歩いていた手神は一時停止。

そのあとを追うように歩いていた3人は、そのまま先頭の人間の背中にぶち当たる形で激突した。


「あうっ!」

「ギャ・・・ッ!」

「く、栗野さん・・・。急にどないしたんっすか!?」

「あなた達・・・。まあ長谷川さんと手神さんはそのままでもいいんですけど・・・。未佳さん、厘さん、その格好で外に出るつもり?」

「「えっ? ・・・・・・あっ」」


ふっと同時に視線を下に向けてみて、二人ははたと気が付いた。

そういえば服装がステージ衣装のままだ。


「アカン・・・。服装そのままやったわ」

「あっちゃ~。私ゴスロリだしー・・・。あれ? ・・・それで私達の私服は?」

「ソコに置いてある紙袋の中」


そう言って栗野が指差す二人の後ろの先には、確かに壁に寄り掛けるような形で、白い紙袋が二つ。

それぞれ袋の真ん中に『坂井様』『小歩路様』とマジックで書かれたものが、部屋の端っこの方に置かれていた。


「あぁ。そこね」

「ほならウチらちょっと・・・着替えてくるわ」

「「はいはーい」」

「あっ、栗野さ~ん。着替え場所何処~?」

「最初に着替えた部屋使えるんで、“どうぞご自由にー”」

「・・・は~い・・・」


内心『案内無しでセルフかよ・・・』と胸中のみで愚痴りつつ、未佳と厘はお互いの私服の入った紙袋片手に、出入り口のドアの外へと向かって行った。

ほんの少しばかり開いたドアからは、大勢のスタッフ達が行き交う姿や、高等指示などの雑音が聞こえてくる。


「じゃあちょっと行ってる~」

「なるべく早めに戻るからー」

「「はいは~い」」

「あっ、そうだ手神さん。タイミングよかった~。今携帯使えます?」

「えっ? ・・・あぁ、はい。大丈夫ですけど?」

「じゃあ、ちょっと由美子さんに・・・」



ガチャッ・・・



去り際に未佳の聞いた栗野と手神の会話は、ここで遮断された。


『切替』

(2004年 11月)


※事務所 控え室。


栗野

「わざわざ昼過ぎに事務所にやってきた早々、申し訳ないんですけど・・・。皆さんに残念なお知らせです」


みかっぺ

「えっ? まさか・・・!」


さとっち

「まさか・・・!?」


「まさか?!」


栗野

「手神さん・・・。病院からインフルエンザ診断です(orz)」


みかっぺ・厘

「「あっちゃ~!!」」


さとっち

「バンドの大黒柱がぁ~!!(爆)」←(なんだ、そりゃ)


栗野

「それで楽曲制作抜きでの皆さんの予定なんですけど・・・。厘さんは二週間前の作詞依頼が終了していて、予定無し。未佳さんはレコーディングが残っていますが、他の方々が使用しているので、本日は使用不可。長谷川さんも、今回は特に編曲等での依頼は無し、っと・・・・・・ガラ空きですね(爆)」


みかっぺ

「栗野さんの予定は?」


栗野

「私は皆さんの予定次第ですので、今日は仕事面では無しですよ?」


「・・・・・・っということはー・・・」


さとっち

「昨日から決めてた・・・“プランB”っすね?」


みかっぺ

「よーしっ! みんな!! 私と栗野さんのクーポンで、おNew寿司屋に行くどぉーッ!!(号令)」


さとっち・厘・栗野

「「「オォーッ!!(^0^)/(^0^)/(^0^)/」」」



おい・・・。

形だけでもいいから、少しはリーダーの心配しろ・・・(ーー;)


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