117.東京イベントの幕閉め
午後8時過ぎ。
いつもながらリターン組とのポスター手渡しを数回繰り返した後、いよいよ未佳達のリリース記念イベントは、終わりの時を迎えようとしていた。
今回は並んでくるファンの数が0になったのを見計らっての終了であったため、持ち込んできたポスターはまだ丸々一箱分残っているような状態である。
もっとも地方公演の場合は、いつも足りなかった時のことも考え、通常よりも多めに持ち込んでいるのだが。
「どうもありがとうございました~!! ・・・・・・・・・今の人で最後? 終わり??」
「終わり終わり」
「今の人がアンカー」
そう、長谷川と厘が未佳の問い掛けに答えると、未佳は『ふぁ~ん・・・』と言いながら数回頷きつつ、両手のひらに最後のクリームを塗る。
するとタイミングを同じくして、何処からか持ち出してきたケーブルマイクを、おもむろにメンバー列の中央。
正確には長谷川と厘の間に差し出すかのような位置付けで、突然栗野が『バッ!』と、こちらにマイクを向けてきた。
しかも肝心の栗野はというと、ちょうど未佳達の立つテーブルの縁に貼られていた案内ポスターを剥がしている最中で、当然その関係上しゃがんでいるのだから、こちらには一切栗野もマイクも見えず。
そんな中いきなりマイクを持った右腕が真下から『ニュッ!』と上がってくるのだから、皆が驚かないはずがない。
特に一番マイクが出てくる位置に近かった長谷川と厘は、栗野の腕が伸びてきた瞬間、同時に『ひゃっ!』という声を上げてしまった。
「あぁ・・・! ビックリしたぁ~!」
「栗野さん、おったん!?」
「『おったん!?』って・・・今ここのポスター、剥がしてるん・・・ですけど?! というか、はい! 挨拶用のマイク」
「あ、あぁ~。はいはい。・・・はい、坂井さん」
「えっ? あっ・・・、私が最初だもんね。はいはーい・・・」
「えぇ~っと・・・・・・。これで剥がれたかしら・・・。よぃっしょっと・・・」
ふっと、ポスターに貼られていたセロハンを剥がし終えたと思った栗野が、おもむろにポスターを右方向へと引っ張る。
その時だ。
ビリッ
「あっ」
「「「「ぁっ・・・」」」」
〈〈〈〈〈あっ・・・〉〉〉〉〉
この瞬間、明らかに手渡し台の方からは見てはならない・察してはならないような空気が漂い、周囲からはこの群衆では絶対にありえないほどの沈黙が起こった。
もちろん一番この気まずい雰囲気を全身に感じ取っていたのは、他ならぬポスター回収を行っていた栗野本人である。
その後そんなポスターを両手で摘まんだまま硬直する栗野に、気を遣った未佳は恐る恐る声を掛ける。
「・・・・・・・・・く、栗野さん・・・大丈夫・・・?」
「たぶん・・・・・・。私今『マネージャー』として一番やってはいけないことをしたような気がする・・・」
「べ、別にそこまでじゃあ・・・」
「えっ? ・・・というか何? セロハン剥がし切れてなかったの?」
「『剥がれ切れてない』いうかー・・・・・・。テーブルの足にもセロハン付いてる」
確かにそう厘が口にして指差す先には、テーブルの縁に貼られていたセロハンとは別に、未佳達から見て右側の足の部分にも、セロハンがしっかりと貼られていた。
おそらくこれは、風が吹いた時などにポスターが巻き上がらぬよう、ポスターを固定するためのものだろう。
しかしまさかそんなものが貼られているとは一切気付かず。
栗野はテーブル縁のセロハンだけを剥がし、足に貼られている方向とは逆方向にポスターを引っ張ってしまい、このような有様になってしまったというわけだ。
ちなみに栗野が引っ張ったそのポスターはというと、ものの見事に左端中央から、やや上に上がるかのような形で、真ん中辺りにまで破けてしまっていた。
ショット図的には、ちょうど立っているメンバー4人の腹部辺りが、パックリ二つに分かれてしまっているような状態である。
「ま、まあ・・・でも・・・。どうせサンプル用だし。最後は捨てちゃうのなんでしょ?」
「それはそうですけど・・・。あぁ~、何やってるんだろ~う。私・・・」
そう言いながら破けたポスターをくるくると丸める栗野に、未佳は『まあまあ・・・』と言いながら、軽く栗野の背中をぽんっぽんっと叩く。
「気にしな~い♪ 気にしな~い♪♪」
「でも栗野さんが撤去作業でミスるやなんて・・・結構久々やねぇ~」
「・・・もしかして素は意外と『ガサツ』なんっすか?」
ガコンッ!!
〈〈〈〈〈!!〉〉〉〉〉
「え゛っ!? なっ・・・! 何ッ?! 今の一体何の音・・・?!」
ふっと突然頭上から聞こえてきた、何かの金属音と鈍い物音に、栗野は慌ててその場から立ち上がる。
するとそこには、両手で頭頂部を押さえながら中腰体勢で蹲る長谷川と。
その長谷川をキツい感じの目付きで見下ろしている、未佳の姿。
さらにその未佳の左手には、先ほど長谷川から手渡されたケーブルマイクが一つ。
それも本来であれば持ち手の部分を握っているはずが、この時は何故かマイクの頭近くの部分を持つような形で握られていた。
これらの状況から、たった今聞こえてきた謎の音の正体を推測するとするならば、その答えは即座に浮かんでくる。
「まっ・・・まさかっ!! 未佳さ」
「さとっちのアホッ!! 普通そういうことをあからさまになんて聞かないでしょうがっ!! このNO デリカシー!!」
「ぃ・・・痛い・・・・・・」
「ちょっ・・・、ちょっと未佳さん・・・! 今長谷川さんに一体何したのっ?!」
正直今更聞かなくとも大体の想像は付いていたのだが、それでも栗野は念のため、目の前で蹲る長谷川を気遣いながら、未佳にことの詳細を問い質す。
しかし一方の未佳はというと、特に栗野に話すようなことではないと判断したのか。
軽く右手で栗野をあしらいながら、サラッと真顔で返答する。
「あぁ~、気にしないで。気にしないで。別に栗野さんがどうこう思うようなことじゃないから」
「そういうことじゃなくて・・・!! はっ、長谷川さん、大丈夫?! ねぇ!? ・・・頭、大丈夫??」
「・・・・・・痛い・・・」
「ぅ、うんうん。・・・ねぇ~? 痛かったわよねぇ~。う~ん・・・」
「ぐすんっ・・・」
「今何処ら辺が痛い?」
「頭と心が痛い・・・」
ズルッ・・・
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「いや『心』関係ないし」
〈〈〈〈〈・・・ハハハ〉〉〉〉〉
「さ、坂井さん・・・? 何もそんなバッサリと言わなくても・・・」
「だって元辿ればさとっちが悪いんだし・・・」
「ま、まあ・・・」
「!! 『僕が悪い』って・・・! いきなりマイクの先端で人殴るそちらの方がおかしいやろ!!」
「そっちがデリカシーのないこと単刀直入に聞いたりするからよ!!」
「はいはいはいはいはい! このままだと中々予定通りに進まないから、言い合いはここで打ち切り!! はいっ!」
このままだとまた収拾が付かなくなることを察し、栗野は言い争う二人の間に両手を広げながら分け入る。
一応今回は、この栗野の制御行為が功をそうしたのか、そこまでの言い争いには発展せず、事態は事無きを得た。
「じゃあ仲直りがてらに、はいっ! 一人40秒間の挨拶スピーチ!」
「え゛っ・・・? こ、このタイミングで・・・??」
「は・や・く!! ほらっ!」
そう栗野に言われるがまま、未佳は右手に持っていたマイクを持ち直し、ファンの方を向き直りながら口元に近付ける。
すると今まで違う方向を見ていたはずのファン達も、未佳達が最後の挨拶を行うと察したのか。
即座に体を未佳達の立つ手渡し台の方へと向け、その顔をじぃーっと見つめ始めた。
皆の視線を全身に強く感じつつ、未佳はマイクの電源を入れ、話そうとする。
だが。
「えぇ~・・・。皆さん!」
キィー・・・
「本日は、私達の新曲リリース記念イベントにお越しくださいまして」
キィ~・・・ィー・・・
「本当にどうも」
キイィ~イ・・・!
「ありがとうございま」
キィ~・・・イッ!!
「ギャアァ・・・ッ!! うるさ~い!!」
〈〈〈〈〈う゛っ・・・!〉〉〉〉〉
この『キィ~』っという音の根源は、たった今未佳が使用しているケーブルマイク。
それも、マイクは未佳の音の大きさによって、この音の出方を変えているらしかった。
これには近くにいた関係者達も含め、最前列付近に集まっていたファンも顔を歪ませる。
「めっちゃ『キィーキィー』言うてるや~ん!」
「うわぁ~・・・ッ! この音スッゴイ嫌い!!」
「いや、普通好きな人なんていないって・・・」
「すみませーん! ちょっと代えのマイクを・・・」
「でもなんでコレこんな『キィーキィー』言うのぉ~?! 別にスピーカーが近くにあるわけでもないのに・・・」
確かに未佳がそう言ったように、この手のマイクのハウリングは、よく音を流すスピーカーとの距離が近いことによって、スピーカー内部で音が増幅されてしまい、発生しやすい。
しかしこのマイクのスピーカーがあるのは、手渡し台から5メートル以上も離れたステージ上と、ステージの真後ろ。
ハウリングの発生を避けるのには充分な距離である。
だとするならば、これは何か他のものが原因になっていると考える方が自然だ。
(でもなんで? よく風が吹くとこうなりはするけど・・・こっちには風は来てないし・・・。となるとまさかの内部破損??)
「このマイク壊れてしもたんやろか~・・・?」
「ん? いや。・・・たぶん一時的なやつだと思うよ? よくあるから・・・」
「一時的? ちゅうことは直るん??」
「うん。中の電池とか入れ直したり、しばらく電源切ってればね? たぶんこれー・・・なんか強い衝撃が加わったから、こんな風になったんだと思うよ? ほら・・・。たとえば床に落としちゃったり、ぶつけちゃったりとか」
「ぶつかる・・・・・・あ゛っ」
もちろんこの瞬間。
未佳の脳裏に、あの長谷川をマイクで殴った記憶が過ったことは、もはや言うまでもない。
「私原因分かったかも・・・」
「うん。僕も今同じことが過った」
「人の頭をフツーにマイクで殴るからっすよ。罰が当たったんすねぇ~」
「なんですってぇ~!?」
キィイイイ~・・・イッ!!
「「ヴギャァァーッ!!」」
〈〈〈〈〈う゛ぅ゛~・・・!〉〉〉〉〉
「もうっ! 言うてる傍からマイクで怒鳴らんといてよ!!」
「ご、ごめん。小歩路さん・・・」
「スイマセン、皆さん! ホンマ、スイマセン!!」
その後会場スタッフから別のマイクが手渡され、未佳は気を取り直し、イベント締めの挨拶を口にする。
「えぇ~、皆さん! 本日は、私達の新曲リリース記念イベントにお越しくださり、本当にどうもありがとうございました!」
〈〈〈〈〈イエ~イ!!〉〉〉〉〉
「今回は・・・、皆さんのポスター手渡しの時の笑顔ですとか、ミニライヴでの盛り上がり感ですとか・・・。そう言った場面が非常に多く見られて、本当に楽しかったです。本日は本当に、どうもありがとうございました!!」
自分の挨拶が終わり、最後に未佳が頭を下げると、会場からは温かい拍手が巻き起こった。
その拍手の音を耳に入れつつ、未佳は隣に立っていた長谷川に、さり気なくマイクを手渡す。
「・・・はい」
「あっ・・・。え~っと・・・。皆さん、今日は本当にどうもありがとうございました! ・・・ねっ? ちょっとばかし・・・やれ『珊瑚』がどうたら『ポケット』がにゃ~だらやりましたけど」
〈〈〈〈〈「「「ハハハハ」」」〉〉〉〉〉
「でも僕的にもすごい楽しいイベントでしたっ! ・・・僕身体白いから、ずっと海大っ嫌いだったんですけど」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「まだ海水浴も日焼けもしないこの時期はいいっすねっ。・・・ちょっと今回は個人的に海が好きになったイベントでした」
〈〈〈〈〈「「「おぉ~!!」」」〉〉〉〉〉
「じゃあ今夏に泳ぐ~??」
「泳がん」
ドテッ!!
ズベッ!!
ズルッ!!
「ソレとコレとでは話が別です」
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
「ちょっと自分のことだけでしたけど・・・今日はありがとうございました!!」
続いて長谷川からマイクを手渡されたのは、いつもコメントを直前まで構えていない厘であったのだが。
何故か今回は始めから言葉を考えていたらしく、手渡されたマイクに向かい、即座に口を開き始めた。
「あっ。皆さん今日は、イベントに来てくださってホンマにありがとうございます~・・・。あのー・・・今日のイベントも色々思い出に残る場面、めっちゃあるんやけど・・・」
〈〈〈〈〈「「「うんうん」」」〉〉〉〉〉
「ウチ今日はやっぱりー・・・。久々に『静寂の海境』をやったのが」
〈〈〈〈〈「「「おおおぉぉぉ~」」」〉〉〉〉〉
「一番印象強い・・・イベントになったと思う」
「『静寂の海境』ね」
「そう・・・・・・。アレ『海境』っていう字、普通の『かいきょう』違うんよね。・・・みんな気ぃ付いてた??」
〈〈〈知ってる~!!〉〉〉
〈〈〈知ってるー!!〉〉〉
「あっ、よかった~。アレどっかの雑誌取材で『誤字』言われてたから」
〈〈〈〈〈「「「ハハハハ!」」」〉〉〉〉〉
確かに厘がそう述べたように、本来の『かいきょう』という文字は『海境』ではなく『海峡』。
意味合いこそ曲名の『海境』と同じなのだが、この文字は本来『かいきょう』ではなく『うなさか』という読み方をするものなのだ。
「僕最初てっきり『静寂の海境』だと思ってましたよ。ここだけの話・・・」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「そしたら『コレ読み方「かいきょう」やから』って、いきなり真横から言われて」
〈〈〈〈〈ハハハ〉〉〉〉〉
「だってこっちの『峡』って、あんまイメージ良くないんやもん。せやったら同じ意味合いの漢字当てて、当て字にした方がええ思って」
「もう『当て字』は小歩路さんの十八番ですからねぇ~」
「う~ん」
「でも私・・・。実は最初文字見た時『かいきょう』だと思ってた・・・」
「「「え゛っ?」」」
まさかの未佳のカミングアウトに、一瞬メンバーの表情がジト目に固まる。
〈〈〈〈〈ハハハハ〉〉〉〉〉
「『うなさか』って読み知らなくて・・・。フツーに『かいきょう』だと思ってた」
「えっ? マジで?? ・・・『字が通常の「海峡」じゃないなぁ~』ってことも思わんかった?」
「あっ、それは気が付いてた。気が付いてたけどー・・・・・・。だってコレ『かいきょう』って読めるじゃなーい!!」
「「まあな!?」」
〈〈〈〈〈ハハハハ!〉〉〉〉〉
「じゃあ・・・はい、手神さん」
「エ゛ッ! もぉ~う?!」
〈〈〈〈〈アハハハハ!〉〉〉〉〉
ふっといきなりケーブルマイクを手渡され、手神はサングラスの向こうの両目をパチクリさせながら、厘とマイクを二度見する。
しかし一方の厘は、別にもう話すことは何もないと言いたげに、かなり平然とした態度を取っていた。
「ちょちょちょちょちょっ・・・! ちょっと待って! 小歩路さん!」
「は? 何~?」
「コメントはあれだけ?! もっと他に何かあるでしょ!? イベントのこと・・・!」
「・・・だって話したいことも言いたいことやったもん」
「いや、でもほら・・・! 今日来てくれたお客さんに対してとかー」
「えっ? ・・・ウチ冒頭でお礼言うたよね? 言うてない??」
〈〈〈言った・・・〉〉〉
「ほら」
ズルッ・・・!
「い、いや~・・・。でもこれは・・・内容的にMCだったんじゃないかなぁ~??」
「あっ、じゃあ『MCで言えへんかったことを言った』っていうことにしといて。イベントの感想は『「静寂の海境」ロケーションがいかった』ってことで♪」
〈〈〈〈〈ハハハハ・・・〉〉〉〉〉
「ま、まあ・・・。良しとしよう・・・」
なんだか少々無理矢理済ませたような気もしなくはないが、ここでまたあれこれと言ってご機嫌を損ねさせると、厘の場合埒が明かなくなる可能性がある。
そうなって困り果てる結果となってしまうのであれば、手神的にはなるべくご機嫌なうちに、それらしいコメントを言い述べた辺りで追及を止めるのが、何よりも一番無難。
そう、数年前から手神の脳内にある『厘の取り扱い説明書』には、こう書かれているのだ。
「はい・・・。じゃあ最後は僕からの挨拶なんですけど・・・。ちょっとメンバーに対しての僕からの反省点」
そう最初に切り出し、何故か自分達の方に視線を向けてくる手神に、3人はお互いに顔を見合わせる。
一方の観客も、一体手神が何を言おうとしているのかと、手神と未佳達を交互に見比べていた。
「えっ・・・。ぼ・・・僕ら何かしました?」
「はい。まず・・・・・・。皆さん、少しは新曲の話してくださいよ!」
「「「ぶッ・・・!」」」
〈〈〈〈〈ハハハハ!!〉〉〉〉〉
「まったく、ねぇ~!? もちろん、ファンの皆さんの笑顔だとか、会場さとか初期ソングだとかいいんですよ? 思い出に残ったこととかのお話も・・・。でも肝心の新曲の話はしなくちゃダメでしょう!?」
〈〈〈〈〈ハハハハ!!〉〉〉〉〉
「い、いやぁ~・・・。手神さん、ごもっともです」
「ちょっと形だけになってた」
「でしょ?! ちょっと横で聞いてて『えっ!?』ってなってましたよ、僕・・・・・・小歩路さん、ずっと笑ってるけど分かった??」
「ハッハハハッ・・・! はぁ~ッ・・・・・・“存在忘れてた”」
「「「え゛え゛ぇぇぇ~っ!?」」」
〈〈〈〈〈アッハハハ!!〉〉〉〉〉
まさかの厘の爆弾発言に、会場からは大爆笑の嵐が巻き起こる。
しかし当の本人はと言うと、実は本当に新曲の存在については忘れてしまっていた。
その証拠に。
「えっ!? ちょい待ち! ・・・小歩路さん、今日のコレは何?! このっ・・・ロケーション!」
「・・・イベント」
「イベントっしょ? じゃあコレは何のイベント?!」
「えっ? ・・・ポスター手渡し会」
「違う違う違う!」
「『手渡し会』もなんだけど・・・! 小歩路さん、本命は?」
「ぇっ・・・。新・・・・・・曲?」
「うん! なんでソコ疑問文やねん!!」
「ッ・・・!」
〈〈〈〈〈アッハハハハハ〉〉〉〉〉
「だってもう発売日過ぎたからぁ~・・・! ウチの中やと過去の話なんやも~ん」
「事故や! 事故!! 軽く放送事故や!!」
〈〈〈〈〈「「「アッハッハッハッ!!」」」〉〉〉〉〉
ちなみにこのイベントは、あくまでも彼らの会報誌などに写真紹介される程度なので、映像としての放送・販売などはない。
「はい・・・。ちょっと苦笑しつつなんですが」
〈〈〈〈〈ハハハ・・・〉〉〉〉〉
「確かに昔の楽曲達もいいんですけどね? ・・・でも今回発売された我々の新曲も、過去の曲とは負けずを取らない。素晴らしい作品に仕上げられたと思います。そして今回はその新曲を・・・、このイベントでのオリジナルバージョンにアレンジをして、みんなで演奏披露しました。だからここで聴いた新曲は、この会場にいらしてくださった皆さんだけの、特別なものなんです。ですのでCDのものは、またちょっと違うアレンジですから・・・。是非ご自宅にお帰りになってから・・・聴いてみてください。本日は本当にどうも、ありがとうございました!」
最後に手神がコメントをまとめ上げると、会場からは未佳の時以上の拍手が起こった。
さらに手神がテーブルにマイクを置いたのと同時に、会場に設置されていたスピーカーから、聴き慣れた栗野によるアナウンスが流れる。
【以上をもちまして、CARNELIAN・eyesのメンバーによる、新曲リリース記念イベントは、すべて、終了となります。・・・メンバーの皆様は、これより会場を退出いたします。左手にあります、裏口通路付近にてお集まりの皆様は、メンバーの通行の妨げになりますので、速やかに退散してください。また、通路歩行中のメンバーへの不用意な接触、サイン、撮影等の要求行為、プレゼントの受け渡しなどは、固くお断りいたしております。メンバー宛てのプレゼント等は、会場右手にあります物販コーナー横の『プレゼントBOX』に、お入れください。万が一、撮影等での違反行為を行った場合、カメラ・サイン等は没収。データは消去の上、今後のメンバー主催のライヴやイベントへの立ち入りを、全面禁止させていただく場合がございます。また接触行為に関しましては、状況により警察の要請を行う場合もございますので、予めご了承ください】
「・・・・・・コレ逆に、こっちからハイタッチやった場合とかはどうなるの?」
「「・・・・・・さぁ~?」」
「いやダメだよ!!」
ふっと、最後の最後にそんな手神の一言が驚きつつ、4人は退場口でもある左手通路へと移動した。
『気になる』
(2006年 10月)
※事務所 事務室。
みかっぺ・さとっち・厘・手神
「「「「Trick or Treat~♪♪」」」」
職員一同
「「「「「!!Σ(@□@゛)」」」」」
栗野
「あら!? ・・・ハッハハハ(爆笑) 皆さ~ん、どうしたの~? その格好(笑)」
みかっぺ
「ハロウィンだから仮装してみたの~♪」
厘
「事務所の中限定やけどね」
栗野
「でも魔女二人なら、どちらか片方違うのやったらよかったのにー・・・。未佳さんの貞〇とか(ニヤッ)」
みかっぺ
「いや・・・。なんかソレ、過去にやったみたいだから・・・(▽ ̄;)」
手神
「ところで似合ってます?(笑)」
日向
「『似合ってる』どころか、一瞬誰だったのか分からなかったですよ~(^0^;)」
撮影スタッフ
「というよりー・・・。そんだけメイク凝ってるんに、今日一日だけっつうのが勿体ないなぁ~(惜) あとでスタジオ入って、写真撮ろうや~(笑)」
さとっち
「ま、マジですか・・・?(苦笑)」
栗野
「・・・あれ? そういえば長谷川さん、いつもよりも若干肌がー・・・」
さとっち
「黙らっしゃい(爆)」
やっぱり白ファンデ塗らなきゃよかった・・・(涙)