116.甥っ子登場
ポスター手渡し会開始から、約1時間後。
そろそろイベント恒例のリターン客が並び始める頃合いとなり、栗野と日向の二人は、最後の1周目の客の整列誘導に取り掛かっていた。
【はーい! こちらは手渡し会1回目の、サイン入りポスター手渡し優先列となっておりまーす!! まだポスター手渡し会をされていない方は、こちらにお並びくださーい!!】
【なお今回のサイン入りポスターは、枚数の関係上、お一人様一枚までとさせていただきます! 既にサイン入りポスターを受け取り済みのお客様は、大変申し訳ございませんが、サイン無しポスターの手渡しとなりまーす!! 予めご了承くださーい! ・・・サイン入りポスターをお持ちの方は、手渡し券をお出しの上、こちらに2列となって、お並びくださーい!!】
「坂井さん。今~、最後のサイン入りポスター列が整列させられていますので。その人達の列が終了しましたら、また一時休憩に入りますので」
「あっはい」
そんな会場スタッフからの指示を小耳に挟みつつ、未佳は最後のサイン入りポスター列に視線を向け。
そしてその先頭の人物に『んっ?!』と、顔を顰めた。
「あれって、弦奏さんじゃないの?」
「「「ん?」」」
「ほら、あそこ・・・。今列の先頭に並んでる人・・・」
そう未佳に尋ねられ、未佳の隣に並んでいた3人もまた、顔を顰めながら列の先頭を凝視してみる。
確かにただ今先頭に並んでいる男性は、先ほどのバスドライバーと同じ服装、同じ体型、同じ髪型をしていた。
さらにしばらく相手を凝視していると、やがて向こうもこちらの視線に気が付いたのか。
未佳達の方に向かって、やや腰振りも混ぜたようなダンスをしながら、手を振り返す。
その仕草と言い、笑顔を言い。
それは紛れも無く、あのバスドライバーの指揮弦奏であった。
「ホンマや! 指揮さんやぁ!!」
「いつの間に!? 全然気付かへんかった・・・!」
「でも並んでくれてるってことはー・・・。僕達のCD、買ってくれたってことかな?」
「はぁ・・・嬉しい~♪」
「・・・・・・はい! それでは先頭の方から順番に、前に進んできてくださ~い!!」
その栗野の誘導によって、先頭に並んでいた指揮を含む、30名ほどのサイン入りポスター列が動き出した。
ちなみにこの誘導の際、列の頭に立っていた栗野が、一列目の指揮に驚いていたのは、後々になって知ったことである。
「あぁ~・・・、ビックリしたぁ~・・・」
「フフフフ」
「指揮さん、何枚ですか?」
「あっ。カーネリーとブルー、1枚ずつです~。はい~」
「あっ、は~い♪ フフッ。えぇ~っと・・・、カーネリー&ブルー、1枚ずつお願いしま~す!!」
「はーい! ・・・はいっ! お二方どうぞ!!」
そう後ろに立っていたスタッフからポスターを手渡され、未佳達二人はそのポスターを受け取りながら。
残りの二人は、指揮がこの場にやってくるのを待ちながら、手渡し台から顔を覗かせていた。
そして待つこと20秒後。
バスの時に見たあの満面の笑み姿の指揮が、未佳の前へとやってきた。
「指揮さ~ん! CDご購入、ありがとうございまーす♪♪」
「ホンマわざわざ、ありがとうございます!!」
「いえいえいえいえいえ。ちょっと空き時間ができたもので、ついでに皆さんの演奏も見に行こうと思いましてね? そしたら・・・。いやぁ~、もうっ・・・! ホント素晴らしかったです~!!」
「えっ? ・・・もしかして最初から見てたん??」
「はい~♪ 実は入場の辺りから、こちらは拝見させていただいておりました~」
「「「「あっ、ありがとうございます!!」」」」
「どうでしたか? 我々のステージ」
「もう3曲目は私前方で、ついつい踊ってしまいましたよぉ~! タラララララ~♪」
そう言って軽くキレのある踊りを披露する指揮に、メンバー4人は声を揃えて笑い出す。
さらに未佳達にとって嬉しい来客は、この指揮一人ではなかった。
その後サイン入りポスターの列が順調に進んでゆき、やがてその行列が最後の一人へと差し掛かってきた時。
ふっとそこに並んでいたある人物を見て、栗野と日向は同時に『はぁっ!』という驚きの声を上げた。
「あぁ~! お久しぶりです~!」
「お久しぶりですっ。・・・あれ? 今日はお二人で? ・・・なんですね。はい、何枚ですか? えっとぉー・・・・・・。4枚ですね? はい! カーネリーとブルー3お願いしま~す!!」
「皆さん、ちょっとここで・・・。身内枠!」
「「「「みっ・・・身内枠??」」」」
『一体何のことやら』と、しばし小首を傾げていた4人であったが、その答えは、最後にやってきた人物によって、すぐに判明した。
「未佳さん。長谷川さん。小歩路さん。お久しぶりです」
「「えっ?」」
「・・・あぁっ!」
ふっと聞こえてきたその声にハッとして、声のした方を振り返ってみると、そこには、明るいブロンドカラーの髪をした、清楚な感じの女性が一人。
こちらに向かって、ゆっくりと一礼をしていた。
その女性を見るなり、名前を呼ばれた3人は続けざまに口を開く。
「由美子さーん!!」
「いや~っ! 手神さん、お久しぶりですっ!」
「ホンマに久しぶりやねぇ~・・・。元気やった?」
「はい♪ 家族全員、特に大きなこともなく」
「そ~う。・・・あっ。ほら、手神さん! あんさんのご親戚・・・!!」
そう言って何やら必要以上に手神の背中を叩く厘に、手神はムッとしながら視線を向け。
そして同じく驚きの叫び声を上げた。
「えっ? ・・・あぁーっ!! ゆっ、由美子さん・・・!!」
「広人さん、ご無沙汰しております」
「どっ・・・、どどどっ! どうしたんですか!? 今日・・・!」
「手神さん、動揺し過ぎ・・・」
「せっかくお兄さんの奥さんが見に来てくれはったんっすから、ソコ聞き返すのおかしいっしょ?」
「それにそっちは毎年会うてるやん。何をそんなに慌ててんの」
そう。
実はこの女性の正体は、手神の二つ上の兄でもある手神英雄の妻。
手神由美子であった。
親戚でもある手神からしてみれば、彼女とは毎年お盆や正月などに会ってはいるが、未佳達からしてみれば、実に3年ぶりの対面である。
「いや、だって・・・。あまりにも唐突だったものだから、つい・・・」
「ふふふっ。驚かせちゃってすみません。ただ今日、東京の方で『イベントをやる』って聞いて、皆さんのことも気になったし・・・。久々に会いにいこ~っと思って、アポなしで出向いたんです」
「あっ・・・。そうだったんですねぇ?!」
「いや~。わざわざホンマにありがとうございます~」
「・・・・・・あれ? 今日、旦那さんもご一緒なんですか?」
「あっ、いえ。今日は主人無しで・・・」
確かにそう答える由美子の傍には、居たら確実に目立つはずの夫、英雄の姿は何処にも見当たらなかった。
しかし今日は土曜日。
本来の英雄の勤め先であるCDショップはシフト日ではないし、たまに横たわっているライヴハウス演奏に関しても『呼ばれている』という話は一度も耳に入っていない。
何より、いつも英雄に引っ付いている長女の姿が見えないことも、手神には妙に気になった。
「えっ? ・・・・・・。英雄・・・今日仕事??」
「ううん、遊園地。娘と・・・」
「「「ゆ・・・遊園地??」」」
「『上』って・・・、海月ちゃんだよね? でもなんでまた・・・」
「う、う~ん・・・・・・。それが実は~・・・」
その後詳しく由美子から聞いた話によると、今週の木曜日に由美子の長女でもある手神海月が、めでたく7歳の誕生日を迎えたそうなのだが。
その日に運悪く英雄は、会社での残業仕事を頼まれる羽目になってしまったのだという。
当然その日は愛娘の誕生日を祝えなかったどころか、帰宅したのは日付が変わった深夜の3時頃。
一応英雄は、事前に『残業決定』という悲しい報告を会社で由美子に知らせたそうなのだが、まだ幼い娘がその事実を母から告げられ、素直に受け止められるはずもなく。
結局誕生日当日と翌日の二日間は、娘一方からの大号泣かつ大激怒。
そこで完全に申し訳ないと思っていた英雄は、前々から娘が『行きたい!』と言っていた遊園地に連れていくことを決め、そこで二日遅れの誕生日を祝うことに。
そしてその約束を決めてしまった日付けが、たまたま手神達のCDリリース記念イベントと被ってしまった、というわけだ。
「それはー・・・。英雄も大変だったねぇ~・・・」
「もぉ~うホント・・・。私何回も言ったのよぉ? 『今日パパ遅くなるから』って・・・。でもあの娘早生まれじゃない? 周りがみんな7歳になっていく中、一人置いてけぼりみたいなところもあったから・・・。それに7歳って、結構年齢の区切りとしては大きい歳でしょ? だから父親にも祝ってもらいたかったみたいで」
「あぁ~・・・」
「確かにその気持ち、何となく分かるかも・・・」
「そんなこんなで次の日は大変だったわよぉ~。英雄は自分が悪いと思ってるから、ただただ海月に言われっ放しになってたけど・・・。海月は最終的に『パパなんて大っ嫌い~!!』って、言っちゃうしー・・・」
「うわぁ~・・・。それは逆に英雄が泣きたくなっちゃうんじゃ・・・」
「うん。もう半泣き」
しかしそう話す由美子であったが、今朝はお互い上機嫌で出掛けて行ったらしく、今は特に問題視していないとのことであった。
「ただ昨日の夜にいきなり英雄が『あっ、いけねッ! 明日広人のバンドイベントだ!!』って、慌て出して」
ドテッ!!
ズベッ!!
ズルッ!!
「きっ・・・、昨日!?」
「おっ・・・、弟のイベント・・・忘れとったんかいな~!!」
「ま、まあ・・・。あのお兄さんならあっても不思議はないかも・・・」
「それはそれは・・・。この度は兄貴がとんだご迷惑を・・・」
「いえいえいえいえ! だからせっかく皆さんにお会いするには、逆にちょうどいいな~っと思って・・・。今日は下の子も一緒に連れて来たし」
「えっ? 下の子??」
「「「・・・・・・ん?!」」」
そう言われて4人が手渡し台の下を覗き込んでみると、そこには由美子の膝下よりも小さな男の子が一人。
袖が白い紺色の大きめなパーカーを着込み、右手人差し指を口元にくわえながら、未佳達をキラキラとしたような瞳で見つめていた。
見た目から想像できる年齢で言うと、大体3~4歳と言ったところだろうか。
ある意味一番可愛い年頃とも言えるその子供の姿に、関西人3人組からは一斉に声が上がる。
「「「カワイイ~♪♪」」」
「フフフ。ほら、流星。お姉さん達にご挨拶して。もうご挨拶できるでしょ~う?」
母親である由美子がそう優しく話し掛けると『流星』と呼ばれたその息子は、相変わらずニコニコとした表情で頷き返し、下っ足らずながらも口を開く。
「はじめ、まして。てがみ・・・りゅうせい、ですっ」
「はい、お上手~♪」
「かわえぇなぁ~。もう挨拶できるやなんてエライやん」
「ねぇ! 私達の事務所でも出来ない人いるのにねぇ~?!」
へぇーっくしょんっ!!
「・・・なんか今背後で数人くしゃみ聞こえたで?」
「うん。ちょっとぉ~? 今の声誰ぇ!?」
「流星くん。今、何歳?」
そう未佳が尋ねると、流星は小さな右手の指を3本立て『さんしゃい』と答えた。
「3歳か~。でもしっかりしてるねぇ~」
「ただまだ遊園地の遊具に乗れないから、今日は私と一緒なの」
「あっ、なるほど。確かにジェットコースターとかって、年齢とか身長制限あるもんね」
「でもちゃんとママの言うこと聞けて、流星くんお利口さんだね~」
「・・・ありがとう、ございますっ♪♪」
「ついでにお口も達者! ここは英雄に似たのかな?」
「あれ? ・・・・・・でも流星くんって・・・。僕あんまり顔合せた記憶が・・・・・・」
ふっと、何故か自分の記憶の中に手神流星の姿がないことにハタッと気付き、長谷川はしばし小首を傾げる。
「僕ら会うの初めてか? これが初対面??」
「はっ? ・・・何言ってるの、さとっち。私達流星くんに会うの2回目よ?」
「・・・・・・へっ?」
「ねっ? 小歩路さん」
「ん? ・・・まあ『2回目』言うか・・・。安定期の頃ね?」
実は今から3年前の10月。
当時東京での7周年記念ライヴを行っていたメンバー4人は、そこで一度、楽屋挨拶のために訪れていた英雄夫婦に出会っていた。
ちなみにその時は英雄や由美子の二人だけでなく、当時4歳を間近に控えていた長女、手神海月も同伴。
そしてその楽屋挨拶の際、まさかの英雄が妊婦姿の由美子も共に連れてきたため、メンバー全員でかなり驚愕・感動させられたことがあったのだ。
あの時の驚きと微笑ましい夫婦二人の姿は、今でも鮮明にハッキリと覚えている。
そしてその時由美子のお腹の中にいた赤ちゃんこそ、今4人の目の前にいる流星なのだ。
「あの時由美子さん・・・、何ヶ月くらいでしたっけ?」
「たーぶん・・・・・・。6、いや。7ヶ月くらいだったかも」
「ですよね。だいぶ赤ちゃんが動き出してきてて・・・。『もう出産の時期近い~!』って、ちょうど言ってましたもんね」
「えっ!? ・・・もしかしてあの時お腹にいた・・・!?」
「そうよ、さとっち。あのお腹の赤ちゃんが、流星くんっ!!」
「一体誰だと思ったんだよ。長谷川くん・・・」
「・・・・・・・・・。ちょっ、ちょちょちょっ・・・! ちょっと待て、一旦整理するわ! えぇ~っと・・・」
と言うと長谷川は、おもむろに自分の腹部辺りに手で楕円を描き、妊婦を表すかのようなジェスチャーを取る。
「あの時ここにいたコレが・・・。赤ちゃん『コレ』って表記マズイけど・・・!」
「う、うん・・・」
「コレが・・・『ボンッ』ってなって・・・・・・。こう?」
「そっ。あの時の赤ちゃんが~、生まれて~・・・」
「3年経ってこんな大っきくなったの。名前が『流星』くんになったの」
「だから生まれてからは初めてですね。『もうじき生まれるっ!』っていう頃にはお会いしてますけど」
「・・・分かった? 理解した?? できた??」
「・・・・・・マジかぁ~ッ!!」
ここに来てようやく内容を理解した長谷川は、その事実と『3年』という時間の早さに、思わず手渡し台の上に倒れながら絶句した。
「えぇ~!? もうこんなに大きくなりますぅ!?」
「なるよ! あれから3年経ってるんだから! 3年!!」
「もうだいぶ変わっちゃったでしょ?」
「『変わった』言うか・・・。もうお腹の中入れませんもんねぇ~?」
「え、えぇ・・・。さすがにこのくらいの子供がいたら、ちょっと身体モタないかなぁ~って・・・」
「ですよねぇ~? ・・・いや~・・・・・・」
「・・・さとっち、一体何がそんなに驚愕なの?」
少々理解に苦しむほどの驚きっぷりを見せる長谷川に、堪らず未佳がジト目で尋ねる。
すると聞かれた長谷川は、実に純粋そうな目をして、尋ねてきた未佳にこう言い返す。
「いや~、だって・・・。成長過程一度も見ずに、いきなりあの時お腹ん中にいた赤ちゃんがここまで成長したの見せられると・・・、結構驚かへんか?」
「・・・・・・・・・」
「しかももう歩いてるし、喋れてんねんやで?? ・・・なんかー・・・。ちょっと神妙な部分もあれば・・・。感動させられる部分もあるわ。正直・・・」
そう少し嬉しそうに微笑む長谷川に、未佳も小さく『そうだね・・・』と、返した。
しかし半分感動的な再会も、勤務中ではそう長くはいられない。
久々な環境での話が尽きぬ中、とうとう栗野が6人の元へと歩み寄る。
「あっ、お話が尽きないところ、大変申し訳ございません。皆さん、そろそろリターン組のポスターを・・・」
「あっ・・・」
「おっと・・・。休憩終了っすね?」
「ごめんなさい。お仕事中なのに話し込んでしまって・・・」
「あっ、いえいえ」
「久しぶりに由美子さんと流星くんに会えて嬉しかったわぁ。みんな元気そうやったし」
「流星くん、今日はありがとう♪」
「じゃあ流星。お姉さん達に『バイバーイ』って」
「うん。バイバ~イ♪」
「「「バイバーイ♪♪」」」
「広人さんにも」
「ひろとおじちゃん、バイバーイ」
「おっ! バイバイ~♪」
流星は最後にそう言って手を振りながら、由美子と手をつなぎ、その場をあとにした。
その間、未佳達が堪えず『カワイイ~!!』と大興奮していたのは、もはや説明するまでもない。
「『3歳児』って、言葉の覚え始めの頃やから、一番可愛い時やよね!」
「でも上の海月ちゃんも、ちょっと大人らしい可愛さが出てきてるよ? 今」
「しっかし・・・! 手神さんに『おじちゃん』付けられるの、もうあの姉弟だけの特権っすね。うん・・・・・・今度から僕も『手神おじちゃん』って」
「ダメだ、長谷川くん。それは許さん! ましてや君は、僕のダメな弟と同い年なんだから・・・! 絶対にソレは許さん!!」
「い、いや・・・。何もそんなハッキリと告げなくてもー・・・」
「それに7つしか違わない人間に『おじちゃん』って・・・。ねぇ~?」
「うん。言われてる方も言うてる方も『おじちゃん』やん」
「「悪かったなァッ!!」」
「・・・・・・あっ、そうだ・・・! 由美子さーん!」
ふっと、ここにきて何かを思い出したのか。
突然ポスターを受け取り終えた由美子のあとを、やや栗野が小走りになりながら追いかける。
幸い由美子達も歩き出していた距離が距離だったので、向こうもすぐに栗野の呼び掛けに気が付いたらしく。
すぐに足を止めて、声のした方を振り返った。
「あっ、はい?」
「あの・・・。このあと何かご予定とかってありますか? 由美子さん」
「えっ? あっ、いえ・・・。今日はありませんけど・・・」
「でしたら、私達もこの手渡し会が終了しましたら、こちらのホテルで夕食を取る予定なので・・・。せっかくですしー・・・、皆さんとご一緒しませんか?」
実はつい先ほど、ホテル側とスタッフ側とでの話し合いがあり、ディナーはホテルに帰ってからにするよりも、こちらにある飲食店で済ませてしまった方がよいのではないか、という話になったのだ。
当然これはつい先ほど決定したことなので、まだ仕事中でもある未佳達の方は、一切知らないことであるが。
「えっ? で、でもー・・・・・・。身内とは言え、なんだか皆さんに悪いんじゃー・・・」
「いえいえ。どうせ私と・・・そこで誘導している日向さんの6人くらいですし。メンバーの皆さんとの話も尽きていないようでしたから・・・。今だと、あまりゆっくりとした話もできませんし・・・どうぞ」
そう栗野に勧められ、由美子も『う~ん・・・』と右手を頬に当てながら考え込む。
確かに予定的なことを考えると、そもそも今日は何処かで外食にしてしまう予定であったし。
夫である英雄は、おそらく今日は夜まで海月と遊んで帰っては来ない。
どうせ母子だけでの慎ましい食事になるのであれば、知り合いの人達と大人数で囲った方が、断然楽しいだろう。
何より、手神以外の人間には完全初対面であるはずの流星が、未佳達のことをかなり好印象に捉えていた部分も、判断内容としては大きい。
「そうねぇ~・・・。今日は主人も娘も帰りは遅いだろうしー・・・・・・。流星」
「うん?」
「あそこにいるお姉さん達と広人おじちゃん、このあと近くでご飯なんだって。・・・ご飯一緒に食べたい?」
一応子供側の意見も聞いておこうと由美子が尋ねてみると、流星からは予想以上の返答が返ってきた。
「うん! 食べたーい!!」
「うわぉっ! すごい返事・・・!」
「ハハハ」
「じゃあ・・・。すみません、ご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「はい♪ では・・・まだちょっとポスター手渡しで時間が掛かると思いますので、終了し次第、折り返し広人さんの方から、電話でお呼びしますね? ・・・あっ、由美子さんの番号ー・・・」
「あぁ、大丈夫です。お互い登録してますから」
「あっ、はい。了解です。ではそれまではー・・・、お店の温かいところとかで、しばしお待ちいただけますか?」
「はい。ちょうど春物の服とかが見たかったので、ちょうどいいです」
「フフフ、確かに。・・・ではまた後ほど」
「はい。お仕事頑張ってくださ~い」
「は~い」
由美子と栗野は最後にそう言葉を交わし、それぞれの方向へと分かれて行った。
(えぇ~っと・・・。とりあえず手神さんに由美子さんのことを知ら・・・・・・。いや、あとにするか)
ふっと、視線を向けた先で忙しそうにファンに手を振っている手神を見て、栗野は少しばかり、困り笑顔を浮かべるのであった。
『ハロウィン』
(2006年 10月)
※事務所 控え室。
みかっぺ・厘
「「Trick or Treat!!」」
※魔女に仮装したみかっぺ&厘登場。
手神
「う~ん。なんかまた本格的な格好だね(笑)」
さとっち
(そういう僕らもやないっすか・・・(ーー;))
みかっぺ
「でしょ?! でしょ?! 魔女さん二人組(^^)」
厘
「ちょっと用具入れのほうきが四角いやつやったのが何やけど・・・(^_^;)」
みかっぺ
「ところで手神さんの仮装は? 服装も黒いしー・・・」
厘
「魔女の男版?」
手神
「いやいや(否定) ここ見てごらん。ここ」
みかっぺ・厘
「「う~ん?(凝視)」」
※ふっと口元から牙を見せる手神。
みかっぺ
「ギャッ!!(悲鳴) スッゴイ牙!」
厘
「ってことはドラキュラなん?! どないしたん!? その牙・・・!」
手神
「パーティーグッズのショップに売ってた(笑) 似合ってる?」
みかっぺ
「似合う! 似合う! というかソックリ!!(ベタ褒)」
厘
「さとっちはー・・・。聞かへんでもゾンビやね(。 ̄゛)」
さとっち
「違ーうーわぁー!!(否定) フランケンや! フランケン!! フランケン・シュタイン!!(訂正) ちゃんと縫った痕とか描いてたるでしょ?!」
厘
「描いただけやん・・・」
さとっち
「違いますよ~! この頭の釘もそうやし・・・! 縫い痕だって、全身白ファンデやった上に、筆で黒と赤とかの絵の具塗りながら・・・とにかく慣れない作業色々やったんっすよ!!(主張)」
みかっぺ
「・・・・・・ねぇ・・・、さとっち?」
さとっち
「ん?」
みかっぺ
「白ファん」
さとっち
「うっさいわ!!(怒)」
未「まだ何にも言ってないじゃなーい!!(非難)」
長「言わんでも想像付くんじゃあ!!(怒)」
こうしてまた『ギャーギャー』が始まる・・・。